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王族に戻る~アレクSide
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「アレク、王家に戻れ」
あの先王が断罪される半月ほど前、俺は王宮に呼び出されて王太子殿下にそう言われた。
「は? 何を仰って……」
「言葉通りだ。アリソンがああなった以上、この国の王統を継ぐのは私一人になった。だが、それでは国が危うくなる。お前ならその意味が分かるだろう?」
そんなことは百も承知だが、簡単に頷ける事でもなかった。生まれてすぐにランベール公爵家に匿われ、秘密裏に領地に送られてそこで育ったのが俺だ。俺の代わりの赤子も幼児期に死んだため、この国の第二王子は存在していなかった。そんな状態で王家に復帰など、とてもできる状況ではない筈だった。
それを可能にしたのは、俺の伯父にあたるフランクール第二王子の即位だった。生みの親と同腹の伯父が王位に就いたことで、俺の価値が予想以上に上がったのだ。我が国の王位継承権だけでなく、フランクールのそれの順位も上がったせいで、今までのように一貴族でいることが不可能になってしまったのだ。
「伯父上が舞踏会にいらっしゃる。そこで先王陛下を断罪し、王家の罪を明らかにするんだ」
王太子殿下には迷いはなかった。その身を賭してでも、王家に続く紫瞳の呪いじみた呪縛を断ち切るつもりだったのだ。
だが、兄のそんな覚悟を目の当たりにしても、俺は簡単には受け入れられなかった。この身は子が成せないし、俺の手は既に血に染まり過ぎている。人には言えないこともやってきただけに、清廉さが求められる王家に戻るのは悪手としか思えなかったのだが……
「王族に戻ればエリーを守れるぞ」
「っ!」
その一言が俺の迷いを払拭した。彼女は既に狙われる立場にあったからだ。あの時点でラドン伯の縁者から断罪の立役者の一人として狙われていたし、この後先王の罪が明らかになればその数が増えるのは明らかだった。彼女を守るためには王家で匿うのが最善だ。一時は兄の妃に…と思っていたが、兄はフランクールから妃を娶る事が内定していた。となれば……
「……わかりました」
彼女を守るために、俺は王族に戻った。どんな形になろうとも、彼女を守るためには権力はあった方がいい。ブーランジェ伯では出来ない事でも、第二王子であれば可能なことは無限にあるように思えた。
それでも、あの時は彼女を娶る気はなかった。彼女はまだ若いし、子も望める。俺と一緒になればいずれ石女と言われて辛い思いをするのはわかり切っていた。王統を継げる者が極端に減った今、俺も兄も子どもを切望されていたからだ。なのに…
「いやっ! 誰か、誰か助けて!」
国王陛下や兄、宰相と共に話し合いをしていた時、突然エリーの助けを呼ぶ声が聞こえた。その切羽詰まった声は、俺の魔力を形にした魔石から直に頭に伝わってきた。これはエリーに渡したものと対になるものだ。エリーが危機に陥った時に自動的に動くよう魔術を掛けてあったが、それが発動したのだ。
「エリー!!?」
気が付いた時には、エリーのいる場所に飛んでいた。目にしたのは二人の男にソファに押さえつけられているエリーの姿で、それを見た瞬間怒りで目の奥が真っ赤に染まった気がした。気が付けば…無意識に魔力が暴走して、男たちを壁に叩きつけていた。
「副、だんちょ…」
呆然とした表情で俺を見上げたエリーは、いつもきっちり結われている髪がほどけ、制服も無理やり脱がされそうになったのか、ボタンも外れて酷い有様だった。よくも俺のエリーに…そう思うと怒りが再燃してあいつらを燃やし尽くしてやりたくなった。だが、今はそれどころじゃない。
「だいじょうぶか?」
「…だ、大丈夫、です…」
おずおずとソファから身を起こしたエリーにそう尋ねると、震える声でそう答えた。まだ気が動転しているのだろうが、その様子から幸いにも間に合ったのだとわかって、言い知れぬ安堵が胸に広がった。
(よかっ、た……)
そう思った次の瞬間、俺の意識は暗転した。
あの先王が断罪される半月ほど前、俺は王宮に呼び出されて王太子殿下にそう言われた。
「は? 何を仰って……」
「言葉通りだ。アリソンがああなった以上、この国の王統を継ぐのは私一人になった。だが、それでは国が危うくなる。お前ならその意味が分かるだろう?」
そんなことは百も承知だが、簡単に頷ける事でもなかった。生まれてすぐにランベール公爵家に匿われ、秘密裏に領地に送られてそこで育ったのが俺だ。俺の代わりの赤子も幼児期に死んだため、この国の第二王子は存在していなかった。そんな状態で王家に復帰など、とてもできる状況ではない筈だった。
それを可能にしたのは、俺の伯父にあたるフランクール第二王子の即位だった。生みの親と同腹の伯父が王位に就いたことで、俺の価値が予想以上に上がったのだ。我が国の王位継承権だけでなく、フランクールのそれの順位も上がったせいで、今までのように一貴族でいることが不可能になってしまったのだ。
「伯父上が舞踏会にいらっしゃる。そこで先王陛下を断罪し、王家の罪を明らかにするんだ」
王太子殿下には迷いはなかった。その身を賭してでも、王家に続く紫瞳の呪いじみた呪縛を断ち切るつもりだったのだ。
だが、兄のそんな覚悟を目の当たりにしても、俺は簡単には受け入れられなかった。この身は子が成せないし、俺の手は既に血に染まり過ぎている。人には言えないこともやってきただけに、清廉さが求められる王家に戻るのは悪手としか思えなかったのだが……
「王族に戻ればエリーを守れるぞ」
「っ!」
その一言が俺の迷いを払拭した。彼女は既に狙われる立場にあったからだ。あの時点でラドン伯の縁者から断罪の立役者の一人として狙われていたし、この後先王の罪が明らかになればその数が増えるのは明らかだった。彼女を守るためには王家で匿うのが最善だ。一時は兄の妃に…と思っていたが、兄はフランクールから妃を娶る事が内定していた。となれば……
「……わかりました」
彼女を守るために、俺は王族に戻った。どんな形になろうとも、彼女を守るためには権力はあった方がいい。ブーランジェ伯では出来ない事でも、第二王子であれば可能なことは無限にあるように思えた。
それでも、あの時は彼女を娶る気はなかった。彼女はまだ若いし、子も望める。俺と一緒になればいずれ石女と言われて辛い思いをするのはわかり切っていた。王統を継げる者が極端に減った今、俺も兄も子どもを切望されていたからだ。なのに…
「いやっ! 誰か、誰か助けて!」
国王陛下や兄、宰相と共に話し合いをしていた時、突然エリーの助けを呼ぶ声が聞こえた。その切羽詰まった声は、俺の魔力を形にした魔石から直に頭に伝わってきた。これはエリーに渡したものと対になるものだ。エリーが危機に陥った時に自動的に動くよう魔術を掛けてあったが、それが発動したのだ。
「エリー!!?」
気が付いた時には、エリーのいる場所に飛んでいた。目にしたのは二人の男にソファに押さえつけられているエリーの姿で、それを見た瞬間怒りで目の奥が真っ赤に染まった気がした。気が付けば…無意識に魔力が暴走して、男たちを壁に叩きつけていた。
「副、だんちょ…」
呆然とした表情で俺を見上げたエリーは、いつもきっちり結われている髪がほどけ、制服も無理やり脱がされそうになったのか、ボタンも外れて酷い有様だった。よくも俺のエリーに…そう思うと怒りが再燃してあいつらを燃やし尽くしてやりたくなった。だが、今はそれどころじゃない。
「だいじょうぶか?」
「…だ、大丈夫、です…」
おずおずとソファから身を起こしたエリーにそう尋ねると、震える声でそう答えた。まだ気が動転しているのだろうが、その様子から幸いにも間に合ったのだとわかって、言い知れぬ安堵が胸に広がった。
(よかっ、た……)
そう思った次の瞬間、俺の意識は暗転した。
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