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#19 誠実な悪魔 (ヒネリのあるオチ)

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 男は、苦労に苦労を重ね、悪魔を呼び出す儀式をし、これに成功した。

「お前が我を呼び出した人間か。魂と引き換えに願いを1つ叶えてやろう」

「えっ、1つだけ!?」

 さんざん苦心して召喚した悪魔の発言に、男は耳を疑った。

 言い伝えによれば、叶えてもらえる願いの数は3つだったはずだ。面倒くさがりな男にしては、珍しく頑張ったのだ。これでは割に合わない。

 願いを3つに増やしてほしいと頼む男に、悪魔は言う。

「お前は魂を3つ持っているのか?」

 魂の数など考えたこともなかったが、たぶんひとり1つだろう。男は諦めた。

 願いが叶えられるだけでも十分ありがたいのだ。これ以上食い下がって悪魔の機嫌を損ねても困る。

「わかりましたよ。では……」

「ちょっと待て」

 男が願い事を口にしようとすると、悪魔は口を挟んだ。

「その前に、言っておかねばならないことがある」

「なんですか?」

「願いを叶えるといっても万能ではない。願いの解釈についても厳密さが必要だ」

「面倒くさそうですね」

「魂を対価にするのだ。きちんとしておくべきだろう」

 確かに、と男は納得する。家や車など高額な買い物の時は、契約をきちんとするものだ。

 悪魔は続ける。

「お前が願いを言えば、それに関わる範囲で確認するぞ。後で異を唱えられても困るのでな」

「はぁ、わかりました」

 悪徳業者などに比べれば、ずいぶん誠実な対応だ。

 男は頷き、願いを述べることにした。

「ええと……やっぱり、大金かな」

 いろいろと考えはしたが、たった1つなのだ。堅実にいくべきだと男は思った。

「大金か。具体的にはいくらだ? いつの時代のどこの国の通貨かね? どのように引き渡す?」

「えっ」

 男は戸惑う。このように返されるなどとは、思ってもみなかったのだ。

「大金は、大金ですよ。大金持ちになれるくらいの」

 すると悪魔はため息をつく。

「我のイメージする大金と、お前のイメージとが食い違う可能性もある。硬貨か紙幣かでも異なるし、振り込みか手渡しかでも話は変わるぞ」

「言われてみれば……」

「たとえば、部屋に入り切らないほどの金貨で圧死してもいいのかね? 魂が対価なのだから、厳密に指定してくれ」

 悪魔の指摘はどれも悩ましく、男は頭を抱えた。

「じゃあ、大金はやめて……そうだ、絶世の美女をくれ!」

 面倒になり、男は願いを変えることにした。

 この世のものとも思えない美しい女に愛されている光景を想像し、男はだらしなく笑う。

 しかし。

「お前のいう美女とはどういうものか、基準を示せ。顔の造形は? 身長は? スタイルは? 年齢は何歳だ?」

「それは……」

 考えてみれば好みの女なんて、その日によって変わるのだ。指定したところで、すぐに飽きてしまいかねない。

 男は考えかけたが、またしても面倒になり、首を振った。

 それから男は才能を願い、権力を願い、不老不死を願った。

 ところが悪魔は、その度に厳密な指定を求めてきた。魂を対価とするのだから、当然である。

 しかし面倒くさがりな男にとっては、頭にきてしまったのだ。

 ついに男はやけになって、叫んだ。

「もういい! 帰ってくれ! 目の前から消えてくれ!」

「うむ、解釈の余地はないな。承知した」

 こうして願いは聞き届けられ、悪魔は消え失せてしまった。
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