19 / 111
#19 誠実な悪魔 (ヒネリのあるオチ)
しおりを挟む
男は、苦労に苦労を重ね、悪魔を呼び出す儀式をし、これに成功した。
「お前が我を呼び出した人間か。魂と引き換えに願いを1つ叶えてやろう」
「えっ、1つだけ!?」
さんざん苦心して召喚した悪魔の発言に、男は耳を疑った。
言い伝えによれば、叶えてもらえる願いの数は3つだったはずだ。面倒くさがりな男にしては、珍しく頑張ったのだ。これでは割に合わない。
願いを3つに増やしてほしいと頼む男に、悪魔は言う。
「お前は魂を3つ持っているのか?」
魂の数など考えたこともなかったが、たぶんひとり1つだろう。男は諦めた。
願いが叶えられるだけでも十分ありがたいのだ。これ以上食い下がって悪魔の機嫌を損ねても困る。
「わかりましたよ。では……」
「ちょっと待て」
男が願い事を口にしようとすると、悪魔は口を挟んだ。
「その前に、言っておかねばならないことがある」
「なんですか?」
「願いを叶えるといっても万能ではない。願いの解釈についても厳密さが必要だ」
「面倒くさそうですね」
「魂を対価にするのだ。きちんとしておくべきだろう」
確かに、と男は納得する。家や車など高額な買い物の時は、契約をきちんとするものだ。
悪魔は続ける。
「お前が願いを言えば、それに関わる範囲で確認するぞ。後で異を唱えられても困るのでな」
「はぁ、わかりました」
悪徳業者などに比べれば、ずいぶん誠実な対応だ。
男は頷き、願いを述べることにした。
「ええと……やっぱり、大金かな」
いろいろと考えはしたが、たった1つなのだ。堅実にいくべきだと男は思った。
「大金か。具体的にはいくらだ? いつの時代のどこの国の通貨かね? どのように引き渡す?」
「えっ」
男は戸惑う。このように返されるなどとは、思ってもみなかったのだ。
「大金は、大金ですよ。大金持ちになれるくらいの」
すると悪魔はため息をつく。
「我のイメージする大金と、お前のイメージとが食い違う可能性もある。硬貨か紙幣かでも異なるし、振り込みか手渡しかでも話は変わるぞ」
「言われてみれば……」
「たとえば、部屋に入り切らないほどの金貨で圧死してもいいのかね? 魂が対価なのだから、厳密に指定してくれ」
悪魔の指摘はどれも悩ましく、男は頭を抱えた。
「じゃあ、大金はやめて……そうだ、絶世の美女をくれ!」
面倒になり、男は願いを変えることにした。
この世のものとも思えない美しい女に愛されている光景を想像し、男はだらしなく笑う。
しかし。
「お前のいう美女とはどういうものか、基準を示せ。顔の造形は? 身長は? スタイルは? 年齢は何歳だ?」
「それは……」
考えてみれば好みの女なんて、その日によって変わるのだ。指定したところで、すぐに飽きてしまいかねない。
男は考えかけたが、またしても面倒になり、首を振った。
それから男は才能を願い、権力を願い、不老不死を願った。
ところが悪魔は、その度に厳密な指定を求めてきた。魂を対価とするのだから、当然である。
しかし面倒くさがりな男にとっては、頭にきてしまったのだ。
ついに男はやけになって、叫んだ。
「もういい! 帰ってくれ! 目の前から消えてくれ!」
「うむ、解釈の余地はないな。承知した」
こうして願いは聞き届けられ、悪魔は消え失せてしまった。
「お前が我を呼び出した人間か。魂と引き換えに願いを1つ叶えてやろう」
「えっ、1つだけ!?」
さんざん苦心して召喚した悪魔の発言に、男は耳を疑った。
言い伝えによれば、叶えてもらえる願いの数は3つだったはずだ。面倒くさがりな男にしては、珍しく頑張ったのだ。これでは割に合わない。
願いを3つに増やしてほしいと頼む男に、悪魔は言う。
「お前は魂を3つ持っているのか?」
魂の数など考えたこともなかったが、たぶんひとり1つだろう。男は諦めた。
願いが叶えられるだけでも十分ありがたいのだ。これ以上食い下がって悪魔の機嫌を損ねても困る。
「わかりましたよ。では……」
「ちょっと待て」
男が願い事を口にしようとすると、悪魔は口を挟んだ。
「その前に、言っておかねばならないことがある」
「なんですか?」
「願いを叶えるといっても万能ではない。願いの解釈についても厳密さが必要だ」
「面倒くさそうですね」
「魂を対価にするのだ。きちんとしておくべきだろう」
確かに、と男は納得する。家や車など高額な買い物の時は、契約をきちんとするものだ。
悪魔は続ける。
「お前が願いを言えば、それに関わる範囲で確認するぞ。後で異を唱えられても困るのでな」
「はぁ、わかりました」
悪徳業者などに比べれば、ずいぶん誠実な対応だ。
男は頷き、願いを述べることにした。
「ええと……やっぱり、大金かな」
いろいろと考えはしたが、たった1つなのだ。堅実にいくべきだと男は思った。
「大金か。具体的にはいくらだ? いつの時代のどこの国の通貨かね? どのように引き渡す?」
「えっ」
男は戸惑う。このように返されるなどとは、思ってもみなかったのだ。
「大金は、大金ですよ。大金持ちになれるくらいの」
すると悪魔はため息をつく。
「我のイメージする大金と、お前のイメージとが食い違う可能性もある。硬貨か紙幣かでも異なるし、振り込みか手渡しかでも話は変わるぞ」
「言われてみれば……」
「たとえば、部屋に入り切らないほどの金貨で圧死してもいいのかね? 魂が対価なのだから、厳密に指定してくれ」
悪魔の指摘はどれも悩ましく、男は頭を抱えた。
「じゃあ、大金はやめて……そうだ、絶世の美女をくれ!」
面倒になり、男は願いを変えることにした。
この世のものとも思えない美しい女に愛されている光景を想像し、男はだらしなく笑う。
しかし。
「お前のいう美女とはどういうものか、基準を示せ。顔の造形は? 身長は? スタイルは? 年齢は何歳だ?」
「それは……」
考えてみれば好みの女なんて、その日によって変わるのだ。指定したところで、すぐに飽きてしまいかねない。
男は考えかけたが、またしても面倒になり、首を振った。
それから男は才能を願い、権力を願い、不老不死を願った。
ところが悪魔は、その度に厳密な指定を求めてきた。魂を対価とするのだから、当然である。
しかし面倒くさがりな男にとっては、頭にきてしまったのだ。
ついに男はやけになって、叫んだ。
「もういい! 帰ってくれ! 目の前から消えてくれ!」
「うむ、解釈の余地はないな。承知した」
こうして願いは聞き届けられ、悪魔は消え失せてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる