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誘拐事件から一月
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誘拐されてから一月が経った。私は今も変わらず副団長の専属文官で、婚約もそのままに副団長の屋敷で暮らしていた。
副団長とは…媚薬の後遺症で治療をして貰ったあの日から会っていない。ラドン伯や王女殿下の捜査とその後に続く調査に忙しいらしく、屋敷どころか職場にも顔を出さないのだ。副官のオブラン殿の話では、王太子殿下直々のご命令で動いていて王宮で寝泊まりしているという。
お陰でこの如何ともしがたい想いが、これ以上育つ事なく済んでいるのは幸いかもしれない。会えば平常心でいられる自信もないし、このまま静かにお役御免になって欲しい、と切に思った。
そんな鬱々と日を過ぎしていた私に来客があった。屋敷で本を読んでいたところで侍女が来客を知らせたのだけど…
「エリー、久しぶりね!」
「姉さま、お久しぶりです」
「…お、お母様?リアムも…どうしてここに…」
それは領地にいる筈の母と弟だった。聞けば副団長から手紙が届き、屋敷に招待されたのだという。そんな話は聞いていなかったので私の方が驚いた。さらに驚いたのは、副団長の母君のランベール公爵夫人まで訪問された事だった。
「リーヌ、お久しぶり!会いたかったわ!」
「ヴィオじゃないの!元気そうね!」
母に抱きつくランベール公爵夫人に、私は目を丸くするしか出来なかった。
(え?お母様達、お知り合いだったの?)
この屋敷に来てから一度もランベール公爵家の方は訪ねて来なかった。だからてっきり仮の婚約だという事は公爵家に伝わっているのだと思っていたのだけど…
「ああ、お久しぶりね、エリアーヌちゃん。ずっとお会いしたかったのよ」
「え?」
公爵夫人が私の両手を握って頬を紅潮させてそう言ったけれど…どこかでお会いしましたっけ?全く記憶がないんだけど…
「エリーちゃんがうんと小さかった頃、何度か会った事があるのよ。私とリーヌとジュディは学園時代大の仲良しだったからね。ううん、違うわね。私とジュディがリーヌに憧れていたの」
そう言ってキラキラした目を母に向ける公爵夫人だったが、私を更に驚かせたのは、公爵夫人の言うジュディが王妃様だった事だ。
(母よ、あなたは一体何を…)
昔からパワフルで規格外の人だとは思っていたけれど…まさか王妃様や公爵夫人と親しかったとは知らなかった。思いがけない新事実に、気が遠くなりそうだった。
ひとしきり母とランベール公爵夫人が感動の再会を祝った後、私達は応接間に移動した。約一年ぶりに会ったリアムは天使の面影を残したまま成長していた。うん、可愛かっこいい…姉として感無量だ。来年は学園に入学するけど、何とか学費も工面出来そうだし、肩の荷が下りた気分だ。よく頑張った自分。ちょっと胸は痛むけど。
「それでお母様、一体どうして王都に?」
「ああ、ブーランジェ伯から連絡を頂いたのよ。婚約と契約の件を話し合いたいって。それにリアムも来年は学園入学でしょう?ついでに見学に来てはどうかと言って下さったのよね」
「そう、ですか」
いよいよあの契約が履行されるのか。婚約の件は母には副団長から説明して貰っていて、事情は伝わっていると聞いた。ラドン伯も逮捕されたし、そろそろ公文書で交わした謝礼を払う気なのかもしれない。それなら母の立ち合いも必要だろう。その話をしに来たのだろうけど…母と公爵夫人は別の話で盛り上がっていた。
「エリーちゃんがアレクのお嫁さんになってくれたらいいのに」
「ふふっ、確かにヴィオが姑なら安心して任せられるわね」
「勿論よ。うちは男ばかりでしょ?私、女の子が欲しかったのよ~エリーちゃんなら大歓迎」
「あら、だったらあげるわよ」
母があっさりとそう言った。
副団長とは…媚薬の後遺症で治療をして貰ったあの日から会っていない。ラドン伯や王女殿下の捜査とその後に続く調査に忙しいらしく、屋敷どころか職場にも顔を出さないのだ。副官のオブラン殿の話では、王太子殿下直々のご命令で動いていて王宮で寝泊まりしているという。
お陰でこの如何ともしがたい想いが、これ以上育つ事なく済んでいるのは幸いかもしれない。会えば平常心でいられる自信もないし、このまま静かにお役御免になって欲しい、と切に思った。
そんな鬱々と日を過ぎしていた私に来客があった。屋敷で本を読んでいたところで侍女が来客を知らせたのだけど…
「エリー、久しぶりね!」
「姉さま、お久しぶりです」
「…お、お母様?リアムも…どうしてここに…」
それは領地にいる筈の母と弟だった。聞けば副団長から手紙が届き、屋敷に招待されたのだという。そんな話は聞いていなかったので私の方が驚いた。さらに驚いたのは、副団長の母君のランベール公爵夫人まで訪問された事だった。
「リーヌ、お久しぶり!会いたかったわ!」
「ヴィオじゃないの!元気そうね!」
母に抱きつくランベール公爵夫人に、私は目を丸くするしか出来なかった。
(え?お母様達、お知り合いだったの?)
この屋敷に来てから一度もランベール公爵家の方は訪ねて来なかった。だからてっきり仮の婚約だという事は公爵家に伝わっているのだと思っていたのだけど…
「ああ、お久しぶりね、エリアーヌちゃん。ずっとお会いしたかったのよ」
「え?」
公爵夫人が私の両手を握って頬を紅潮させてそう言ったけれど…どこかでお会いしましたっけ?全く記憶がないんだけど…
「エリーちゃんがうんと小さかった頃、何度か会った事があるのよ。私とリーヌとジュディは学園時代大の仲良しだったからね。ううん、違うわね。私とジュディがリーヌに憧れていたの」
そう言ってキラキラした目を母に向ける公爵夫人だったが、私を更に驚かせたのは、公爵夫人の言うジュディが王妃様だった事だ。
(母よ、あなたは一体何を…)
昔からパワフルで規格外の人だとは思っていたけれど…まさか王妃様や公爵夫人と親しかったとは知らなかった。思いがけない新事実に、気が遠くなりそうだった。
ひとしきり母とランベール公爵夫人が感動の再会を祝った後、私達は応接間に移動した。約一年ぶりに会ったリアムは天使の面影を残したまま成長していた。うん、可愛かっこいい…姉として感無量だ。来年は学園に入学するけど、何とか学費も工面出来そうだし、肩の荷が下りた気分だ。よく頑張った自分。ちょっと胸は痛むけど。
「それでお母様、一体どうして王都に?」
「ああ、ブーランジェ伯から連絡を頂いたのよ。婚約と契約の件を話し合いたいって。それにリアムも来年は学園入学でしょう?ついでに見学に来てはどうかと言って下さったのよね」
「そう、ですか」
いよいよあの契約が履行されるのか。婚約の件は母には副団長から説明して貰っていて、事情は伝わっていると聞いた。ラドン伯も逮捕されたし、そろそろ公文書で交わした謝礼を払う気なのかもしれない。それなら母の立ち合いも必要だろう。その話をしに来たのだろうけど…母と公爵夫人は別の話で盛り上がっていた。
「エリーちゃんがアレクのお嫁さんになってくれたらいいのに」
「ふふっ、確かにヴィオが姑なら安心して任せられるわね」
「勿論よ。うちは男ばかりでしょ?私、女の子が欲しかったのよ~エリーちゃんなら大歓迎」
「あら、だったらあげるわよ」
母があっさりとそう言った。
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