ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百十話 招かれざる客Ⅰ

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「何だテメェは?」

 カインが突然の闖入者を威嚇する。威嚇というかメンチ切ってる。

「この遺跡は我らの聖跡。そこに土足で踏み込んだ罰は受けて頂きますぞ」
「ハァ? 何を馬鹿な事を。ここはライラール伯爵の統治領。テメェが何処の頭のイカレタ馬鹿タレかは知らんが、この地にある以上は伯爵に所有権があるに決まってんだろうが」
「愚かな…… 聖跡のすべては元々我らが神の持ち物。貴方がたの主張など聞くに値しませんな」

 コイツ、アレだ。協会で騒いでた頭の悪い坊主だ。
 協会で暴れるのじゃ飽き足らず、私有地に立ち入って適当な事ほざいてるのか。
 宗教家への色眼鏡は我ながら自覚しているつもりだが、こいつはそんな物を通して見なくても頭が湧いてるってのは良く分かる。
 分かるんだが……どうにも違和感がぬぐえないんだよな。

「テメェのお花畑の脳味噌が理解できてなかろうが、この国の法では他人様の敷地に無断で侵入し所有者を害する行為を行えばそれは立派な犯罪なんだよ。ついでに言えば、この害するって奴は気分も含まれる。つまり、今のテメェの事だよこの犯罪野郎」
「我等を縛る法は、女神の定めた聖典のみ。この国の粗法に従う理由はありませんな」
「いや、その国に居るときは国法に従えよ……蛮族かテメェ」

 この話の通じない頭のおかしいごり押し感。
 協会での不規則言動の時点で何となくは思ってたがやっぱりコイツ、王都のあの貴族と同じでヤバい薬で理性がぶっ飛んでる感じがする。

「こっち」
「ハティ?」

 突然ハティに引っ張られてチェリーさん共々カイン達から離される。
 ハティから自発的にこういう行動をとるのは珍しいな。

「どうしたんだ?」
「キョウ。あのおじさんから血の匂い」
「……何?」
「この話の流れで、血の匂いをさせた部外者とか、犯人だと言っているようなもんよね」

 だよなぁ。
 というか、本人にもまるで隠すつもりがないというか、誇示している感じまでするな。頭がおかしくなってるからだろうか?

「どうすんだカインさんよ? エリスが言うにはそいつから血の匂いがするって言うし、おそらく帰ってこない連中やったのそいつだぜ?」
「そうだろうな。状況からみて間違いないだろう。そうでなくても今この場所に居るだけで制裁対象だ」

 まぁそうだよな。罪状は押し入りの強盗殺人って所か? 万が一探索隊に手を出していなかったとしても不法侵入のうえ、相手は貴族というかこの街の支配者だ。そんな相手に盾突いている時点でで引っ立てられても文句は言えない。
 普通ならまずこんなバカな真似はしないんだが、こちらの想像通りならそんな事に知恵なんぞ回らない状況になってるだろうし、これはもう何かしでかすという前提で構えておいた方がいいかもしれんな。
 あの狂信者の暗殺者は冷静に狂っていたとでもいうのか、ともかくこの坊主とはだいぶ毛色が違うが、根本的な『自分の言う事だけが正しい』的な反応は一致している。話し合いでどうこうするのは無理だろう。
 協会の時点でその兆候は出ていたしな。

「主の持ち物である聖跡を土足で荒らす不心得者よ。神の怒りを知るがよい」
「怒ってるのはテメェなだけだろ。神とつければ道理が引っ込むなどと考える利己主義の豚が。神の使徒が聞いて呆れる」
「愚かな。我が慈悲によって神の偉大さを知るがよいですぞ」

 そう言って取り出したのは、巨大な松葉杖? いや、あの形状どっかで……って、アレもしかして甲高い音でぶっ放すハイレーザーライフルさんなんじゃ?
 もしかして遺跡のどこかから引っ張り出してきたのか? それもう完全な泥棒じゃねーか。
 でも、この遺跡の装備じゃバッテリー全部死んでるし、レーザーなんて出やしないだろ。実は実弾銃でした! ……なんてオチでも、レールガンやコイルガンならやはりバッテリー無しでは動かないだろうし、火薬とかならとっくに湿気っていて火なんてつかない……つかないよな?
 でも砲口のあの光、嫌な予感しかしない。

「愚か者に神の裁きを!」
「何っ!?」

 とか思ってたらいきなりぶっ放しやがった! やっぱりレザライかよ! しかもキッチリ着弾点で小爆発してやがる。何のリスペクトだよ!?
 つか何で撃てるんだよふざけんなよ!? バッテリーはどうしたんだ!?

