どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。

夏目

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第一章 夜の女王とミミズク

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 今日、サラザーヌ公爵令嬢の夜会が開催される。
 だが、未だにギスランは帰ってきていない。
 帰ってくるつもりがないのだろうか。
 いや、もしかしたら、空賊に怪我を負わされたとか、コリン領でも水害がひどく帰ってこれないとか。本に目を落としても、一文字も頭に入ってこない。
 ギスランのことが気になって集中出来ないのだ。
 ……いや、そうじゃない。ギスランが心配というわけでは。あいつの心配なんかするはずない。
 いつも忌々しく思っていたんだ。いなくなってせいせいする。
 頭がずきりと痛んだ。体調が芳しくない。
 だいたい、会ったらどうせよくも靴を舐めさせたなという顔をするに違いない。
 ギスランが帰ってきたら、リストを巻き込んで話し合いをしなくては。
 鳥人間を差し向けたのはギスランではないのか。サラザーヌ公爵令嬢となにを取引していたのか。一体、なにが目的で靴を舐めたのか。問いただしたいことは沢山ある。
 帰ってこないとそれが尋ねられないから、ギスランのことをずっと考えているのだ。
 むかつく、はやく帰って来ればいいのに!

 一人憤慨していると姦しい囁きと、ヒールの靴音が近付いてくるのが聞こえてきた。
 昼間から華美な青いドレスで現れたのは、サラザーヌ公爵令嬢だった。後ろには令嬢達を従えている。目元に青い刺青。見事にサラザーヌ公爵令嬢の一派だ。
 目が合うと火花が散った。敵愾心がばちばちとはじける。

「今日は弔事がございましたの?」

 ココといい、服の色をからかうな。しかも開口一番で。
 不敬罪で今日の夜会を葬式に変えてやってもいいんだぞ。

「その服で夜会に来られては閉め出してしまうわあ」
「ま、サラザーヌ様ったら、あんまりですわあ」
「いくらカルディア姫でもそんなことはなさらないわよぉ」

 陰険な笑い声を浴びせられる。扇で隠された口元がにやけているのが、見えなくとも分かる。
 私の前で、よくそんなふざけた物言いが出来るものだ。
 こんな不愉快な奴が主宰する夜会に参加したくないのだが、大四公爵家は、王族も無下に出来ないものだ。サラザーヌ公爵家も、ロイスター家も、その他二つも広大な土地と豊かな資源、多くの領民を持っている。
 二百年前の王政復興に尽力した貴族だし、未だに発言権が強い。
 リストに王族らしい振る舞いをしろと言われている。億劫だが、参加するしかない。

「カルディア様は別に来られなくても十分ですわよ。もしかしたら、ギスラン様が夜会で宣誓されるかもしれませんものね。カルディア様と婚約破棄をする、と」

 怒りを助長させるような物言いに、頬が引き攣る。
 忍び笑いがサラザーヌ公爵令嬢の後ろで起こった。
 婚約破棄の宣誓を、夜会でやるものか。公衆の面前で恥を晒す行為を、国の象徴である王族がされるとでも思っているの。王族を軽視する真似を、ギスランがすれば、貴族の批判は免れない。
 サラザーヌ公爵令嬢は、私がギスランに愛想を尽かされたと思っているようだ。
 後釜に自分がと思っているのだろう。
 豚になった王族よりも、ふさわしい、か。
 黙り込む私の態度に鼻白んだのか、ふんと鼻を鳴らされた。

