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貞操の危機です
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その後私はとある一室に連れていかれた。そこはこの屋敷の客間なのだろう。そこそこに手入れされた部屋は、先ほどの倉庫と違いそれなりに整えられていて、暖炉には火がくべられていた。そうは言っても廃墟は廃墟、火が入ったせいか一層埃っぽく、かび臭く感じられた。
「さぁ、特別にこの部屋を用意してあげたのよ。ジョエル、わかっているわね」
「…はい」
「ああ、その前にプレゼントがあるのよ。受け取ってね」
そう言って王女殿下はこの場にそぐわない綺麗な笑みを浮かべた。何だろう…こうなるともう嫌な予感しかしない…
「ディック、ロイ、あれを」
「はっ」
二人の従者はディックとロイと言うらしい。直ぐにはその名にピンとくる貴族が浮かばなかった。ある程度の貴族の名は頭に入っているが、直ぐに出てこないという事はあまり力のない、嫡男ではない次男三男辺りなのだろう。ジョエルがここにいる事から、もしかしたら似たような境遇の者かもしれない。一人の男がポケットから取り出したのは、ガラスの小瓶だった。
(うそ…もしかして…)
頭に浮かんだのは、恋愛小説に出てくるよくあるあのアイテムだった。
「ふふっ、これを飲めば誰もが天国に行けるそうよ。こんな場所では可哀相だから、これくらいのお楽しみがないと割に合わないでしょう?」
「いえ、結構です」
「まぁ、そんな遠慮は不要よ。さ、彼女を抑えてて」
そう言うと従者二人が私を抑えて、無理やり小瓶の中身を私の口に流し込んだ。抵抗しようにも男二人を相手にしては抗う事は不可能だった。小説では濃厚な甘さと表現されたそれは、実際に呑んでみると苦くて不味かった…酷い。飲みたくないのに飲むのなら、せめて味くらいは真っ当なものにしろと言いたかった。
「さ、私達は近くの部屋で報告を待っているわ。事が済んだら顔を出しなさい」
「畏まりました」
ジョエルがそう答え頭を下げると、王女殿下は従者らしき二人を連れて出て行った。さすがに見届けるつもりはなかったらしく、その点はホッとした。そうは言っても、何も状況は変わっていないのだけど…
二人きりで残されたものの、何も言わないジョエルに私はため息を突いた。小説では直ぐに体が熱くなって…が定番だけど、そこまで即効性があるものではないらしい。有難いと言うべきか…
「…まさかあなたが…こんな事に加担していたなんてね」
私が呟くようにそう言うと、彼は無表情だった顔を僅かに歪めた。私のせいで廃嫡された事を恨み、王女殿下の企みに加担したのだろう事は容易に想像出来たけれど、彼の事を調べ上げた王女殿下もお暇な事だな…と別の意味で感心してしまった。そこまで私を貶めたとしても、王女殿下が副団長と結ばれる事は永遠にないのに。それに純潔でなければ嫁げないと思っている様けど、その純潔だって副団長に既に奪われているから意味はないと思うのだけど…ただ、命まで奪う気がないのがわかって少し気が楽になった。
「……」
何か言い返すかと思ったけれど、彼は口を堅く引き結んだままだった。と、突然、彼がベッドの側にあるテーブルを思いっきり蹴って、その上に載っていた水差しとコップが落下して、派手な音を立てて床に転がった。
「な…」
何をするのかと尋ねようとした私だったけれど、あっという間に私はベッドに放り投げられ、ジョエルに組み敷かれていた。油断した…と思ったけれど、どうせ逃げられない事は頭のどこかでわかっていたせいだろうか。こうなっても私の頭は妙に冷静だった。
そんな私の耳に、バタバタと足音が近づいてくるのが聞こえ、次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「何事だ?!」
そう叫んだのは王女殿下と一緒にいた男の一人で、私達の姿を見て動きが止まった。
「…何って…この女が逃げようとして暴れたんです。それで水差しとコップをひっくり返しました」
低く、小声でそう言ったジョエルに、その男はわずかに安堵した表情を浮かべた。私が逃げようと窓ガラスを割ったとでも思ったのだろうか。だが私がジョエルに組み敷かれているのを見て、計画通りに事が進んでいると思ったのだろう。
