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死合わせな邂逅
オトナ
しおりを挟む「センセ。この子は俺が預かりますんで」
笹垣の見えていないはずの目が、自分に向けられている気配を感じて、先生は怯えて目線をさらに下げた。
「そっちは今まで通り頼みやすよ~」
ここにやって来る資格を持つ生徒に、今まで通り、話の辻褄を合わせろということだ。居なくなった子は、『卒業してもらわれていった』。先生のそんな作り話を誰よりもたくさん聞いてきた子はカミオ以外にもういない。
「ここにいらっしゃるということは、なにかございましたか……」
おどおどしながら先生は笹垣にたずねたが、次の瞬間、彼の背後に目を見張り、言葉を失った。
「まぁ、あのガキが、まーた脱走したもんで」
「今日はお休みの日だったんですか……先生に、カミオに、笹垣?」
笹垣は振り向いた。瞬間的にカミオは彼の手を叩いて飛びのく。カミオの瞳にも、彼のその姿は大きく移った。
「ミズキ……?」
言葉づかい、仕草、態度、すべてが今までの彼ではなくなっていた。幼さが抜けて、大人っぽくなっていることに、皆、驚きを隠せなかった。
「先生に真っ先にお礼をしたくて」
柔依咲麻は「見てください!」とくるりと回った。
「大人にしてもらったんです!」
先生は無理やり口角を上げて笑顔を作った。カミオは変わってしまった友だちの姿に混乱して、家を飛び出してしまった。咲麻は「忙しい奴だなあ」と苦笑しながら、手を振っている。
「あ、あぁ……」
うれしそうに跳ねて帰っていく咲麻を見送り、先生は泣き崩れた。
「早くシノ様に見せに行かなきゃ。きっと、とってもよろこんでくれる!」
束の間の陽光が、鈍色の空の切れ間から微笑んだ。
悪魔の赤光が、救いの手をのぞき見せる。志音は縁側で肩を落としていたが、陽光が頭を撫でる感覚を覚えて顔を上げ、空を睨めつけた。差した光はすぐに閉じていく。彼はもう淡い期待など、とうに捨て去っていた。
世界が壊れようが、笑おうが、そのすべてを自身が知る術はない。自分ごととして疎くなっていく、世の中のことなんて味気なくて、どうにかしようという気力さえ、尽きる寸前だった。
「ねえ、見て、シノ様!」
自分を呼ぶ声。それだけが、彼を突き動かす唯一の拍動。清廉潔白で、穢れを知らず、愛のためにその身を捧げることもいとわない者たちの音が、錆びついていく機械の心を弾くのだ。
「なん、だ。その姿は」
視界が揺れた。目が回る。志音は頭を抑えた。
「大人にしてもらいました!」
その姿は見るにたえない。叱りつけたのに凝りもせずにまた行方を眩ました、数日前の咲麻とは別人だった。幼かった言動が、すっかり物心ついた者のそれに変わってしまっていたのだ。
なにも知らない彼が結んでしまった神約のせいだろう。ささげものの願いを一つだけ聞き入れ、役目に縛る。必ず願いは叶うが、神約とはそういう痛みを伴う劇物だった。
自身が差し出した犠牲の大きさを彼はこれから一生をかけて思い知ることになる。『こんな約束、するんじゃなかった』──ささげものたちが思い、苦しむ様を、そんな痛ましい姿なんて、志音はもう目に入れたくはなかった。
「これで、分かりやすくなりましたか? シノ様」
「なんのことだ」
なにを願ってしまったのか。どうして、彼はこんなことをしてしまったのか。ささげものたちが願うことなんて、一つしかないじゃないか。
咲麻は志音が見てくれなくても、ニコニコと笑って、当然のように答えを言った。
「愛が在るところです!」
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