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迂闊でした
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「参ったわね…」
薄暗い倉庫らしい場所の一室で、私は目覚めた。
事の始まりは仕事を終えて副団長の屋敷に戻る途中での事だった。急に馬車の前に人が飛び出してきたらしく、慌ててよけようとしてものの見事に馬車は近くの建物にぶつかってしまったのだ。直ぐに近くにいた騎士団の方が助けてくれて、その後騎士が手配してくれた辻馬車に乗ったのだが…それが失敗だった。馬車に揺られている間に意識を失い、知らない場所で目が覚めて今に至る。騎士団の詰所で馬車を待っている間に果実水を貰ったのけど、あれに何か薬が入っていたのだろう。
(これって、やっぱり計画的に私を…狙ったのよね…)
幸いと言うべきか、縛られたり…はしていなかったし、どこも痛みを感じない事に酷く安堵している自分がいた。これまで貞操の危機は…前職で何度もあった。それでも何とかやり過ごしてきたけれど、さすがに今回は楽観視できる要素が見つけられそうにない…
周りを見渡すと、石がむき出しの床の上には木箱や布袋が散乱し、倉庫として使っているというよりも放置されている方がしっくりきた。窓は…上の方に換気と採光用の窓があるけど、高いし小さくて抜け出せるようなサイズじゃない。ドアは…一つだけだけど、さっき確かめたけど鍵がかかっていて開きそうもなかった。
まだ重い頭を必死に駆使して 状況を整理した。馬車に飛び出してきた人物も、その後現れた騎士たちも私を攫った人物とグルだった、と考えるべきだろうか。あの騎士団の詰め所と言われた場所も、実はそうではなかった可能性もある。その場で捕らえなかったのはあの場所に私が入っていったのをたくさんの方が見ていたからだろうか。
私を攫ったのはラドン伯爵の一派と見ていいだろう。と言うか、それ以外で私を攫う理由が見つからない。貧乏伯爵家の私を攫ったところで身代金など期待出来ないし…
それとも、副団長に横恋慕している令嬢達の仕業か。でもそれだったら大掛かり過ぎな気がする。そりゃあ、オーランド侯爵令嬢辺りなら出来なくもないだろうけど…
「ああ、目が覚めたのか」
急にうしろから声がしてぎょっとして振り返ると…そこにいたのは見知らぬ男だった。年は三十後半くらいで、身なりからして平民だろうか。市井の労働者風に見えた。
「こ、ここは…」
「ああ、ここはとあるお貴族様が使っていた屋敷だ。今は廃墟と化しているけどな」
「廃墟…」
「あんたは人質だ。痛い目に遭いたくなかったら大人しくしているんだな」
そう言って男は、水の入った水差しと固そうなパンを二つ置いて出て行ってしまった。私が目覚めた事を仲間に知らせに行ったのだろうか…だったら失敗したかもしれない。寝たふりをして様子を見てもよかったのに…
それからどれくらい経っただろうか。窓からの光が赤く染まり、そのうち暗闇が色濃くなっていった。部屋には灯りもなく、言い知れぬ不安が一層強くなっていった。連れ去られてからどれくらい経っているのかもわからないのも不安をかき立てた。それでも悲しい事に生理現象には勝てない。こんな時だというのにお腹が鳴った。敵の施しを受けるのは危険だと思ったけれど、水すらも飲まずにいてはいざという時に動けなくなってしまうだろう。私は躊躇しながらもパンと水を口にした。暫くの間は身体に何かが起こるのでは…と不安でたまらなかった。
カツンカツンと複数の足音が聞こえて、私は身を固くした。誰かがここに向かっているのだという事は想像に難くなかった。問題は、誰がどんな目的なのか、だ。私は部屋の隅で身を縮こませるしか出来なかった。
ギギギ…と嫌な音を立ててドアが開いた。ランプを手にした人物は三人いて、私はその顔を見て思わず声が出そうになった。
(ど、どうして…この人が…)
視界に映るその人の姿に、私は一層現実感が奪われるのを感じた。
薄暗い倉庫らしい場所の一室で、私は目覚めた。
事の始まりは仕事を終えて副団長の屋敷に戻る途中での事だった。急に馬車の前に人が飛び出してきたらしく、慌ててよけようとしてものの見事に馬車は近くの建物にぶつかってしまったのだ。直ぐに近くにいた騎士団の方が助けてくれて、その後騎士が手配してくれた辻馬車に乗ったのだが…それが失敗だった。馬車に揺られている間に意識を失い、知らない場所で目が覚めて今に至る。騎士団の詰所で馬車を待っている間に果実水を貰ったのけど、あれに何か薬が入っていたのだろう。
(これって、やっぱり計画的に私を…狙ったのよね…)
幸いと言うべきか、縛られたり…はしていなかったし、どこも痛みを感じない事に酷く安堵している自分がいた。これまで貞操の危機は…前職で何度もあった。それでも何とかやり過ごしてきたけれど、さすがに今回は楽観視できる要素が見つけられそうにない…
周りを見渡すと、石がむき出しの床の上には木箱や布袋が散乱し、倉庫として使っているというよりも放置されている方がしっくりきた。窓は…上の方に換気と採光用の窓があるけど、高いし小さくて抜け出せるようなサイズじゃない。ドアは…一つだけだけど、さっき確かめたけど鍵がかかっていて開きそうもなかった。
まだ重い頭を必死に駆使して 状況を整理した。馬車に飛び出してきた人物も、その後現れた騎士たちも私を攫った人物とグルだった、と考えるべきだろうか。あの騎士団の詰め所と言われた場所も、実はそうではなかった可能性もある。その場で捕らえなかったのはあの場所に私が入っていったのをたくさんの方が見ていたからだろうか。
私を攫ったのはラドン伯爵の一派と見ていいだろう。と言うか、それ以外で私を攫う理由が見つからない。貧乏伯爵家の私を攫ったところで身代金など期待出来ないし…
それとも、副団長に横恋慕している令嬢達の仕業か。でもそれだったら大掛かり過ぎな気がする。そりゃあ、オーランド侯爵令嬢辺りなら出来なくもないだろうけど…
「ああ、目が覚めたのか」
急にうしろから声がしてぎょっとして振り返ると…そこにいたのは見知らぬ男だった。年は三十後半くらいで、身なりからして平民だろうか。市井の労働者風に見えた。
「こ、ここは…」
「ああ、ここはとあるお貴族様が使っていた屋敷だ。今は廃墟と化しているけどな」
「廃墟…」
「あんたは人質だ。痛い目に遭いたくなかったら大人しくしているんだな」
そう言って男は、水の入った水差しと固そうなパンを二つ置いて出て行ってしまった。私が目覚めた事を仲間に知らせに行ったのだろうか…だったら失敗したかもしれない。寝たふりをして様子を見てもよかったのに…
それからどれくらい経っただろうか。窓からの光が赤く染まり、そのうち暗闇が色濃くなっていった。部屋には灯りもなく、言い知れぬ不安が一層強くなっていった。連れ去られてからどれくらい経っているのかもわからないのも不安をかき立てた。それでも悲しい事に生理現象には勝てない。こんな時だというのにお腹が鳴った。敵の施しを受けるのは危険だと思ったけれど、水すらも飲まずにいてはいざという時に動けなくなってしまうだろう。私は躊躇しながらもパンと水を口にした。暫くの間は身体に何かが起こるのでは…と不安でたまらなかった。
カツンカツンと複数の足音が聞こえて、私は身を固くした。誰かがここに向かっているのだという事は想像に難くなかった。問題は、誰がどんな目的なのか、だ。私は部屋の隅で身を縮こませるしか出来なかった。
ギギギ…と嫌な音を立ててドアが開いた。ランプを手にした人物は三人いて、私はその顔を見て思わず声が出そうになった。
(ど、どうして…この人が…)
視界に映るその人の姿に、私は一層現実感が奪われるのを感じた。
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