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公爵夫人と母
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「本当?!やったわ!エリーちゃんは美人で可愛いもの!」
あっさりと私をあげるとのたまった母に私が呆気に取られている前で、公爵夫人は子供のようにはしゃいだ声を上げた。いやいやいや、いくら何でもそれはないだろう…婚約だって仕事のためなのだ。
「ちょ…お母様、あげるって…犬や猫の子じゃないですから…」
「でも、貴女を貰ってくれる相手なんていないじゃない」
「それはそうですけど…でも…」
「ちょうど婚約していたんだし、そのまま結婚しちゃえばいいじゃない。余計な根回しもしなくて済むし」
「そうよ、エリーちゃん。大丈夫!身一つで来てくれればいいから!」
母達よ…論点はそこじゃない。最も重要なのは副団長にはその気が全くないという点だ。それを母と公爵夫人に話したのだけど…
「大丈夫よ。アレクはエリーちゃんの事気に入っているから」
「…は?」
思いがけない返しに思わず変な声が出てしまった。いやいやいや、そんな筈はないだろう…すっかり失念していたけれど、そもそも彼にはサラさんと言う恋人もいるのだ。
「だって、あの子が偽装とは言え婚約したのがその証拠よ。この家に住まわせているのもね」
「え?」
「あの子は色々難しいところのある子だから…」
そう呟いた公爵夫人は、どこか寂しそうな苦しそうな表情を一瞬だけ見せた。それは彼の出自の事を指しているのだろうか…
「でもね、本当は優しくていい子なのよ。見た目で寄って来る人が多いから、中々あの子の本質に気付く人はいないけど」
公爵夫人は更にそう言ったけれど…それを言ったら私は正に見た目だけで判断し、本質に気付いていないその他大勢の最たるものだろう…
「…私は…そんな大層な人間じゃありません」
そう、その事は私が一番よくわかっている。そして副団長も。
「そんな事ないわ。あの子、自分のテリトリーに他人が入るのを酷く嫌がるのよね。私たち家族ですら、仕事柄自分は狙われる事が多いから近づくなって言うくらいなんだから」
夫人がしみじみとそう言ったけれど…確かに騎士団の副団長なんかしていたら逆恨みされる事もあるだろう。私ですら不正を見つけたからと狙われたのだ。それに…この前刺客に襲われていたっけ。だとしたら副団長の言う通りだ。
「でもまぁ、騎士団にいたらそんなものでしょう?」
「まぁ、リーヌったら!それじゃ何時まで待ってもあの子にお嫁さんが来ないじゃない!」
「だから、結婚はしませんと言っているでしょう、母上」
母と公爵夫人のやり取りの間に入り込んできたのは、正に話題の主のものだった。
「アレク!」
「母上…どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「どうしてって…そりゃあ、リーヌがこっちに来るって聞いたからに決まっているからでしょう!」
半ばあきれ顔の副団長に対して、公爵夫人は満面の笑みで答えた。何というか、素直と言うか無邪気な人だな、と思う。公爵夫人ともなれば魑魅魍魎蔓延る社交界で、作り物の笑顔で際どい会話を嗜む人かと思っていただけに、そのギャップが意外だ。喜怒哀楽の激しい母以上に素直と言うか何というか…可愛らしい方だけど、社交界で生き残れるのかと私でも心配になってしまう。
「私がミュッセ伯爵をお呼びしたのは、母上に会わせるためじゃありませんよ」
「もう!そんな冷たい事言わないで。わかっているわよ。だから終わるまで待っているつもりで来たの。それならいいでしょう?」
「…好きにして下さい」
どうやら副団長は公爵夫人が苦手らしい。素直すぎて可愛いけれど、ああ言えばこう言うで肩透かしを食らうのかもしれない。それでもお互いの間には私が予想していた壁のようなものは感じられなかった。普通に息子を心配する過保護気味な母親と、そんな母を疎ましく思いながらも嫌いになれない反抗期の少年の様にも見えた。
あっさりと私をあげるとのたまった母に私が呆気に取られている前で、公爵夫人は子供のようにはしゃいだ声を上げた。いやいやいや、いくら何でもそれはないだろう…婚約だって仕事のためなのだ。
「ちょ…お母様、あげるって…犬や猫の子じゃないですから…」
「でも、貴女を貰ってくれる相手なんていないじゃない」
「それはそうですけど…でも…」
「ちょうど婚約していたんだし、そのまま結婚しちゃえばいいじゃない。余計な根回しもしなくて済むし」
「そうよ、エリーちゃん。大丈夫!身一つで来てくれればいいから!」
母達よ…論点はそこじゃない。最も重要なのは副団長にはその気が全くないという点だ。それを母と公爵夫人に話したのだけど…
「大丈夫よ。アレクはエリーちゃんの事気に入っているから」
「…は?」
思いがけない返しに思わず変な声が出てしまった。いやいやいや、そんな筈はないだろう…すっかり失念していたけれど、そもそも彼にはサラさんと言う恋人もいるのだ。
「だって、あの子が偽装とは言え婚約したのがその証拠よ。この家に住まわせているのもね」
「え?」
「あの子は色々難しいところのある子だから…」
そう呟いた公爵夫人は、どこか寂しそうな苦しそうな表情を一瞬だけ見せた。それは彼の出自の事を指しているのだろうか…
「でもね、本当は優しくていい子なのよ。見た目で寄って来る人が多いから、中々あの子の本質に気付く人はいないけど」
公爵夫人は更にそう言ったけれど…それを言ったら私は正に見た目だけで判断し、本質に気付いていないその他大勢の最たるものだろう…
「…私は…そんな大層な人間じゃありません」
そう、その事は私が一番よくわかっている。そして副団長も。
「そんな事ないわ。あの子、自分のテリトリーに他人が入るのを酷く嫌がるのよね。私たち家族ですら、仕事柄自分は狙われる事が多いから近づくなって言うくらいなんだから」
夫人がしみじみとそう言ったけれど…確かに騎士団の副団長なんかしていたら逆恨みされる事もあるだろう。私ですら不正を見つけたからと狙われたのだ。それに…この前刺客に襲われていたっけ。だとしたら副団長の言う通りだ。
「でもまぁ、騎士団にいたらそんなものでしょう?」
「まぁ、リーヌったら!それじゃ何時まで待ってもあの子にお嫁さんが来ないじゃない!」
「だから、結婚はしませんと言っているでしょう、母上」
母と公爵夫人のやり取りの間に入り込んできたのは、正に話題の主のものだった。
「アレク!」
「母上…どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「どうしてって…そりゃあ、リーヌがこっちに来るって聞いたからに決まっているからでしょう!」
半ばあきれ顔の副団長に対して、公爵夫人は満面の笑みで答えた。何というか、素直と言うか無邪気な人だな、と思う。公爵夫人ともなれば魑魅魍魎蔓延る社交界で、作り物の笑顔で際どい会話を嗜む人かと思っていただけに、そのギャップが意外だ。喜怒哀楽の激しい母以上に素直と言うか何というか…可愛らしい方だけど、社交界で生き残れるのかと私でも心配になってしまう。
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「…好きにして下さい」
どうやら副団長は公爵夫人が苦手らしい。素直すぎて可愛いけれど、ああ言えばこう言うで肩透かしを食らうのかもしれない。それでもお互いの間には私が予想していた壁のようなものは感じられなかった。普通に息子を心配する過保護気味な母親と、そんな母を疎ましく思いながらも嫌いになれない反抗期の少年の様にも見えた。
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