異世界に釣られたら婿殿にされた件について

のみかん

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第二話『エイル・スカンディナヴィア』

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※※

 ……エイル・スカンディナヴィアは聖ウトガルド王国の王族の子女だ。
 父親が現国王の弟で、エイルは現在の王宮の中では比較的直系に近い立場にある。
 そんな王宮の中では比較的直系に近い立場にあるエイルは今現在、最高に最低な気分だった。

 その原因は気を失ってベッドに横たわっている赤い髪の男にあった。
 野獣のように恐ろしい風貌。気絶する直前に見せたあの恐ろしい目つき。
 何人か殺している顔だ。そうに間違いない。

 両手で自らの肩を抱きしめぶるりと身を震わせる。

 一緒の部屋にいることにすら危険を覚えるような人物だが、それでもエイルは気にかけないわけにはいかなかった。
 なぜなら自分は彼を引き当ててしまったから。
 儀式によって彼が運命の相手に選ばれてしまったから。

 エイルはつい先日、十六歳の誕生日を迎えた。
 王族の子息子女は十六歳で、直系の王子王女は十二歳で、それぞれ成人になった証として通過儀礼を受けることになっている。
 そして今日、エイルは通過儀礼を受けるに至った。

 その儀礼の内容は王国に代々伝わる、初代国王が神から賜わったとされている金色に輝く釣竿を異世界に垂らし、生涯の伴侶となる運命の相手を釣り上げるというもの。

 エイルは儀式を行って出会い、恋に落ち、今もなお仲睦まじい父と母を見てきた。
 そんな二人の関係に憧れていたエイルは儀式の日を幼い頃からずっと心待ちにしていた。

 次元を超え世界を跨いだ運命の相手と出会った瞬間に惹かれあう。
 そんな素敵なロマンスを思い描き夢見ていた。
 恋愛への好奇心とまだ見ぬ相手への淡い期待。

 本来なら今日はとても特別で素敵な日になるはずだった。
 だが今、エイルの心模様はどんより陰鬱に染まっている。
 それもこれも全部この赤髪の男のせいだ。

 スヤスヤと眠りこけている男をじぃっと恨みのこもった視線で睨みつける。
 どうしてこんな野獣のような男をあたしは引き当ててしまったのか。
 一年前に儀式を行った従姉のヴェスタは爽やかで顔立ちのいい、尽くしてくれる素敵な男性を釣り上げたというのに。

 この格差はなんだ。あたしは前世で悪いことでもしたのか。先日嫌いなピーマンを残してしまったことがいけなかったのだろうか。

 それとも……。ぐるぐるぐるぐる考える。

 思考が後ろ向きのラビリンスにはまり込みかけていると気が付き、エイルはぶんぶんと首を横に振る。
 そう、うん、ひょっとしたら怖いのは見た目だけで性格はとても穏やかで優しい紳士なのかもしれない。
 そうよ、まだ一度も会話をしていないもの。外見だけで決めつけるのはいいことではない。
 
 例え生理的に恐怖心が止まらなくなるような見た目でも。

 こんなのでも釣竿が自分の運命の相手として見定めた男性なのだ。
 実はあたしをどんな危険からも救い出してくれる王子様のような素敵な内面の持ち主かもしれない。

 親類に本物の王子がいる身分で出すにはおかしな例えかもしれないが。
 薬品の匂いが漂う王宮の医務室にて彼が目覚めるのを待つ。
 いつでも逃げ出せるようにベッドからしっかり距離を取った部屋の隅に椅子置いて座りながら待つ。

 別に恐れているわけではなく、念のため。
 そう、あくまで万が一のことを考えて。
 ……そして、その時は来た。
 野獣のような眼光を見開き、赤髪の少年の意識は覚醒した。

 上体を起こした彼はギラリとした眼光を飛ばして周りを睨み回す。

 ひぃっ……! やっぱり恐ろしい! 
 見たものを射殺すような少年の鋭い目と視線が合う。
 何あの吊り上がった目は! 瞳孔開いてるんじゃないの!? 怖い!

 目つきに関してはエイルも人のことは言えないのだがそのことは棚に上げ、少年の見てくれを心の中で罵倒する。

「…………」

 じんわりと背中と腋に嫌な汗が染みだしてきた。緊張のせいか、手の平にも湿り気が帯びてくる。

「ここはどこだ」

 少年から発せられた低い声に心臓が強く脈打ち、びくんと肩が跳ねる。

「い、医務室だけど……」

 おっかなびっくりしながら答えたせいで若干声が裏返ってしまった。

「オレは確かガッコウへ行く途中だったはずだが」

「ガッコウ?」

「オレは何でここにいるんだ? つーかあんた誰だ?」

 威圧感。赤髪の少年の口調はしっかりとしていて、そんな圧力めいた響きがあった。声質も通りやすく芯があり、エイルを萎縮させるようにビリリと耳奥へ届く。

「あたしはエイル。エイル・スカンディナヴィア。聖ウトガルド王国の王族よ」

 やや癖のあるブロンドのロングヘアーをさらりと払いながら言った。

「あなたは成人の儀であたしに釣り上げられて、あたしの婿殿に選ばれたの。光栄に思いなさい」

 ここで怯えていることが察せられたら舐められる。
 そんな気がしたエイルは意図して強めな語調を用い、本能的な怯えに抗うように語った。
 ここでこの男に下に見られるわけにはいかない。

 ああ、生涯を添い遂げる相手とは自分の両親たちのように対等にお互いを思いやれる良好な関係を望んでいたのに。
 勝ち負けや上か下かを気にしなくちゃいけなくなるなんて。
 何でこんなことになっているのだろう。

 泣きたくなる。
 それでもエイルに他に選択肢はない。

 特例中の特例で現国王は違う相手と婚姻したが、それは釣り上げた相手が世継ぎを生む前に病死したというやむを得ない事情があったため。

 気に食わないと即日で目の前の男を突っぱねるわけにはいかないのだ。

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