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四章
心を開いて
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小鳥のさえずりで目を覚まし、日差しで明るい天幕の内部が視界に入る。
私の体は柔らかな桃色のショールでくるりと、まるでクレープのように包まれていた。
隣にいたはずのカスピアンの姿はない。
少しホッとすると同時に、昨晩、寝入りばなに考えていたことが頭に蘇ってくる。
かなり、ややこしい状況になってしまった。
すべての始まりは、暴君カスピアンが私を、エランティカの乙女、と思い込んだことだった。
カスピアンに拉致された後、王宮で軟禁状態を余儀なくされた。訳のわからないうちに、妃にするなどと言われ、やっとそこを逃げ出した。
ところが、結果的に、自分の意思でそのカスピアンのもとへ戻ってきてしまったのだ。
後味悪いとか、気まずいというよりも、身の置き所がないという気持ちが先立つ。
私の心の支えだった大切なライアーは、エティグスの離宮に置き去りにしてしまった。けれど、間違っても、ライアーを取り戻すためにエティグス王国に接近しようなんて思わない。
何があっても、あのルシア王子にまた捕まるわけにはいかないのだ。
たまたま河原へ出ていたタイミングで、カスピアンがそこに居たのは、もはや偶然というより、奇跡と呼ぶべき幸運だった。
あの激流の中私を助けてくれたカスピアンには、大きな借りが出来てしまった。
当然ながら、命の恩人となるカスピアンに対し、今までのように、例え心の中であっても、横暴だの暴君だのと罵ることは出来ない。何故なら、彼の大胆不敵さ、そしてその人並みはずれた精神的、肉体的強さのお陰で、私は命拾いをしたのだから。
ラベロア王国の世継ぎ王子という立場にありながら、私のために、たった一人であんな危険を冒したなんて……要するに、やっぱりカスピアンは未だに、私がエランティカの乙女だと思っているという事なのだろう。
更に気になるのは、昨晩のカスピアンが何故か、いつもとは違う雰囲気だったこと。
いや、カスピアンだけじゃない。
私も変だった。
私はきっと、死にかけた恐怖のせいで、とても心細く不安な気持ちが強かった状態だったのだろう。そうでなければ、カスピアンが隣に居たのに、こんなにぐっすり眠ることなど出来なかったはずだ。
ふと、昨晩の口づけを思い出し、その時の緊張と動揺をぶり返してしまい、カッと頬が熱くなる。
あれは、一体なんだったの?
そういう私も、どうしてあのまま身を任せていたのか。
以前、いきなり口づけされた時は、必死で暴れたのに。
これじゃまるで、私は、カスピアンに……
ある仮説が頭をよぎり、慌てて頭をブンブンと振った。
そんなはずは無い!
このことを考えるのは、やめよう!
どうせ答えなんて出はしない。
大体、カスピアンが何を考えているのかもさっぱりわからないし。
とにかく今は、過ぎた事に余計なエネルギーを使うのは止めておこう。
まずは、これからのことに目を向けなければ。
そう決めて、ゆっくりと体を起こしてみる。
まだ節々が痛むが、身動きは出来るほどに回復していたので、そろそろと立ち上がり、天幕を開けてみた。
外は、眩しいくらいの朝日があたりを照らしていて、その明るさに思わず目を細める。
ここは、ヴォルガの河が見下ろせる森の高台だった。いくつかの天幕が建てられており、兵士達があたりを警備しているのが見える。
話し声のするほうを見てみると、少し離れた天幕の前で、カスピアンがエイドリアンや数人の兵士と話をしていた。
体格の良い兵士達に紛れていても、さらに上背のあるカスピアンはすぐに見つかる。
昨日、鬱蒼とした葦の茂みの影に見たカスピアンを思い出しながら、その後ろ姿を眺めて、どこかで見た誰かに似ているなと思い、あっと気がついた。
わかった!
ターザンに似ているんだ!
大柄で、がっちりとした肩を覆う栗色の巻き毛と、日に焼けた小麦色の肌。
屈強な兵士達と並んでいても際立つ、鍛え抜かれた強靭な体躯は、まさにターザン。
激流の大河を泳いで対岸にまでやってきた勇猛さ、そしてあの荒っぽい言動も、ジャングル育ちと思えば、ますます合致する。
彼はまさに、実写版ターザン。
一人納得していると、当のカスピアンがこちらを振り向いた。
慌てて、緩んでいた頬と口元を引き締める。
朝日を背に受けながら、大股でこちらに向かって歩いてくるその姿が、また、ターザンに見えてしまい、自分の意思とは反してつい、クスッと笑ってしまう。
笑ってはいけないと、必死で堪えてはみたものの、これがなかなか難しい。
これまでならカスピアンが近くに来ると反射的に身構えていたが、恐怖が薄れたのか慣れたのか、特に緊張するでもなくそのまま立っていると、目の前でカスピアンが足を止めた。
お日様が彼の頭上で輝き、その背に朝日を受けてまばゆい。
目を細めて見上げると、カスピアンが私の両手を取り、穏やかな表情で見下ろした。
「体の痛みはどうだ。少しは和らいだか」
昨晩に引き続き、カスピアンが妙に優しくて、距離感の持ち方がわからない。
しかもこの瞬間私は、カスピアンと両手を繋いで向き合うという、全く想定外の状況にある。
戸惑いを悟られまいとしてつい、頷きながら視線を下方に落としてしまう。
「うん。もう……大丈夫……」
出来るだけ平静を装って答えたつもりが、少し声がつっかえてしまった。
繋がれている手に目をやる。
私の全神経が今、この手に集中してしまっている。
私の手を包み込む、温かくて大きな手。
この手が、昨日、私を助けてくれたのだと思うと、とても振り払う気にはなれない。
でも、やっぱり落ち着かない。
なんとかして、この動揺を紛らわせなくては。
そうだ、腕の傷の具合について、聞いてみよう。
顔を上げ、口を開こうとした途端、ふいに手を引かれ、よろめくようにカスピアンの胸の中に倒れ込んだ。
背中に回った逞しい腕が、ぎゅっと私を抱きしめる。
つま先立ちの状態で、その広い胸の中にすっぽり包まれ、思考が完全に停止してしまった。
否応無しに心拍数が上がり始め、意思に反して顔に熱が集まってしまう。恥ずかしくて顔を見られないようにうつむくと、白いシャツ越しにカスピアンの心臓の鼓動が聞こえてきた。
昨晩聞いた、力強く規則的に打つ、カスピアンの心臓の音。
これまでなら、怖いとか、逃げ出さなきゃ、と思うはずなのに。
私の手は、彼を押し返そうさえしない。
それどころか、ドキドキしながらも、ほっとしているような、安心感を覚えている。
あの河で命を助けてもらったから、感じ方が変わったのだろうか。
私は一体、どうしてしまったのだろう。
周りでは、天幕を解体したりと野営の撤去や片付けを始めた兵士達が、きびきびと働いている。彼等は明らかに、見てはならないものがそこにあるというように、私達からあえて視線を逸らし動き回っているようだ。
恥ずかしい!
カスピアンは周りが気にならないの?
どうしよう。
ドキドキして息苦しい。
いい加減、心臓が持たなくなりそうだ。
限界を感じた時、ようやく、カスピアンが腕の力を抜き、身を屈めると私の顔を覗き込んだ。
「随分と顔色がよくなったようだ」
彼は安堵したようにそう呟いた。
慌てて、横を向く。
私が赤面しているとは気がつかず、うまく勘違いしてくれたらしい。
「話がある。こちらへ来い」
手を引かれて野営地を離れ、森の方へと歩く。
私の体調に気を使っているのか、随分とゆっくりと前を歩くカスピアン。
時折振り返っては私の様子を確認し、森の奥へと進む。
大きな木々が生い茂る枝の隙間から、暖かい日光が差し込んで、朝露に濡れた葉がキラキラと輝いている。木から木へと身軽に飛び移りながら追いかけっこをする、赤毛のリス達が見えた。
ここはまるで、おとぎの森のようだ。
ヘレンやアンリと過ごした森を思い出しながら、足下に咲く可愛らしい野花を踏まないよう気をつけて歩いた。やがて視界が開け、水の音が聞こえてきたと思ったら、緩やかなせせらぎの近くでカスピアンが立ち止まる。
同じく足を止めると、振り返ったカスピアンが私を抱き上げて、せせらぎの隣にあった大きな岩の上に乗せた。
岩の上に腰掛けて、カスピアンと向き合う。
いつも見上げていたのに、突然目線の高さが同じになった。
まじまじと目の前のカスピアンを見つめる。
森の深緑を反射して、エメラルドのように神秘的に輝く、色鮮やかな彼の目。
野性的な鋭い眼差しや、栗色の巻き毛がこぼれ落ちる男らしい頬、意思の強そうな口元に、カスピアンの気性の激しさがよく出ているけれど、高貴な血が流れていることが、一目でわかるような、美しく精悍な顔立ちだ。
粗暴という印象があんなに強かったのに、黙ってたら、こんな美青年だったんだ。
驚いて見つめていると、カスピアンが眉をひそめてじろりと私を睨んだ。
「……何を見ているのだ」
「え? 何って……」
貴方の顔、と言おうとして、カスピアンの目元がうっすらと赤らんでいるのに気がついた。明らかに居心地悪そうに眉間に皺を寄せている。
まさかとは思うが、私がじろじろ見るから照れたのだろうか。
「ご、ごめんなさい!貴方の顔、よく見た事なかったなと思って、つい……」
失礼なことをしてしまったと気づき、慌てて謝り、目を逸らした。
遠慮もなく人の顔を凝視していた挙げ句、意外と美青年、などと勝手に分析までしていた私。
恥ずかしさに、今度は自分の耳が熱くなる。
実際のところ、これまで顔を合わせる度にお互いけんか腰だったから、こうして向き合って、目を合わせ、普通に話をするなんて初めて。
落ち着かなくて当然だろう。
しばらくの沈黙の後、ようやくカスピアンが口を開いた。
「このまま王宮に戻るつもりだったが……おまえを一時的に、あの小人夫婦のところに帰すことにした」
「えっ、本当?」
びっくりして聞き返すと、不機嫌そうにしかめっ面をしたカスピアンがひとつ、ため息をした。
「エティグスの間者を手引きした者を捕らえるまでは、一切の油断は出来ない。今、おまえを王宮に連れ帰ると、しばらくは部屋から出す事は出来ず、きっと、おまえも退屈するだろう。不本意だが、環境が整うまでは、致し方あるまい」
思いがけず、アンリとヘレンのところへ戻れるとわかり、ホッと胸を撫で下ろす。王宮に連れていかれ、周囲から疑いの目にさらされるのかと気が気でなかった私にとっては、これほど嬉しいことはない。
「あの山の周りは既に警備している場所だから、今の王宮よりは安全だ」
「うん、ありがとう!」
元々は、アンリやヘレンの行動を監視する目的で兵士を配備したのだろうが、見方を変えれば、山の中は安心して過ごせる場所ということになる。
久しぶりに以前の自由な生活に戻れると知り、強ばっていた体が、緊張が解けたように軽くなっていく。
久しぶりに会えるアンリとヘレンの顔を思い浮かべる。
本当の親ではないけれど、家族のように大切にしてくれた二人は、私にとってはこの国でかけがえのない存在だ。
急に戻って来たら、きっとものすごく驚く事だろう。
また、以前のように平穏な時間を過ごせると思うと、嬉しくなって笑顔でカスピアンを見た。ところが、カスピアンは明らかに気分を害した様子で、憮然としている。
彼は腕組みをし、険しい表情で私を見た。
「ほんの一時のことだ。準備が整い次第、迎えに行く。今度こそ、もう離しはせんぞ」
その言葉に私は、やはり、今こそきちんと話すべき時だと確信し、じっとカスピアンを見返した。
「あのね、カスピアン。とても大事なことだから、聞いてほしい」
深呼吸をして、注意深く言葉を選びながら、これまでうやむやにされていた真実を、しっかりと、出来るだけ正確に伝えようと、口を開いた。
「私はただの人間で、伝説の乙女じゃない。見ての通り私は異国人で、どうして、ラベロア王国に来たのかは、本当にわからないの。気がついたらこの国に居たから。竪琴は子供の時から学んでいるし、音楽で癒しを広めたいと思っているけれど、特別な力があるわけじゃないの。それにもう、竪琴は持っていないし……」
実は異国人じゃなくて異世界人になるんだろうが、話が更に複雑になるので、それ以外の部分については紛れもない事実を伝える。
「ルシア王子にも同じことを言ったけど、私に特別な価値なんてないの。エランティカの乙女だと勘違いして、手元に置いておこうと考えたところで、何も得になる事なんてないから」
「……セイラ」
口を挟もうとしたカスピアンの声を遮り、続けた。
「私のせいで、王宮で貴方の立場が悪くなっているって、ルシア王子から聞いた。それに、ルシア王子も、私を利用してラベロア王国を手に入れる事が出来るなんて、とんでもない思い込みをしてた。そんなの、本当に間違ってる!」
カスピアンは黙って、私の話に耳を傾けていた。
「もう、私を手元に置こうとしないで。全然、いいことなんか起きないから。それどころか、逆に貴方を破滅させることになるかもしれない。現に、王位継承権の剥奪なんて噂も出てるって聞いた。私のせいで、こんなことになって、貴方にも、本当に申し訳ないと思ってる」
一番危惧していることを真剣に伝えた。
「実際、あんな危険を冒して助けてくれたでしょう?下手したら、貴方は死んでいたかもしれない。この国の将来を担っていく貴方が、私のためにあんな危険なことするなんて、絶対にあってはならないことだと思う。私も、エランティカの乙女だと誤解されるせいで、私を巡って不要な争いが起きて、罪も無い兵士達を巻き込むのは辛いの」
最後までしっかり、ずっと考えていたことをすべて伝えることが出来て、ほっとする。
本当に、この容姿のせいで、大きな誤解を生んでしまったのだ。
ふと、あることを思いつく。
その誤解を生む元凶をなくせばいいじゃないか。
「カスピアン?」
彼の腰に刺してある剣の柄に触れて、たった今思いついたことを頼んでみた。
「髪を、切って。このあたりでざっくりと」
肩のあたりを指差して、髪をくるりとまとめて前に流す。
エランティカの乙女の特徴は、腰まで届くほど伸びた黒髪。
「きっと、これさえ短く切ってしまえば……」
もともと、ヘアサロンでばっさりと切って、ボブにしようかと考えていたくらいだ。
全然、悩むようなことでもない。
どうして考えつかなかったんだろう!
こんな、簡単な事を!
「今、切ってくれる?」
自分ではそんな大きな剣など扱えないので、彼に頼むしかない。
カスピアンが驚いたように目を見開いて私を見ていたが、やがて、大きく首を振り、呆れたようにため息をついた。
「何を言い出すかと思えば……大きな思い違いをしているのは、おまえのほうだ」
「私?」
どこを思い違いしているというのだ。
首をひねって考えてみたが、ちっとも思い違いしていることなんて見つからない。
「確かに、初めておまえを見た時、エランティカの乙女だと思ったことは認める。だが、それはあくまで、きっかけであったに過ぎない」
「えっ……」
「王宮内のくだらぬ噂など、おまえが気に病むことではない。ルシアのやつはいずれ必ず始末をつけるが、まずはあやつの出方を見るつもりだ。おまえの竪琴も必ず取り戻す。そして、俺は、これからも何があろうと、おまえを誰にも渡す気はない」
カスピアンの大きな手が伸びてきて、私の髪を肩の後ろに流した。
「おまえが何者かなど、どうでもいい」
ゆっくりと、その手で私の髪を撫でたカスピアン。
耳にした言葉に驚いて、彼を見つめる。
カスピアンは私の右手を取り両手で包み込むと、少しの間沈黙した。
やがて彼は、射るような強い視線を私に向け、ゆっくりと、その言葉を確かめるかのように口にした。
「……俺が欲しいのは、セイラ、おまえだ」
うろたえて、言葉を失う。
どういう意味なの?
欲しいって……
そんなの、あまりにも直球すぎて、わからない!
犬や猫を欲しがる感覚で言っているのだろうか。
あるいは、珍しいものを集めるコレクション的な意味?
それとも……
他の可能性を考えて、一気に血圧があがっていく。
否応無しに心臓が暴走を始め、今すぐにでもこの場から走り去りたい衝動にかられたけれど、どうしても目の前のカスピアンから目が離せない。
心の中で大きく膨れ上がった疑問を、勇気を振り絞って言葉にした。
「……どうして……そんなことを言うの?」
私がエランティカの乙女じゃないと知っていながら、欲しい、と言うのは、どういうことなのか。
その核心に触れるのは、怖い気がするけれど、カスピアンの考えていることがわからない以上、目の前の本人に聞くしか術が無い。
カスピアンは、熱っぽく潤んだ眼差しを私に向けたまま、黙っている。
やっぱり、答えないつもりなのだろうか。
落胆し、ため息をついて、私の右手を包んでいるカスピアンの両手を見下ろした。
ふいに、カスピアンの手に力がこめられたかと思うと、彼はそっと私の手を開いた。
どうしたのかと思ってカスピアンを見ると、彼はじっと私の目を見つめていたが、やがて、身を屈めて、ゆっくりと私の手のひらに口づけを落とした。
思いもよらないその行為に驚く。
手のひらに感じた彼の唇が、離れる直前に、何かを呟いたかのように僅かに動いた気がした。
手のひらにキスなんて……
何か、特別な意味があるの?
ドキドキとうるさい自分の心臓の音が頭の中で響く。
まともにカスピアンの顔を見ていられずうつむいていると、彼は私を抱き寄せた。
私は今にも破裂しそうな心臓を抱えたままじっとする。
カスピアンは、私の耳元で静かに囁いた。
「側に置きたいと思った娘は、おまえだけだ」
頭の中が真っ白になって、呼吸も止まりそうになった。
柔らかな日差しが差し込む森の中、緩やかな風が葉を揺らし、静かなせせらぎの音が流れている。
でも、私達の時間だけは、まるで止まったかのようだ。
カスピアンの温かな胸の中にいると、途方も無い優しさに包まれているような気がした。心の奥から何か熱いものが一気に込み上げて来る。
「セイラ。俺は……」
押し殺すようなその声に、ドキンとして顔を上げた。
熱に浮かされたように私を見つめるカスピアンと目が合い、緊張に息を飲む。
その時、後方で鳥が飛び立つ羽音と共に、私達を呼ぶ声が聞こえ、ハッとする。
「殿下!セイラ様!出発の準備が整いました!」
振り返ると、木々の向こうに、エイドリアンと複数の兵士の姿が目に入った。
私の体は柔らかな桃色のショールでくるりと、まるでクレープのように包まれていた。
隣にいたはずのカスピアンの姿はない。
少しホッとすると同時に、昨晩、寝入りばなに考えていたことが頭に蘇ってくる。
かなり、ややこしい状況になってしまった。
すべての始まりは、暴君カスピアンが私を、エランティカの乙女、と思い込んだことだった。
カスピアンに拉致された後、王宮で軟禁状態を余儀なくされた。訳のわからないうちに、妃にするなどと言われ、やっとそこを逃げ出した。
ところが、結果的に、自分の意思でそのカスピアンのもとへ戻ってきてしまったのだ。
後味悪いとか、気まずいというよりも、身の置き所がないという気持ちが先立つ。
私の心の支えだった大切なライアーは、エティグスの離宮に置き去りにしてしまった。けれど、間違っても、ライアーを取り戻すためにエティグス王国に接近しようなんて思わない。
何があっても、あのルシア王子にまた捕まるわけにはいかないのだ。
たまたま河原へ出ていたタイミングで、カスピアンがそこに居たのは、もはや偶然というより、奇跡と呼ぶべき幸運だった。
あの激流の中私を助けてくれたカスピアンには、大きな借りが出来てしまった。
当然ながら、命の恩人となるカスピアンに対し、今までのように、例え心の中であっても、横暴だの暴君だのと罵ることは出来ない。何故なら、彼の大胆不敵さ、そしてその人並みはずれた精神的、肉体的強さのお陰で、私は命拾いをしたのだから。
ラベロア王国の世継ぎ王子という立場にありながら、私のために、たった一人であんな危険を冒したなんて……要するに、やっぱりカスピアンは未だに、私がエランティカの乙女だと思っているという事なのだろう。
更に気になるのは、昨晩のカスピアンが何故か、いつもとは違う雰囲気だったこと。
いや、カスピアンだけじゃない。
私も変だった。
私はきっと、死にかけた恐怖のせいで、とても心細く不安な気持ちが強かった状態だったのだろう。そうでなければ、カスピアンが隣に居たのに、こんなにぐっすり眠ることなど出来なかったはずだ。
ふと、昨晩の口づけを思い出し、その時の緊張と動揺をぶり返してしまい、カッと頬が熱くなる。
あれは、一体なんだったの?
そういう私も、どうしてあのまま身を任せていたのか。
以前、いきなり口づけされた時は、必死で暴れたのに。
これじゃまるで、私は、カスピアンに……
ある仮説が頭をよぎり、慌てて頭をブンブンと振った。
そんなはずは無い!
このことを考えるのは、やめよう!
どうせ答えなんて出はしない。
大体、カスピアンが何を考えているのかもさっぱりわからないし。
とにかく今は、過ぎた事に余計なエネルギーを使うのは止めておこう。
まずは、これからのことに目を向けなければ。
そう決めて、ゆっくりと体を起こしてみる。
まだ節々が痛むが、身動きは出来るほどに回復していたので、そろそろと立ち上がり、天幕を開けてみた。
外は、眩しいくらいの朝日があたりを照らしていて、その明るさに思わず目を細める。
ここは、ヴォルガの河が見下ろせる森の高台だった。いくつかの天幕が建てられており、兵士達があたりを警備しているのが見える。
話し声のするほうを見てみると、少し離れた天幕の前で、カスピアンがエイドリアンや数人の兵士と話をしていた。
体格の良い兵士達に紛れていても、さらに上背のあるカスピアンはすぐに見つかる。
昨日、鬱蒼とした葦の茂みの影に見たカスピアンを思い出しながら、その後ろ姿を眺めて、どこかで見た誰かに似ているなと思い、あっと気がついた。
わかった!
ターザンに似ているんだ!
大柄で、がっちりとした肩を覆う栗色の巻き毛と、日に焼けた小麦色の肌。
屈強な兵士達と並んでいても際立つ、鍛え抜かれた強靭な体躯は、まさにターザン。
激流の大河を泳いで対岸にまでやってきた勇猛さ、そしてあの荒っぽい言動も、ジャングル育ちと思えば、ますます合致する。
彼はまさに、実写版ターザン。
一人納得していると、当のカスピアンがこちらを振り向いた。
慌てて、緩んでいた頬と口元を引き締める。
朝日を背に受けながら、大股でこちらに向かって歩いてくるその姿が、また、ターザンに見えてしまい、自分の意思とは反してつい、クスッと笑ってしまう。
笑ってはいけないと、必死で堪えてはみたものの、これがなかなか難しい。
これまでならカスピアンが近くに来ると反射的に身構えていたが、恐怖が薄れたのか慣れたのか、特に緊張するでもなくそのまま立っていると、目の前でカスピアンが足を止めた。
お日様が彼の頭上で輝き、その背に朝日を受けてまばゆい。
目を細めて見上げると、カスピアンが私の両手を取り、穏やかな表情で見下ろした。
「体の痛みはどうだ。少しは和らいだか」
昨晩に引き続き、カスピアンが妙に優しくて、距離感の持ち方がわからない。
しかもこの瞬間私は、カスピアンと両手を繋いで向き合うという、全く想定外の状況にある。
戸惑いを悟られまいとしてつい、頷きながら視線を下方に落としてしまう。
「うん。もう……大丈夫……」
出来るだけ平静を装って答えたつもりが、少し声がつっかえてしまった。
繋がれている手に目をやる。
私の全神経が今、この手に集中してしまっている。
私の手を包み込む、温かくて大きな手。
この手が、昨日、私を助けてくれたのだと思うと、とても振り払う気にはなれない。
でも、やっぱり落ち着かない。
なんとかして、この動揺を紛らわせなくては。
そうだ、腕の傷の具合について、聞いてみよう。
顔を上げ、口を開こうとした途端、ふいに手を引かれ、よろめくようにカスピアンの胸の中に倒れ込んだ。
背中に回った逞しい腕が、ぎゅっと私を抱きしめる。
つま先立ちの状態で、その広い胸の中にすっぽり包まれ、思考が完全に停止してしまった。
否応無しに心拍数が上がり始め、意思に反して顔に熱が集まってしまう。恥ずかしくて顔を見られないようにうつむくと、白いシャツ越しにカスピアンの心臓の鼓動が聞こえてきた。
昨晩聞いた、力強く規則的に打つ、カスピアンの心臓の音。
これまでなら、怖いとか、逃げ出さなきゃ、と思うはずなのに。
私の手は、彼を押し返そうさえしない。
それどころか、ドキドキしながらも、ほっとしているような、安心感を覚えている。
あの河で命を助けてもらったから、感じ方が変わったのだろうか。
私は一体、どうしてしまったのだろう。
周りでは、天幕を解体したりと野営の撤去や片付けを始めた兵士達が、きびきびと働いている。彼等は明らかに、見てはならないものがそこにあるというように、私達からあえて視線を逸らし動き回っているようだ。
恥ずかしい!
カスピアンは周りが気にならないの?
どうしよう。
ドキドキして息苦しい。
いい加減、心臓が持たなくなりそうだ。
限界を感じた時、ようやく、カスピアンが腕の力を抜き、身を屈めると私の顔を覗き込んだ。
「随分と顔色がよくなったようだ」
彼は安堵したようにそう呟いた。
慌てて、横を向く。
私が赤面しているとは気がつかず、うまく勘違いしてくれたらしい。
「話がある。こちらへ来い」
手を引かれて野営地を離れ、森の方へと歩く。
私の体調に気を使っているのか、随分とゆっくりと前を歩くカスピアン。
時折振り返っては私の様子を確認し、森の奥へと進む。
大きな木々が生い茂る枝の隙間から、暖かい日光が差し込んで、朝露に濡れた葉がキラキラと輝いている。木から木へと身軽に飛び移りながら追いかけっこをする、赤毛のリス達が見えた。
ここはまるで、おとぎの森のようだ。
ヘレンやアンリと過ごした森を思い出しながら、足下に咲く可愛らしい野花を踏まないよう気をつけて歩いた。やがて視界が開け、水の音が聞こえてきたと思ったら、緩やかなせせらぎの近くでカスピアンが立ち止まる。
同じく足を止めると、振り返ったカスピアンが私を抱き上げて、せせらぎの隣にあった大きな岩の上に乗せた。
岩の上に腰掛けて、カスピアンと向き合う。
いつも見上げていたのに、突然目線の高さが同じになった。
まじまじと目の前のカスピアンを見つめる。
森の深緑を反射して、エメラルドのように神秘的に輝く、色鮮やかな彼の目。
野性的な鋭い眼差しや、栗色の巻き毛がこぼれ落ちる男らしい頬、意思の強そうな口元に、カスピアンの気性の激しさがよく出ているけれど、高貴な血が流れていることが、一目でわかるような、美しく精悍な顔立ちだ。
粗暴という印象があんなに強かったのに、黙ってたら、こんな美青年だったんだ。
驚いて見つめていると、カスピアンが眉をひそめてじろりと私を睨んだ。
「……何を見ているのだ」
「え? 何って……」
貴方の顔、と言おうとして、カスピアンの目元がうっすらと赤らんでいるのに気がついた。明らかに居心地悪そうに眉間に皺を寄せている。
まさかとは思うが、私がじろじろ見るから照れたのだろうか。
「ご、ごめんなさい!貴方の顔、よく見た事なかったなと思って、つい……」
失礼なことをしてしまったと気づき、慌てて謝り、目を逸らした。
遠慮もなく人の顔を凝視していた挙げ句、意外と美青年、などと勝手に分析までしていた私。
恥ずかしさに、今度は自分の耳が熱くなる。
実際のところ、これまで顔を合わせる度にお互いけんか腰だったから、こうして向き合って、目を合わせ、普通に話をするなんて初めて。
落ち着かなくて当然だろう。
しばらくの沈黙の後、ようやくカスピアンが口を開いた。
「このまま王宮に戻るつもりだったが……おまえを一時的に、あの小人夫婦のところに帰すことにした」
「えっ、本当?」
びっくりして聞き返すと、不機嫌そうにしかめっ面をしたカスピアンがひとつ、ため息をした。
「エティグスの間者を手引きした者を捕らえるまでは、一切の油断は出来ない。今、おまえを王宮に連れ帰ると、しばらくは部屋から出す事は出来ず、きっと、おまえも退屈するだろう。不本意だが、環境が整うまでは、致し方あるまい」
思いがけず、アンリとヘレンのところへ戻れるとわかり、ホッと胸を撫で下ろす。王宮に連れていかれ、周囲から疑いの目にさらされるのかと気が気でなかった私にとっては、これほど嬉しいことはない。
「あの山の周りは既に警備している場所だから、今の王宮よりは安全だ」
「うん、ありがとう!」
元々は、アンリやヘレンの行動を監視する目的で兵士を配備したのだろうが、見方を変えれば、山の中は安心して過ごせる場所ということになる。
久しぶりに以前の自由な生活に戻れると知り、強ばっていた体が、緊張が解けたように軽くなっていく。
久しぶりに会えるアンリとヘレンの顔を思い浮かべる。
本当の親ではないけれど、家族のように大切にしてくれた二人は、私にとってはこの国でかけがえのない存在だ。
急に戻って来たら、きっとものすごく驚く事だろう。
また、以前のように平穏な時間を過ごせると思うと、嬉しくなって笑顔でカスピアンを見た。ところが、カスピアンは明らかに気分を害した様子で、憮然としている。
彼は腕組みをし、険しい表情で私を見た。
「ほんの一時のことだ。準備が整い次第、迎えに行く。今度こそ、もう離しはせんぞ」
その言葉に私は、やはり、今こそきちんと話すべき時だと確信し、じっとカスピアンを見返した。
「あのね、カスピアン。とても大事なことだから、聞いてほしい」
深呼吸をして、注意深く言葉を選びながら、これまでうやむやにされていた真実を、しっかりと、出来るだけ正確に伝えようと、口を開いた。
「私はただの人間で、伝説の乙女じゃない。見ての通り私は異国人で、どうして、ラベロア王国に来たのかは、本当にわからないの。気がついたらこの国に居たから。竪琴は子供の時から学んでいるし、音楽で癒しを広めたいと思っているけれど、特別な力があるわけじゃないの。それにもう、竪琴は持っていないし……」
実は異国人じゃなくて異世界人になるんだろうが、話が更に複雑になるので、それ以外の部分については紛れもない事実を伝える。
「ルシア王子にも同じことを言ったけど、私に特別な価値なんてないの。エランティカの乙女だと勘違いして、手元に置いておこうと考えたところで、何も得になる事なんてないから」
「……セイラ」
口を挟もうとしたカスピアンの声を遮り、続けた。
「私のせいで、王宮で貴方の立場が悪くなっているって、ルシア王子から聞いた。それに、ルシア王子も、私を利用してラベロア王国を手に入れる事が出来るなんて、とんでもない思い込みをしてた。そんなの、本当に間違ってる!」
カスピアンは黙って、私の話に耳を傾けていた。
「もう、私を手元に置こうとしないで。全然、いいことなんか起きないから。それどころか、逆に貴方を破滅させることになるかもしれない。現に、王位継承権の剥奪なんて噂も出てるって聞いた。私のせいで、こんなことになって、貴方にも、本当に申し訳ないと思ってる」
一番危惧していることを真剣に伝えた。
「実際、あんな危険を冒して助けてくれたでしょう?下手したら、貴方は死んでいたかもしれない。この国の将来を担っていく貴方が、私のためにあんな危険なことするなんて、絶対にあってはならないことだと思う。私も、エランティカの乙女だと誤解されるせいで、私を巡って不要な争いが起きて、罪も無い兵士達を巻き込むのは辛いの」
最後までしっかり、ずっと考えていたことをすべて伝えることが出来て、ほっとする。
本当に、この容姿のせいで、大きな誤解を生んでしまったのだ。
ふと、あることを思いつく。
その誤解を生む元凶をなくせばいいじゃないか。
「カスピアン?」
彼の腰に刺してある剣の柄に触れて、たった今思いついたことを頼んでみた。
「髪を、切って。このあたりでざっくりと」
肩のあたりを指差して、髪をくるりとまとめて前に流す。
エランティカの乙女の特徴は、腰まで届くほど伸びた黒髪。
「きっと、これさえ短く切ってしまえば……」
もともと、ヘアサロンでばっさりと切って、ボブにしようかと考えていたくらいだ。
全然、悩むようなことでもない。
どうして考えつかなかったんだろう!
