61 / 320
閑話 誰が彼女を殺したのか。
それは誰かと水中から覗く。
しおりを挟む水泡が上がる。
人が決して到達出来ない深淵。地の底にある、海の中。
その更に下の秘部にあるはずの死に神の居住区は、主人の願いとは裏腹に静かに眠りにつこうとしていた。
死に神が無理矢理力を行使して浮上させた神聖な神の住居は、そもそも境界が揺らぐほど近くにきてはならない。それは慣例にないことだからだ。
それを跳ね除けここまで浮上してきたのは、ひとえに死に神の力故だった。
勿論、あまりにも血が流れ、人が死んだせいでもあった。学校は神聖な地であり、死に神とも由縁のある地だ。だから、無理矢理にでも浮上することが出来た。だが、それだけではなかった。死に神の人を助けたいという思いが地と死に神の居住区との垣根を超えさせた。
死に神の居住区では、時間が遅延を起こす。一秒が一時間にも一日にもなる。
そのおかげで命を長らえたものがいた。
最期の言葉を友に託せたものがいた。
死にたくない。その言葉を叫べたものがいた。
だが、それも少女達の帰還により役目を終えた。
神にとって、あるいは世界にとって、排除しなくてはならない不純物を閉じ込めることが出来なかったという最悪の結果とともに。
なせることはもうなにもない。あとは、海の底へと戻るだけである。
いったいいつになれば、この地から離れられるのか、死に神は知らない。知っているのは、死に神はまた暗い海の底に独りぼっちで時を過ごすことになろうということだ。
カルディアを見送った死に神は処刑台を一瞥だけで消した。
イヴァンへの言葉はすでに届けていた。彼のすべては少女がもっていった。残った残骸に語り掛けるつもりはない。
体を引き摺り、水中を歩く。魚達が恐れるように逃げていく。それでも構わず、鏡の間に向かう。
沢山の鏡を置いた一角は、発光し、魚も寄り付かない。カルディアは絵画だと誤解していたが、これは死に神が作り出した水鏡だった。
勿論、自分を映すためにあるのではない。フォード学校にある世界樹の模倣品を起点として、世界を覗く、死に神のためのカレイドスコープだ。
多くのものを観測し、愛でるために用意された鏡だ。
これは人々が神が持つと信じている千里眼を死に神が概念として捻出したものだった。
死に神はその鏡に手をつけて、ぐるぐるとかき混ぜる。
色が変わり、人が映る。夜が訪れ、太陽が顔を出した。貧民達の汗塗れの顔が見えた。享楽に浸る貴族達のとろけた顔が映った。清族が何度も火山の噴火を止めようと呪文を繰り返していた。平民達が朝起きて食事を取ろうとしていた。
死に神はそれら全てを愛おしそうに撫ぜる。
全て鏡面越しだ。本物を撫でることは出来ない。
そもそも死に神が降臨する際、人は死に絶えている。水の中で、人は生きられない。
「ああ、弟よ。せめてお前の後継者の祝福が仔らに注ぐことを」
水泡が上がる。
下へ下へと、水圧に従うように、死に神は沈んでいく。光の届かない水底へ。
魚達がようやくいなくなってくれたと体をくねらせ、ゆうゆうと泳いでいく。
海は静かに、朝を迎えた。地面の下。その下にある海の底。限られた人間しか知覚できない、謎めいた地底でのことである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる