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呪われた忌子
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「何だと?!エリアーヌ嬢が行方不明に?」
駆け込んできた部下の報告に、俺は思わず声を荒げた。想定していたが警戒もしていただけに、可能だと思っていなかったからだ。ラドン伯爵とその一派の逮捕から一週間、ようやく彼らの仲間の捕縛も終わり、これからは取り調べを本格的に…という時だった。
「一体誰が…」
ラドン伯の関係者は殆どが牢の中だ。現時点で彼女を狙うような輩は存在しない筈。だとしたら…可能性がある人物を思い浮かべて俺は暗澹たる思いに包まれ、その予想は違わなかった。
「アレク様っ!私は脅されただけです!」
そう言って泣きながら弁明するアリソン王女に、俺の心が動く事はなかった。アリソン王女が俺を諦めていない事は察していたし、影からラドン伯と接触したとの報告もあった。だが、実兄を害するような相手と手を組むとは思わなかった。だが、あの王女は甘ったれた残酷さで自身の目的を遂げる事を優先したのだ。
こうなる事も想定して、エリアーヌ嬢には居場所がわかる様に俺の魔術を掛けたネックレスを渡しておいた。そのお陰ですぐに居場所は特定出来たが、質の悪い媚薬を飲まされたのは想定外だった。あれは国内ではまず手に入らない代物だからだ。
だが、違法薬物を扱っていたラドン伯なら可能だったのだろう。あの『無慈悲』と呼ばれる媚薬の特徴はその味だ。媚薬は甘ったるいか無味無臭が殆どだが、あれだけは強い苦みがある。そして屈強な騎士ですらも廃人にするほどの代物だ。俺を指導してくれた尊敬する先輩があれで亡くなったを見ていたから、その効果は嫌と言うほど知っていた。
「も…なんとか…してっ!」
泣きながらそう訴える彼女の姿に、あの時の先輩の姿が被った。先輩は泣きもしなかったし、最後まで耐えると言って一人部屋に籠ったが、その結果は無残で直視出来ないものだった。もうあんな風に誰かを死なせる訳にはいかなかった。
普段の擬態とも言える地味な格好に反して、愛らしい顔を紅潮させ、熱に浮かされる艶めかしい身体は、哀れなほどに美しかった。酒に酔った時の素直で無邪気な様子とも違う一面に翻弄されたのは、俺の方かもしれない。だからこそ、罪悪感が一層募った。
そんな俺に対して彼女は、あれは治療だったと礼を言ってきた。まさかそんな返しをされるとは思っていなかったから、直ぐにはその意味が理解出来なかった。てっきり罵倒されるか軽蔑されると思っていたからだ。過去の彼女の態度からしても、それ以外の反応が予想出来なかっただけに、戸惑いは強く、罪悪感も一層深まった。
アリソン王女の取り調べが進むにつれて、ラドン伯との関係も明るみになった。ラドン伯からの接触は確認していたが、まさか自分が女王になろうと考えていたのには驚きだった。自身が女王になる時は、兄の王太子が廃嫡される時だ。そして廃嫡された王太子の末路がどんなものになるのか、あの女は何も考えていなかったのだろうか…
仲のいい兄妹だと思っていた。自分には与えられなかったものを最初から手にし、何の憂いもない二人はまた、国民からの人気の高かった。真面目で誠実な王太子と可憐で朗らかな王女は、正に絵に描いたようなあらまほしき姿だったのに…
「まさか、あの子がね…」
取り調べの内容を報告に行くと、兄王子は憂いを含んだ表情でそう呟いた。廃嫡された王子の先にある悲惨な人生は、これまでの歴史が物語っていた。残酷で過酷で、無駄死にとも言える最期を迎えるのが常だった。そんな立場に自分を追いやろうとしていたのだと突きつけられれば、根は優しく情の深い彼が平常心でいられる筈もないだろう。
『呪われし忌子めが…』
ふと、幼い頃に何度も投げかけられた言葉が蘇った。誰に言われたのかも思い出せないが、真実を知れば多くの者がそう感じただろう。王家の権威を貶めた無能で不要な忌まわしき子供。それが俺だ。
もし自分の瞳が青でなければ、この悲劇は起きなかったのかもしれない…そう思うと、何のために生まれてきたのかとすら思う。親から離され、結婚も子供を設ける事も許されず、一時は何のために生まれてきたのかと思ったものだが、こんな悲劇を招くなら確かに呪われているのかもしれない。
