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先王陛下と王位
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先王陛下の荒々しい怒鳴り声に、会場は一気に静まり返った。貴族達は動揺を抱えながらもその成り行きを、息を殺しながら見ていた。
「誰のおかげで国王になれたと思っておる。貴様などいつでも廃嫡出来ることを忘れるな!」
先王陛下は憎々し気な目を国王陛下に向けていた。陛下の実子なのに、その冷たさはどういう事だろうか…そしてその威圧感に、私を含めたその場にいた者達が肝を冷やした。いくら何でも陛下を廃するなど、やり過ぎではないだろうか…しかも今日は陛下の在位十周年を祝う式典で、他国の賓客もお見えだと言うのに…
それでも、陛下と先王陛下を比べれば、どちらが強いかは一目瞭然に思えた。先王陛下に頭が上がらない国王陛下というのは、民の間でも知られていることだったから。
「ほう、私を廃嫡、ですか?既に王位を退いている貴方が?」
両陛下のにらみ合いで、先に口を開いたのは国王陛下だった。大人しく父王に委縮していると言われていたが、目の前の陛下からはそんな空気は感じられなかった。静かに、堂々とした威厳を放っているように見えた。
「当然だ。お前を王にしたのはわしだ。それを忘れたか?」
「それは異な事を仰る。それを言うなら貴方ではありませんか」
「なんだと!」
「言葉のままの意味ですよ。祖父と私の間を繋ぐための王よ」
「何をっ…!!!」
相変わらずの威勢だけど、先王陛下が動揺しているのが伝わってきた。対する国王陛下は冷静で二人の関係は一気に逆転したようにも見えた。
「これは国王陛下。そのような戯言をこのような場で仰るなど、軽率でいらっしゃいますぞ」
二人の間に割り込んだのは、先王陛下の代に宰相を務めたサルドゥ前侯爵だった。小柄だが恰幅がよく、どこか暗い目をした彼は、先王陛下の腰ぎんちゃくとも呼ばれ、悪い噂もある御仁だ。
「ほう、我が言葉を戯言と申すか?」
「左様でございます。陛下が王位に就く事が出来たのは、この先王陛下の賜物。その恩をお忘れとは情けない」
「それを言うなら、先王陛下の方であろう。貴族の家に生まれながら、紫瞳を持つというだけで我が父になり替わった仮初の父よ」
「…なっ!!!」
国王陛下の言葉に、会場内がどよめきに揺れたような気すらした。先王陛下が国王陛下の実父ではない? しかも先王陛下が貴族の生まれ? それでは私達は、その資格を持たない者を王と頂いていたのいうの?
「ご心配なさるな、先王陛下。貴方が王位を簒奪したわけではないことは理解している。我が祖父である先生代の陛下がご指名になったのだ。貴方が王位に就いたことは責められる話ではない。だが…」
そう言って国王陛下が言葉を区切った。その視線は鋭く射るように先王陛下に向けられていた。
「貴方が我が子を害しようとしたことまで、先々代の陛下はお許しになったとは思えないが? 貴方に認められたのは私が王位に就くまで、その地位を他者から守ることだったはずだ」
「…っ」
その言葉に息を飲まなかった者はどれくらいいただろうか…私や母達も一端は知っていたけれど、知らない事の方が多かった。そして殆どの貴族には知らされていなかった筈だ。
「馬鹿馬鹿しい、その様な世迷言を誰が信じるか!」
強気の発言は変わらないが、一瞬だけ見せた動揺は、国王陛下の言葉が事実であると物語っているように見えた。
「我が第二王子を亡き者にしようとした罪、我が妻を襲って子を産ませようとした罪、更にはその生まれた子を使って王太子を廃しようとした罪。どれも貴方に許されたことではありませんな」
国王陛下のその具体的な発言に、先王陛下を含めたこの場にいた者が目を見開いた。それは王家の闇ともいえる、決して表にしてはならない筈のものだったからだ。
私はその第二王子が副団長の事だと察した。副団長を王家から退けた国王陛下だったが、先王陛下はそれで良しとするつもりはなかったという事だろうか。更に王妃様を先王陛下が襲ったという事実に、王妃様が普段から表に出てこない理由を何となく察した。
「誰のおかげで国王になれたと思っておる。貴様などいつでも廃嫡出来ることを忘れるな!」
先王陛下は憎々し気な目を国王陛下に向けていた。陛下の実子なのに、その冷たさはどういう事だろうか…そしてその威圧感に、私を含めたその場にいた者達が肝を冷やした。いくら何でも陛下を廃するなど、やり過ぎではないだろうか…しかも今日は陛下の在位十周年を祝う式典で、他国の賓客もお見えだと言うのに…
それでも、陛下と先王陛下を比べれば、どちらが強いかは一目瞭然に思えた。先王陛下に頭が上がらない国王陛下というのは、民の間でも知られていることだったから。
「ほう、私を廃嫡、ですか?既に王位を退いている貴方が?」
両陛下のにらみ合いで、先に口を開いたのは国王陛下だった。大人しく父王に委縮していると言われていたが、目の前の陛下からはそんな空気は感じられなかった。静かに、堂々とした威厳を放っているように見えた。
「当然だ。お前を王にしたのはわしだ。それを忘れたか?」
「それは異な事を仰る。それを言うなら貴方ではありませんか」
「なんだと!」
「言葉のままの意味ですよ。祖父と私の間を繋ぐための王よ」
「何をっ…!!!」
相変わらずの威勢だけど、先王陛下が動揺しているのが伝わってきた。対する国王陛下は冷静で二人の関係は一気に逆転したようにも見えた。
「これは国王陛下。そのような戯言をこのような場で仰るなど、軽率でいらっしゃいますぞ」
二人の間に割り込んだのは、先王陛下の代に宰相を務めたサルドゥ前侯爵だった。小柄だが恰幅がよく、どこか暗い目をした彼は、先王陛下の腰ぎんちゃくとも呼ばれ、悪い噂もある御仁だ。
「ほう、我が言葉を戯言と申すか?」
「左様でございます。陛下が王位に就く事が出来たのは、この先王陛下の賜物。その恩をお忘れとは情けない」
「それを言うなら、先王陛下の方であろう。貴族の家に生まれながら、紫瞳を持つというだけで我が父になり替わった仮初の父よ」
「…なっ!!!」
国王陛下の言葉に、会場内がどよめきに揺れたような気すらした。先王陛下が国王陛下の実父ではない? しかも先王陛下が貴族の生まれ? それでは私達は、その資格を持たない者を王と頂いていたのいうの?
「ご心配なさるな、先王陛下。貴方が王位を簒奪したわけではないことは理解している。我が祖父である先生代の陛下がご指名になったのだ。貴方が王位に就いたことは責められる話ではない。だが…」
そう言って国王陛下が言葉を区切った。その視線は鋭く射るように先王陛下に向けられていた。
「貴方が我が子を害しようとしたことまで、先々代の陛下はお許しになったとは思えないが? 貴方に認められたのは私が王位に就くまで、その地位を他者から守ることだったはずだ」
「…っ」
その言葉に息を飲まなかった者はどれくらいいただろうか…私や母達も一端は知っていたけれど、知らない事の方が多かった。そして殆どの貴族には知らされていなかった筈だ。
「馬鹿馬鹿しい、その様な世迷言を誰が信じるか!」
強気の発言は変わらないが、一瞬だけ見せた動揺は、国王陛下の言葉が事実であると物語っているように見えた。
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私はその第二王子が副団長の事だと察した。副団長を王家から退けた国王陛下だったが、先王陛下はそれで良しとするつもりはなかったという事だろうか。更に王妃様を先王陛下が襲ったという事実に、王妃様が普段から表に出てこない理由を何となく察した。
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