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一章
二話 キョウⅡ
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「ん……おお?」
何時始まるのかと思ったらコレ、もう自由に動き回れるのか。
キャラエディット画面からシームレスに始まったから分からなかった。
さて、相変わらずここは平原で横手には森だ。
RPGとかだとイキナリ森に入ると強い雑魚に絡まれるんだよな。
マップ画面は……まぁ無いよな。
アイテムボックスもないんだ。地図とかも自分で作るか買うのが正解だろう。
森は避けるとすると、進むのは……方角が分からんな。
少し先に川もあるし川沿いに下ってみるか。
しかし、初期装備とはいえこのカバンとポーチに詰められるものと言われると
かなり制限されそうだな。
基本は自分の家みたいなのや貸し金庫屋みたいなのがあるんだろうか?
……って、よく考えたら歩いてないで走ればいいじゃないか。
自分視点だから特に何も考えずてくてく歩いてたわ。
「さて、どれくらい行けるかな」
走ってる間にステータス画面を確認しているが減ってる数値がない。
スタミナゲージ的な物はないっていうことか。
だとしたらこれ、移動は常時走ってれば良いんじゃないか?
「ぜぇっ……ぜぇっ……、ちょっ、これっ」
そんな事はまったくなかった。
最初は気のせいかと思った。
視界が上下に揺れてるから雰囲気で疲れた気になってるのかと。
いや、もしかして実際に気のせいかもしれないが。
でも、気のせいだろうがなんだろうが実際にバテる。
死ぬほど疲れる。
何でだ……
実際の体はピクリとも動いていないはず。
俺が出来るのは目を閉じるのと開くことくらいなだけだ。
呼吸を乱そうにも、そもそも俺の身体は自力で呼吸も出来ない筈。
それが何でこんなに息が上がるほど疲れる?
アレか、プラシーボ効果ってやつ?
いや、知らねーけど。
身体を動かそうとしてる信号自体は本物だから?
大丈夫なのか?
俺の身体の方、心拍数とかえらいことになってそうだが……
医者が止めないってことは身体の方は全く影響ない?
まぁ、なんでも良い。
とりあえず、この世界は走ればバテる。
それははっきりわかった。
理由はわからん。
ただ、腕や足が上がりにくくなったのは理由がわかった。
疲労度だ。
この数値が溜まった状態で身体を動かそうとすると負荷がかかる。
一定以上溜まった状態だと思ったのの半分くらいしか動いていない。
重しをつけたような錯覚がある。
これが、体が疲れて腕や足が上がらない感覚になるわけだ。
疲労度を溜めないようにある程度休憩しつつ無理せず行動する必要があるな。
現状のままだと激しいバトルは出来ない気がする。
それと疲労度の数値はMAX100から変わっていない。
走ったからなのか、戦ってもないのにAGIが1上がり脚力のスキルが2になっていた。
一番負荷がかかったと思う疲労度に影響が一切なかったところを見ると
疲労度の数値は上限100固定なのかもしれない。
となると、成長に疲労度の上昇率に補正がかかるようになるんだろうか?
いや、上がりにくいだけで上限値にプラスされる可能性はあるか。
「あぁ、居たいた。焦ったよ、スタート位置から居なくなってるから」
「うん?」
……誰だ? って他のテスターか。
なんかロボットみたいだな。
「ここはテストバージョンで、まだチュートリアルが入ってないからね。立浪さん……おっとここではキョウか。説明することがあといくつかあるんだ」
俺の名前を知ってるって事は、GM……というかテスターの管理者?
「そのためにちょっと自分のテスト用アカウントでもう一回合流し直したわけ」
もう一回?
「ああ、なるほど田辺さんか」
「そういう事。ゲーム内ではT1でよろしく頼むよ」
「了解。 ところでなんでわざわざキャラに?」
「このほうが直接いろいろやり取りしやすいだろうからね。ただのボイスチャットよりも身振り手振りもできるし」
なるほど、確かに顔を合わせたほうがわかりやすいかも。
さっきのはキャラエディットだから他のキャラを立たせられなかったとかかな。
「あれ、だったらここで事故の示談交渉なり何なりすればよかったんじゃ? 渉外担当さんにログインしてもらうなりして」
「残念ながらこのALPHAサーバは場所も規模も極秘でね。出資者との契約の都合で、ここは開発コアメンバーでも一部しか知らない。社内でもそうそう情報を漏らす原因を増やすことはできないんだ」
そううまい話はなかった。
まぁ、確かに一大プロジェクトのテストサーバーの情報なんて
元社員の示談なんてものの為においそれと漏らせないか。
「まぁそのへんはまずは置いておいて、僕が直接来たのはさっき説明しきれなかった事の補足とかだね」
「補足説明?」
「うん。基本ステータスやなんかは他のゲームで見かける有名なパラメータが多いから多分問題ないと思うけど大丈夫?」
「ええ、問題ないと思います」
「じゃあ、このゲームの独自の点について幾つか説明するよ」
独自要素か。
パラメータの表示とかを除けば、既にかなり独自な感じがするんだけど。
まずレベル。これは目安として存在するけどRPGみたいなものはありません。
ステータスの合計値等から算出した成長度合いの目安だと思ってください」
「目安でしかない?」
「そう。戦闘力ではなくあくまでステータスの合計値からの目安なので戦闘力ゼロの生産特化系でもパラメータが高ければ高レベルです」
「これはPvPだったり、クエスト参加資格的なランク分けの為の物と思ってもらえれば」
「なるほど、他のゲームで言うランクみたいなものですか」
「ええ、その認識で問題ありません」
なるほどねぇ。
ゲーム開始時の合計スタータス値がLv1で、10増えたらLv2みたいな感じか。
「それで、もう一つの成長枠としてスキルがあります。
スキルの項目に関連する行動を取ることで熟練度として溜まっていき成長します。
コレは物にもよりますが普段の何気ない行動なんかでも勝手に上昇していきます」
「さっき走ったら脚力が上がってましたよ」
「流石、もう確認済みですか。そんな感じで足を使って走ったから脚力が上昇するといった感じで成長します。一定以上成長すると派生のスキルが開放されるので自由に育ててみてください」
ああ、それで起点スキルなんて説明があったのか。
要するにあれだ、脚力スキルが10になったら脚力Ⅱが追加されるとかか。
昔やったネトゲではよく見かけたスキル育成型だな。
「現状、スキルの取得に制限は設けていなくて、製品版でもその予定です。ただし、その道を極めようとするほど上がりにくくなっていくので全てのスキルを網羅するのは現実的じゃないですね」
「そりゃそうですね。というか誰でも全部極められたら個性がない」
「そういう事です。特にこのゲームは従来のネットゲームと違いキャラ=本人ですから仮想現実没入という意味でもそのへんは『重く』してあります」
つまり、自分のキャラは唯一無二なので大切にしてね、って事か。
「あと、もう試したかもしれないけどこの世界は現実とほぼ変わらない。物理演算が働いてるし、崖や壁は普通によじ登れるようになってます。大作オープンワールドゲームみたいに見えるところはどこでも行けるし木を切り倒して家を作ったり、水を沸かしてお湯を作ったりも出来る」
「すげーな、ほんとに何でも出来るんですか」
「できますね。現実で出来ること以上に何でも出来ます。このALPHAサーバはテストサーバとして規制を掛けてないぶん特にね。なので色々注意してほしいこともあります」
やっぱ制限がないぶんいろいろ縛りがあるのか。
「製品版では規制が入るけどテスト版では服も全部脱ぎ捨てられるしモンスターを倒せば死体も残る。NPCも攻撃できるし犯罪も可能です」
え、マジで?
マッパありなの?
何そのエロゲー。
「このALPHAサーバのNPCは自己成長型の特殊AIだと思ってください。製品版での対人用インターフェースの雛形にもなるのでテスターから攻撃したり、悪いことを教えるようなことはしないようにしてください」
自己成長型AI?
そんなスゲーものも実装予定なのか。
そんな物さらっとゲームに実装できるものなのか?
あ、でもそういや一昔前にSNSを使って有名企業がAIの対話実験とかやってたっけか。
あれをゲームに組み込んだってことか?
「このサーバは兎に角リアリティを突き詰めている所があるので、実際にプレイしてみて『ここはもっとゲームっぽくしたほうが良い』みたいな参考意見とかももらえたら助かります」
そこはテスターとしては基本中の基本だな。
言われるまでもなく、ある程度情報集めたら指摘するつもりだった。
「あ、倒したモンスターの死体が残るってことは、ドロップもアイテムが落ちるわけじゃなくて……」
「ええ、解体が必要になりますし、大量の死体を放置すると死体を狙って別のモンスターが来たりするので注意が必要です」
「うへ、そこまでリアルなのか」
「テストということで過剰なレベルでリアリティを追求してます。グロ表現とかでこのサーバは間違いなくR18規制対象に入りますね」
いや、そんな入りますねとか苦笑されても。
しかし、そうか。
過剰なレベルでのリアリティのある世界を作っておいてそこから一般に出せる物へデフォルメ作業していくのか。
今までやったテストプレイは、ほぼ仕様とかが確定したものばかりだったからこういうタイプのテストに参加するのは初めてだな。
しかも家とか建てれるなら、オープンワールドのアクションというよりもスローライフ系の仮想現実生活とかに重点を置くことも出来るのか。
「現状説明することは以上かな。あ、あとは戦い方とかか」
「バトルに特殊なルールとかあるんですか?」
「いや、特に無いよ。普通に戦えば良いんだけど結構最初はテスターの人も苦戦しているみたいだから少しだけ注意点を、というよりコツみたいなものだね」
コツとな?
「あっち、茂みの向こうにモンスター……というより獣がいるのは分かる?」
「ああ、居ますね」
なんかカピパラみたいなデカイネズミだ。
「あれはボールラットっていう雑食のネズミで縄張り意識が強くて、他の生き物を見ると逃げずに向かってくるから戦いの練習にちょうどいいんだ」
なるほど、勝手に向かってきてくれるなら確かにやりやすい……のか?
というか、それは戦わずに逃げる獣もいるってことか。
アクションゲーみたいにノンアクティブは近づいても逃げないとかはないと。
「ちょっとショートソードを抜いてみて」
「こうですか?」
とりあえず鞘から引っこ抜いてみる。
こうしてみるとショートソードって結構大きいんだな。
なんかナイフみたいなの想像してた。
「まず最初の注意点なんだけど、ちょっとその刃を指でなぞってみて?」
「こうですか?」
ピッと。
刃を撫ぜて……
「痛って!?」
なにこれ、自傷設定までありなのか。
指先で刃をなぞったら普通に指先へのダメージ食らったぞ。
「あはは、まぁそんな感じで、武器の扱いを間違えると自分や、下手すると仲間まで攻撃してしまうんだ」
「おおう、なるほど……」
うわ、考えなしに力入れたせいで指がぱっくり割けてる。
これ、自分の武器でもダメージ受けるのか。
……ってことは乱戦だと普通にフレンドリファイアするってことだよな。
けっこうシビアなんじゃねーのコレ?
「しっかし、結構ダメージはダイレクトに来るんですね。かなりリアルでほんとにきれたのかとおもいましたよ」
「まぁ、一種の錯覚かな。アクションゲームでよく自キャラが攻撃受けると痛てって言っちゃうやつ」
ああ、あるあるネタだよな。
でもこれ、そんなレベルじゃなくね?
「にしたってコレはやりすぎっすよ。指先切っただけでこんなに痛いなら、バトルでやられたら心臓弱い人とかショック死しかねないんじゃないですか?」
「えっ!?」
えっ?
「いや、確かにリアリティは重要だと思いますけど、これだと大ダメージ受けたら痛みで動けなくなって回復とかする間もなくやられちゃうんじゃ……」
「え、ちょっとまって。そんなにはっきり感じるくらい痛いの?」
「ええ、指先が今もジンジンと……」
「え、ちょっとまってね!? 病室で機材管理してるスタッフに確認取るから」
「はい……」
なんだ?
なんか想定外のことがあったんだろうか。
まぁ、今の感じだと痛みの表現機能が過剰に出てるとかか。
いや、それよりもこのゲームの特性だ。
さっきの田辺さんの言葉と自傷可能なこのシステムとかを考えると
戦い方や生活とかかなり気をつける必要がある。
さっきのショートソード、刃をなぞった指の部分だけが裂けた。
つまりオブジェクトの判定も身体の判定もめちゃくちゃ細かいって事だ。
多分目潰しとかそういうのも確実にあると考えたほうが良い。
ゲーム感覚で料理道具とか使うと指を飛ばしかねない。
あれ……身体欠損したらどうなるんだ?
死んだらキャラロストって事はないだろうけど……
「ごめん、ちょっと確認だけど指先が切れたのを今でも痛みを感じてるんだよね?」
「そうですね。……なにかおかしいんですか?」
「うん。このゲームを動かす為の外部装備なんだけど、ダメージを受けるとその部分が振動して擬似的にどこがダメージを受けたか分かるようになってるんだけど」
振動?
そんな感じじゃないんだけど……
「でも、それはあくまで振動。スマホのバイブ機能のようなものでしか無いんだ。鋭い痛みを感じるような機能はついてない」
はて?
でも実際いまでもダクダク血が流れて痛いのが続いてるわけだが。
ってかほんとにいてーな畜生。
「今、スタッフに立浪さんの体に異常がないか確認してもらってるんだけど、心拍数に一瞬乱れが出たたようだけど指はどこにも怪我は見られないそうだよ」
「ううん? どういうことですかね?」
「機材やゲームのログを調べてみたけど異常は見当たらないんだ。原因不明のバグか、あるいは立浪さんの特殊な状態が引き起こしてるのか……」
たしかに俺の状態は普通じゃないからそういう可能性もあるのか。
「どちらにしても、原因不明の鋭い痛みを感じるっていうのは放置できない。こちらから頼んでおいて申し訳ないですが原因が分かるまでテストは中止しましょう」
う~ん……中止か。
確かに、ゲームで痛みを感じるってのはただ事じゃないし
そんな危険なものを売り出す訳にはいかないよな。
……ただなぁ
「あの、それなんですけど、このまま続けられないですかね?」
「え、はっきり痛み感じてるんですよね? かなり危険だと思うんですけど」
「痛みを感じるのは間違いないんですけど、痛みを感じられるだけマシというか、せっかく自由に動けるんだから、また指先一つ動かせない状態になる方が俺にとってはよっぽど怖いっていいますかね……」
せっかくこんなラノベみたいな世界でリアルに過ごせるんだ。
寝たきりに戻るなんてまっぴらごめんだ。
それに、痛みを感じるような原因を作らなければいいだけのはず。
「そちらの方で原因を調べてもらう間も機材、使わせてもらえませんか?」
「自分がかなり危険なことを言っているっていう事は理解は出来てます? さっきの規約の中に書いてあったけど、機材の故障とかでの怪我でない限り、体調異常とかの責任を社は取れないんですよ?」
「はい。解ってます」
正直自分でもどうかしてると思う。
ただ……
「……わかりました。こちらとしても自由をみせてすぐに取り上げるような真似はしたくない。でも、一度機材は取り替えさせてもらいます。機材側の異常かもしれないし、ログ等も精査したいので」
「わかりました。それでお願いします」
「ただし、今から新しい機材を持ち込むようにしますけど、取り換えを行うまで戦闘だけは絶対にしないようにしてください」
「わかりました」
よし、コレで寝たきりだけは回避できる。
いや、身体自体はずっと寝たきりなのはかわらんのだけど。
……それにしても、俺のVRゲームなかなか始まらんな……
何時始まるのかと思ったらコレ、もう自由に動き回れるのか。
キャラエディット画面からシームレスに始まったから分からなかった。
さて、相変わらずここは平原で横手には森だ。
RPGとかだとイキナリ森に入ると強い雑魚に絡まれるんだよな。
マップ画面は……まぁ無いよな。
アイテムボックスもないんだ。地図とかも自分で作るか買うのが正解だろう。
森は避けるとすると、進むのは……方角が分からんな。
少し先に川もあるし川沿いに下ってみるか。
しかし、初期装備とはいえこのカバンとポーチに詰められるものと言われると
かなり制限されそうだな。
基本は自分の家みたいなのや貸し金庫屋みたいなのがあるんだろうか?
