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王家の影
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純潔を失った経緯はわかってくれたのだから、この件はこれで終わりにと思っていたのに、母は私の想いと正反対の事を言いだした。副団長にはその気はない。彼にはサラさんという恋人もいるのだ。
「お母様…どうしてそうなるんですか?」
「あら、純潔を失ったなら当然でしょう?」
「で、でも、私達の婚約は仕事の一環ですし…」
「だったら純潔を失うような真似はするべきじゃなかったわね」
一刀両断だった。いや、潔いのが母の長所ではあるのだけど。
「ミュッセ伯爵。申し訳ありませんが、私は結婚には向きません」
「あら、どうして?」
「どうしてって…まず私には子を作る事が出来ません」
「知っているわよ」
「それに私は…狙われる立場にあります。私が側にいればエリアーヌ嬢が危険です」
「そうね。でも、影なんてそんなものでしょう?」
それがどうした、と言わんばかりに母がそう言ったけれど…
(…は?影?影って…まさかあの…?)
決して表には出ないけれど、王家には影と呼ばれる諜報部隊がいるという話は実しやかに囁かれている。彼らは王家に忠誠を誓い、暗殺などの違法な命令すらも厭わないとも。
ただ、その存在は決して表には出ず、その事を知ったら消されるとも言われている。副団長がその影…?私が呆然と副団長を見たけれど、彼は私の視線に気付いているだろうに、こちらに視線を向けようとはしなかった。
「あら?エリーは知らなかったの?」
「え、ええ…」
「あら…てっきりもう話しているのだと思っていたわ」
「え?じゃ…お母様は知って…」
「ええ、知っていたわよ。だって彼を育て上げたのは夫だもの」
「はぁ?お、夫って…お父様?」
久しぶりに父の存在を思い出して、私は暫く何も言えなかった。だって…父はリアムが生まれて程なくした頃を最後に、帰って来なくなったからだ。母に尋ねたけれど、もう一緒にいられないのだと言われて、ああ、離婚したのか…と漠然と思っていた。父は入り婿だったし、私の知る父は温厚でのんびりしていて、ちょっと抜けていて、気性の激しい母とは到底釣り合わない人物に思われた。そもそも子供の頃から父の存在は希薄で、いてもいなくても気にならない、そんな感じだったのだ。
(あの父が…副団長を?じゃあ…)
「お、お母様…もしかしてお父様は…」
「ええ、彼も影の一人よ。そうね、この子が王太子の影なら、あの人は国王の影ね」
私は一体何度驚けばいいのだろうか…もう、私のキャパは既に限界を超えてあふれ出しているような気がする…
「別に影だからって危険なわけじゃないわよ。その証拠に私もエリーもリアムも、今まで何ともなかったでしょ?」
そう自信満々に言い切った母だけど…本当だろうか…とてもそんな風には思えないのだけど…
「エリーは既に影の娘って事で狙われる立場だし。父親が夫に代わったところであんまり変わらないでしょ?」
「え…?い、いえ、お母様、でも…」
自分がこれまで狙われる立場だったなんて…いや、不正を見つけただけで狙われていた事にも気が付いていなかったから、もしかしたらこれまでも危険な場面があったのだろうか…
「ミュッセ伯爵、いくら何でもグラシアン殿と一緒にしないで下さい」
グラシアンは父の名だ。副団長の口から父の名が出たという事は、さっきの話は本当だったのか…
「あら、貴方は優秀だって彼は言っていたわよ?」
「それでもです。第一、お忘れですか?私は王家から監視されている立場ですよ?」
「知っているわよ、青瞳の王子様」
「だったら…」
「監視は護衛と紙一重でしょ?だったらエリーの安全も保証されたも同然でしょ」
母よ、さすがにその理論は無理があり過ぎるのではないだろうか…副団長もそう思ったのだろう、驚きを隠しきれていなかった。
「それとも何?うちのエリーに不満があるとでも?」
「め、滅相もありませんが…」
最後には母がドスの利いた低い声でそう問いかけ、その圧に副団長が負けていた。
(お母様、それ以上は脅迫です…)
お願いだから無理強いしないで欲しかった。それでは惨めになるから…
「お母様…どうしてそうなるんですか?」
「あら、純潔を失ったなら当然でしょう?」
「で、でも、私達の婚約は仕事の一環ですし…」
「だったら純潔を失うような真似はするべきじゃなかったわね」
一刀両断だった。いや、潔いのが母の長所ではあるのだけど。
「ミュッセ伯爵。申し訳ありませんが、私は結婚には向きません」
「あら、どうして?」
「どうしてって…まず私には子を作る事が出来ません」
「知っているわよ」
「それに私は…狙われる立場にあります。私が側にいればエリアーヌ嬢が危険です」
「そうね。でも、影なんてそんなものでしょう?」
それがどうした、と言わんばかりに母がそう言ったけれど…
(…は?影?影って…まさかあの…?)
