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冒険者登録編
3-8 オークション
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ガイアス隊長の指輪買取から今日で5日目、今日の昼にこの町のオークション会場で俺の物となる宝石と奴隷のオークションがあるから見に行かないかとガイアス隊長からお誘いのメールがあった。
もし会場で売りに出された奴らと目が合ったら、捕らえた俺たちを恨みがましい目で見てくるだろうからと断ったのだが、フェイが何故か見たいと主張するので仕方なくガイアス隊長と会場に来ている。
オークションに懸ける商品に関しては、オークショナーが先にいろんな場所や貴族などにメールで告知してあるのだそうだ。それを見て商人や貴族たちは予想金額をたて、お目当ての品を狙って会場に来るのだと説明してくれた。クレジットなどの無いこの世界では、全て現金でのやり取りになる。大きな額が動くので開催日には衛兵も10名ほど会場の警護に駆り出されるそうだ。
つまりこの会場は国公認の正規のオークション会場という事になる。
奴隷制度の無い日本で育った俺にはどうにも気分が良くない。
先ほど一般奴隷の入札があったのだが13~18歳ぐらいの若い女の子が売られていくのは見ていて可哀想になってしまう。また、意図してそういう売り方をしている……こんな風に。
会場は天井の低い小さな体育館をイメージしてもらえればいい。体育館は球技用にやたらと天井が高く造られているがここは5m程の高さしかない。体育館のように壇上が在り、そこに司会進行をする男が1名、商品を説明する女性が1名いる。この商品を説明する女性が同情を煽るのだ。
「次は一般奴隷No3のジェシカちゃん、13歳の可愛い女の子です。彼女の任期は約5年です。暗算で2ケタの足し算引き算ができます。読み書きもできるので商店の売り子にどうでしょう? 性格は元気で活発、笑顔は見ているだけで癒されますね。彼女の父親が病気になってしまい、その薬代の為に末っ子だったジェシカちゃんが今回奉公に出されたそうです。ジェシカちゃんの雇用条件は次のようになっています。性的な奉仕は一切不可、10時間を超える労働不可、重労働不可となっています。ではジェシカちゃん、一言アピールをどうぞ」
「名前はジェシカです。13歳になったばかりです。お父さんのお薬代を稼ぐためにお仕事を探しています。優しい御主人様が居たらジェシカを雇ってください。一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
「はい! どうでしょう? 大変見事な挨拶でしたね。13歳にしては上出来ではないでしょうか? 頭も良く、覚えも早いとの事です。こんな可愛らしい子がお店に居ると、お店の雰囲気も良くなること間違いなしです。お父様の薬代の為とはいえ、まだ幼い少女、この健気な女の子に少しでも良い値を付けてあげてください。ではオークショニアお願いします」
こんな感じでどんどん買い手がついていくのだ。可哀想でしょ……。
でも、ガイアス隊長の話を聞く限りでは一般奴隷の買い取りはハローワーク的な感じがした。
金銭に余裕がないので、先に奴隷商から前借をする形で派遣契約をしているようにも見える。
ジェシカちゃんの場合はこんなだ、最初に借りられるのがこの国の最低賃金1000×365(日)×5(年)=1825000になる。一般人の平均日当が5000ジェニーなのを考えれば、足元を見られた金額だが、奴隷落ちするほど切羽詰まっているのだから足元を見られても仕方ないのだとガイアス隊長は言う。
この1825000ジェニーが、ジェシカちゃんを売った親元に先に貸し出される。
ジェシカちゃんの落札価格なのだが、5400000ジェニーになった。
この金額には本人も驚いて涙を流して主人になる人にお礼を言っていた。
この5400000からオークショナーに1割手数料として抜かれる。そしてその額の2割が奴隷商に入るので4860000の2割972000ジェニーが奴隷商に入る。残った3888000ジェニーから先に支払われている1825000ジェニーを引かれた差額、2063000ジェニーがジェシカちゃんの手元に入る。この差額は両親に送ってもいいし、自分で管理しても自由だそうだ。
仕方がないとはいえ、もう自分を売った両親の下に帰る気はないようで、任期が開けたらそれを元手に町で暮らすそうだ。実家に帰ってもまた売られる可能性が高いのを本人も自覚しているのだろう。5年の長い任期が明けたらジェシカちゃんは18歳。下手をしたら今度は娼館に売りに出される可能性もある。全ての親が我が子を大事にすると限らないのはどの世界も同じようだ。
ジェシカちゃんの場合器量が良かったため、一般の平均日当と大差ないくらいの値がついたので任期明けに結構な額が残るが、人によっては最初に借りた値にも達せず、労働期間の延長になる者も居るのだそうだ。そうなると奴隷商もオークショナー側も殆んど実入りが無くなる……世知辛いことだ。
肝心の犯罪奴隷なのだが―――
門番:犯罪奴隷落ち(刑期10年) 領主が一人200万で買い取り計600万
受付嬢:犯罪奴隷落ち(刑期3年) 娼館が950万で買い取り
冒険者:犯罪奴隷落ち(刑期5年) 3人で120万
誘拐窃盗団CDEF:犯罪奴隷落ち(終身刑) 4人で160万
宝石も合計で612万で売却
オークキングの魔石 132万
オーククイーンの魔石 65万
オークジェネラルの魔石 5個で138万
受付嬢が異様に高く売れたのだが、直接売られる現場を見るとやはりちょっと可哀想な気もした。親族がお金を出し合って500万ほど用意をしていたようだが狙ってた冒険者と娼館には敵わなかったようだ。3者が競った結果このような値段になったのだ。刑期3年の犯罪奴隷としては破格の値段だそうだ。
そもそもギルドの職員でなければ犯罪奴隷にまで落とされてはいないとのこと、責任ある職種に対しての罰の方がより重度な刑期が与えられるようになっているようで門番も袖の下を受け取っていただけでも10年の刑期が与えられるほどだ。
それにしてもこの金額……2777万ジェニー。オークショナーに手数料1割引いても約2422万ジェニーになる。
「フェイどうしよう? 俺、お金持ちになっちゃった……」
「兄様、美味しい物一杯食べられますね」
「冒険者になってあっという間にこれほど稼げる者も珍しい。リョウマ君は今この町で最も注目を集める人物になってしまったな。その分気を付けるんだぞ。妬みややっかみだけでも相当なものになる」
「十分気を付けるようにします。ガイアス隊長はどうして俺をオークションの入札に誘ったのですか?」
「少なからず君も関わったた事だし、気にしていたようだからな。ここ3日は特に依頼も受けず町で買い食いしたりして兄妹で楽しそうに過ごしてると聞いたものでな。暇なら捕らえた者たちの行方を知っとくのも若い君たちには社会勉強になると思ったのだ」
「なんか行動を監視されてるようで嫌ですね」
「監視はしてないのだが、何せ君たち兄妹は目立つ。魔族やダークエルフのような銀髪にその美貌だ。宿屋から外に出ただけで直ぐに情報が入ってくる。大抵が広場で兄妹でにこにこ何か食べていたという情報だがな」
「半額でいいからとか、味見にタダでいいから1つ食べてくれないかと、最近よく声を掛けられるのですよ」
「あははそうだろ、店主たちが言うには、リョウマ君たちが立ち寄って買っていく店は3割増しで客が増えるそうだ。だからまずは食べてもらわないと話にならないっていう事で、半額やら味見でって事なんだろ」
「そんな都市伝説みたいな事……止めてほしいです」
「それがあながち事実らしいのだよ。見た目が悪い店では買わない、美味しくないとニコリともしない上に2度と買わない。何度か買ってる店では美味しそうに食べていると噂がたち、皆も興味を持って買って行くそうだ。オークの串焼き屋のおやじは5割増しだと特に喜んでいたな」
「フェイが旨そうに食べていますからね……良い客寄せになってるのかもしれないです」
「話は変わるが、売られた娘たちのうち、新たに3人保護できた。だが、5人既に亡くなっているのも確認できた……3名が病死で、2名は貴族による虐待死だそうだ。買った者たちも当然裁かれるのだが、大した罪にはならないのが現状だ。まだ10名ほど手掛かりすらないのだが、今後も続行で捜索する予定になっている。しかし国外だと厳しいだろうな」
「そうでしょうね。裏取引の娘なんか表だって連れて歩かないでしょうから、尚更見つかりにくいでしょう」
ガイアス隊長とこそこそ話していると、目を腫らした40前後の女性がこちらにやってきた。
「隊長さん! うちの娘は犯罪歴も付いてないのになんで娼館なんかに売られなきゃならないのですか!」
えらい剣幕で喚きたててきた、どうやら受付嬢の母親のようだ……こう言うのがあるからホントは来たくなかったのだ。
「あなたもあなたの娘も大した罪の意識はないようですね……ギルドには情報を外部に漏らさないという鉄則があるのですよ。なぜなら個人のレベルや適性属性のスキル漏洩は、冒険者にとって命に係わる事なのです。あなたの娘はその情報を目先の小銭で安易に漏らしたのですよ。そのせいで何人もの娘がレイプされ今現在もどこかの娼館や金持ちの変態どもに凌辱されているのです。一緒に居たパーティー内の男の子たちは全員殺されています。その子たちにあなたが今言った事をもう一度言えますか? ギルドの受付とはギルドの顔であり、信頼の要る大事な部署なのです。その為、他より高い給金が支払われているのに、それに満足せず変な欲をだし、小銭につられて仲間である冒険者を売ったのです。むしろ3年で済むと知った犠牲者の家族が仕返しに攫わないだろうか心配しているくらいです」
ガイアス隊長は俺に話す時より丁重な話し方なのだが、声は怒気が孕んだような冷たさを感じた。
受付嬢や門番もこの町の内部の人間だ。町から仲間を売るような者が出たことが隊長なりにはがゆいのだろう。
母親の方もガイアス隊長に諭されて、しょんぼり帰っていった。
「ガイアス隊長、今日はありがとうございました。おかげさまで良い勉強になりました」
「あまり気分の良くないものだったろうが、君たちなら遅からずまた盗賊や犯罪組織に関わってくるだろうと思ってな。一連の流れも知っておくといい、何かの役に立つだろう」
隊長はオークションを終えた後の会場整理を見ていくと言うので、現地でそのまま別れることにした。
オークション会場は町の外れの方にあり、中心部の方に向かって歩いていたのだがフェイの様子が少しおかしい。
「どうしたフェイ? ずっと無言で何か気になる事でもあったか?」
「人が人に優越を付けて売り買いするとは……人はなんて傲慢なのでしょうね」
「そうだな、お前のいう通りだと思う。人間ぐらいじゃないかな。フェイは何で今日ここを見に来たいと言ったんだ? 嫌な気分になるのは予想できただろ?」
「門番と受付嬢の心理がどう変わるのか知りたかったのです。兄様が捕らえた時はまったく反省していませんでした。むしろ『大した罪にはならないだろう』とか、兄様を睨んで『お前のせいでばれたのか』という感情が大きかったようです。あれから何日か経ちました。奴隷落ちという重い刑罰を受け、彼らがどういう心理に変わっているのか凄く気になったのです」
「そうか、フェイは一応竜神なので心が読めるんだったな」
「兄様酷いです! 一応とかどうして言うんですか!」
「そんなにムキに怒るなよ、冗談だって。それであいつらはどう変わっていたんだ?」
「何も変わっていませんでした……特に受付嬢の彼女は射殺すかのような、恨みのこもった視線で兄様を見ていました」
「でも項垂れて泣いてたよ? 門番も受付嬢も後悔しているように見えたけどな」
「後悔はしていましたが反省はしていません。項垂れていたのは、今から我が身に訪れる事を想像して恐怖し、自分を憐れんでいただけです」
「恐怖を抱くのも仕方ないよ。門番は最前線で肉壁として使われたりするそうだぞ。受付嬢は早ければ今晩から客を取らされるかもしれないからな。冒険者が娼館主に10万ジェニーで最初の権利を買いたいとか交渉してたしな……1日何人相手しないといけないんだろな。最初はざまーみろとか思ってたけど、なんか可哀想になってきた」
「反省もできないような人を憐れんでどうするのですか? 今も不条理に客をとらされ苦しんでいる人がいるのに……」
「そうだな……ユグちゃんを頼れば探し出せるんだが、そうなったら神が介入した事になる。こういう事はこの世界全体で見れば日常的に起こってる事だ。弱肉強食のこの世界で隙を見せて敵に食いものにされたんだ。全く責任がない訳でもないから余計に俺たちは介入できないよな。今回だけ特別にとか言い出したらマジで身動きできなくなってしまう。手助けをするかしないかの判断基準が今後いるかもしれない」
「兄様は本当はどうされたいのですか?」
「助けてやりたい気はあるが、一度手を出すと今後収拾がつかなくなりそうだ。本当は神が関わっちゃいけない事なんだと思うが、身の回りで俺に関わった人ぐらいは手助けしたいと思っている。今回きっかけは与えたのだから後は人が頑張って解決するべきかな」
「兄様は難しく考えすぎだと思います。創主様なのですから好きにやっちゃえばいいのですよ? 全部ユグちゃんとナビーに任せて、可哀想な娘たちは助けてあげるのです。そして悪い奴らは全員首チョンパにするのです! ね? 簡単でしょ?」
まぁ、なんて素敵な笑顔なんでしょう! でもそれやっちゃったら法も秩序も全部俺の気分次第って事じゃん。流石にそれはいけないよ。俺、アホだから悪い方に歯止めが利かなくなってしまう。
「守りたい人だけは守るようにするよ。全部は無理だし、介入し過ぎるのもよくない」
「フェイは兄様が無茶しないように監視するから、兄様は好きなようにすればいいからね」
「ああ、俺が悪い方に行くようならフェイが止めてくれ」
「了解です兄様! ところで今日はこの後どうするのです?」
「そうだな、大金が入ったからといって、町で何もしないでボーッとしてるのもなんだしな。ギルドに寄って何か依頼がないか見てみるか?」
「はい兄様! 折角冒険者に成ったのですから、何か依頼を受けましょう!」
ちょっと人の売買で鬱な気分になったが、フェイの笑顔で大分楽になることができたのだった。
*******************************************************
お読みくださりありがとうございます。
少し不快要素を含んだ回でしたがこれで3章終了です。
もし会場で売りに出された奴らと目が合ったら、捕らえた俺たちを恨みがましい目で見てくるだろうからと断ったのだが、フェイが何故か見たいと主張するので仕方なくガイアス隊長と会場に来ている。
オークションに懸ける商品に関しては、オークショナーが先にいろんな場所や貴族などにメールで告知してあるのだそうだ。それを見て商人や貴族たちは予想金額をたて、お目当ての品を狙って会場に来るのだと説明してくれた。クレジットなどの無いこの世界では、全て現金でのやり取りになる。大きな額が動くので開催日には衛兵も10名ほど会場の警護に駆り出されるそうだ。
つまりこの会場は国公認の正規のオークション会場という事になる。
奴隷制度の無い日本で育った俺にはどうにも気分が良くない。
先ほど一般奴隷の入札があったのだが13~18歳ぐらいの若い女の子が売られていくのは見ていて可哀想になってしまう。また、意図してそういう売り方をしている……こんな風に。
会場は天井の低い小さな体育館をイメージしてもらえればいい。体育館は球技用にやたらと天井が高く造られているがここは5m程の高さしかない。体育館のように壇上が在り、そこに司会進行をする男が1名、商品を説明する女性が1名いる。この商品を説明する女性が同情を煽るのだ。
「次は一般奴隷No3のジェシカちゃん、13歳の可愛い女の子です。彼女の任期は約5年です。暗算で2ケタの足し算引き算ができます。読み書きもできるので商店の売り子にどうでしょう? 性格は元気で活発、笑顔は見ているだけで癒されますね。彼女の父親が病気になってしまい、その薬代の為に末っ子だったジェシカちゃんが今回奉公に出されたそうです。ジェシカちゃんの雇用条件は次のようになっています。性的な奉仕は一切不可、10時間を超える労働不可、重労働不可となっています。ではジェシカちゃん、一言アピールをどうぞ」
「名前はジェシカです。13歳になったばかりです。お父さんのお薬代を稼ぐためにお仕事を探しています。優しい御主人様が居たらジェシカを雇ってください。一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
「はい! どうでしょう? 大変見事な挨拶でしたね。13歳にしては上出来ではないでしょうか? 頭も良く、覚えも早いとの事です。こんな可愛らしい子がお店に居ると、お店の雰囲気も良くなること間違いなしです。お父様の薬代の為とはいえ、まだ幼い少女、この健気な女の子に少しでも良い値を付けてあげてください。ではオークショニアお願いします」
こんな感じでどんどん買い手がついていくのだ。可哀想でしょ……。
でも、ガイアス隊長の話を聞く限りでは一般奴隷の買い取りはハローワーク的な感じがした。
金銭に余裕がないので、先に奴隷商から前借をする形で派遣契約をしているようにも見える。
ジェシカちゃんの場合はこんなだ、最初に借りられるのがこの国の最低賃金1000×365(日)×5(年)=1825000になる。一般人の平均日当が5000ジェニーなのを考えれば、足元を見られた金額だが、奴隷落ちするほど切羽詰まっているのだから足元を見られても仕方ないのだとガイアス隊長は言う。
この1825000ジェニーが、ジェシカちゃんを売った親元に先に貸し出される。
ジェシカちゃんの落札価格なのだが、5400000ジェニーになった。
この金額には本人も驚いて涙を流して主人になる人にお礼を言っていた。
この5400000からオークショナーに1割手数料として抜かれる。そしてその額の2割が奴隷商に入るので4860000の2割972000ジェニーが奴隷商に入る。残った3888000ジェニーから先に支払われている1825000ジェニーを引かれた差額、2063000ジェニーがジェシカちゃんの手元に入る。この差額は両親に送ってもいいし、自分で管理しても自由だそうだ。
仕方がないとはいえ、もう自分を売った両親の下に帰る気はないようで、任期が開けたらそれを元手に町で暮らすそうだ。実家に帰ってもまた売られる可能性が高いのを本人も自覚しているのだろう。5年の長い任期が明けたらジェシカちゃんは18歳。下手をしたら今度は娼館に売りに出される可能性もある。全ての親が我が子を大事にすると限らないのはどの世界も同じようだ。
ジェシカちゃんの場合器量が良かったため、一般の平均日当と大差ないくらいの値がついたので任期明けに結構な額が残るが、人によっては最初に借りた値にも達せず、労働期間の延長になる者も居るのだそうだ。そうなると奴隷商もオークショナー側も殆んど実入りが無くなる……世知辛いことだ。
肝心の犯罪奴隷なのだが―――
門番:犯罪奴隷落ち(刑期10年) 領主が一人200万で買い取り計600万
受付嬢:犯罪奴隷落ち(刑期3年) 娼館が950万で買い取り
冒険者:犯罪奴隷落ち(刑期5年) 3人で120万
誘拐窃盗団CDEF:犯罪奴隷落ち(終身刑) 4人で160万
宝石も合計で612万で売却
オークキングの魔石 132万
オーククイーンの魔石 65万
オークジェネラルの魔石 5個で138万
受付嬢が異様に高く売れたのだが、直接売られる現場を見るとやはりちょっと可哀想な気もした。親族がお金を出し合って500万ほど用意をしていたようだが狙ってた冒険者と娼館には敵わなかったようだ。3者が競った結果このような値段になったのだ。刑期3年の犯罪奴隷としては破格の値段だそうだ。
そもそもギルドの職員でなければ犯罪奴隷にまで落とされてはいないとのこと、責任ある職種に対しての罰の方がより重度な刑期が与えられるようになっているようで門番も袖の下を受け取っていただけでも10年の刑期が与えられるほどだ。
それにしてもこの金額……2777万ジェニー。オークショナーに手数料1割引いても約2422万ジェニーになる。
「フェイどうしよう? 俺、お金持ちになっちゃった……」
「兄様、美味しい物一杯食べられますね」
「冒険者になってあっという間にこれほど稼げる者も珍しい。リョウマ君は今この町で最も注目を集める人物になってしまったな。その分気を付けるんだぞ。妬みややっかみだけでも相当なものになる」
