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混乱の元で
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それからの我が国は、暫くの間混乱した。王家の闇と黒歴史の事は国民にも周知され、王家は著しくその権威を落とす事になった。その責を負って陛下が退位し、王太子殿下が即位する事になったが、その治世は決して楽ではないだろう事は予想された。
一部の者は陛下が王太子殿下に面倒事を押し付けて退位したとも言われたが、隣国のアルフォンス陛下が陛下の退位を支持し、王太子殿下の即位時には同盟を結ぶ約束をして下さったのもあって、王太子殿下の即位は歓迎ムードだった。
その歓迎ムードをさらに盛り上げたのは、王太子殿下とアルフォンス陛下の姪の結婚だった。その姪はアルフォンス陛下の同腹の弟の娘で、同盟の証としてアルフォンス陛下の養女として嫁いでくると言う。二代続けてフランクール国から王妃を迎えるのに異論も出たらしいが、国が危うい状況なだけに大国の後ろ盾は必須だった。
あの舞踏会から三月後。私はクラリスの家に招かれてお茶を頂いていた。クラリスは侍女を辞して家でのんびりしていたが、私は真逆でこの三月、ほとんど休みなしで団長と副団長の二人分の仕事に忙殺されていた。エミール様が手伝ってくれたから何とかなったけど…そろろそろ限界だと思ったころにようやく休みが貰えて、そこにクラリスからお茶に誘われたのだ。
「残念だったわね、クラリス。せっかく殿下の妃候補になったのに」
「いいわよ。私は王妃って柄じゃないもの」
「そう。でも、結構いい感じだったじゃない」
「まぁ、ね。でも…仕方ないわ。この結婚は保険の意味もあるんだから」
「まぁ、そうなんだけど…」
そう、王太子殿下と王女殿下の結婚にはそんな意味合いもあった。紫瞳を持たなくてもフランクール王家の血を引く者を害する事など出来る筈もない。もう紫瞳に拘らないと宣言した王家だったが、それだけでは弱いと考えて彼の国の協力を仰いだのだ。まだ国民の間に一定数残る紫瞳を尊ぶ連中への牽制でもあった。
「でもまぁ、そんな手は必要ない気もするけどね」
クラリスが一冊の本を手に苦笑した。その手にあるのは市井で流行っている恋愛小説だ。それはもう十年以上も前に出版されたベストセラーで、青い瞳の王子が逆境に立ち向かいながら王家の不正を暴き、幼い頃に一目惚れした令嬢と結ばれると言う王道ストーリーだった。んだけど…
「まさかそのモデルが、第二王子殿下だったとはね…」
「全く、よく考えたわよね」
そう、この小説は副団長をモデルにしたものだった。クラリスには内緒だけど、これを書いたのは父の仲間だったのだ。紫瞳を持たない王子を民衆に受け入れさせるために書かれたものらしいが、世間では主人公は副団長その人だと実しやかに囁かれるようになっていた。お陰で副団長こそ次期国王に相応しいと言う声まであるらしい。いずれこんな日が来る時のためにと準備していたのだとしたら…情報操作怖い、と思う。
「クラリスは、これからどうするの?」
「そうねぇ。王宮勤めは楽しかったし、輿入れする姫君の侍女に応募しようかなと思っているわ」
「そう。確かにクラリスが側にいてくれたら安心よね」
「相手の性格次第だけどね。聡明で可愛らしいって噂だけど、アリソン様だって同じ触れ込みだったからね」
「確かに…」
そう、王家の評判ほど当てにならないものはないと思う。輿入れ予定の王女は末っ子だというし、甘やかされて育っている可能性は十分にある。面倒な性格の王女じゃないことを祈るしかない。
「エリーは?どうするの?」
「私?私は…」
団長の専属文官にとの内示があったけれど、今回の陛下の退位もあって王宮文官が不足しているとかで、王宮の、それも王太子妃殿下の秘書文官に誘われていた。
非常に光栄だし、とんでもない出世だとは思うのだけど…王宮だと副団長-いや、今は正式に第二王子殿下となった彼と顔を合わせる機会が増えると思うと、受ける勇気がなかった。
彼がいずれはどこかの令嬢と結婚するのかと想像するだけでも胸が痛んで、とても耐えられる自信がもてなかった。返事は急がないとは言われたけれど…そろそろタイムリミットだろう…
「そろそろ…決めないとね…」
「そうね。でも、やりたいようにやればいいのよ」
クラリスには、第二王子殿下との事は話せる範囲で話したので、事情を分かってくれている。だから彼女も私の気持ちを尊重してゆっくり考えるように言ってくれて、それが何よりもうれしかった。
一部の者は陛下が王太子殿下に面倒事を押し付けて退位したとも言われたが、隣国のアルフォンス陛下が陛下の退位を支持し、王太子殿下の即位時には同盟を結ぶ約束をして下さったのもあって、王太子殿下の即位は歓迎ムードだった。
その歓迎ムードをさらに盛り上げたのは、王太子殿下とアルフォンス陛下の姪の結婚だった。その姪はアルフォンス陛下の同腹の弟の娘で、同盟の証としてアルフォンス陛下の養女として嫁いでくると言う。二代続けてフランクール国から王妃を迎えるのに異論も出たらしいが、国が危うい状況なだけに大国の後ろ盾は必須だった。
あの舞踏会から三月後。私はクラリスの家に招かれてお茶を頂いていた。クラリスは侍女を辞して家でのんびりしていたが、私は真逆でこの三月、ほとんど休みなしで団長と副団長の二人分の仕事に忙殺されていた。エミール様が手伝ってくれたから何とかなったけど…そろろそろ限界だと思ったころにようやく休みが貰えて、そこにクラリスからお茶に誘われたのだ。
「残念だったわね、クラリス。せっかく殿下の妃候補になったのに」
「いいわよ。私は王妃って柄じゃないもの」
「そう。でも、結構いい感じだったじゃない」
「まぁ、ね。でも…仕方ないわ。この結婚は保険の意味もあるんだから」
「まぁ、そうなんだけど…」
そう、王太子殿下と王女殿下の結婚にはそんな意味合いもあった。紫瞳を持たなくてもフランクール王家の血を引く者を害する事など出来る筈もない。もう紫瞳に拘らないと宣言した王家だったが、それだけでは弱いと考えて彼の国の協力を仰いだのだ。まだ国民の間に一定数残る紫瞳を尊ぶ連中への牽制でもあった。
「でもまぁ、そんな手は必要ない気もするけどね」
クラリスが一冊の本を手に苦笑した。その手にあるのは市井で流行っている恋愛小説だ。それはもう十年以上も前に出版されたベストセラーで、青い瞳の王子が逆境に立ち向かいながら王家の不正を暴き、幼い頃に一目惚れした令嬢と結ばれると言う王道ストーリーだった。んだけど…
「まさかそのモデルが、第二王子殿下だったとはね…」
「全く、よく考えたわよね」
そう、この小説は副団長をモデルにしたものだった。クラリスには内緒だけど、これを書いたのは父の仲間だったのだ。紫瞳を持たない王子を民衆に受け入れさせるために書かれたものらしいが、世間では主人公は副団長その人だと実しやかに囁かれるようになっていた。お陰で副団長こそ次期国王に相応しいと言う声まであるらしい。いずれこんな日が来る時のためにと準備していたのだとしたら…情報操作怖い、と思う。
「クラリスは、これからどうするの?」
「そうねぇ。王宮勤めは楽しかったし、輿入れする姫君の侍女に応募しようかなと思っているわ」
「そう。確かにクラリスが側にいてくれたら安心よね」
「相手の性格次第だけどね。聡明で可愛らしいって噂だけど、アリソン様だって同じ触れ込みだったからね」
「確かに…」
そう、王家の評判ほど当てにならないものはないと思う。輿入れ予定の王女は末っ子だというし、甘やかされて育っている可能性は十分にある。面倒な性格の王女じゃないことを祈るしかない。
「エリーは?どうするの?」
「私?私は…」
団長の専属文官にとの内示があったけれど、今回の陛下の退位もあって王宮文官が不足しているとかで、王宮の、それも王太子妃殿下の秘書文官に誘われていた。
非常に光栄だし、とんでもない出世だとは思うのだけど…王宮だと副団長-いや、今は正式に第二王子殿下となった彼と顔を合わせる機会が増えると思うと、受ける勇気がなかった。
彼がいずれはどこかの令嬢と結婚するのかと想像するだけでも胸が痛んで、とても耐えられる自信がもてなかった。返事は急がないとは言われたけれど…そろそろタイムリミットだろう…
「そろそろ…決めないとね…」
「そうね。でも、やりたいようにやればいいのよ」
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