……って、よく考えたら歩いてないで走ればいいじゃないか。
自分視点だから特に何も考えずてくてく歩いてたわ。
「さて、どれくらい行けるかな」
走ってる間にステータス画面を確認しているが減ってる数値がない。
スタミナゲージ的な物はないっていうことか。
だとしたらこれ、移動は常時走ってれば良いんじゃないか?
「ぜぇっ……ぜぇっ……、ちょっ、これっ」
そんな事はまったくなかった。
最初は気のせいかと思った。
視界が上下に揺れてるから雰囲気で疲れた気になってるのかと。
いや、もしかして実際に気のせいかもしれないが。
でも、気のせいだろうがなんだろうが実際にバテる。
死ぬほど疲れる。
何でだ……
実際の体はピクリとも動いていないはず。
俺が出来るのは目を閉じるのと開くことくらいなだけだ。
呼吸を乱そうにも、そもそも俺の身体は自力で呼吸も出来ない筈。
それが何でこんなに息が上がるほど疲れる?
アレか、プラシーボ効果ってやつ?
いや、知らねーけど。
身体を動かそうとしてる信号自体は本物だから?
大丈夫なのか?
俺の身体の方、心拍数とかえらいことになってそうだが……
医者が止めないってことは身体の方は全く影響ない?
まぁ、なんでも良い。
とりあえず、この世界は走ればバテる。
それははっきりわかった。
理由はわからん。
ただ、腕や足が上がりにくくなったのは理由がわかった。
疲労度だ。
この数値が溜まった状態で身体を動かそうとすると負荷がかかる。
一定以上溜まった状態だと思ったのの半分くらいしか動いていない。
重しをつけたような錯覚がある。
これが、体が疲れて腕や足が上がらない感覚になるわけだ。
疲労度を溜めないようにある程度休憩しつつ無理せず行動する必要があるな。
現状のままだと激しいバトルは出来ない気がする。
それと疲労度の数値はMAX100から変わっていない。
走ったからなのか、戦ってもないのにAGIが1上がり脚力のスキルが2になっていた。
一番負荷がかかったと思う疲労度に影響が一切なかったところを見ると
疲労度の数値は上限100固定なのかもしれない。
となると、成長に疲労度の上昇率に補正がかかるようになるんだろうか?
いや、上がりにくいだけで上限値にプラスされる可能性はあるか。
「あぁ、居たいた。焦ったよ、スタート位置から居なくなってるから」
「うん?」
……誰だ? って他のテスターか。
なんかロボットみたいだな。
「ここはテストバージョンで、まだチュートリアルが入ってないからね。立浪さん……おっとここではキョウか。説明することがあといくつかあるんだ」
俺の名前を知ってるって事は、GM……というかテスターの管理者?
「そのためにちょっと自分のテスト用アカウントでもう一回合流し直したわけ」
もう一回?