「十分気を付けるようにします。ガイアス隊長はどうして俺をオークションの入札に誘ったのですか?」
「少なからず君も関わったた事だし、気にしていたようだからな。ここ3日は特に依頼も受けず町で買い食いしたりして兄妹で楽しそうに過ごしてると聞いたものでな。暇なら捕らえた者たちの行方を知っとくのも若い君たちには社会勉強になると思ったのだ」
「なんか行動を監視されてるようで嫌ですね」
「監視はしてないのだが、何せ君たち兄妹は目立つ。魔族やダークエルフのような銀髪にその美貌だ。宿屋から外に出ただけで直ぐに情報が入ってくる。大抵が広場で兄妹でにこにこ何か食べていたという情報だがな」
「半額でいいからとか、味見にタダでいいから1つ食べてくれないかと、最近よく声を掛けられるのですよ」
「あははそうだろ、店主たちが言うには、リョウマ君たちが立ち寄って買っていく店は3割増しで客が増えるそうだ。だからまずは食べてもらわないと話にならないっていう事で、半額やら味見でって事なんだろ」
「そんな都市伝説みたいな事……止めてほしいです」
「それがあながち事実らしいのだよ。見た目が悪い店では買わない、美味しくないとニコリともしない上に2度と買わない。何度か買ってる店では美味しそうに食べていると噂がたち、皆も興味を持って買って行くそうだ。オークの串焼き屋のおやじは5割増しだと特に喜んでいたな」
「フェイが旨そうに食べていますからね……良い客寄せになってるのかもしれないです」
「話は変わるが、売られた娘たちのうち、新たに3人保護できた。だが、5人既に亡くなっているのも確認できた……3名が病死で、2名は貴族による虐待死だそうだ。買った者たちも当然裁かれるのだが、大した罪にはならないのが現状だ。まだ10名ほど手掛かりすらないのだが、今後も続行で捜索する予定になっている。しかし国外だと厳しいだろうな」
「そうでしょうね。裏取引の娘なんか表だって連れて歩かないでしょうから、尚更見つかりにくいでしょう」
ガイアス隊長とこそこそ話していると、目を腫らした40前後の女性がこちらにやってきた。
「隊長さん! うちの娘は犯罪歴も付いてないのになんで娼館なんかに売られなきゃならないのですか!」
えらい剣幕で喚きたててきた、どうやら受付嬢の母親のようだ……こう言うのがあるからホントは来たくなかったのだ。
「あなたもあなたの娘も大した罪の意識はないようですね……ギルドには情報を外部に漏らさないという鉄則があるのですよ。なぜなら個人のレベルや適性属性のスキル漏洩は、冒険者にとって命に係わる事なのです。あなたの娘はその情報を目先の小銭で安易に漏らしたのですよ。そのせいで何人もの娘がレイプされ今現在もどこかの娼館や金持ちの変態どもに凌辱されているのです。一緒に居たパーティー内の男の子たちは全員殺されています。その子たちにあなたが今言った事をもう一度言えますか? ギルドの受付とはギルドの顔であり、信頼の要る大事な部署なのです。その為、他より高い給金が支払われているのに、それに満足せず変な欲をだし、小銭につられて仲間である冒険者を売ったのです。むしろ3年で済むと知った犠牲者の家族が仕返しに攫わないだろうか心配しているくらいです」
ガイアス隊長は俺に話す時より丁重な話し方なのだが、声は怒気が孕んだような冷たさを感じた。
受付嬢や門番もこの町の内部の人間だ。町から仲間を売るような者が出たことが隊長なりにはがゆいのだろう。
母親の方もガイアス隊長に諭されて、しょんぼり帰っていった。
「ガイアス隊長、今日はありがとうございました。おかげさまで良い勉強になりました」
「あまり気分の良くないものだったろうが、君たちなら遅からずまた盗賊や犯罪組織に関わってくるだろうと思ってな。一連の流れも知っておくといい、何かの役に立つだろう」
隊長はオークションを終えた後の会場整理を見ていくと言うので、現地でそのまま別れることにした。
オークション会場は町の外れの方にあり、中心部の方に向かって歩いていたのだがフェイの様子が少しおかしい。
「どうしたフェイ? ずっと無言で何か気になる事でもあったか?」
「人が人に優越を付けて売り買いするとは……人はなんて傲慢なのでしょうね」