駆け込んできた部下の報告に、俺は思わず声を荒げた。想定していたが警戒もしていただけに、可能だと思っていなかったからだ。ラドン伯爵とその一派の逮捕から一週間、ようやく彼らの仲間の捕縛も終わり、これからは取り調べを本格的に…という時だった。
「一体誰が…」
ラドン伯の関係者は殆どが牢の中だ。現時点で彼女を狙うような輩は存在しない筈。だとしたら…可能性がある人物を思い浮かべて俺は暗澹たる思いに包まれ、その予想は違わなかった。
「アレク様っ!私は脅されただけです!」
そう言って泣きながら弁明するアリソン王女に、俺の心が動く事はなかった。アリソン王女が俺を諦めていない事は察していたし、影からラドン伯と接触したとの報告もあった。だが、実兄を害するような相手と手を組むとは思わなかった。だが、あの王女は甘ったれた残酷さで自身の目的を遂げる事を優先したのだ。
こうなる事も想定して、エリアーヌ嬢には居場所がわかる様に俺の魔術を掛けたネックレスを渡しておいた。そのお陰ですぐに居場所は特定出来たが、質の悪い媚薬を飲まされたのは想定外だった。あれは国内ではまず手に入らない代物だからだ。
だが、違法薬物を扱っていたラドン伯なら可能だったのだろう。あの『無慈悲』と呼ばれる媚薬の特徴はその味だ。媚薬は甘ったるいか無味無臭が殆どだが、あれだけは強い苦みがある。そして屈強な騎士ですらも廃人にするほどの代物だ。俺を指導してくれた尊敬する先輩があれで亡くなったを見ていたから、その効果は嫌と言うほど知っていた。
「も…なんとか…してっ!」
泣きながらそう訴える彼女の姿に、あの時の先輩の姿が被った。先輩は泣きもしなかったし、最後まで耐えると言って一人部屋に籠ったが、その結果は無残で直視出来ないものだった。もうあんな風に誰かを死なせる訳にはいかなかった。
普段の擬態とも言える地味な格好に反して、愛らしい顔を紅潮させ、熱に浮かされる艶めかしい身体は、哀れなほどに美しかった。酒に酔った時の素直で無邪気な様子とも違う一面に翻弄されたのは、俺の方かもしれない。だからこそ、罪悪感が一層募った。
そんな俺に対して彼女は、あれは治療だったと礼を言ってきた。まさかそんな返しをされるとは思っていなかったから、直ぐにはその意味が理解出来なかった。てっきり罵倒されるか軽蔑されると思っていたからだ。過去の彼女の態度からしても、それ以外の反応が予想出来なかっただけに、戸惑いは強く、罪悪感も一層深まった。
アリソン王女の取り調べが進むにつれて、ラドン伯との関係も明るみになった。ラドン伯からの接触は確認していたが、まさか自分が女王になろうと考えていたのには驚きだった。自身が女王になる時は、兄の王太子が廃嫡される時だ。そして廃嫡された王太子の末路がどんなものになるのか、あの女は何も考えていなかったのだろうか…
仲のいい兄妹だと思っていた。自分には与えられなかったものを最初から手にし、何の憂いもない二人はまた、国民からの人気の高かった。真面目で誠実な王太子と可憐で朗らかな王女は、正に絵に描いたようなあらまほしき姿だったのに…
「まさか、あの子がね…」
取り調べの内容を報告に行くと、兄王子は憂いを含んだ表情でそう呟いた。廃嫡された王子の先にある悲惨な人生は、これまでの歴史が物語っていた。残酷で過酷で、無駄死にとも言える最期を迎えるのが常だった。そんな立場に自分を追いやろうとしていたのだと突きつけられれば、根は優しく情の深い彼が平常心でいられる筈もないだろう。
『呪われし忌子めが…』
ふと、幼い頃に何度も投げかけられた言葉が蘇った。誰に言われたのかも思い出せないが、真実を知れば多くの者がそう感じただろう。王家の権威を貶めた無能で不要な忌まわしき子供。それが俺だ。
もし自分の瞳が青でなければ、この悲劇は起きなかったのかもしれない…そう思うと、何のために生まれてきたのかとすら思う。親から離され、結婚も子供を設ける事も許されず、一時は何のために生まれてきたのかと思ったものだが、こんな悲劇を招くなら確かに呪われているのかもしれない。
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