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王女の出自
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「世迷言も大概にしろ。わしがどうしてそんな事をせねばならぬ」
会場からの視線に気が付いたのか、先王陛下の声のトーンが静かになった。動揺した事で疑惑の目が向けられたのを察したのだろう。
「王家の血を自分の血に替えるためでしょう。ですが、それは無駄なことでしたが」
「無駄だと?」
「そうです。何故なら貴方には子を作る能力はありませんからね」
「な、何だと!? 馬鹿な! わしにはちゃんと子が…」
「残念ながらそれは貴方の思い込みです。何故なら貴方は、子供の頃に子が成せぬよう王家の秘毒を飲まされていますからね」
「なん…!!?」
陛下の言葉にまた、会場内がどよめいた。王家の秘毒とは副団長が飲まされたと言っていたものだろうか…
「あんなに側妃や妾を側に置いたのに、お子が出来なことを不思議に思われませんでしたか?」
「それは…だが、アリソンは…! あれはわしの子だ!」
「残念ながら、あの子はあなたのお子ではありません」
「馬鹿な…では、あの子は…」
「あの子は私の本当の父が晩年に作った子です。離宮で極秘に生まれたからご存じないでしょう。年が離れていたので、私が実子として引き取ったのです」
国王陛下の言葉に、先王陛下が口を開けたまま固まった。よほどショックだったのか、唇が小刻みに震えていた。
「そんな…私が…」
皆が言葉を発することも出来ない中、そう呟いたのは当のアリソン王女だった。自分が実は父の妹だったと言われたのだ。その心情を思うと少しだけ同情してしまった。長年恋焦がれた年上の想い人が実は甥だったなんて…実の兄と言われる方がマシだったかもしれない。
そして王家よ、何て面倒な世界なんだ…こんな王家にクラリスを嫁がせるのは危険だと思わずにはいられなかった。
「ちなみに我が王妃の名誉のために言っておきますが、貴女が襲ったのは王妃ではありません」
「何だと…」
「貴方が襲ったのは王妃付の侍女です。幸いにも閨指南も引き受ける方でしたので、役目として割り切って下さったのは幸いでした。まぁ、王妃が襲われていたら、貴方は生きてはいなかったでしょうが」
国王陛下は穏やかなままで、どこか薄い笑みを浮かべているようにも見えた。でも…その眼には言い知れない深い怒りが宿っているように見えた。
「貴方の血を残せなくて残念でしたね」
「…くっ」
「大人しく繋ぎの王として過ごされていれば、生家も貴方の老後も安泰だったでしょうに」
国王陛下はこんな方だっただろうか…私の知る限りでは、先王陛下に逆らえない大人しい方との印象しかなかったけれど、目の前にいるのはその本心が伺えない底なし沼のような怖さがある。もしかしてずっと、先王陛下に本性を隠していたのだろうか…
「残念でしたね。私の血を継ぐ者を排除し、王家を乗っ取ろうとした罪は軽くはありませんよ」
「馬鹿を言うな。証拠がないだろう」
「証拠?それならたった今、貴方が言ったではありませんか。アリソンがご自身の子だと」
「…あ、あれは…!」
「他の証拠も上がっていますのでご心配なく」
動揺していたのだろうか、自分で自分の罪を告白してしまった先王陛下に逃げ場はなかった。
「それに…お忘れですか?」
「何をだ…」
「我が王妃は、隣国フランクールの第六王女ですよ。貴方は他国の王族を襲おうとしただけでなく、その子も害しようとしたのです」
その指摘に、その場にいた貴族たちがその言葉の意味を理解して呻いた。そう、王妃様はフランクールの王女だ。フランクール王国は我が国の倍の国土を持つ大国で、領土も財力も何もかもが我が国を上回っている。そんな大国の王女を害しようとしたとなれば、戦争が起きてもおかしくはない…
「だから何だと言うのだ。あの王女は側妃腹で冷遇されたと言うではないか。だったら…」