こんな、簡単な事を!
「今、切ってくれる?」
自分ではそんな大きな剣など扱えないので、彼に頼むしかない。
カスピアンが驚いたように目を見開いて私を見ていたが、やがて、大きく首を振り、呆れたようにため息をついた。
「何を言い出すかと思えば……大きな思い違いをしているのは、おまえのほうだ」
「私?」
どこを思い違いしているというのだ。
首をひねって考えてみたが、ちっとも思い違いしていることなんて見つからない。
「確かに、初めておまえを見た時、エランティカの乙女だと思ったことは認める。だが、それはあくまで、きっかけであったに過ぎない」
「えっ……」
「王宮内のくだらぬ噂など、おまえが気に病むことではない。ルシアのやつはいずれ必ず始末をつけるが、まずはあやつの出方を見るつもりだ。おまえの竪琴も必ず取り戻す。そして、俺は、これからも何があろうと、おまえを誰にも渡す気はない」
カスピアンの大きな手が伸びてきて、私の髪を肩の後ろに流した。
「おまえが何者かなど、どうでもいい」
ゆっくりと、その手で私の髪を撫でたカスピアン。
耳にした言葉に驚いて、彼を見つめる。
カスピアンは私の右手を取り両手で包み込むと、少しの間沈黙した。
やがて彼は、射るような強い視線を私に向け、ゆっくりと、その言葉を確かめるかのように口にした。
「……俺が欲しいのは、セイラ、おまえだ」
うろたえて、言葉を失う。
どういう意味なの?
欲しいって……
そんなの、あまりにも直球すぎて、わからない!
犬や猫を欲しがる感覚で言っているのだろうか。
あるいは、珍しいものを集めるコレクション的な意味?
それとも……
他の可能性を考えて、一気に血圧があがっていく。
否応無しに心臓が暴走を始め、今すぐにでもこの場から走り去りたい衝動にかられたけれど、どうしても目の前のカスピアンから目が離せない。
心の中で大きく膨れ上がった疑問を、勇気を振り絞って言葉にした。
「……どうして……そんなことを言うの?」
私がエランティカの乙女じゃないと知っていながら、欲しい、と言うのは、どういうことなのか。
その核心に触れるのは、怖い気がするけれど、カスピアンの考えていることがわからない以上、目の前の本人に聞くしか術が無い。
カスピアンは、熱っぽく潤んだ眼差しを私に向けたまま、黙っている。
やっぱり、答えないつもりなのだろうか。
落胆し、ため息をついて、私の右手を包んでいるカスピアンの両手を見下ろした。
ふいに、カスピアンの手に力がこめられたかと思うと、彼はそっと私の手を開いた。
どうしたのかと思ってカスピアンを見ると、彼はじっと私の目を見つめていたが、やがて、身を屈めて、ゆっくりと私の手のひらに口づけを落とした。
思いもよらないその行為に驚く。
手のひらに感じた彼の唇が、離れる直前に、何かを呟いたかのように僅かに動いた気がした。
手のひらにキスなんて……
何か、特別な意味があるの?
ドキドキとうるさい自分の心臓の音が頭の中で響く。
まともにカスピアンの顔を見ていられずうつむいていると、彼は私を抱き寄せた。
私は今にも破裂しそうな心臓を抱えたままじっとする。
カスピアンは、私の耳元で静かに囁いた。
「側に置きたいと思った娘は、おまえだけだ」
頭の中が真っ白になって、呼吸も止まりそうになった。
柔らかな日差しが差し込む森の中、緩やかな風が葉を揺らし、静かなせせらぎの音が流れている。
でも、私達の時間だけは、まるで止まったかのようだ。
カスピアンの温かな胸の中にいると、途方も無い優しさに包まれているような気がした。心の奥から何か熱いものが一気に込み上げて来る。
「セイラ。俺は……」
押し殺すようなその声に、ドキンとして顔を上げた。
熱に浮かされたように私を見つめるカスピアンと目が合い、緊張に息を飲む。
その時、後方で鳥が飛び立つ羽音と共に、私達を呼ぶ声が聞こえ、ハッとする。
「殿下!セイラ様!出発の準備が整いました!」
振り返ると、木々の向こうに、エイドリアンと複数の兵士の姿が目に入った。
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