「そうだ」

 妙に甘ったるい声を出し、サラザーヌ公爵令嬢は目を細めた。

「昨日、サガル王子にお会いいたしましたの」
「まあ、本当ですの?」
「あの、サガル王子に?」

 サガルの名前に、令嬢達が色めき立った。
 私も、サガルの名前に反応してしまった。
 弱点をみつけたとばかりにサラザーヌ公爵令嬢はにったりと笑った。

「わたくしのこと、妹のように可愛がってくださって。カルディア様の淑女らしからぬ卑しい行為に胸を痛めておいででしたわ」

 頭の芯が、薪木を投げ込まれた暖炉のように熱くなる。

「妹のように、だなんて、傲慢な!」

 椅子から立ち上がり、怒りに任せて睨みつける。

「ええ、お恐れ多いことだわ。サガル王子には特別に目をかけていただいているの」

 目の前がちかちか、炎が燃えるようにけぶっている。サガルの名前は、それだけ私の中で重要な位置を占めている。心の奥部に隠しておくべき感情ばかり、つきまとっていからだ。
 それをこの女は勝手に心臓から取り上げ、足で踏みつけるような真似をした。

「大変お世話になっているの」

 殺意が湧いた。身体中を安物の油が巡り、一瞬で点火したようだ。あの美しい人と、この女は喋ったのだ。楽しげに?

 過去の記憶が鮮明に蘇る。
 幼少期の苦い経験だ。
 当時、ギスランしか遊び相手がいなかった。サガルとは生まれてからずっと同じ部屋で生活していたのに、あるときを境に離れ離れに。一人っきりの部屋は広くて、寒い。元に戻してと抵抗しても大人達はきいてくれない。
 サガルが、目が真っ赤になるほど訴えたのに、取り付く島もなかった。
 そのうち、会う回数も制限されるようになった。会うとなっても、黙然と佇む兵達が周りを取り囲む。
 私は最後まで抵抗したけれど、サガルはそのうち、順応し、言わなくなった。私は、毎日、一人で寝ることが恐ろしくて泣いていたのに。
 そんな不安定な時期に、サラザーヌ公爵令嬢はよく王城に足を運ぶようになった。
 楽しそうにギスランやサガルと喋るサラザーヌ公爵令嬢。それを覗き見て、私は怖くなった。
 他人は強引に私から奪っていく。特に父王の言葉は暴風のような激しさと強さがあった。サガルと引き離されたように、全てを剥ぎ取り、私を丸裸にしてしまうつもりなのでは。
 ギスランもサガルもサラザーヌ公爵令嬢のものになってしまうのではないのか。
 怯える私にサガルが言ってくれた。僕の妹はお前だけだよ。だけどーー。
 だけど?
 そう続けられて、何もかも嫌になって王城の図書館に逃げ込んだ。サガルが私のために読んでくれた童話をめくって、気持ちを慰めた。
 けれど、どんな言葉も砂を噛むように心に響かなかった。そんなときに、リストがやってきて言ったのだ。
「サラザーヌ公爵令嬢が妬ましいのか」と。
 令嬢達に囲まれて、蝶のようにギスランとサガルを行ったり来たり。からから呑気に笑い声をたてる、公爵令嬢が妬ましいのか。

 リストに指摘されたあの時も、殺意をサラザーヌ公爵令嬢に抱いた。周りを囲む令嬢達がいるじゃないか。なぜ、私のものを取るのだろう。何もかも手にしている癖に。


「金の無心をしたのでしょう?」

 踏みつけられただけ、踏みつけ返さなければ。取り返さねば。
 戦いの種は日常に転がっている。男でなくとも、ここが戦場でなくとも、残忍な感情に踊らされる。
 後ろの取り巻き達に聞こえるような音量ではっきりと言ってやる。

「サガルにお金を貸して欲しいと縋り付いたのでしょう? 無様な姿が奇矯で愛らしく映ったのだわ。雨に打たれる子猫のような同情心が湧いたのかもしれないわね」
「なんですって?」

 サラザーヌ公爵令嬢は眦を吊り上げ、盛りのついた猫のように騒ぎ立てた。

「無礼な! サラザーヌ公爵家を侮辱するおつもり?!」
「真実を語ることの、なにが無礼だというの」
「虚実だわ! くだらないゴシップと同じぐらいのね! 我が公爵家は王に仕える由緒正しき家柄。それが金の無心など、いくら王族だからといっても許せぬ発言よ、撤回なさい!」
「ならば、今日の夜会でお前が証明してみせなさい。できるでしょう?」

 扇で口元を隠し、サラザーヌ公爵令嬢は、来た時のように靴音を響かせ去っていった。取り巻き達が、縄で引っ張られるようにそのあとに続いた。
 ご機嫌とりの声を突っぱね、コルセットで縛られているとは思えない速度で、サラザーヌ公爵令嬢は視界から消えた。



 書き終えた手紙を使用人に渡して必ず届けるように言い含め、日課になっている花園へと向かう。
 だが、その途中、イルに遭遇した。貧族の家で出会ってから、会っていなかったので、気難しげな学者風の出で立ちの癖に帯刀しているのが変に見える。
 剣奴なのよね、イルって。
 イルは私を頭の上から爪先まで眺めるとはんと鼻を鳴らした。
 ……むかつく態度だ。

「ださい」
「お前も?!」

 みんな、服のことに目が行き過ぎだ。審査員か。コンペに出た覚えはないぞ。

「貴女って、歌も下手だし、服のセンスも悪いね」
「なんで、歌が下手って知っているの!」
「ハルからきいた」

 なんで言っちゃうのよ、ハル!

「服は、目立たないようにしないといけないのよ。地味でいなくっちゃ」
「つまり、壊滅的なセンスだと?」
「違う!」

 人の話をきけ。
 ……貧族とこんな友好的に話しているところを見られたら、リストに軟禁される可能性があるな。遮蔽物がある場所にイルをひっぱる。
 イルは形のいい眉毛を吊り上げた。

「なんで人気のない場所に連れ込むわけ? 俺は貴女の愛人になるつもりがないのだが?」
「誰が愛人よ。……お前、なんだってこんなところにいるの?」
「見てわからない? お仕事をしてるんだよ」

 どう見ても学者が息抜きに花園を歩き回っているようにしか見えないぞ。
 批判的な私の顔を見て、イルは深くため息を吐いた。
 イルの腰に下げている短剣は、ごてごてとした細工が施されている。実用向きではない。
 貴族が持つような装備品だった。そんな剣で仕事が出来るのか?

「イルって剣奴よね? 剣奴ってなにをしているのよ」
「警護に、訓練、見回り。特にこの頃は、見回りが多いかな。ほら、鳥人間」

 なるほど。まだ、警戒中か。
 虫を噛み潰した気分だ。鳥人間に関する嫌な記憶がよみがえってくる。

「今は見回り中?」
「あー、違うけど。そんな感じ」

 嘘だな。おそらくさぼり中だ。私は雇い主ではないから見逃すが、不誠実な剣奴だ。

「ハル見ていない? 会いに来たのだけど」

 イルは気まずげに視線を逸らした。

「見たけど、今はいかないほうがいいんじゃない? お貴族様といるから」

 子爵令嬢と一緒にいるのか。眉間に皺が寄る。 

「よく聞こえなかったけれど、父親の愛人がどうのって。すごい泣いてた。お貴族様、爛れすぎじゃない?」

 私をしっかり見つめていうのはやめろ。関係ない。
 それにしても、愛人か。貴族社会じゃよくある話だ。不愉快だが。

「そうだ、貴女はカンド見てないかな?」

 カンド?
 貧族の家にいた巨漢の男か。

「見ていないけれど。どうして?」
「あいつ、ここ数日いないから。おかげで肉体労働者が足りなくて、俺まで駆り出されてる」

 イルは肩をぐるりと回した。

「なにか事件に巻き込まれたのではないの」
「巻き込まれても、筋肉でどうにかする馬鹿だから、大丈夫じゃないかな」

 ひどい認識のされ方だな。
 あれだけの巨漢ならば、暴漢に襲われても撃退できるだろうが。

「イルは心配ではないの?」
「金にならないからね」
「金……」
「俺の飼い主様はね、俺に言うんだよ。金があればなんでも出来るってね。夢だって買えるって」
「拝金主義の商人に仕えているの?」

