僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

文字の大きさ
上 下
2 / 412
 ―――――序―――――

■1話「“好き”に性別は必要ですか?」①

しおりを挟む










 ――“普通”じゃないと、生き辛い。





 …それが、


  この世界の

   “当たり前”だと、思う。







 ……だから、



   僕 には、


   ずっと、抱えてきて、



   ずっと、



    誰にも、

    隠しているものが、ある。 ――












 『僕が“僕”じゃなかったら』


1話



【二条司視点】






 4月上旬。


 今日は、高校の入学式であり。

僕、二条司は、
入学式の看板が立つ校門を抜け、
すぐに目に入った掲示板に貼ってある
クラス分けの紙から、自分の名前を探した。


8クラス分のびっしり並ぶ名前から探すのに
少し時間がかかりつつも、
1年6組の中から見つけて。

下駄箱へ行き、
自分の出席番号の靴箱を使って
上履きに履き替え、自分のクラスへ向かった。

1年の教室は、校舎の最上階の4階にあり、
着慣れた学ランからブレザーに替わって
動き辛いこともあって、
少し、息が上がった。



 クラスに入ると、既に半分程の人が
来ているのが見えた。
近くの席の人と話している人も
ちらほらいるが、
大半の人は、ケータイをいじったり、
提出物の確認をしたりと、
1人で過ごしていて、
そのため、
教室内は静かで、
抑え気味の話し声が、やけに大きく聞こえた。

 黒板に貼られている席順の紙を見ると、
僕の席は、右から4列目の1番後ろだった。

後ろを振り向くと、
4列目に座っているのは、
後ろから2番目・3番目の席の
2人しか、まだいなかった。

 席に向かいつつ見てみると、
後ろから3番目の席の人は、
茶色の短髪の、穏やかな雰囲気の男子で。

彼が話しかけている、
後ろから2番目、
つまり、僕の前の席の人は、
顎下くらいの長さのストレートの黒髪に、
細く姿勢の良い身体の、
かなり綺麗な人で。


…中性的な人だと、思った。





 会話している彼らの横を通り過ぎて
自分の席に着く。

鞄を机の脇にかけていると、
ふと、
前の人達の会話がなくなったことに、
気付いて。

 顔を上げると、
前の前の席の、
茶髪の男子が、顔を覗かせていて、
彼と、目が合った。

「…あ、おはよう。
 えっと…
 名前なんて言うの?」

彼は柔らかく微笑んで、
優しげな声を出した。

「…二条司だよ。」

僕は、笑顔を浮かべて、返す。

「二条ね。
 俺は遠野良太。それで…」

彼は言いながら、
チラと、前の席の人を見て、

「こっちは凪碧。
 下の名前で呼ばれるの
 苦手みたいだから、凪って呼んであげて。
 …ほら、挨拶挨拶。」

にこにこと話しかけ、
凪は渋々といった感じで、
顔だけこちらに向け、

「…凪碧です。
 よろしくお願いします…。」

ぽつぽつと小さな声で話した。

「二条司です。よろしく。」
「中学どこだった?」
不愛想な凪とは反対に、遠野は親しげに
話しかけてきた。
「中学はね…」
話しながら、

チラリと、凪の脚を見て、

制服のズボンを履いているのを、目に入れた。




「…2人は同じ中学なの?」
「うん。というか幼稚園から一緒。
 家が同じ団地で。」
「そうなんだ…。
 長い付き合いだね。」
「…まあ、家がこの辺だし…。
 他にもそういう奴いるし…」

「よー凪良太!はよ!」

凪がぽそりとつぶやいたとき、
前から
身長の高い、ショートの赤みがかった
茶髪の男子が来た。

「あ、将人おはよう。」
「…朝からうるさい。はよ。」
「ははっ!
 凪はほんとつめてぇよな~。」

将人と呼ばれた男子は、
僕の斜め前の机に、リュックを置き。
僕達の方へ身体を向けて、椅子に座った。

「よお。俺は進藤将人だ。よろしくな。」

僕を見て、笑顔で声をかけてきた。

「僕は二条司。よろしくね。
 …3人は知り合い、なのかな。」
「うん。
 将人とは中学が同じだったんだ。」

3人を見て尋ねると、遠野がにこやかに答えた。

「じゃあ、進藤も家この辺なの?」
「おお。高校から駅行く道の途中にあるぜ。」
進藤が笑って頷く。
「へえ~近いね。いいな。」
「…将人。
 俺達のこと、
 …凪良太って呼ぶの…やめろよ。」

ぼそりと、
凪が、進藤に向けてつぶやいた。

「凪と良太なんだから合ってんじゃん。」
「…もっと、名前の間、空けろよ。」
「え?別に良くね…ん?」
進藤が唸り、
「よく考えると…
 そう呼ぶと、なんか
 良太が凪と、結婚したみてぇだな。」

軽い調子で、つぶやいた。

「ああ…確かにそうだね。」

遠野が穏やかに、相槌を打ち。

「はは!
 おめーら仲いいし、この際
 結婚しちまえば?」

進藤の茶化すような言葉に、
遠野は、
困ったように苦笑いした。

「そういう冗談やめろよー。
 だいたい、
 男同士で、結婚できないだろ。」

「ははっ!真面目に答えんなよ~。」

そんな会話をする、2人を眺め、
凪を見ると、
凪は、
少し、下を向いていて。

「……ちょっと、トイレ。」
席を立ち、
遠野が、凪を見る。

「場所わかる?」
「…ちゃんとさっき確認した。」
「あと5分くらいだから、急いでね。」
「…わかってる…。」
話しつつ、凪はスタスタ早歩きして、
教室を出て行った。

「…ぶっ!ははっ!ウケるわ~。
 おめー凪のオカンかよー。」
「いや…だって凪は、トイレがさ…。」
「…ああ、そうか…。
 …ん?
 良太、今『凪』って言ったか?」
「…ああ、あのね…」

丁度そのとき、
前のドアから、
担任だと思われるスーツの男性が入ってきて。

「お…来たか。」
進藤はそれに気付き、椅子を前向きに戻して
座り直した。
「じゃあ、また後で。」
僕に言って、
遠野も、身体を前を向けた。

 そうして、
凪も教室に戻ってきて、
僕の前の席に着いた。

僕は、
凪の背中を見て、

ふと、
さっきの凪の様子を、思い出していた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽りの告白─偽りから始まる恋─

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:462

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:648

【完結】リゼットスティアの王妃様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:39

異世界帰還書紀<外>ーーランツェ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,139pt お気に入り:3,810

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,475pt お気に入り:2,187

言の葉でつづるあなたへの想ひ

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:4

処理中です...