15 / 46
第十四話『彼女の名はエア』
しおりを挟む窓から射し込む朝日の光で目が覚めた。
上体を起こして横を向くと安らかな寝顔を見せているエイルがいた。
「うわぁ……」
よく考えたら、オレはこんな美少女と同じベッドで寝てたんだな……。
昨日は異世界に連れてこられたことばかりに頭がいって特に意識してはいなかったが、これは相当なアレなことではなかろうか。
今日からは理性を保つのに一苦労しそうだ。いや、何もする気はないけどさ。
「すーすー……」
陽の光にその白い精緻な面を照らされながら気持ちよさそうに寝息を立てているエイル。
昨日会ったばかりの野郎が隣で寝てるのにこいつは何も気にせずぐーすかと……。
警戒心がなさすぎるぜ。
こっちの気も知らず暢気なヤツだよ、まったく。
オレは呆れ混じりの視線を熟睡中の眠り姫に向け、やれやれと鼻を鳴らした。
それから数刻して起床したエイルとともに食堂で朝餉を済ませたオレはエイルの勧めで城内の書物庫に行って元の世界に帰るためのヒントがないか探っていた。
しかしエイルのやつは食事中にやたらと欠伸を連発していたが、あれだけスヤスヤと眠っていたのにまだ寝足りなかったのだろうか。
彼女はあまり朝が得意な体質ではないのかもしれない。
ちなみにエイルの両親とは彼らが国王の地方巡礼の旅に同行しているため、今のところは顔合わせをせずに済んでいる。
婚約を蹴ろうとしている身分としては顔を合わせるのは非情に気まずいことなので願ったり叶ったりだ。
オレが帰るまで一生戻って来なくていいぞ。
エイルは王族として日中はいろいろと学ばなくてはいけないことがあるらしく、書物庫には同行できないとのことだった。
それには雨野も参加しているようで、オレも近いうちに強制受講させられると言われた。
だがそんなのは真っ平御免だ。
やれやれ、早く帰る理由がまた一つ増えてしまった。
案内なしでは大変だろうということでオレはエイルにメイド服を着た使用人の少女を付き人として宛がってもらっていた。
彼女の名はエアというらしい。が、何分無口な子なようで特に会話らしい会話はせず、彼女は空気のような存在となってオレの後方に佇んでいた。
「…………」
終始、無言。
一応儀式のことについて書かれた本のある棚までは誘導してくれたが、それ以降は何一つ言葉を発しない。
この子、何のためにいるんだ。
アドバイス的なことをさせるためにエイルが同伴させてくれたのかと思っていたのだが。
そういう役割を働こうとする気配はなかった。
蔵書に詳しい司書を勤めている人物も国王について行っているので不在。
訊ねることはできない。
頼れる者がいないのなら自力でどうにかするしかあるまい。
それにしても王室の書物庫だけあって大きさは高校の図書室など比較にならないほどの規模だ。
分厚い本が何冊もピッタリと納まって連なっている木製の本棚たち。
天井は吹き抜けで階段を使わなくては上の書棚には届かない。
部屋全体には古本の香りが湧き立ち、その知的な雰囲気に圧倒される。
きっと本好きの人間なら垂涎ものの環境であろう。
これだけの情報の中から元の世界に帰るヒントを探すのは途方もない作業だと辟易したものだったが……オレがそんな苦労をすることはなかった。
順調な結果ゆえではない。作業に至ることもできなかったのだ。
そう、オレはこの世界の文字が全く読めなかった。
エアに読んでもらえるか訊ねてみたが、彼女は簡単な読み書きしかできず、ここの書庫にあるような複雑な文体で書かれたものは解読できないという。
しばしの間、うんうん唸りながら文字だらけの中に時折挟まれる挿絵を見て内容を推察したりしてパラパラとページを捲っていたりしたものの、さっぱり意味はわからず。
やがて時間の無駄だということに気が付いた。
こればっかりはこっちの言語を学ぶか、わかる人間と一緒に来るしかない。
あれ、だとすると何でオレはエイルたちと会話ができているんだ?
意思疎通が可能なら用いられる言語も同じじゃないのか?
だとしたらあいつらは日本語を話しているのか?
だが本に綴られている文字はよくわからんうねうねとした象形文字のようなもの。
「これ、どういうことなんだ?」
「…………(エアの無言)」
……しょうがない、後でエイルか雨野に訊くとしよう。
余談だが、引っ張り出して解読を諦めた本はそれを察したエア子(心の中でそう呼ぶことにした)がさり気なく元の場所に戻してくれていた。
彼女は無口だが気が利く性格のようだった。
……オレもあんなふうに手軽に元の場所に返してもらえないもんかね。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる