【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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再び異動?

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 今頃になって副団長への思いを自覚した私だったけれど、じゃあ何か行動するかと言えば、何も出来ていなかった。というか、どうしたらいいのか全く分からなかったからだ。
 これまでも恋愛に関する事は悉く避けてきた。結婚しないし出来ないのなら、そういう事に近づくのは危険だと思っていたからだ。衝動に突き動かされるまま思いがけない行動に走る姿を見て、怖いなぁと思ったのもあるだろう。文官志望だった私には感情をコントロール出来ないなんて恐怖でしかなかったのだ。それに…

(肝心の副団長に会えない…)

 そう、殿下が騎士団を視察したあの日から、再び副団長が騎士団に顔を出さなくなったのだ。副官のオブラン殿が代わりに指示や書類を運んでくるけど、本人の姿はない。しかも…

「ええ?私が団長の専属に?」

 それから五日後、団長から新たな辞令を渡された。副団長から団長の専属文官に異動というものだった。というのも、団長の専属文官のアルノワ殿が、ラドン伯の不正の一端を担っていたのが判明して投獄されたため、それからは団長の専属文官は不在だったのだ。だから私とエミール様でアルノワ殿の代わりを務めていたのだけど…

「ミュッセ嬢は優秀でどんな書類にも精通していると聞く。私も書類仕事が苦手だから頼まれてくれないだろうか?」

 上司にそう言われてしまえば、否やと言えるはずもない。副団長との縁が一つ切れてしまう事実を前に、仕事ぶりを評価された事よりも喪失感の方が勝った。副団長の専属文官、つまり私の代わりはこれから人選に入るために、異動は一、二カ月先になるらしい。

「凄いや、エリアーヌ様!」
「ありがとうございます。私はエミール様が選ばれると思っていました」
「そんな事ないよ!エリアーヌ様の方が書類には詳しいし、改善策もたくさん出しているんだから。むしろ当然の人事だと思うよ」

 エミール様がそう言って喜びを露わにしてくれたけど、今はその天使の笑顔が酷く色褪せて見えた。一般的には昇進だけど、私の心情は傷心だ。そりゃあ、アルノワ殿がああなったから誰かが団長の専属文官にならなければいけないのだけど、職歴の長いエミール様になると思っていたからこの人事は想定外だった。

(好きだと自覚したら異動なんて…)

 つくづく自分の運のなさというか、間の悪さに笑いが込み上げてきた。




 そんな状況の中、副団長の屋敷に戻ると母と公爵夫人、そして侍女たちが何だか賑わっていた。何かと思ったらすぐにある部屋に連れていかれた。そこには…何とも豪華なドレスと礼服が並んでいた。

「お母様、これは…」
「今度の舞踏会の衣装よ」
「舞踏会って…」
「何よ、まさか忘れていたんじゃないでしょうね?」
「それはありませんが…」

 私が驚いたのはドレスの質であって、予定を忘れるほど呆けてはいない。これでも職場ではスケジュール管理には定評があるし、締め切りを破った事もほぼない。あってもそれは上司が忘れていた場合だけだ。

「ほら、エリーはあの子とお揃いよ」

 そう言って見せてくれたのは、青空色のマーメイドラインのドレスだった。シンプルだけど身体のラインが出るタイプで、でも露出が少ないのが救いだ。ところどころに金糸の見事な刺繍が施されている。これまでもこの屋敷の皆さんは私にこの手のドレスを着せるのを楽しんでいたから、こうなるだろうなぁ…とは思っていたけれど…いや、今はそうじゃなくて!

「お母様、近々婚約は白紙にする予定ですし、さすがにお揃いはやり過ぎではありませんか?」

 そう言うと母と公爵夫人、侍女さんのまとう空気がピシリと固まった。えっと…?

「何を言っているの、エリー?白紙だなんて、そんな事、この母が許しません」
「そうよ、私だって許さないわ!」

 母と公爵夫人の眉がつり上がったけど、私も譲れなかった。副団長がその考えに否定的だから、私まで母達の押しに乗る気にはなれなかったのだ。



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