 ごほっと音を立ててイルが噎せた。肩を震わせて、笑い悶えているらしい。

「似たようなものかも。恐ろしいほど金を持っている人なんだよ。俺みたいな奴を雇えるほどね」
「ハルだったら、カンドの心配をすると思うけれど」

 酷薄に、イルは笑った。笑っているのに、いらだたしげだった。

「ハルは変わっているんだよ」
「ハルもお前のことをそう評していたわ」
「この学校にいるどれぐらいの貧族が、ハルみたいに優しいんだろうね。家族みたいに大事に扱うなんて、馬鹿げてるよ」
「馬鹿げている?」

 鸚鵡返しに尋ねる。今、イルを刺激してはいけないと思ったからだ。

「貧族は変えがきく部品だからね。カンドが死んだとしても、肉体労働者を一人、発注するだけ。しばらくすると、カンドなんていなかったものとして扱われる」

 眼鏡を押し上げるイルの瞳は冷め切っていた。

「仲間のような気になって、家族のような気になって、肩組みあって、幸せを分かち合ってますって顔して、なにがいいんだろう。俺には泥んこの犬達がお互いを舐め合っているようにしか見えない」

 辛辣だ。そういえば、この前もイルは貧族に対して批判的だった。
 剣奴という特殊な位置にいるからだろう。冷めた目線で、冷めたことを言う。

「本当は、他人にも自分にも無関心な癖に」
「だけど、ハルは違う?」

 イルの瞳に光が射し込む。
 じわりと光源によって氷の瞳が溶ける。

「ハルは、情にあついから。俺、ハルのことは気に入っている。だから、貴女が飼ってくれたらいいな。ハルは才能があるだろう? 俺みたいに、飼われる側の人間だ」
「ハルを飼う?」
「貴女だって、そうすれば安心するんじゃないの?」

 言葉を失ったのは、子爵令嬢に対する蟠りがあったからだ。図星を突かれたから。

「ハルは変えがきかない男だよ。俺が断言してあげる。そうでなくとも、あの歌声だ。有効活用出来るだろう」
「お前のご主人様に言わないのはなぜ?」
「答えは簡単。俺の飼い主様はハルのことを殺したがっているから」

 なぜ、ハルが殺意を抱かれているんだ?

「でも、貴女が飼う分には文句が言えないだろうと思うよ」

 どういう意味だ、それは。
 ハルは豪商に恨みを買っている?
 だから、私に飼わせる? そうしたら、文句を言われない?
 そもそも、ハルを飼うとか飼わないとか、凄まじい話だ。人を犬か猫のように飼育する。首輪をされて、可愛い名前でもつけるのか。
 倫理を犯している。だけど、目の前にいるイルも、そうやって他の貧族から隔離されている。イルも他の貧族を軽蔑している。

「ハルは、たぶん、望まない」
「最初のうちはね。でも、きっと慣れる。じゃないと、ハルはそのうち潰れちゃうよ」
「潰れる?」
「ハルが。ただでさえ、リュウが死んだってのに、カンドまでいなくなっちゃね……」

 リュウ?
 誰だ、それ。死んだって、どういうこと?
 イルは、怪訝そうにした私に答えようとして、ふいに視線を空へと上げた。驚いたように、口を開き、あっと小さく溢す。
 首を傾げた私は、すぐにその声の意味を知ることになった。
 突如、凄まじい痛みが背中に走ったからだ。
 体が前に吹っ飛び、イルを巻き込んで倒れこむ。
 意識が浮遊して、無理矢理詰め込まれたような衝撃だった。

「なんで、俺が色香も何もない女に押し倒されなけりゃならないんだ……」

 私の下で、イルが嫌味を言った。
 咄嗟のことで躱すことをしなかったからだ。文句を言うな。
 起き上がろうと、イルの胸に手をあてる。シャツの上からでも、触っただけで筋肉がしっかりとついていることが分かった。無駄にいい体をしている。

