ささげ名を

兎守 優

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君が死なないための試行錯夢

一緒に、、なろう?

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 ふと目が覚めると、肌に生暖かい夜の闇を感じた。夏の蒸す夜とはちがって、まだ耐えられる不快さだった。
 吸える空気はよどみなく潤沢にあって、なんなら窓も全開で風通しもいい。こんなにも開放的で、自由だという気持ちにあふれているのに、僕は落ち着かない心地だった。
 あのなんとも言えない、ひんやりとした閉鎖的な仄暗さの方が、安心するのだ。なぜ僕が彼に惹かれたのか、分かった気がした。
 タイミングよく襖がスーッと開く音がした。涼しくて透明な水の匂いが途端に鼻腔をくすぐる。誰だか分かる。そして、彼がなんと言うのかも。
咲麻さくま。逃げよう」
 それはいけない気がした。なぜだか分からないが、とても危険な響きがする。
笹垣ささがきもまいてきた。アイツが知らない道から行けば、追いつかれない」
 大きく開いた窓から、月明かりが部屋を照らす。シノは影を被っていたが、肌も髪も透けて闇に溶けかかっていた。
「僕は行けない。そんなことしたら、絶対、シノが不幸になる……」
「今日しかないんだ! 今日のうちに、この月が出ている間に逃げ切れば、大丈夫なんだ。頼むよ、咲麻。俺と一緒に……」
「嫌だ! シノは絶対、死のうとする! 僕のこと、いつも独りにする。一緒だって言ったのに、僕はずっと、寂しかった。大嘘つき!」
 僕は力いっぱいシノを拒絶した。彼の生身の感触が弱い。消えてしまいそうな彼の姿に胸が痛むが、振り切って走り出した。暗闇の中へ、ひとり駆けていく。涙が流れ落ちる。悲しみで胸が張り裂けそうだった。
 握ろうとしてくる彼の手を拒んで、ひとり拳を強く握りしめ、引き留めようとする腕を振り払い、僕はひた走る。途方もない闇の中を走り続けた。
 『一緒に』なんて言葉、知るんじゃなかった。『好き』だけでいられたら、つらくはならなかった。
 愛がここに芽生えてしまったから、『一緒』を選んだ先に、裂かれる痛みが必ず待っている。だって、君は僕のことを忘れなきゃいけない。僕は君と一緒にいながら、君が他の人を愛する様をずっと見続けなきゃいけないんだ。そんなの、そんな苦行、耐えられないよ。




     『………………咲麻』


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