「そうだな、お前のいう通りだと思う。人間ぐらいじゃないかな。フェイは何で今日ここを見に来たいと言ったんだ? 嫌な気分になるのは予想できただろ?」
「門番と受付嬢の心理がどう変わるのか知りたかったのです。兄様が捕らえた時はまったく反省していませんでした。むしろ『大した罪にはならないだろう』とか、兄様を睨んで『お前のせいでばれたのか』という感情が大きかったようです。あれから何日か経ちました。奴隷落ちという重い刑罰を受け、彼らがどういう心理に変わっているのか凄く気になったのです」
「そうか、フェイは一応竜神なので心が読めるんだったな」
「兄様酷いです! 一応とかどうして言うんですか!」
「そんなにムキに怒るなよ、冗談だって。それであいつらはどう変わっていたんだ?」
「何も変わっていませんでした……特に受付嬢の彼女は射殺すかのような、恨みのこもった視線で兄様を見ていました」
「でも項垂れて泣いてたよ? 門番も受付嬢も後悔しているように見えたけどな」
「後悔はしていましたが反省はしていません。項垂れていたのは、今から我が身に訪れる事を想像して恐怖し、自分を憐れんでいただけです」
「恐怖を抱くのも仕方ないよ。門番は最前線で肉壁として使われたりするそうだぞ。受付嬢は早ければ今晩から客を取らされるかもしれないからな。冒険者が娼館主に10万ジェニーで最初の権利を買いたいとか交渉してたしな……1日何人相手しないといけないんだろな。最初はざまーみろとか思ってたけど、なんか可哀想になってきた」
「反省もできないような人を憐れんでどうするのですか? 今も不条理に客をとらされ苦しんでいる人がいるのに……」
「そうだな……ユグちゃんを頼れば探し出せるんだが、そうなったら神が介入した事になる。こういう事はこの世界全体で見れば日常的に起こってる事だ。弱肉強食のこの世界で隙を見せて敵に食いものにされたんだ。全く責任がない訳でもないから余計に俺たちは介入できないよな。今回だけ特別にとか言い出したらマジで身動きできなくなってしまう。手助けをするかしないかの判断基準が今後いるかもしれない」
「兄様は本当はどうされたいのですか?」
「助けてやりたい気はあるが、一度手を出すと今後収拾がつかなくなりそうだ。本当は神が関わっちゃいけない事なんだと思うが、身の回りで俺に関わった人ぐらいは手助けしたいと思っている。今回きっかけは与えたのだから後は人が頑張って解決するべきかな」
「兄様は難しく考えすぎだと思います。創主様なのですから好きにやっちゃえばいいのですよ? 全部ユグちゃんとナビーに任せて、可哀想な娘たちは助けてあげるのです。そして悪い奴らは全員首チョンパにするのです! ね? 簡単でしょ?」
まぁ、なんて素敵な笑顔なんでしょう! でもそれやっちゃったら法も秩序も全部俺の気分次第って事じゃん。流石にそれはいけないよ。俺、アホだから悪い方に歯止めが利かなくなってしまう。
「守りたい人だけは守るようにするよ。全部は無理だし、介入し過ぎるのもよくない」
「フェイは兄様が無茶しないように監視するから、兄様は好きなようにすればいいからね」
「ああ、俺が悪い方に行くようならフェイが止めてくれ」
「了解です兄様! ところで今日はこの後どうするのです?」
「そうだな、大金が入ったからといって、町で何もしないでボーッとしてるのもなんだしな。ギルドに寄って何か依頼がないか見てみるか?」
「はい兄様! 折角冒険者に成ったのですから、何か依頼を受けましょう!」
ちょっと人の売買で鬱な気分になったが、フェイの笑顔で大分楽になることができたのだった。
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お読みくださりありがとうございます。
少し不快要素を含んだ回でしたがこれで3章終了です。
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絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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