「ほう、先王陛下は我が妹をその様に見下しておいでだったか」
割り入ってきた声の持ち主に、その場にいた者が凍り付いた。
会場からの視線に気が付いたのか、先王陛下の声のトーンが静かになった。動揺した事で疑惑の目が向けられたのを察したのだろう。
「王家の血を自分の血に替えるためでしょう。ですが、それは無駄なことでしたが」
「無駄だと?」
「そうです。何故なら貴方には子を作る能力はありませんからね」
「な、何だと!? 馬鹿な! わしにはちゃんと子が…」
「残念ながらそれは貴方の思い込みです。何故なら貴方は、子供の頃に子が成せぬよう王家の秘毒を飲まされていますからね」
「なん…!!?」
陛下の言葉にまた、会場内がどよめいた。王家の秘毒とは副団長が飲まされたと言っていたものだろうか…
「あんなに側妃や妾を側に置いたのに、お子が出来なことを不思議に思われませんでしたか?」
「それは…だが、アリソンは…! あれはわしの子だ!」
「残念ながら、あの子はあなたのお子ではありません」
「馬鹿な…では、あの子は…」
「あの子は私の本当の父が晩年に作った子です。離宮で極秘に生まれたからご存じないでしょう。年が離れていたので、私が実子として引き取ったのです」
国王陛下の言葉に、先王陛下が口を開けたまま固まった。よほどショックだったのか、唇が小刻みに震えていた。
「そんな…私が…」
皆が言葉を発することも出来ない中、そう呟いたのは当のアリソン王女だった。自分が実は父の妹だったと言われたのだ。その心情を思うと少しだけ同情してしまった。長年恋焦がれた年上の想い人が実は甥だったなんて…実の兄と言われる方がマシだったかもしれない。
そして王家よ、何て面倒な世界なんだ…こんな王家にクラリスを嫁がせるのは危険だと思わずにはいられなかった。
「ちなみに我が王妃の名誉のために言っておきますが、貴女が襲ったのは王妃ではありません」
「何だと…」
「貴方が襲ったのは王妃付の侍女です。幸いにも閨指南も引き受ける方でしたので、役目として割り切って下さったのは幸いでした。まぁ、王妃が襲われていたら、貴方は生きてはいなかったでしょうが」
国王陛下は穏やかなままで、どこか薄い笑みを浮かべているようにも見えた。でも…その眼には言い知れない深い怒りが宿っているように見えた。
「貴方の血を残せなくて残念でしたね」
「…くっ」
「大人しく繋ぎの王として過ごされていれば、生家も貴方の老後も安泰だったでしょうに」
国王陛下はこんな方だっただろうか…私の知る限りでは、先王陛下に逆らえない大人しい方との印象しかなかったけれど、目の前にいるのはその本心が伺えない底なし沼のような怖さがある。もしかしてずっと、先王陛下に本性を隠していたのだろうか…
「残念でしたね。私の血を継ぐ者を排除し、王家を乗っ取ろうとした罪は軽くはありませんよ」
「馬鹿を言うな。証拠がないだろう」
「証拠?それならたった今、貴方が言ったではありませんか。アリソンがご自身の子だと」
「…あ、あれは…!」
「他の証拠も上がっていますのでご心配なく」
動揺していたのだろうか、自分で自分の罪を告白してしまった先王陛下に逃げ場はなかった。
「それに…お忘れですか?」
「何をだ…」
「我が王妃は、隣国フランクールの第六王女ですよ。貴方は他国の王族を襲おうとしただけでなく、その子も害しようとしたのです」
その指摘に、その場にいた貴族たちがその言葉の意味を理解して呻いた。そう、王妃様はフランクールの王女だ。フランクール王国は我が国の倍の国土を持つ大国で、領土も財力も何もかもが我が国を上回っている。そんな大国の王女を害しようとしたとなれば、戦争が起きてもおかしくはない…
「だから何だと言うのだ。あの王女は側妃腹で冷遇されたと言うではないか。だったら…」
「ほう、先王陛下は我が妹をその様に見下しておいでだったか」
割り入ってきた声の持ち主に、その場にいた者が凍り付いた。
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