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王太子殿下からの謝罪

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「殿下、一体何ですか?」

 護衛が外に出たのを見届けると、副団長が殿下にそう尋ねた。機嫌が悪そうな彼に、殿下は遮音の魔術を掛けるよう命じた。一瞬何かを言いたそうにした副団長だったが、言葉を飲み込むと何やら呟いた。あれが…遮音の魔術とやらだろうか。初めて見た。

「エリー、この前はすまなかった」
「…はい?」

 そう言って殿下が頭を下げられたけど…いきなりの事に何の事か直ぐにはわからなかった。それはアリソン王女の事だろうか。もしくはラドン伯関係か?どれを指しているのだろうと考える私に、殿下は報酬の事だと仰った。

「報酬って…あの二年分割り増しされた件、ですか?」
「そうだ。すまない。お金で片付けようとした事を謝るよ」

 そう言って再度殿下が頭を下げられた。待って、王族がそんなに簡単に頭を下げてはいけないのではないだろうか。それに、謝って貰う話ではないだろう。

「殿下、頭をお上げ下さい!あれは仕方のなかった事ですから」
「だが…」
「そもそも、元に戻す事もなかった事にも出来なかったものです。だったらお金で解決する以外にないではありませんか」

 何がというのは憚られたので濁したけれど、純潔の代価をお金にした事を仰っているのだろう。母達も随分憤慨していたけれど、私の考えは違っていた。あれは副団長のせいではないし、あの王女に関して言えば副団長だって被害者だ。そして元に戻せる類いのものでもない。だったらお金で解決するしかないではないか。私が合理的過ぎるのかもしれないけれど、私自身はあんなに頂いていいのかと逆に申し訳なかったくらいなのだ。

「そう言って貰えると助かるんだけど…エリー、もう少し自分を大事にしないと…」

 困った表情のまま、殿下にそう言われてしまった。大事にって…別に粗末にしているつもりはないのだけど。元より結婚は諦めていたし、私としては好きでもなんでもない相手と…よりはずっとマシだったと思っているくらいなのだ。

「…エリーのこの自己評価の低さは、どこから来たんだ…」
「俺に聞かれても困ります…」

 殿下が副団長にそう尋ねていたけど、副団長だって答えられないだろう。そこまでの付き合いはないのだから。それに自己評価が低いわけではないと思う。殿下達が高過ぎなだけで。

「ああ、そうだ。アレク、少しだけでいいからエリーと二人で話をさせてくれないか?」
「二人で、ですか?」
「ああ、ルナール侯爵家の令嬢の事を聞きたいんだよ。彼女と友人なんだって?」
「え?ええ、まぁ…」

 いきなりクラリスの名が出て驚いたけど、そう言えば王太子妃候補にと声がかかったと言っていたっけ。

「彼女の事で聞いてみた事があってね。心配しなくても無体な事はしないよ。誓ってもいい」
「…私は構いませんが…」

 そう言って副団長が私を見たので、私も問題ないですと答えた。殿下が何かをするとは思えないし、大丈夫だろう。

「すまないね、エリー」
「いえ。それよりも、クラ…ルナール侯爵令嬢がどうかなさいましたか?」

 さすがに親友の事となると気が気ではなかった。彼女は侍女としても優秀だと聞いていたし、さっぱりした性格で頼りになるし、情より理を優先出来るから王太子妃として問題がないように思える。
 でも、王太子妃となれば苦労も多いのも確かだ。彼女には幸せになって欲しいと思っているから、今は賛成とも反対とも言えなかった。

「いや、彼女の人となりについて、エリーの意見も聞いてみたかったんだよ。王太子妃は何れ王妃になる難しい立場だ。それに私は、この国を変えたいと思っているんだ。そのためには、一人で立つ事が出来るしっかりした女性を…と思ってね」
「この国を…変えたい、ですか?」

 確かに殿下は何れ国のトップに立たれる方だ。国を変えたいと思われるのは当然だけど、それはどういう方向性でお考えなのだろうか。それによって答えも変わってくる気がする…

「私はね、瞳の色に振り回される今の王家を変えたいんだ。そう、例えばアレクのような者が、この先生まれないためにね」

 殿下の言葉に、私は息を飲んだ。



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