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【R18】afterStory happy honeymoon〜
13
しおりを挟む「桜さん」
みんなが目の前の光景に魅入っている中、千秋さんがそっと顔を寄せてきた。
視線を合わせると、千秋さんはふいに口にした。
「……俺はさっきよりも過酷な状況下で、自分の気持ちをハッキリ伝えてきた人を知っていますよ」
淀みなく届いた、静かな声。すぐに、彼がなにを言おうとしているのか、予測できた。
私を見つめる眼鏡の奥の眼はとても柔らかだが、さっきみたいにまた私をからかおうとしているのかもしれない。
視線を大自然に留めたまま、いつものように返事をした。
「それは、果たして誰のことでしょうね……」
「……でも俺はそのおかげで、学びましたよ。思いは、人の心をも動かす可能性を持っているのだと」
だけど、返ってきたのは思っていたものと全然違う答えだった。
……ゆっくりとナイアガラから千秋さんへと視線を移した。
濡れた眼鏡の奥の優しい眼差しと、絡まった。
そして、彼の目はさっきの答えを、語ったんだ。
――クリスの心も、自分と同じかもしれないでしょう?
そうであって欲しいと思ったから、動いたのだと。
嬉しくて、くすぐったくて、胸が熱くなって。
考えるよりも先に、体が動いていたんだ。
めいいっぱい背伸びをして、唇に唇を押し付けた。
――もう……っ。
「……千秋さん、大好き」
届かないのが当たり前だと思って、告げた告白だった。そこから今の私たちがあるだなんて、想像もできなかった。これは、私のとって一番の奇跡だよ。
「あなたの勇気に、感謝しなければなりませんね」
それは、私のセリフでもある。
千秋さんだって、勇気を出して私には歩み寄ってくれたから今があるの。
その後、夜景を包む大きな花火を背に、私たちはほんの少しだけこれまでの軌跡をキスで確認し合った。
◇
「いやぁー楽しかった、二人をもてなすはずが、私が一番楽しんでしまったよ、ハハハ」
花火が終わり、ボートは乗り場へ到着した。それから帰り道のレノックス家行きつけのレストランで夕食をごちそうになり、とても楽しい時間を過ごした。
ジョーダンをいうおじさんにクリスが突っ込んで、その隣でミアが楽しそうに笑って、もう私たちの心配はいらなそうだった。
そこから電車と車を乗り継ぎ滞在するホテルまで送ってもらい、おじさん発足のナイアガラツアーはこれにて終了となる。
「レノックス社長、クリス、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったよ。またおいで」
「今度は我が家に、ふたりでホームステイにおいでよ!」
千秋さんたちが挨拶する横から、ミアがそっと顔を寄せてきた。
「ありがとう、サクラ。二人には、本当に感謝しているわ」
「ふふ、また会えるといいね」
また会える。そんな気がした。
別れを惜しんだあと、再会を約束して私たちは一行の乗る車を見送って部屋へと戻ってきた。
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