「ぐっ……テメェ、やっちまいやがったな!?」

 ホント、迷いすらせずにやりやがった。
 あらかじめ距離を取っていたこちらはさっさと障害物の陰に隠れ済みだから平気だが、護衛の俺等が隠れっぱなしで危険人物の目の前に依頼主を放置する訳にはいかないわな。とはいえあの中に飛び出すのは少々危険すぎる。

「エリス、雇い主を安全にここまで引っ張り込めるか?」
「うん。えいっ」

 安全に出来るかを試しに聞いてみるや、次の瞬間にはハティは即座に行動に移っていた。

「うおおおおぉぉぁぁぁぁ!?」

 てっきり狼に変身して一足飛びに掻っ攫ってくるのかと思ったんだが、想像していたよりも遥か斜め上の方向だった。

「ハティちゃん器用ねぇ……」
「おう……まさか釣り上げるとはな」

 そう。ハティは器用にも逃げそこなっていたカインをクライム用のロープとフックで一本釣りして見せた。

「引っ張り込んだ」
「お、おう。……よくやった」
「……っ痛ぅ……お前ら、もうちょっとマシな方法は無かったのか?」
「助かったんだから良いだろ? 一緒の走って逃げた方が良かったか?」 
「いや、良い。ただの愚痴だ。それよりも今はあのイカレ僧侶だ……オイ探索班! 聞こえてるな!? お前達は各自撤退しろ! 危険を冒して遺物を持ち帰る必要は無い。生き返って状況を伝える事を最優先するように。行けっ!」

 部屋全体に聞こえるようにカインが大声で指示を出す。光源にイカレ坊主が陣取っていてこっちの視界はほとんど聞かない。位置はばれるがこれが一番指示を伝えるのには良いか。
 キャンプ地点……光源を坊主に抑えられているという事は、逆に言えばこちらからも坊主の姿が丸見えという事でもある。光を背負ってる分、物陰に隠れていても影でおおよその位置がわかる。
 ……とはいえ隠れっぱなしでは何もできないな。

「おっと……!」

 様子を見ようと顔を出しかけたところで、障害物にしていた間仕切りの端がはじけた。流石に隠れている場所がばれているとちょっとした動きでも頭を押さえられちまうか。
 つか、光爆の見た目に反して意外と破壊力は無いのか? 障害物にした壁はそこまで破損していない。元々ボロボロだった一部が衝撃で剥がれ落ちただけの様に見える。
 それに、一発ずつの射撃間隔もかなり長く感じる。チャージ無しで打てるかどうかは分からないが、見た感じおおよそ2秒に一発。手元が隠れて引き金を引くタイミングは見えないが、逃げ回る獲物を前に一度も連射していない事から恐らく2秒間隔前後と認識して問題ない筈だ。
 俺とエリス、それにハティなら一発外させれば二射目が飛んでくる前に間合いは詰められるな。

「卑怯な! この遺跡を傷つけるとは恥を知れい!」
「ふざけんな! お前が勝手にぶっ放したんじゃねぇか!」
「あー……まともに相手をするだけ無駄っすよ。マジで話が通じないんで」

 いくらこっちが正論で対応しても、超理論で『俺に逆らうお前が悪い』的な答えが返ってくるだけだ。ハッキリ言って腹が立って仕方がないから、もう対話は諦めてモンスターか何かと思っておいた方が精神衛生上良いと首都で学んだ。

「クソ、どうやらそのようだな……それにしても何なんだ、あのふざけた威力は!」
「ここの遺跡からパクったにしては少し妙だな。どれだけ状態が良かったとしてもバッテリー……動力が動作する状態であったとはどうしても思えない」
「だが、現にあのクソ僧侶は気ままにぶっ放してるぞ」
「そうなんだよなぁ……」
「充電装置に繋がったままのバッテリーがあったとか?」
「チェリーさんの携帯は、充電器につないだまま何百年も放置してたとして動くと思う?」
「あー……」

 古代の超文明のバッテリーの性能が現実のバッテリーと同じとは限らないが、俺が見つけたバッテリーと思わしきパーツが空だったことから、それが揮発性の電気かそれに近いものを動力としたものである可能性はあると思う。つまり構造や使い道はほぼ同じと思っていいという事だ。
 そのうえで、充電器に繋げっぱなしのバッテリーの末路がどうなるかという話だ。
 大抵は蓄える力が落ちていき、良くて充電すらできないただの通電回路となり果てるか、最悪バッテリーが過充電や経年劣化で過剰膨張するだろう。むしろ電源に繋がってない方が機能的に生きている可能性があるとまでいえる。だが、あのレーザーライフルは機能を残した上で動力を残している。明らかにおかしい。
 ならそのおかしい現状に強引にでも理由づけるとした場合、もっともそれらしい理由があるとすれば、それは――

「もしかして、あの武器はこの遺跡からちょろまかした訳じゃなく、自前で持ち込んだのか……?」
「えぇ? あの頭のおかしい坊さんがあんなSF武器を標準装備してたって事? 無茶苦茶するわね」
「多分だけどな。明確な根拠とかは無い思い付きだから今は理由は聞かんでくれ」

 まぁ、確かにあの見た目でレーザライフルとかに会わないにも程がある。だがあの坊主は協会で遺跡は女神の物……いや、法国の物だったか? まぁそんな風な意味の言葉を言っていた。
 この坊主が頭おかしくなって妄想を垂れ流していたのではないのであれば、法国と遺跡には何らかの繋がりがあると考えられる。
 遺跡の遺物を基にして法国が生まれたか、権威付けの力としてそういう話をでっちあげたのか……今は調べようが無いが、もしあの坊主の様に法国が世界中から古代遺産を集めているのだとしたら、そして、それを研究開発してきたとしたら、生きた武器を持っていてもおかしくはない。
 証拠もなく、根拠も『多分』や『おそらく』といった全く信用ならない単語が並ぶ、我ながら強引なこじつけだがな!

 
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