「…激しいねぇ…まぁ、ごゆっくり」
品のない笑顔を浮かべてそう言うと、男はドアを閉めて出て行ったけど…どういう事だろう?私は逃げようとも暴れようともしていなかったのに…
「さぁ、特別にこの部屋を用意してあげたのよ。ジョエル、わかっているわね」
「…はい」
「ああ、その前にプレゼントがあるのよ。受け取ってね」
そう言って王女殿下はこの場にそぐわない綺麗な笑みを浮かべた。何だろう…こうなるともう嫌な予感しかしない…
「ディック、ロイ、あれを」
「はっ」
二人の従者はディックとロイと言うらしい。直ぐにはその名にピンとくる貴族が浮かばなかった。ある程度の貴族の名は頭に入っているが、直ぐに出てこないという事はあまり力のない、嫡男ではない次男三男辺りなのだろう。ジョエルがここにいる事から、もしかしたら似たような境遇の者かもしれない。一人の男がポケットから取り出したのは、ガラスの小瓶だった。
(うそ…もしかして…)
頭に浮かんだのは、恋愛小説に出てくるよくあるあのアイテムだった。
「ふふっ、これを飲めば誰もが天国に行けるそうよ。こんな場所では可哀相だから、これくらいのお楽しみがないと割に合わないでしょう?」
「いえ、結構です」
「まぁ、そんな遠慮は不要よ。さ、彼女を抑えてて」
そう言うと従者二人が私を抑えて、無理やり小瓶の中身を私の口に流し込んだ。抵抗しようにも男二人を相手にしては抗う事は不可能だった。小説では濃厚な甘さと表現されたそれは、実際に呑んでみると苦くて不味かった…酷い。飲みたくないのに飲むのなら、せめて味くらいは真っ当なものにしろと言いたかった。
「さ、私達は近くの部屋で報告を待っているわ。事が済んだら顔を出しなさい」
「畏まりました」
ジョエルがそう答え頭を下げると、王女殿下は従者らしき二人を連れて出て行った。さすがに見届けるつもりはなかったらしく、その点はホッとした。そうは言っても、何も状況は変わっていないのだけど…
二人きりで残されたものの、何も言わないジョエルに私はため息を突いた。小説では直ぐに体が熱くなって…が定番だけど、そこまで即効性があるものではないらしい。有難いと言うべきか…
「…まさかあなたが…こんな事に加担していたなんてね」
私が呟くようにそう言うと、彼は無表情だった顔を僅かに歪めた。私のせいで廃嫡された事を恨み、王女殿下の企みに加担したのだろう事は容易に想像出来たけれど、彼の事を調べ上げた王女殿下もお暇な事だな…と別の意味で感心してしまった。そこまで私を貶めたとしても、王女殿下が副団長と結ばれる事は永遠にないのに。それに純潔でなければ嫁げないと思っている様けど、その純潔だって副団長に既に奪われているから意味はないと思うのだけど…ただ、命まで奪う気がないのがわかって少し気が楽になった。
「……」
何か言い返すかと思ったけれど、彼は口を堅く引き結んだままだった。と、突然、彼がベッドの側にあるテーブルを思いっきり蹴って、その上に載っていた水差しとコップが落下して、派手な音を立てて床に転がった。
「な…」
何をするのかと尋ねようとした私だったけれど、あっという間に私はベッドに放り投げられ、ジョエルに組み敷かれていた。油断した…と思ったけれど、どうせ逃げられない事は頭のどこかでわかっていたせいだろうか。こうなっても私の頭は妙に冷静だった。
そんな私の耳に、バタバタと足音が近づいてくるのが聞こえ、次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「何事だ?!」
そう叫んだのは王女殿下と一緒にいた男の一人で、私達の姿を見て動きが止まった。
「…何って…この女が逃げようとして暴れたんです。それで水差しとコップをひっくり返しました」
低く、小声でそう言ったジョエルに、その男はわずかに安堵した表情を浮かべた。私が逃げようと窓ガラスを割ったとでも思ったのだろうか。だが私がジョエルに組み敷かれているのを見て、計画通りに事が進んでいると思ったのだろう。
「…激しいねぇ…まぁ、ごゆっくり」
品のない笑顔を浮かべてそう言うと、男はドアを閉めて出て行ったけど…どういう事だろう?私は逃げようとも暴れようともしていなかったのに…
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