どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。

夏目

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第三章 嫌われた王子様と呪われた乞食

また魔物でも同じなかった。

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 エンドという名前は区別されるためにつけられた名前で、本当に意味があるのはN社の役持ちということだけだった。
 メトロポリスは商業連合が作り出した理想都市だった。
 ここではどこかの企業に所属していなければ生きられなかったし、存在する価値がなかった。雇用され、使役されることこそ、都市での成功だった。

「あーあ、行っちゃった」

 自分が肩を押したくせに何だか酷く惜しくなる。
 それぐらいなはおとめという生き物は目を惹かれた。
 くるくると変わる表情。怒った顔、呆れた表情、泣いた顔。どれも真新しい、人という生き物。

「もっと泣かせてみれば良かった」

 人間というのはあんなに興味を惹かれるものなのだろうか。
 いや、と首を振る。どうにも、おかしな妄想に取り憑かれているらしい。
 ここにはよく分からない神様とかいうものと兎人間と気が狂った同僚しかいないから、そう思うのだ。
 ふれあいが少ないから、変な気を起こしそうになるのだろう。

 ふと、社長のことを思い出した。美しさとやらに目覚めて、愛だの恋だのと言ってうるさくなったものを。エンドは業務命令で社長を肉塊にしたあと、会いに行っていなかったことに気がついた。
 肉塊になった今もエンドの視界の中では朗らかな社長のままだ。
 何せ、認識肯定装置は生きているものに、否応なしに働く。肉塊となっても動くのだから、社長も親近感の湧く姿に書き換えられている。

 ――エンドに加害されたいと泣かなければ、おかしいところなどないのだ。

「はあ、はなおとめはもう世界を変えたか? 覗いても、ここからじゃあ判別できないんだよな。人間の、顔」

 そうだと、エンドは手を打ち鳴らす。

「俺がアッチに行けばいい。はなおとめは三次元以上の知覚が出来なかったし、アッチにいけばもしかして俺賢いんじゃね?」

 社長が産み出した機械の中に何かあちらに干渉するものがあっただろうか。
 運命調整律を使ってもいいのだが、あれはエネルギー消費が膨大でエコじゃない。
 いくらはなおとめが貯めたと言っても限りがある。エンドは今回のでいくらかマージンをつけて、取り立てた。
 メトロポリス基準では良心的なエネルギー搾取量だ。とはいえ、搾取は搾取。
 メトロポリス運営にもエネルギーは必要だし、運命調整律の使用にもそれなりのエネルギーが必要だった。
 はなおとめ自身も気がついていた節があった。エンドの目論見も、よく見抜いていたようだった。だが、指摘はしてこなかった。
 賢い女だ。エンドは賢い女が好きだった。自分が馬鹿なので、ないものねだりなのだ。

 ともかく、エネルギーはここぞというときのために貯めていないと。
 エンドは酷くこの状況に飽きていた。
 もう怪物のような神様と戦うのも、嫌になってきた。
 はなおとめがいたときは楽しかった。戦えば、また会えた。世話を焼いてやれたし、朦朧としたはなおとめに話しかけれた。だが、もうそれも出来ない。
 ならば、エンドから会いに行けばいいのだ。

「よしよし、ゴミ箱漁るか。社長がそれらしいもの作ってるだろ」

 エンドは久しぶりに人事室から飛び出した。メトロポリスは悍ましい都市だ。
 ほとんどの都市に住む生物は頭をおかされておかしくなった。
 栄光あるN社の従業員達も、今では殆ど使い物にならない。
 あたりには緑色の血がそこらじゅうに飛び散っている。目玉を抉り出し、祭壇を作り上げているものもいた。それが美しいと本当に思っているのだ。
 N社病と最初の頃は言われていた。
 兎男をM食品から預かったばかりのときだった。エンドがヴァルハラを壊した最初の一回目。そのあとに、都市の一部で発病した。
 精神汚染だの、公害だのと、散々言われた。

 N社の生き物は迫害され、下層部の社宅は病気に犯されたものの家族達で溢れた。元に戻せといいながら職員の頭を開いてかき混ぜた奴までいる始末だった。
 最初こそ認識肯定装置などで対応していたN社の研究者達も次々罹患していき、やがて社長まで発病した。
 N社の頭である社長――ノアズ・アークが使い物にならないと知ったら、役員達は逃げ出し、株主は株を手放した。
 だが、病気はすでにメトロポリスに充満していた。
 いまはメトロポリスはまともな生き物の方が少ない。

 座標も固定されたまま、どこか別のところにも向かえない。エネルギーが足りないのだ。元々、はなおとめの世界を侵略したものエネルギー問題を解決するためだった。だが、世界には先に神と呼ばれる存在がおり、その生物達との争いになった。
 彼らは強く、しぶとく、厄介だった。何せ不死身だ。
 結局、侵略は成功しないまま、メトロポリスは停滞を続けている。
 宇宙の希望とも呼ばれる楽園都市は醜い鉄の塊と化しつつある。


 N社の開発した技術のゴミ捨て場に到着したエンドは、あたりを漁り、しばらくして擬似人間という装置を見つけ出した。
 説明書を読む限り、エンドが求めていたものにとても似ていた。人の皮を被るという機械なのだ。
 星にいる生物の皮を被り、擬態して生活を行える簡単旅行セット。
 星の干渉を極力減らし、人間となり遊び歩くためのもの。

 ――デメリットに、皮を借りた人間は死ぬと書かれているが、エンドには関係がない。
 いくらはなおとめの世界の人間が死のうとエンドは何も困らない。

 ……そういえば、人間愛護団体の反対にあって断念したのだったか。
 知性のある生物を容易く殺すのはよくないと、本社の前でデモ活動があったのを思い出した。あのとき、エンドもはデモを追い払う立場だった……。

 エネルギー源はそれなりにするが運命律よりはマシ。
 ならばやるしかない! ゴミ捨て場から飛んで帰ると、またヴァルハラが来ていた。またかよ……と内心呆れながら戦い、勝った。
 エンドには慣れた戦闘だったが、やはり徐々に力を増しているように感じられる。
 特に、はなおとめがいたとき……何か変なポーズを取っていた時に、ヴァルハラの力が澄み、強大化した。負けると思ったのはあれが初めてだった。
 あれは何だったのだろう?

「ま、いいか」

 水煙草をふかしながら、エンドは床に倒れた。
 勝ったけれどしばらくは立ち上がれそうにない。
 気がつけば、はなおとめの世界は水の嵩が減っていっていた。青い面積がかなり減っている。
 成功したのかと、エンドは誇らしい気持ちになった。

「俺も早くそっちに行ってみたいな」

 どんなところなのだろう。考えるだけでワクワクする。
 皮になる男の選別もしないと。エンドは強いので、強い男がいい。
 容貌魁偉で、誰もが恐れる男が望ましい。
 あと自分の似ている奴がいいとのこと。……片腕がない、とか?

「あ、その前に。有給申請。有給申請」

 エンドは楽しくなって有給申請の書類に自分の名前を書いた。



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