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一 啓示の女
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(……やれやれ)
ひどい一日だった。アパートに帰って一息をつく。だが思い返し、ひどくはあったが最悪ではなかったな、と思い直す。
(結局猛さんと雪子さんは無事だったんだ。それだけで十分といえば十分だろう)
ビベリダエのことも心配は心配だが、天井が落ちただけなら修理は可能なはずだ。あの場所が失われることはない。それにしても、何かが引っかかる。何が引っかかっている?
(……そうだ、あの喪服の女が現れた時、いつもと何かが違うと思ったんだ)
だが、何が違った? それがわからない。わからないからこそ余計に気味が悪い。
(……まぁ、いいか。今すぐ問題があるってことじゃないだろう)
はっきりとわからないということは、それだけ些細な変化だということだ。変化が明確になるまで待ったとしても、恐らく問題はないだろう。
携帯が震えた。SNSアプリがメッセージを受信したのだ。確認すると、送り主は柳井梓だった。
(……梓、元気でやってるかな)
梓からのメッセージは、
『こんばんは、突然だけど、もしよかったら今度お茶でも飲みませんか?』
というシンプルなものだった。梓は高校の同級生で、僕の数少ない友達だ。大人しく美しい、僕でもはっきり魅力的だと判断できる女性だ。ただ若干大人しすぎるきらいがある。そのために人間関係を中々広げることができないようだった。
(いつだったか、大学では上手くやってるかって聞いたら大丈夫としか言わなかったな……様子を見るいい機会だな)
打たれ弱いのに無理をするというよくない気質を梓は備えている。人のことを心配できるほど余裕があるわけではないが、それでもわずかな友達のことくらいは気にしておきたい。周りからいつ悪意や好気を向けられるかわからない身としては、友達は可能な限り大事にしておかないといけない。
『いいね。僕も梓と会って話したいと思ってたところなんだ』
そう送信する。瞬く間にメッセージは既読になり、返信が来る。
『嬉しい。楽しみにしてるね』
『僕もだよ。日時と待ち合わせの場所はどうしようか?』
『楓がよければ、来週の土曜日の一時に墨船駅の北口でどうかな?』
『墨船駅の北口、来週の一時だね。了解』
あっという間に待ち合わせの日時と場所が決まる。墨船駅で降りたことはまだないが、確かアパートの最寄り駅から電車で三十分強の距離だったと思う。梓のことだから駅の周囲を探検していい喫茶店でも見つけたのかもしれない。
(見た目と違って好奇心旺盛だからなぁ、梓は)
最初彼女のそういった一面を目の当たりにした時は面食らったものだったが、今ではそれもまた彼女の個性とごく自然に受け入れている。それに彼女の探検の成果は基本的に素晴らしいものだ。その嗅覚で雑多な種類の名店を嗅ぎ当てる彼女に僕は心中で敬意を抱いていた。
(会って話せば、きっとこの心の嫌な淀みも晴れるだろう)
様子を見るいい機会だ、などと思っておきながら、本当のところは僕こそ、彼女に会うことを望んでいた。自分のことを受け入れてくれる場所に、どうしようもなく、舌を垂らした犬のように、餓えている。
僕は食事や風呂やその他身の回りの細々としたことを済ませて、体を休めた。喪服の女に対して覚えた違和感が眠りに落ちるのをわずかな間邪魔したが、それは決して夢の中にまで押し寄せてくることはなかった。
ひどい一日だった。アパートに帰って一息をつく。だが思い返し、ひどくはあったが最悪ではなかったな、と思い直す。
(結局猛さんと雪子さんは無事だったんだ。それだけで十分といえば十分だろう)
ビベリダエのことも心配は心配だが、天井が落ちただけなら修理は可能なはずだ。あの場所が失われることはない。それにしても、何かが引っかかる。何が引っかかっている?
(……そうだ、あの喪服の女が現れた時、いつもと何かが違うと思ったんだ)
だが、何が違った? それがわからない。わからないからこそ余計に気味が悪い。
(……まぁ、いいか。今すぐ問題があるってことじゃないだろう)
はっきりとわからないということは、それだけ些細な変化だということだ。変化が明確になるまで待ったとしても、恐らく問題はないだろう。
携帯が震えた。SNSアプリがメッセージを受信したのだ。確認すると、送り主は柳井梓だった。
(……梓、元気でやってるかな)
梓からのメッセージは、
『こんばんは、突然だけど、もしよかったら今度お茶でも飲みませんか?』
というシンプルなものだった。梓は高校の同級生で、僕の数少ない友達だ。大人しく美しい、僕でもはっきり魅力的だと判断できる女性だ。ただ若干大人しすぎるきらいがある。そのために人間関係を中々広げることができないようだった。
(いつだったか、大学では上手くやってるかって聞いたら大丈夫としか言わなかったな……様子を見るいい機会だな)
打たれ弱いのに無理をするというよくない気質を梓は備えている。人のことを心配できるほど余裕があるわけではないが、それでもわずかな友達のことくらいは気にしておきたい。周りからいつ悪意や好気を向けられるかわからない身としては、友達は可能な限り大事にしておかないといけない。
『いいね。僕も梓と会って話したいと思ってたところなんだ』
そう送信する。瞬く間にメッセージは既読になり、返信が来る。
『嬉しい。楽しみにしてるね』
『僕もだよ。日時と待ち合わせの場所はどうしようか?』
『楓がよければ、来週の土曜日の一時に墨船駅の北口でどうかな?』
『墨船駅の北口、来週の一時だね。了解』
あっという間に待ち合わせの日時と場所が決まる。墨船駅で降りたことはまだないが、確かアパートの最寄り駅から電車で三十分強の距離だったと思う。梓のことだから駅の周囲を探検していい喫茶店でも見つけたのかもしれない。
(見た目と違って好奇心旺盛だからなぁ、梓は)
最初彼女のそういった一面を目の当たりにした時は面食らったものだったが、今ではそれもまた彼女の個性とごく自然に受け入れている。それに彼女の探検の成果は基本的に素晴らしいものだ。その嗅覚で雑多な種類の名店を嗅ぎ当てる彼女に僕は心中で敬意を抱いていた。
(会って話せば、きっとこの心の嫌な淀みも晴れるだろう)
様子を見るいい機会だ、などと思っておきながら、本当のところは僕こそ、彼女に会うことを望んでいた。自分のことを受け入れてくれる場所に、どうしようもなく、舌を垂らした犬のように、餓えている。
僕は食事や風呂やその他身の回りの細々としたことを済ませて、体を休めた。喪服の女に対して覚えた違和感が眠りに落ちるのをわずかな間邪魔したが、それは決して夢の中にまで押し寄せてくることはなかった。
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