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第二十一話『自由がないことに憧れを抱く』
しおりを挟む波打ち際ではしゃいでいるエイルとルナを眺めながらオレは砂地で腰を下ろして一休み。
遠泳をして水滴のついた肉体をタオルで拭いながら心地よく疲労した筋肉を癒す。
ここは地下であるというのに温かく、トランクス型の水着姿でいても肌寒さを覚えることはない。
どういう仕組みになってるんだろうな。
魔法もないのに日が差してるような暖かさ。
後でエイルに訊いてみよう。
「お前は遊んでこなくていいのか」
不貞たツラで隣に座っているロキに話しかけた。
こんなつまらなそうな顔をしているやつがそばにいるとこっちまで憂鬱になる。
全身から発しているその閉塞した空気とともにとっと目の前から消え失せろ。
「ふん。女子供じゃあるまいし、水遊びなどではしゃいだりするものか」
『はい』か『いいえ』答えられる質問に生意気な返事を返してきやがった。
「お前子供じゃん」
「貴様……」
オレが正論を述べるとロキは立ち上がって横目でオレを一睨み。
「……なんだよ」
やる気か? と思いきや。
「子供ではないわ! ばばば、馬鹿にするなーっ!」
涙目で水辺へと走って行った。
……なんだろうなぁ、あいつの残念感は。
口では言い表わせない情けなさがある。
「ふふん。ロキからの風当たり、結構強いでしょ。割と堪えるんじゃない?」
エアが淹れた茶をまったり飲んでいるヴェスタが言ってきた。
よかった、今はちゃんと普通の椅子に座っている。
……足置きにしているものは見ないことにした。
「あんなのはガキが拗ねてるだけだろ。屁でもねえよ」
あれくらいの拒絶でへこむメンタルならオレは向こうでとっくにスクラップだ。
「そうじゃなくて、罪悪感のほうよ」
「罪悪感?」
「ロキは昔からエイルのことが大好きだったからね。あなたに嫉妬してるのよ。本人は誰にも悟られていないつもりだけど」
「あんなわかりやすいのにな……」
バレてないと思っているとは片腹痛いやつだ。
「誰かの好きな人を奪ってしまったことに何かを感じてるんじゃないかと思ったのだけど、違った?」
「そんなのオレがいなくなった後で好きにできるだろ。オレはここに長居するつもりはないからな」
そう遠くない先でオレはここを去るのだから。
それからの続きは彼が自由に紡いでいけばいい。
「考えは変わらないのね。こんなに異世界を満喫しているのに」
ちらりと流し目で全身を見回される。
確かに海水パンツで遊泳を堪能してきた姿を指摘されるとバツは悪い。
だが、胸に抱いた初志は揺らいではいない。
「……当たり前だろ。エイルも協力してくれるって言ってたし、すぐに方法を見つけてやるさ」
現状はヒントの欠片も見つかってないんだけどな。
だからこそ現実逃避として息抜きという手段に乗っかったわけだ。
「へえ、エイルが協力ねぇ……」
驚いたようにヴェスタが目を丸くし、神妙な顔で口元に手を当てる。
「しかし、あのガキはどうしてそんなにエイルがいいんだろうな」
オレは漠然と思った疑問を口にした。
「そんなの、ホントのところは誰にもわからないんじゃない? まあエイルは面倒見がよかったからロキは昔から懐いてはいたけどね」
「あいつはオレを目の仇にするくらいなら直接エイルに想いを伝えりゃいいのにな……」
燻らせた思いを内包し続けるだけで何もせず、己の無力な現状を打破することもしないで他者を僻んで牙を突き立てようとする。愚かしい行為だ。
正直、そんなロキの後ろ向きの抗いにオレは若干の憤りを感じていた。
だがヴェスタは一拍置いて、
「……多分、それだけは絶対にしないでしょうね。ロキはあれで王族としての責任感は誰よりも強いから。自分が王位継承者であることを自覚してて、だからこそ気持ちを押し殺して規律を守ろうとしてる。叶えてはいけない想いだということでエイルのことはあの子の中ですでに完結してるのよ」
そんな同じ王族だからこそわかるロキの立場を慮った発言をした。
「その割に儀式は渋ってるそうじゃないか」
「あら、エイルに聞いたの?」
「まあな」
「頭では割り切ってるつもりみたいだけど、最後の踏ん切りはつかないみたいなのよね。相手をこちらに呼んでしまったら引き返すことはできないし。あの子は中途半端な気持ちで誰かを違う世界に連れてくる無責任なことはしたくないのよ、きっと。何かふっきれる決定的なきっかけがあればいいんだけど」
「いやいや、なんで諦めさせる方向で解決させようとしてるんだよ」
ヴェスタの言葉を無視できず、オレは反論する。
「あなたはロキの味方をするの? 意外ね」
「そうじゃない。単純に抗わず無気力で諦める態度が気に入らないだけだ」
仕方ないといって流してしまうことを覚えてしまえば、それから先、降りかかるすべての困難を死に体で受け入れるようになってしまう。
抗う意思を失くし、押し寄せる障害の食い物にされるだけの存在と成り果てる。
「私たちはよその世界の人と結ばれる決まりになってる。それは王族に生まれた以上は絶対に守らなくてはいけない掟の一つ。掟を守ることは上に立つ者の責任であり、義務でもあるのよ」
「そのことを理不尽だと思ったことはないのか? 理由もわからず縛られ、押さえつけられることに納得できないと感じたことはないのか?」
「少なくとも私はないわね。むしろ自分から望んでる人のほうが多いと思うわ。エイルも私も、小さい頃からどんな人がくるのか心待ちにしていたもの」
ヴェスタはそう言って上体を前傾し、雨野の頭を撫でる。
オレはその光景を見ないように目を反らした。
「それにこの国では異世界から伴侶を迎えられることは限られた者にだけ許された特権として一般の国民からも憧憬の対象になっているのよ」
自由がないことに憧れを抱く、か。
文化の違いか、それとも自由が許されている一般人だからこそ実感もなく他人事として手の届かない位置にあるものをただ希少に見て崇めているだけなのか。
「でも全員が望んでいるわけじゃないだろ。間違いなく一人はそう思ってないやつがいる」
「……そうね。だとしても、国を維持するのに必要なことだから。やはり個人の我が儘で好き勝手するわけにはいかないのよ」
ヴェスタは濡れた瞳で、遠くを見る。
その先にあるものは無邪気にはしゃぐエイルとルナ。
そして二人に水を浴びせられて慌てふためいているロキの姿があった。
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