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どうしてあなたが…
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目の前に現れた人物は、黒っぽいフードを目深に被っていたが、その顔は忘れようもない相手だった。その両隣には二十代後半くらいの男性が二人付き添っていて、彼らも黒っぽいコートを被っていたがフードは被らず顔が出ていた。整ったその姿から貴族なのは一目瞭然だった。
「アリソン王女殿下…」
思わずその名を呟くと、彼女は微かに眉をしかめた。フードを被っているから自分だとわからないと思っていたのだろうか。でも、どうして彼女がこんなところに…いや、私を誘拐してどうしようと言うのか…恋敵を排除しようというのなら、こんな手を使う必要などない筈なのに…
「ふふっ、バレてしまったのなら取り繕う必要はないわね」
どういって王女殿下は鬱陶しそうにフードを外した。金の髪が零れるように広がる。暗闇でも光を放つような髪に対して、顔は酷く憔悴しているようにも見えた。
「どうして…」
この人がこんなところで、こんな事をしているのか…そんな思いから思わず漏れた言葉だったが、それは彼女の気に障ったのだろう。徐に表情が険しくなった。
「どうして、ですって?全て貴女のせいでしょう?!」
激高したその姿は、前回会った時の淑女然とした態度が嘘のようだった。もしかするとこれがこの人の本質なのかもしれない。何度も断われ、説明をしても尚副団長に執着する姿は、あまりにも普段の王女殿下としての姿からはかけ離れていたからだ。
「あ、貴女さえ現れなければ、アレクは私のものだったのに!」
そう叫ぶ王女殿下に、副団長はモノではないと言い返そうとしたが、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。ここで煽ってしまうとどうなるかわからない。屋敷に帰らなければ副団長にも連絡が行くだろうし、そうなれば探してくれるはずだ。だったら今は時間を稼ぐためにも大人しくしている方がいいだろう。そう言えば、一緒にいた御者や侍女、護衛はどうしたのだろう…
「私を…どうなさるおつもりですか?」
とにかく少しでも情報を集める方が先だろう。彼女が何を狙っているのか、それがわからなければ対処のしようもない。
「…貴女にピッタリの相手がいるわ。その方と既成事実を作って頂くの。そうすれば…もうアレクには嫁げないでしょう?」
先ほどの険しさが嘘のように、今度は優しい表情でそう告げた。内容は全く優しくなかったが、なるほど、私が副団長に嫁げないようにするのが目的なのか…
「ぴったりの相手?」
「ええ。貴女に相応しい方よ」
そう言って殿下が身体を少しずらすと、その後ろからフードを被った男性が現れた。
「…あなたは…」
現れた男性は私の知る人物だった。私より幾分か濃いめの茶色の髪と、灰色がかった青い瞳のその人物は、先日騎士団の建物の前で私に声を掛けてきた人物だった。
「ジョエル殿…」
母と弟の姿を見て勝手に私も美人だと勘違いして求婚し、挙句暴言を吐いて廃嫡された彼は、今は第一騎士団で騎士をしていた。確かに廃嫡される前なら釣り合いが取れていただろうが、今の彼はただの平民で一騎士でしかない。何の感情も伺わせないその表情からは、彼が何を考えているのかを察する事は出来そうになかった。
「彼、あなたのせいで実家から勘当されて平民に落とされたのですって?あなたったら随分と酷い事をしていたのね。そんな女がアレクの婚約者だなんて…!私は絶対に認めないわ!」
そう叫ぶ王女殿下だったが、別に王女殿下に認めて欲しいとは思っていないし、副団長だってそうだろう。王族である彼女は、臣下である私達を自分の思うように扱えると信じて疑わないのだろう。その驕慢さが副団長に嫌気される一因でもあるような気がした。
「さすがにここで事に及ぶわけにはいかないでしょう。私は優しいからちゃんとそれにふさわしい場所を用意してあげるわ」
全く余計な世話な事を、王女殿下は恩着せがましく言い放った。
「アリソン王女殿下…」
思わずその名を呟くと、彼女は微かに眉をしかめた。フードを被っているから自分だとわからないと思っていたのだろうか。でも、どうして彼女がこんなところに…いや、私を誘拐してどうしようと言うのか…恋敵を排除しようというのなら、こんな手を使う必要などない筈なのに…
「ふふっ、バレてしまったのなら取り繕う必要はないわね」
どういって王女殿下は鬱陶しそうにフードを外した。金の髪が零れるように広がる。暗闇でも光を放つような髪に対して、顔は酷く憔悴しているようにも見えた。
「どうして…」
この人がこんなところで、こんな事をしているのか…そんな思いから思わず漏れた言葉だったが、それは彼女の気に障ったのだろう。徐に表情が険しくなった。
「どうして、ですって?全て貴女のせいでしょう?!」
激高したその姿は、前回会った時の淑女然とした態度が嘘のようだった。もしかするとこれがこの人の本質なのかもしれない。何度も断われ、説明をしても尚副団長に執着する姿は、あまりにも普段の王女殿下としての姿からはかけ離れていたからだ。
「あ、貴女さえ現れなければ、アレクは私のものだったのに!」
そう叫ぶ王女殿下に、副団長はモノではないと言い返そうとしたが、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。ここで煽ってしまうとどうなるかわからない。屋敷に帰らなければ副団長にも連絡が行くだろうし、そうなれば探してくれるはずだ。だったら今は時間を稼ぐためにも大人しくしている方がいいだろう。そう言えば、一緒にいた御者や侍女、護衛はどうしたのだろう…
「私を…どうなさるおつもりですか?」
とにかく少しでも情報を集める方が先だろう。彼女が何を狙っているのか、それがわからなければ対処のしようもない。
「…貴女にピッタリの相手がいるわ。その方と既成事実を作って頂くの。そうすれば…もうアレクには嫁げないでしょう?」
先ほどの険しさが嘘のように、今度は優しい表情でそう告げた。内容は全く優しくなかったが、なるほど、私が副団長に嫁げないようにするのが目的なのか…
「ぴったりの相手?」
「ええ。貴女に相応しい方よ」
そう言って殿下が身体を少しずらすと、その後ろからフードを被った男性が現れた。
「…あなたは…」
現れた男性は私の知る人物だった。私より幾分か濃いめの茶色の髪と、灰色がかった青い瞳のその人物は、先日騎士団の建物の前で私に声を掛けてきた人物だった。
「ジョエル殿…」
母と弟の姿を見て勝手に私も美人だと勘違いして求婚し、挙句暴言を吐いて廃嫡された彼は、今は第一騎士団で騎士をしていた。確かに廃嫡される前なら釣り合いが取れていただろうが、今の彼はただの平民で一騎士でしかない。何の感情も伺わせないその表情からは、彼が何を考えているのかを察する事は出来そうになかった。
「彼、あなたのせいで実家から勘当されて平民に落とされたのですって?あなたったら随分と酷い事をしていたのね。そんな女がアレクの婚約者だなんて…!私は絶対に認めないわ!」
そう叫ぶ王女殿下だったが、別に王女殿下に認めて欲しいとは思っていないし、副団長だってそうだろう。王族である彼女は、臣下である私達を自分の思うように扱えると信じて疑わないのだろう。その驕慢さが副団長に嫌気される一因でもあるような気がした。
「さすがにここで事に及ぶわけにはいかないでしょう。私は優しいからちゃんとそれにふさわしい場所を用意してあげるわ」
全く余計な世話な事を、王女殿下は恩着せがましく言い放った。
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