62 / 116
熱に食らわれる
しおりを挟む
程なくして馬車が停まった。真っ暗でわからなかったけれど、屋敷に付いたらしい。副団長に促されて馬車を降りようとしたが、私は立ち上がれなかった。既に熱が限界を超えて、意識すらも朦朧としている。ほんの少し体を動かすだけで、全身を何かが駆け巡るのを感じた。
「ああ、腰が抜けたのか」
副団長は私が馬車に揺られている間に落ち着き、恐怖を思い出して腰が抜けたと思ったのだろう。副団長が私を軽々と抱きかかえたけれど…
「…んっ!」
思わず変な声が出てしまった。思わず口を覆おうとしたが、そんな行動すらも今は苦痛でしかない。早く部屋に…と願うばかりで、運ばれている最中も出そうになる声を抑えるのに必死で、寒い時期だというのに嫌な汗が出た。
「…エリアーヌ嬢、顔が赤いが…」
「だ、大丈夫っ、です…」
もう一人にして欲しい。切実にそう思う願った。
「も、もう大丈夫なので一人に…ひゃぁっ!」
最後まで言い切る前に、副団長が私の頬をするりと撫でると、変な声が出て私の体が勢いよく撥ねてしまった。
「エリアーヌ嬢、まさか…」
副団長の怪訝そうな声は、私には届かなかった。
「エリアーヌ嬢、何があった。話してくれ」
私をソファに座らせた副団長は、私の前に屈みこむと視線を合わせてそう尋ねてきた。でも私は…それどころじゃなかった。この熱を何とかしたくて仕方がない。直ぐにでも冷水のシャワーを浴びたい気分だ。そうすればこの熱も少しは冷めるのではないだろうか…
「だ、大丈夫です。あ、とは一人で…」
それだけを言うのにこんなに苦労するとは…それくらいに今の私は逸脱していた。頭がぼうっとして意識を保つのが苦しいくらいだ。いっそ意識を失えば楽になるのだろうか…熱に身体が食われていくような気分だ。
「…何か飲まされたか?」
「……」
直球の質問に、私は答えられなかった。何かを飲んだのは間違いないけど、きっと口に出すのも憚られる類いのものだ。まだそれくらいの羞恥心は残っていた。副団長が目の前でため息をついた。そのまま部屋を出て行って欲しい…
「エリアーヌ嬢、何を飲まされた?全て話せ」
「…っ!」
耳に届いた言葉に、私は冷や汗が出るのを感じた。嫌だ、言いたくない…そう思うのに何かが話せとせっついてくるのを感じた。
「…い、いや、です…」
「命令だ。話すんだ!」
次の言葉は容赦なかった。抗いたいのに抗えない何かが私の意識を支配して、嫌だと思う度に心臓に鋭い痛みを感じた。
「…っ!」
だが今の私には、それすらも体の疼きに繋がるばかりだった。知らない間に涙が溢れて、その涙の動きにすら身体が疼く。私は二重の攻めに耐え切れずに、途切れ途切れだが答えるしか出来なかった。
「…あの女、厄介なものを…」
全てを話した後、副団長は悪態をついた。あの女とは王女殿下の事だろうか。不敬極まりないが、今はそれを咎める気も起きなかった。
「エリアーヌ嬢、聞いてくれ。お前が飲んだのは媚薬の中でもかなり強力なものだ」
「きょ…りょ、く?」
「ああ。解毒剤はあるが…多分それでは間に合わない代物だろう」
「でも、時間…が、経、てば…」
「…残念ながらそれも難しい。このままだと…発狂するか、身体が耐え切れなくて死に至る可能性が高い」
「…死……」
大げさすぎると心のどこかで思う一方で、既に理性を保っているのも苦しかった。いっそ狂ってしまった方が楽かもしれない…そう思うほどには私は追い詰められていた。
「…そ、じゃ…」
「…方法はあるが…」
「も…なんとか…してっ!」
限界だった。この痛みのような苦しい熱から逃れられるなら、死んでもいいかと思うくらいには私も限界だった。もう、これ以上は耐えられない…
「…すまない」
副団長の謝る声が聞こえた気がしたけれど、私の記憶はその寸前で途切れた。
「ああ、腰が抜けたのか」
副団長は私が馬車に揺られている間に落ち着き、恐怖を思い出して腰が抜けたと思ったのだろう。副団長が私を軽々と抱きかかえたけれど…
「…んっ!」
思わず変な声が出てしまった。思わず口を覆おうとしたが、そんな行動すらも今は苦痛でしかない。早く部屋に…と願うばかりで、運ばれている最中も出そうになる声を抑えるのに必死で、寒い時期だというのに嫌な汗が出た。
「…エリアーヌ嬢、顔が赤いが…」
「だ、大丈夫っ、です…」
もう一人にして欲しい。切実にそう思う願った。
「も、もう大丈夫なので一人に…ひゃぁっ!」
最後まで言い切る前に、副団長が私の頬をするりと撫でると、変な声が出て私の体が勢いよく撥ねてしまった。
「エリアーヌ嬢、まさか…」
副団長の怪訝そうな声は、私には届かなかった。
「エリアーヌ嬢、何があった。話してくれ」
私をソファに座らせた副団長は、私の前に屈みこむと視線を合わせてそう尋ねてきた。でも私は…それどころじゃなかった。この熱を何とかしたくて仕方がない。直ぐにでも冷水のシャワーを浴びたい気分だ。そうすればこの熱も少しは冷めるのではないだろうか…
「だ、大丈夫です。あ、とは一人で…」
それだけを言うのにこんなに苦労するとは…それくらいに今の私は逸脱していた。頭がぼうっとして意識を保つのが苦しいくらいだ。いっそ意識を失えば楽になるのだろうか…熱に身体が食われていくような気分だ。
「…何か飲まされたか?」
「……」
直球の質問に、私は答えられなかった。何かを飲んだのは間違いないけど、きっと口に出すのも憚られる類いのものだ。まだそれくらいの羞恥心は残っていた。副団長が目の前でため息をついた。そのまま部屋を出て行って欲しい…
「エリアーヌ嬢、何を飲まされた?全て話せ」
「…っ!」
耳に届いた言葉に、私は冷や汗が出るのを感じた。嫌だ、言いたくない…そう思うのに何かが話せとせっついてくるのを感じた。
「…い、いや、です…」
「命令だ。話すんだ!」
次の言葉は容赦なかった。抗いたいのに抗えない何かが私の意識を支配して、嫌だと思う度に心臓に鋭い痛みを感じた。
「…っ!」
だが今の私には、それすらも体の疼きに繋がるばかりだった。知らない間に涙が溢れて、その涙の動きにすら身体が疼く。私は二重の攻めに耐え切れずに、途切れ途切れだが答えるしか出来なかった。
「…あの女、厄介なものを…」
全てを話した後、副団長は悪態をついた。あの女とは王女殿下の事だろうか。不敬極まりないが、今はそれを咎める気も起きなかった。
「エリアーヌ嬢、聞いてくれ。お前が飲んだのは媚薬の中でもかなり強力なものだ」
「きょ…りょ、く?」
「ああ。解毒剤はあるが…多分それでは間に合わない代物だろう」
「でも、時間…が、経、てば…」
「…残念ながらそれも難しい。このままだと…発狂するか、身体が耐え切れなくて死に至る可能性が高い」
「…死……」
大げさすぎると心のどこかで思う一方で、既に理性を保っているのも苦しかった。いっそ狂ってしまった方が楽かもしれない…そう思うほどには私は追い詰められていた。
「…そ、じゃ…」
「…方法はあるが…」
「も…なんとか…してっ!」
限界だった。この痛みのような苦しい熱から逃れられるなら、死んでもいいかと思うくらいには私も限界だった。もう、これ以上は耐えられない…
「…すまない」
副団長の謝る声が聞こえた気がしたけれど、私の記憶はその寸前で途切れた。
応援ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
3,707
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる