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十章
麗しき騎士
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ルシアはこれから即位に向けた準備の為、当分の間、王都ティミリを離れる事は出来ない。
故に、カスピアンの婚儀が執り行われるのを黙って見過ごさねばならないという現実に、深いため息を零した。
年が明け即位式を終え、15代エティグス国王となるまでは身動きは出来ないが、今からでも打てる手は打っておかねばならない。
その時、扉をノックする音がして、ラウラが入室した。
「殿下。早馬が到着し、ダミアンからの報告書が届いてございます」
それを聞いたルシアは、カウチから立ち上がり早速報告書が納められている金属筒を受け取る。その蓋を開け、中から一枚の紙を取り出した。筒をラウラに渡し、紙を広げて文面に目を走らせる。険しい顔をしたルシアは、読み終えた報告書を丸めながら、思案するように暖炉の炎を眺めていたが、やがて、口元に静かな笑みを浮かべるとラウラに目を移した。
「マティアスを呼べ」
「かしこまりました」
即座に退室したラウラが扉を閉めた後、報告書をもう一度眺め、それを筒の中に入れると、ルシアはゆったりとカウチに腰掛けた。
背もたれに身を任せ、未だに激しく窓に打ち付ける雨がガラスを流れ落ちていくのを見ながら、考えを巡らせる。
時間が経つ感覚を失うように思索にふけっていると、再びノックの音がした。
扉の方へ目を向けたルシアの目に映るのは、すらりとした長身に群青色のマントを羽織った騎士。明るいブロンドの長髪は革紐で束ね、深い海を連想させる青い目は僅かに細められ微笑んでいる。
「殿下。お呼びと伺いました」
やや高めの声音は落ち着き払っている。
マティアスは姿勢を正し、美しいお辞儀をして見せた。
ルシアはくすりと笑いを零し、頭を下げたままのマティアスに声をかける。
「そう堅苦しくなるな。ここへ座れ」
その言葉に顔を上げたマティアスは、にっと不敵な笑みを浮かべ、ルシアの向かいのカウチに腰を下ろした。ルシアは腕組みをして、しげしげと向かいに座るマティアスを眺めた。
このマティアスは、実は、ルシアと血の繋がりのある人間だ。
美しいブロンドの長髪と、真っ青な目の色はまさにルシアと瓜二つで、冷静沈着な性格も良く似ている。だが、二人にはある決定的な違いがあった。
「何か、この私に御指令があるのでしょう」
マティアスは楽し気にそう言うと、じっとルシアの目を見た。幼い頃からルシアを慕っていたマティアスは、人目がないところではくだけた物言いをする。
ルシアは目を細めて微笑むと、マティアスに手を伸ばし、束ねていた金髪から革紐を抜き取った。長く美しい髪がマティアスの背を覆うように広がり、暖炉の炎を反射しキラキラと輝く。
「マティアス」
ルシアは低く、静かな声でそう呟くと、手に取った革紐をテーブルに置いて、マティアスの顔を見た。
「シャンタルの出番だ」
それを耳にしたマティアスは目を見開き、驚いたようにルシアを見ていたが、やがて、満面の笑みを浮かべた。
「シャンタルをご所望となると、詳しく説明してもらう必要がありますね」
「もちろんだ」
ルシアは苦笑し、ひとつため息を零すと腕組みをしてじっとマティアスの顔を眺めた。ルシアに似た気品に溢れた顔立ちに、その母親譲りの魅惑的な目つきをしている。細めの顎のラインは繊細で、長い手足もややほっそりとして、中性的な体躯。
王宮の女官達がマティアスを騎士団の天使と呼び、もてはやすのも無理はない。
何故なら、エティグス王国が信仰する、全能の神イグレシアスが従える御使い達は皆、美しくそして逞しく描かれるが、性別が不明だからだ。
そう、マティアスは男装の麗人。
本名はシャンタル。
ラシュレー伯爵家の娘だ。
ラシュレー伯爵は不慮の事故で早世し、未亡人となった伯爵夫人、エラは、その美貌でエティグス国王、ミハイルの目に留まり、寵姫として仕えていた。そしてエラが生んだのがこのシャンタル。
女として生まれたものの、物心ついた頃から男まさりだったシャンタルは、騎士団に入隊したことを機に、マティアスと改名した。
マティアスが実際は女だと知っているものは、王族と騎士団の上層部のみである。やや細身でありながらも、武術に長けており、その辺の騎士であれば、例え体格で負けてもその敏捷さで相手を打ち負かすほどの腕前だ。
「おまえには、アンカールに行ってもらう」
「アンカール国ですか。目的は何でしょう」
ルシアはシャンタルに目を向けると、その技量を計るかのようにじっと見つめた。
「アンカールでは年明け間もない頃に、早春の行事が開かれる。招待された外国からの賓客が集まるだろう。その中には、ラベロアの新王妃もいるに違いない」
シャンタルの口元が緩やかな弧を描いた。そして楽し気に、くすくすと笑いを零し、ルシアを見つめ返した。
「セイラ姫がいらっしゃるというわけですね」
「いかにも」
ルシアは苦笑を漏らし、朗らかに笑うシャンタルを眺めた。
「策の詳細はこれからだ。近日中におまえをアンカールへ送りこむ手筈を整える。早々にシャンタルに戻り、勘を戻しておけ」
「あぁ、これはなんとも、胸が躍る任務です」
シャンタルは独り言のようにそう呟くと、楽しくてたまらないというように微笑む。
「一度、この目で直に見たいと思っていたのです。兄上が妃にと切望する姫君ですから。今回も、ラベロア王が暗躍し、セイラ姫はまたもや姿を消したと聞きました」
既に耳に入っていたのかと、ルシアは忌々しい思いで舌打ちした。
「先ほどまで夜宴におりましたが、父上がご立腹でした。次期国王ともあろう王子が、狙いを定めた姫君をあっさり取り逃すとは、聞き捨てならぬと。しかも一度ならずとも二度ともなると、到底我が息子とは思えぬと……」
ルシアは苦々しい思いで唇を噛んだ。
父ミハイルは、若い頃から恋多き男であり、国王である今も、妃3人以外に複数の愛妾がいる。気に入れば、例え既に輿入れした女であっても、離縁させて別宅を与え囲うほどだ。
シャンタルは機嫌が悪くなっているルシアをからかうように、挑戦的に微笑みかける。
「兄上がそこまで手こずりながらも、諦めないとは、相当魅惑的な姫君としか思えません。女の姿であれば、きっと私には気を許してくださるでしょう。ラベロアの美しい王妃を奪うなど、考えただけでぞくぞくします」
その言葉を聞いて、ルシアは眉をひそめてシャンタルを眺めた。
「シャンタル。くだらぬことを考えることは許さぬぞ」
「はて、くだらぬこととはどのような?兄上は、姫がこの私に惚れてしまうのを恐れているとでも?」
シャンタルは可笑しそうにそう言うと、煌めくブロンドの髪を手でくるりと巻き上げ、美しいうなじをルシアに見せる。途端にその横顔が女性らしく見えるのを眺め、ルシアは淡く笑う。
「おまえの性格の悪さは女としか思えぬ」
「そのお言葉は褒め言葉としていただきましょう」
「なんとでも言えばよい」
呆れたように首を振るルシア。
「女装は久しいですが、なんとかしましょう。兄上の期待通り、必ずや、セイラ姫とお近づきになり、姫の御心を掴んでみせます」
シャンタルは自信たっぷりにそう呟くと、ふわりと優雅な微笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。
「では、今晩より、ラシュレー伯爵家に戻ります。騎士団長への報告はどうしますか」
「私が通達しておく」
「承知しました」
シャンタルはにっこりと華やかな微笑みを浮かべ、優雅にお辞儀をすると、足早に退室していった。
暖炉の薪が割れる音がした。
燃え盛る炎のゆらぎに目を向け、ルシアはゆったりとカウチに背を持たれるように身を横たえる。
テーブルの上に置かれている報告書の入った筒に、揺れる炎が映りこみ、まるでそれが燃えているようだった。
ルシアはシャンタルの髪を束ねていた革紐を手に取ると、軽く纏めて暖炉へと投げ込んだ。それが黒い影となり、あっという間に炎の中に落ちながら姿を消すのを見て、くすりと笑いを零す。
ルシアはアンカール国が暗にカスピアンを後押ししていたという、ダミアンの報告を思い返した。
足取りが掴めなかったセイラが、アンカール国との国境に近い、ラベロア王国のメルベクの離宮に居たとの知らせがあったとのこと。
その移動経路を裏付けるかのように、その前日、アンカール国とエティグス王国の国境検問所で、早朝一騒動があり、何者かに捕縛されていたエティグスの兵士5人が発見された。
この事実から分かることは、間違いなく、カスピアン本人がエティグスへ侵入し、国境を混乱させた隙にセイラを連れてアンカールへ入国したということだ。
これは、アンカール国王室の助力なしでは出来ないこと。
エティグス王国の友好国であるアンカール国としては、表立ってラベロア王国の支援をするわけにはいかないはずだ。恐らく、ただカスピアンに自由に国内で動き回ることを許したくらいだろう。
以前、アンカール国のマルシオ国王の弟、ウォルシュ公爵は、ラベロアの王女との縁談でラベロアを訪れた際、ルシアが企んだセイラの誘拐を妨害した。しかしそれをきっかけに、マルシオ国王がアンジェ王女とセイラの二人を正式に招待したという。あのカスピアンがそのような招待に首を縦に振るとは思えなかったが、今回の支援を受けたとなると、間違いなくセイラはアンカール国を公式訪問することになる。
アンカールでは毎年、初春に行われる盛大な祭儀に各国の要人を招待していることから、このタイミングにセイラがアンカールを訪れるのはほぼ間違いないとみた。
エティグスの王室にも、アンカール国から既に招待状が届いている。
このような行事に、国王自身が出向く事は皆無。通常、王室関係の人間か、王室に近い高位の貴族が出席する。もともと、ルシアは地方にいる弟を行かせるつもりだったが、今回、当初予定していた弟ではなく、異母妹である、伯爵令嬢シャンタルを行かせることに決めた。
シャンタルは間違いなく期待以上の働きをしてくれることだろう。
あやつの才能を最大限に生かす策を練らねばならない。
セイラを今一度、この腕に取り戻す為に。
ルシアは疼く胸の痛みに目を閉じた。
故に、カスピアンの婚儀が執り行われるのを黙って見過ごさねばならないという現実に、深いため息を零した。
年が明け即位式を終え、15代エティグス国王となるまでは身動きは出来ないが、今からでも打てる手は打っておかねばならない。
その時、扉をノックする音がして、ラウラが入室した。
「殿下。早馬が到着し、ダミアンからの報告書が届いてございます」
それを聞いたルシアは、カウチから立ち上がり早速報告書が納められている金属筒を受け取る。その蓋を開け、中から一枚の紙を取り出した。筒をラウラに渡し、紙を広げて文面に目を走らせる。険しい顔をしたルシアは、読み終えた報告書を丸めながら、思案するように暖炉の炎を眺めていたが、やがて、口元に静かな笑みを浮かべるとラウラに目を移した。
「マティアスを呼べ」
「かしこまりました」
即座に退室したラウラが扉を閉めた後、報告書をもう一度眺め、それを筒の中に入れると、ルシアはゆったりとカウチに腰掛けた。
背もたれに身を任せ、未だに激しく窓に打ち付ける雨がガラスを流れ落ちていくのを見ながら、考えを巡らせる。
時間が経つ感覚を失うように思索にふけっていると、再びノックの音がした。
扉の方へ目を向けたルシアの目に映るのは、すらりとした長身に群青色のマントを羽織った騎士。明るいブロンドの長髪は革紐で束ね、深い海を連想させる青い目は僅かに細められ微笑んでいる。
「殿下。お呼びと伺いました」
やや高めの声音は落ち着き払っている。
マティアスは姿勢を正し、美しいお辞儀をして見せた。
ルシアはくすりと笑いを零し、頭を下げたままのマティアスに声をかける。
「そう堅苦しくなるな。ここへ座れ」
その言葉に顔を上げたマティアスは、にっと不敵な笑みを浮かべ、ルシアの向かいのカウチに腰を下ろした。ルシアは腕組みをして、しげしげと向かいに座るマティアスを眺めた。