「ちょっと、変なところ、触んないでくれる?」
「変な言い方しないでくれない?」
「俺はもっと肉つきのいい女が好きだから。いやらしくて、楽しくって、頭の軽い女が最高」
「最低。普通、淑女の前で言う?」
「淑女って、貴女が? 冗談、面白いね」

 イルの発言にいらつきながら、立ち上がり、汚れを払い落とす。
 イルも同じように立ち上がると、眼鏡の位置を整えた。
 羽音がした。肩の比重が狂う。ぐらつく体を、足を踏ん張り耐えた。
 頬に、むかつくほど肌触りのいい羽を擦り付けられる。

「ミミズク」

 ぷくりと肯定するように体が膨らむ。
 さわさわと羽が頬をくすぐった。おそらく、さっきの衝撃、こいつのせいだな。体当たりしてきたのだろう。

「ミミズク、それが。……ねえ、それって焼けば美味いかな」

 びくっとミミズクが体を震わせた。
 食べる気か? ミミズクを?

「や、やばん!」
「喋れるの、そいつ」
「はなおとめ、近付いちゃだめ! やかれちゃう」

 こら、人の肩の上で怒るな。羽を広げようとするな。
 イルも、私を見て「これをはなおとめって呼ぶ? 目が悪いんじゃないの」って顔をするな。失礼だぞ。私だって、その愛称には戸惑っている。

「お前がそもそも私に突撃してきたのが悪いんじゃないの」

 肩にのせたミミズクの羽を撫でる。
 嘴で突かれたが、手加減しているのか、あまり痛くなかった。

「はなおとめ、はなおとめ」
「なに」
「天帝様、およろこび、よろこび」
「天帝様って、ハル? たしかこの間ハルを天帝様って呼んでいたわよね?」
「ハル……? 天帝様は天帝様。うたうたったでしょ。るるるー。およろこび、よろこび!」


 駄目だ。やはり、ぼけぼけしている。会話が通じない。子供っぽい高い声。舌ったらずな言い方だ。
 おそらくこの間ハルが歌ってくれたことを言っているのだろうと思うけれど。天帝は歌好きなのかな。まさか、私の下手な歌が気に入ったわけではないだろうし。

「天帝様って、ラサンドル派の影響? 天帝至上主義。今流行りだよね。貴女も、そうなの?」
「やはり、流行っているの?」

 新聞の見出しに掲載されたのだ。新聞は、平民の娯楽品だ。影響が強いだろうとは思っていた。

「革命したがってる連中が、これ幸いとラサンドル派に取り入ってる。身分の垣根がラサンドル派にはないからね」

 呆れたような陰険顏で、イルは眼鏡のつるを撫でた。つるの部分には薔薇が描かれている。おしゃれだな。イル、こっそり服装にも気を使っている感じがしている。貧族っぽい格好なのに、よく見れば質が違うなと思わせる生地が使われた服を着ているのだ。
 服装に凝る人間なのか、それとも飼い主とやらが服装に気をつかう人間なのか。どちらにせよ、イルが開口一番、服のセンスを問うてきた理由が知れた。
 意識が脱線したのが伝わったのか、イルが強めの口調で続ける。

「やっぱり貴女は地下新聞を刷っているやつらのお仲間?」
「違う。むやみやたらと疑いをかけるのはやめなさい」

 そうだそうだと同意するように、ミミズクが足踏みをする。尖った爪で、私の肩を何度も踏むな。痛い。抗議するならば、私ではなく、イルの肩にするといい。

「疑われるのは、貴女が不適切な態度を取っているからでは?」

 イルが冷ややかな、びっくとするような声を出した。ミミズクも驚いて、肩から飛び立ち、私の周囲をくるくる旋回する。

「忠告しておくよ、高貴な方。このままハルを飼わずにいられると思わないことだ」

「どういうことだ」と視線で問う。
 イルは意味ありげに、片目を閉じて、淡く笑った。

「貴女は罪深い。それを忘れないようにしたほうがいい」
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