「ああ、なるほど田辺さんか」
「そういう事。ゲーム内ではT1でよろしく頼むよ」
「了解。 ところでなんでわざわざキャラに?」
「このほうが直接いろいろやり取りしやすいだろうからね。ただのボイスチャットよりも身振り手振りもできるし」
なるほど、確かに顔を合わせたほうがわかりやすいかも。
さっきのはキャラエディットだから他のキャラを立たせられなかったとかかな。
「あれ、だったらここで事故の示談交渉なり何なりすればよかったんじゃ? 渉外担当さんにログインしてもらうなりして」
「残念ながらこのALPHAサーバは場所も規模も極秘でね。出資者との契約の都合で、ここは開発コアメンバーでも一部しか知らない。社内でもそうそう情報を漏らす原因を増やすことはできないんだ」
そううまい話はなかった。
まぁ、確かに一大プロジェクトのテストサーバーの情報なんて
元社員の示談なんてものの為においそれと漏らせないか。
「まぁそのへんはまずは置いておいて、僕が直接来たのはさっき説明しきれなかった事の補足とかだね」
「補足説明?」
「うん。基本ステータスやなんかは他のゲームで見かける有名なパラメータが多いから多分問題ないと思うけど大丈夫?」
「ええ、問題ないと思います」
「じゃあ、このゲームの独自の点について幾つか説明するよ」
独自要素か。
パラメータの表示とかを除けば、既にかなり独自な感じがするんだけど。
まずレベル。これは目安として存在するけどRPGみたいなものはありません。
ステータスの合計値等から算出した成長度合いの目安だと思ってください」
「目安でしかない?」
「そう。戦闘力ではなくあくまでステータスの合計値からの目安なので戦闘力ゼロの生産特化系でもパラメータが高ければ高レベルです」
「これはPvPだったり、クエスト参加資格的なランク分けの為の物と思ってもらえれば」
「なるほど、他のゲームで言うランクみたいなものですか」
「ええ、その認識で問題ありません」
なるほどねぇ。
ゲーム開始時の合計スタータス値がLv1で、10増えたらLv2みたいな感じか。
「それで、もう一つの成長枠としてスキルがあります。
スキルの項目に関連する行動を取ることで熟練度として溜まっていき成長します。
コレは物にもよりますが普段の何気ない行動なんかでも勝手に上昇していきます」
「さっき走ったら脚力が上がってましたよ」
「流石、もう確認済みですか。そんな感じで足を使って走ったから脚力が上昇するといった感じで成長します。一定以上成長すると派生のスキルが開放されるので自由に育ててみてください」
ああ、それで起点スキルなんて説明があったのか。
要するにあれだ、脚力スキルが10になったら脚力Ⅱが追加されるとかか。
昔やったネトゲではよく見かけたスキル育成型だな。
「現状、スキルの取得に制限は設けていなくて、製品版でもその予定です。ただし、その道を極めようとするほど上がりにくくなっていくので全てのスキルを網羅するのは現実的じゃないですね」
「そりゃそうですね。というか誰でも全部極められたら個性がない」
「そういう事です。特にこのゲームは従来のネットゲームと違いキャラ=本人ですから仮想現実没入という意味でもそのへんは『重く』してあります」
つまり、自分のキャラは唯一無二なので大切にしてね、って事か。
「あと、もう試したかもしれないけどこの世界は現実とほぼ変わらない。物理演算が働いてるし、崖や壁は普通によじ登れるようになってます。大作オープンワールドゲームみたいに見えるところはどこでも行けるし木を切り倒して家を作ったり、水を沸かしてお湯を作ったりも出来る」
「すげーな、ほんとに何でも出来るんですか」
「できますね。現実で出来ること以上に何でも出来ます。このALPHAサーバはテストサーバとして規制を掛けてないぶん特にね。なので色々注意してほしいこともあります」
やっぱ制限がないぶんいろいろ縛りがあるのか。
「製品版では規制が入るけどテスト版では服も全部脱ぎ捨てられるしモンスターを倒せば死体も残る。NPCも攻撃できるし犯罪も可能です」
え、マジで?
マッパありなの?
何そのエロゲー。
「このALPHAサーバのNPCは自己成長型の特殊AIだと思ってください。製品版での対人用インターフェースの雛形にもなるのでテスターから攻撃したり、悪いことを教えるようなことはしないようにしてください」
自己成長型AI?
そんなスゲーものも実装予定なのか。
そんな物さらっとゲームに実装できるものなのか?
あ、でもそういや一昔前にSNSを使って有名企業がAIの対話実験とかやってたっけか。
あれをゲームに組み込んだってことか?
「このサーバは兎に角リアリティを突き詰めている所があるので、実際にプレイしてみて『ここはもっとゲームっぽくしたほうが良い』みたいな参考意見とかももらえたら助かります」
そこはテスターとしては基本中の基本だな。
言われるまでもなく、ある程度情報集めたら指摘するつもりだった。
「あ、倒したモンスターの死体が残るってことは、ドロップもアイテムが落ちるわけじゃなくて……」
「ええ、解体が必要になりますし、大量の死体を放置すると死体を狙って別のモンスターが来たりするので注意が必要です」
「うへ、そこまでリアルなのか」
「テストということで過剰なレベルでリアリティを追求してます。グロ表現とかでこのサーバは間違いなくR18規制対象に入りますね」
いや、そんな入りますねとか苦笑されても。
しかし、そうか。
過剰なレベルでのリアリティのある世界を作っておいてそこから一般に出せる物へデフォルメ作業していくのか。
今までやったテストプレイは、ほぼ仕様とかが確定したものばかりだったからこういうタイプのテストに参加するのは初めてだな。
しかも家とか建てれるなら、オープンワールドのアクションというよりもスローライフ系の仮想現実生活とかに重点を置くことも出来るのか。
「現状説明することは以上かな。あ、あとは戦い方とかか」
「バトルに特殊なルールとかあるんですか?」
「いや、特に無いよ。普通に戦えば良いんだけど結構最初はテスターの人も苦戦しているみたいだから少しだけ注意点を、というよりコツみたいなものだね」
コツとな?
「あっち、茂みの向こうにモンスター……というより獣がいるのは分かる?」
「ああ、居ますね」
なんかカピパラみたいなデカイネズミだ。
「あれはボールラットっていう雑食のネズミで縄張り意識が強くて、他の生き物を見ると逃げずに向かってくるから戦いの練習にちょうどいいんだ」
なるほど、勝手に向かってきてくれるなら確かにやりやすい……のか?
というか、それは戦わずに逃げる獣もいるってことか。
アクションゲーみたいにノンアクティブは近づいても逃げないとかはないと。
「ちょっとショートソードを抜いてみて」
「こうですか?」
とりあえず鞘から引っこ抜いてみる。
こうしてみるとショートソードって結構大きいんだな。
なんかナイフみたいなの想像してた。
「まず最初の注意点なんだけど、ちょっとその刃を指でなぞってみて?」
「こうですか?」
ピッと。
刃を撫ぜて……
「痛って!?」
なにこれ、自傷設定までありなのか。
指先で刃をなぞったら普通に指先へのダメージ食らったぞ。
「あはは、まぁそんな感じで、武器の扱いを間違えると自分や、下手すると仲間まで攻撃してしまうんだ」
「おおう、なるほど……」
うわ、考えなしに力入れたせいで指がぱっくり割けてる。
これ、自分の武器でもダメージ受けるのか。
……ってことは乱戦だと普通にフレンドリファイアするってことだよな。
けっこうシビアなんじゃねーのコレ?
「しっかし、結構ダメージはダイレクトに来るんですね。かなりリアルでほんとにきれたのかとおもいましたよ」
「まぁ、一種の錯覚かな。アクションゲームでよく自キャラが攻撃受けると痛てって言っちゃうやつ」
ああ、あるあるネタだよな。
でもこれ、そんなレベルじゃなくね?
「にしたってコレはやりすぎっすよ。指先切っただけでこんなに痛いなら、バトルでやられたら心臓弱い人とかショック死しかねないんじゃないですか?」
「えっ!?」
えっ?