このマティアスは、実は、ルシアと血の繋がりのある人間だ。
美しいブロンドの長髪と、真っ青な目の色はまさにルシアと瓜二つで、冷静沈着な性格も良く似ている。だが、二人にはある決定的な違いがあった。
「何か、この私に御指令があるのでしょう」
マティアスは楽し気にそう言うと、じっとルシアの目を見た。幼い頃からルシアを慕っていたマティアスは、人目がないところではくだけた物言いをする。
ルシアは目を細めて微笑むと、マティアスに手を伸ばし、束ねていた金髪から革紐を抜き取った。長く美しい髪がマティアスの背を覆うように広がり、暖炉の炎を反射しキラキラと輝く。
「マティアス」
ルシアは低く、静かな声でそう呟くと、手に取った革紐をテーブルに置いて、マティアスの顔を見た。
「シャンタルの出番だ」
それを耳にしたマティアスは目を見開き、驚いたようにルシアを見ていたが、やがて、満面の笑みを浮かべた。
「シャンタルをご所望となると、詳しく説明してもらう必要がありますね」
「もちろんだ」
ルシアは苦笑し、ひとつため息を零すと腕組みをしてじっとマティアスの顔を眺めた。ルシアに似た気品に溢れた顔立ちに、その母親譲りの魅惑的な目つきをしている。細めの顎のラインは繊細で、長い手足もややほっそりとして、中性的な体躯。
王宮の女官達がマティアスを騎士団の天使と呼び、もてはやすのも無理はない。
何故なら、エティグス王国が信仰する、全能の神イグレシアスが従える御使い達は皆、美しくそして逞しく描かれるが、性別が不明だからだ。
そう、マティアスは男装の麗人。
本名はシャンタル。
ラシュレー伯爵家の娘だ。
ラシュレー伯爵は不慮の事故で早世し、未亡人となった伯爵夫人、エラは、その美貌でエティグス国王、ミハイルの目に留まり、寵姫として仕えていた。そしてエラが生んだのがこのシャンタル。
女として生まれたものの、物心ついた頃から男まさりだったシャンタルは、騎士団に入隊したことを機に、マティアスと改名した。
マティアスが実際は女だと知っているものは、王族と騎士団の上層部のみである。やや細身でありながらも、武術に長けており、その辺の騎士であれば、例え体格で負けてもその敏捷さで相手を打ち負かすほどの腕前だ。
「おまえには、アンカールに行ってもらう」
「アンカール国ですか。目的は何でしょう」
ルシアはシャンタルに目を向けると、その技量を計るかのようにじっと見つめた。
「アンカールでは年明け間もない頃に、早春の行事が開かれる。招待された外国からの賓客が集まるだろう。その中には、ラベロアの新王妃もいるに違いない」
シャンタルの口元が緩やかな弧を描いた。そして楽し気に、くすくすと笑いを零し、ルシアを見つめ返した。
「セイラ姫がいらっしゃるというわけですね」
「いかにも」
ルシアは苦笑を漏らし、朗らかに笑うシャンタルを眺めた。
「策の詳細はこれからだ。近日中におまえをアンカールへ送りこむ手筈を整える。早々にシャンタルに戻り、勘を戻しておけ」
「あぁ、これはなんとも、胸が躍る任務です」
シャンタルは独り言のようにそう呟くと、楽しくてたまらないというように微笑む。
「一度、この目で直に見たいと思っていたのです。兄上が妃にと切望する姫君ですから。今回も、ラベロア王が暗躍し、セイラ姫はまたもや姿を消したと聞きました」
既に耳に入っていたのかと、ルシアは忌々しい思いで舌打ちした。
「先ほどまで夜宴におりましたが、父上がご立腹でした。次期国王ともあろう王子が、狙いを定めた姫君をあっさり取り逃すとは、聞き捨てならぬと。しかも一度ならずとも二度ともなると、到底我が息子とは思えぬと……」
ルシアは苦々しい思いで唇を噛んだ。
父ミハイルは、若い頃から恋多き男であり、国王である今も、妃3人以外に複数の愛妾がいる。気に入れば、例え既に輿入れした女であっても、離縁させて別宅を与え囲うほどだ。
シャンタルは機嫌が悪くなっているルシアをからかうように、挑戦的に微笑みかける。
「兄上がそこまで手こずりながらも、諦めないとは、相当魅惑的な姫君としか思えません。女の姿であれば、きっと私には気を許してくださるでしょう。ラベロアの美しい王妃を奪うなど、考えただけでぞくぞくします」
その言葉を聞いて、ルシアは眉をひそめてシャンタルを眺めた。
「シャンタル。くだらぬことを考えることは許さぬぞ」
「はて、くだらぬこととはどのような?兄上は、姫がこの私に惚れてしまうのを恐れているとでも?」
シャンタルは可笑しそうにそう言うと、煌めくブロンドの髪を手でくるりと巻き上げ、美しいうなじをルシアに見せる。途端にその横顔が女性らしく見えるのを眺め、ルシアは淡く笑う。
「おまえの性格の悪さは女としか思えぬ」
「そのお言葉は褒め言葉としていただきましょう」
「なんとでも言えばよい」
呆れたように首を振るルシア。
「女装は久しいですが、なんとかしましょう。兄上の期待通り、必ずや、セイラ姫とお近づきになり、姫の御心を掴んでみせます」
シャンタルは自信たっぷりにそう呟くと、ふわりと優雅な微笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。
「では、今晩より、ラシュレー伯爵家に戻ります。騎士団長への報告はどうしますか」
「私が通達しておく」
「承知しました」
シャンタルはにっこりと華やかな微笑みを浮かべ、優雅にお辞儀をすると、足早に退室していった。
暖炉の薪が割れる音がした。
燃え盛る炎のゆらぎに目を向け、ルシアはゆったりとカウチに背を持たれるように身を横たえる。
テーブルの上に置かれている報告書の入った筒に、揺れる炎が映りこみ、まるでそれが燃えているようだった。
ルシアはシャンタルの髪を束ねていた革紐を手に取ると、軽く纏めて暖炉へと投げ込んだ。それが黒い影となり、あっという間に炎の中に落ちながら姿を消すのを見て、くすりと笑いを零す。
ルシアはアンカール国が暗にカスピアンを後押ししていたという、ダミアンの報告を思い返した。
足取りが掴めなかったセイラが、アンカール国との国境に近い、ラベロア王国のメルベクの離宮に居たとの知らせがあったとのこと。
その移動経路を裏付けるかのように、その前日、アンカール国とエティグス王国の国境検問所で、早朝一騒動があり、何者かに捕縛されていたエティグスの兵士5人が発見された。
この事実から分かることは、間違いなく、カスピアン本人がエティグスへ侵入し、国境を混乱させた隙にセイラを連れてアンカールへ入国したということだ。
これは、アンカール国王室の助力なしでは出来ないこと。
エティグス王国の友好国であるアンカール国としては、表立ってラベロア王国の支援をするわけにはいかないはずだ。恐らく、ただカスピアンに自由に国内で動き回ることを許したくらいだろう。
以前、アンカール国のマルシオ国王の弟、ウォルシュ公爵は、ラベロアの王女との縁談でラベロアを訪れた際、ルシアが企んだセイラの誘拐を妨害した。しかしそれをきっかけに、マルシオ国王がアンジェ王女とセイラの二人を正式に招待したという。あのカスピアンがそのような招待に首を縦に振るとは思えなかったが、今回の支援を受けたとなると、間違いなくセイラはアンカール国を公式訪問することになる。
アンカールでは毎年、初春に行われる盛大な祭儀に各国の要人を招待していることから、このタイミングにセイラがアンカールを訪れるのはほぼ間違いないとみた。
エティグスの王室にも、アンカール国から既に招待状が届いている。
このような行事に、国王自身が出向く事は皆無。通常、王室関係の人間か、王室に近い高位の貴族が出席する。もともと、ルシアは地方にいる弟を行かせるつもりだったが、今回、当初予定していた弟ではなく、異母妹である、伯爵令嬢シャンタルを行かせることに決めた。
シャンタルは間違いなく期待以上の働きをしてくれることだろう。
あやつの才能を最大限に生かす策を練らねばならない。
セイラを今一度、この腕に取り戻す為に。
ルシアは疼く胸の痛みに目を閉じた。
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