【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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母の心配と自分の思い

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「お母様が許して下さらなくても、最初からラドン伯の罪を暴くまでとの約束でした」
「そうね。でも、純潔を奪われたのよ」
「あれは治療です。そうしなければ私は死んでいたと聞いています」

 そう、あれば解毒剤すらない強力な媚薬だった。そうでなければあんな展開にはならなかっただろうし、そもそも私が攫われなければ起きなかったのだ。油断をしていた私にも責任はある。それに…

「私は誰とも結婚する気はありませんでした。責任取って結婚して貰うなんて、そんな虚しい人生はお断りです」
「エリー…」

 私がはっきりそう言うと、母が驚きの表情で私を見た。

「お母様はお父様と愛し合っていたのでしょう?だったら私も、今のこの私がいいといって下さる相手がいいんです。私だって結婚するなら幸せになりたいんです」

 責任を取って貰ったところで、仮面夫婦になるのでは意味がないと思う私は子供なのだろうか。でも、一生文官として生きると決めただけに、結婚するなら文官でいる時よりも幸せになれると信じられるものでなければ意味がない。後で結婚なんかしなきゃよかったと思うのは御免だ。

「……わかったわ」
「リーヌ?!」

 暫くの間の後、母は静かにそう言った。そこには怒りも憤りもなく、ただ仕方ないと言った空気だけが残っているように見えた、公爵夫人の方が母の言葉に驚いているくらいだ。

「そこまで言われては無理強い出来ないわ。でも…私もヴィオも、エリーの気持ちもあの子の気持ちも知っていたわ」
「お母様…」
「全く、似た者同士よね、あなたたち。頑固ってところは特に」

 そう言って母がため息をついた。いや、別に私は頑固という訳じゃないと思うけど…

「リーヌ!でも…」
「ヴィオ、こういう事は当人同士が納得しなきゃ。無理やりくっ付けてもこの二人の場合は逆効果な気がするわ」
「そうかもしれないけど…」
「もう子供じゃないわ。当人同士に任せましょう」

 そう言って母が公爵夫人を宥めた。公爵夫人は納得し難い様子だったけれど、母に言われてはそれ以上何も言えないようだった。

「ありがとう、お母様」
「いいのよ。私も悪かったわ。でも…自分に正直になる事も大事よ。エリーは何でも飲み込んでしまうから」

 母は母なりに私の性格を理解して心配してくれたのだろう。母はあんな性格だから独りよがりになる事も多かったけど、それも私の性格がこうだからだし、それだけ私の事を心配してくれた証拠でもある。子供の頃からそれで救われる事が多かったのも間違いない。
 それに…私と副団長は周りが言うように両思いなのかもしれない。でも、私達が向いている方向が違うのも確かだ。

(一度…副団長と話をした方がいいのかもしれない…)

 母だったら心のままにぶつかって、相手の真意を無理やりにでも聞き出したのだろうな、と思う。私には中々出来ない事だけど。でも、今がその時なのかもしれない。副団長との縁が切れるのなら、その前に思っている事を話して、その上で彼の気持ちも聞いてみたいと思っておる自分がいた。

「リュックさん、副団長はいつお戻りになるかご存じですか?」

 その後、私はこの屋敷の家令のリックさんにいつ副団長が帰ってくるか尋ねた。話をするなら職場よりもこの屋敷の方がいいだろう。さすがにプライベートを職場に持ち込む気にはなれないし。

「そう、ですね。今日は王宮にお泊りになると伺っております。明日は…お戻りになる筈です」
「そうですか。でしたら…お話したい事があるので、お時間を作って頂けるようにお願い出来ますか?」
「畏まりました」

 自分の気持ちを自覚してしまったせいか、はっきりさせたい気持ちも確かにある。そう思いながらもどこかで躊躇している自分もいて、恋とはなんて面倒なのだろうと思う。それでも、心配してくれる母のためにも正直な気持ちを話そうと思った。そうすれば前に進めるだろう。



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