「いや、確かにリアリティは重要だと思いますけど、これだと大ダメージ受けたら痛みで動けなくなって回復とかする間もなくやられちゃうんじゃ……」
「え、ちょっとまって。そんなにはっきり感じるくらい痛いの?」
「ええ、指先が今もジンジンと……」
「え、ちょっとまってね!? 病室で機材管理してるスタッフに確認取るから」
「はい……」
なんだ?
なんか想定外のことがあったんだろうか。
まぁ、今の感じだと痛みの表現機能が過剰に出てるとかか。
いや、それよりもこのゲームの特性だ。
さっきの田辺さんの言葉と自傷可能なこのシステムとかを考えると
戦い方や生活とかかなり気をつける必要がある。
さっきのショートソード、刃をなぞった指の部分だけが裂けた。
つまりオブジェクトの判定も身体の判定もめちゃくちゃ細かいって事だ。
多分目潰しとかそういうのも確実にあると考えたほうが良い。
ゲーム感覚で料理道具とか使うと指を飛ばしかねない。
あれ……身体欠損したらどうなるんだ?
死んだらキャラロストって事はないだろうけど……
「ごめん、ちょっと確認だけど指先が切れたのを今でも痛みを感じてるんだよね?」
「そうですね。……なにかおかしいんですか?」
「うん。このゲームを動かす為の外部装備なんだけど、ダメージを受けるとその部分が振動して擬似的にどこがダメージを受けたか分かるようになってるんだけど」
振動?
そんな感じじゃないんだけど……
「でも、それはあくまで振動。スマホのバイブ機能のようなものでしか無いんだ。鋭い痛みを感じるような機能はついてない」
はて?
でも実際いまでもダクダク血が流れて痛いのが続いてるわけだが。
ってかほんとにいてーな畜生。
「今、スタッフに立浪さんの体に異常がないか確認してもらってるんだけど、心拍数に一瞬乱れが出たたようだけど指はどこにも怪我は見られないそうだよ」
「ううん? どういうことですかね?」
「機材やゲームのログを調べてみたけど異常は見当たらないんだ。原因不明のバグか、あるいは立浪さんの特殊な状態が引き起こしてるのか……」
たしかに俺の状態は普通じゃないからそういう可能性もあるのか。
「どちらにしても、原因不明の鋭い痛みを感じるっていうのは放置できない。こちらから頼んでおいて申し訳ないですが原因が分かるまでテストは中止しましょう」
う~ん……中止か。
確かに、ゲームで痛みを感じるってのはただ事じゃないし
そんな危険なものを売り出す訳にはいかないよな。
……ただなぁ
「あの、それなんですけど、このまま続けられないですかね?」
「え、はっきり痛み感じてるんですよね? かなり危険だと思うんですけど」
「痛みを感じるのは間違いないんですけど、痛みを感じられるだけマシというか、せっかく自由に動けるんだから、また指先一つ動かせない状態になる方が俺にとってはよっぽど怖いっていいますかね……」
せっかくこんなラノベみたいな世界でリアルに過ごせるんだ。
寝たきりに戻るなんてまっぴらごめんだ。
それに、痛みを感じるような原因を作らなければいいだけのはず。
「そちらの方で原因を調べてもらう間も機材、使わせてもらえませんか?」
「自分がかなり危険なことを言っているっていう事は理解は出来てます? さっきの規約の中に書いてあったけど、機材の故障とかでの怪我でない限り、体調異常とかの責任を社は取れないんですよ?」
「はい。解ってます」
正直自分でもどうかしてると思う。
ただ……
「……わかりました。こちらとしても自由をみせてすぐに取り上げるような真似はしたくない。でも、一度機材は取り替えさせてもらいます。機材側の異常かもしれないし、ログ等も精査したいので」
「わかりました。それでお願いします」
「ただし、今から新しい機材を持ち込むようにしますけど、取り換えを行うまで戦闘だけは絶対にしないようにしてください」
「わかりました」
よし、コレで寝たきりだけは回避できる。
いや、身体自体はずっと寝たきりなのはかわらんのだけど。
……それにしても、俺のVRゲームなかなか始まらんな……
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
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いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
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貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
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4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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