決して表には出ないけれど、王家には影と呼ばれる諜報部隊がいるという話は実しやかに囁かれている。彼らは王家に忠誠を誓い、暗殺などの違法な命令すらも厭わないとも。
ただ、その存在は決して表には出ず、その事を知ったら消されるとも言われている。副団長がその影…?私が呆然と副団長を見たけれど、彼は私の視線に気付いているだろうに、こちらに視線を向けようとはしなかった。
「あら?エリーは知らなかったの?」
「え、ええ…」
「あら…てっきりもう話しているのだと思っていたわ」
「え?じゃ…お母様は知って…」
「ええ、知っていたわよ。だって彼を育て上げたのは夫だもの」
「はぁ?お、夫って…お父様?」
久しぶりに父の存在を思い出して、私は暫く何も言えなかった。だって…父はリアムが生まれて程なくした頃を最後に、帰って来なくなったからだ。母に尋ねたけれど、もう一緒にいられないのだと言われて、ああ、離婚したのか…と漠然と思っていた。父は入り婿だったし、私の知る父は温厚でのんびりしていて、ちょっと抜けていて、気性の激しい母とは到底釣り合わない人物に思われた。そもそも子供の頃から父の存在は希薄で、いてもいなくても気にならない、そんな感じだったのだ。
(あの父が…副団長を?じゃあ…)
「お、お母様…もしかしてお父様は…」
「ええ、彼も影の一人よ。そうね、この子が王太子の影なら、あの人は国王の影ね」
私は一体何度驚けばいいのだろうか…もう、私のキャパは既に限界を超えてあふれ出しているような気がする…
「別に影だからって危険なわけじゃないわよ。その証拠に私もエリーもリアムも、今まで何ともなかったでしょ?」
そう自信満々に言い切った母だけど…本当だろうか…とてもそんな風には思えないのだけど…
「エリーは既に影の娘って事で狙われる立場だし。父親が夫に代わったところであんまり変わらないでしょ?」
「え…?い、いえ、お母様、でも…」
自分がこれまで狙われる立場だったなんて…いや、不正を見つけただけで狙われていた事にも気が付いていなかったから、もしかしたらこれまでも危険な場面があったのだろうか…
「ミュッセ伯爵、いくら何でもグラシアン殿と一緒にしないで下さい」
グラシアンは父の名だ。副団長の口から父の名が出たという事は、さっきの話は本当だったのか…
「あら、貴方は優秀だって彼は言っていたわよ?」
「それでもです。第一、お忘れですか?私は王家から監視されている立場ですよ?」
「知っているわよ、青瞳の王子様」
「だったら…」
「監視は護衛と紙一重でしょ?だったらエリーの安全も保証されたも同然でしょ」
母よ、さすがにその理論は無理があり過ぎるのではないだろうか…副団長もそう思ったのだろう、驚きを隠しきれていなかった。
「それとも何?うちのエリーに不満があるとでも?」
「め、滅相もありませんが…」
最後には母がドスの利いた低い声でそう問いかけ、その圧に副団長が負けていた。
(お母様、それ以上は脅迫です…)
お願いだから無理強いしないで欲しかった。それでは惨めになるから…
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