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第二十二話『そんなものはない』
しおりを挟む「必要なことだと? どういう意味だ。儀式を行う理由をお前は知っているのか」
「私も詳しくは知らないわ。ロキが即位して、私たちが王政を担うようになるまでは教えてもらえないから。けど儀式を行うのはこの国を、世界を維持していくのに大事なことだと言われてる」
「…………」
世界の維持……? よその世界から異分子を持ち込むことがなぜそんなことに繋がるというんだ?
「ねーちょっとー! 鞠を部屋に忘れちゃったんだけどー!」
オレが思考を巡らせていると、さっきまで水辺にいたエイルが手を振りながら駆け寄ってきた。
「……二人で何を話してたの?」
目の前に来たエイルがジト目で訝しげに訊いてくる。
浮気調査みたいな態度はやめろ。
何もやましくはないのになぜか焦るだろうが。
「あら、ジェラシー感じさせちゃったかしら?」
「そ、そんなんじゃないしー!」
全力で否定するエイルと面白そうにニヤニヤするヴェスタ。
……薄々気づいちゃいたが、この女、結果こそ掟に沿うようにすべきだとしているが、その間の過程は引っ掻き回してもいいと考えているみたいだ。
いい性格してやがる。
「二人じゃねえだろ。雨野もいるだろ」
ちょっと体勢というか、扱われてる状態が会話に参加できるようなアレじゃないけど。
これをもう一人いるとカウントしていいのかわからないけど。
「そんで、鞠ってなんだ?」
「鞠は鞠よ。こういう丸っこいやつね。知らないの?」
両手で球体を描くようにしてエイルが言った。……あれ、オレひょっとして馬鹿だと思われてる?
「それくらいは知ってる。どうして要りようなのか訊いてるんだ」
「手で叩いて回し合って遊ぶの。単純な作業に見えて案外面白いのよ」
「ビーチバレーかよ」
それとも平安時代の蹴鞠みたいなもんか?
手足の違いと扱う備品の違い。
どちらを分類仕分けの重きに置くかで判別に違いがでるな。
まあ、どちらでもいいけど。
「エア、ちょっとあたしの部屋に行って取って来てくれる?」
エイルが指示を出すとエア子は頷いて取りに行こうとする。
「待て。いい、オレが取ってくる」
手持無沙汰というか、ぶっちゃけやることがなかったオレは立ち上がって申し出た。
茶を淹れたり菓子を出したりする役割があるエア子より、暇を持て余しているオレのほうが使い走りには適しているだろう。
「どうしてあんたが行く必要があるのよ?」
エイルが口を尖らせて言う。何で不満そうなんだよ。
「加隈君が行ったほうが早いからここは彼に任せた方がいいと思うよ」
雨野がオレの内心を代弁するように声を出してそう言った。
おお、まだ人語を喋れたのか……じゃなくて、ちゃんと話を聞いていたのか。
完全に無機物になりきってるのだと思っていたぜ。
さらっと切り替えて会話に違和感なく入り込んでくる雨野の器用さには舌を巻く。
「まあ、そういうことだ。すぐ取ってくるからそう待たせやしねえよ」
ぷうっと口を尖らせているエイルを宥めてオレは出口へ一人向かった。
出口の門へ続く途中、全体を見渡せる岩の上でアンナが鋭い視線を飛ばしていた。
「…………」
万一がないよう目を離さないようにしているのだろうが、そんな貫通しかねないほど強く睨まなくてもいいだろうに……。
まるで親の仇でも見ているような目つきだぞ。
「おや……」
オレの存在に気が付いたアンナは軽やかな身のこなしで岩の上から飛び降りて来た。
「ジゲン殿、どうした? 気分でも悪くなったのか?」
オレが出口に向かっていることを察したアンナは体調を案じてくる。
「いんや。ちょっとエイルの忘れ物を取りに部屋にな」
「それは従者のエアの仕事ではないか?」
「その話はさっきもうしたよ」
なんでもかんでも人任せにするのは気が引ける。
自分でやれることは自分でやるべきだと思うし、今回は適材適所というものだ。
「そういえばジゲン殿。この間はアキレスが無礼を働いたな。申し訳ない。やつに代わって侘びを言う」
二人きりとなり、話を切り出しやすくなったのかアンナは小さく頭を下げてきた。
どうして彼女が侘びるのだろう。
同僚の不始末に責任でも感じているのだろうか。
「あいつは剣の腕は立つのだが、昔から何の前触れもなくああいう狂人めいた振る舞いをすることがあってな……」
溜息を吐きながらアンナは渋い顔でアキレスの奇天烈な人間性を語った。
概ねエイルと同じようなことを言っている。
だがその口調はエイルとは異なり、やつのことをよく知っているという親しみのような感情を言外に滲ませているような気がした。
「アキレスの野郎とは付き合いが長いのか?」
オレは世間話風に訊いてみる。
「ん? ああ、私とアキレスと総隊長は王宮に召し抱えられる以前、市井にいた幼少の砌からの腐れ縁だ」
総隊長までかよ。騎士団お友達内閣すぎるだろ……。
まあ、そのほうが軋轢なく組織を潤滑に回せていいのかもしれない。
クーデターでも起こされたら王族はひとたまりもなさそうだけど。
「あ、それと君に一つ言っておくべきことがある」
「オレに?」
何かしらの伝達事項だろうか。
王族の勉強への参加日程とかを告げられたら全力で聞かなかったふりをしよう。
「アキレスにはよく警戒しておいたほうがいい。あれは危険な男だ。何かよからぬ企みをしているような気がしてならん」
「よからぬ企み? 謀反とかか?」
逆臣っぽいツラしてるもんな。
いかにも黒い陰謀を腹に抱えてそうな感じ。
「それもあり得る」
冗談半分で言ったのに真顔で可能性を肯定されてしまった。
「いやいや、昔馴染みなんだろ。そこは信じておいてやれって」
どれだけ日頃の行いが悪いんだよ。
ちょっと見知っただけのオレと幼馴染みからの信頼度が同等ってやばいぞ。
嫌われ過ぎて哀れだ。
「昔馴染みだからこそだよ。あいつが面白そうな顔をしている時は大抵、不吉なことを考えている時なんだ」
「はあ……?」
そういうものなのか?
面白そうな顔ってどんな顔だ。
あのいけ好かない不敵な表情は楽しんでる顔だったのか?
わからん。
「そういえば、ついでに訊きたいことがあるんだが」
「ふむ? 私で答えられることなら何でも訊いてくれ」
「あんたは元の世界に帰る方法とか知らないか? なかなか情報が集まらなくって困ってんだよ」
未だオレは字を読めず、誰かに話を聞こうにも一番の知識人だという司書は国王と一緒に出払っていて現状は八方塞がりだった。
今は何でもいいから取っ掛かりになる情報が欲しかった。
「……ジゲン殿はせっかく婿殿に選ばれたのに元の世界に帰ろうとしているのか?」
「まあ、そうだ」
アンナの声のトーンが低くなる。せっかく、というところにこちらでの儀式の価値観が窺える。
「そんなものはない」
にべもなく、あっさりと言われた。
「なんでもいいんだ。ヒントになりそうなこと、些細なことでいいからさ」
「……いいか、ジゲン殿」
「おう?」
期待を込めてオレは次の言葉を待つ。
「そんなものはない」
「…………」
断言されてしまった。
そんな希望を砕くように言わなんでもいいじゃんよ……。
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