白き檻の落園

兎守 優

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チグハグな行為

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 時間の感覚は分からない。気配が消えた。沢代さわしろが俺の住処から出て行ったのだろう。
 まだ陽の焦げる臭いがしている。あとを追うことはできない。
 術をかけずに、吸血し、セックスをした。後始末もろくにせず、放置。もう二度と帰ってこないかもしれなかった。

 陽が去る。寝床から這い出した俺は、訪問者があるのに気づく。
「また来たのか」
 夜になるとなぜか沢代さわしろは戻ってきたのだ。
 何事もなかったかのように涼しい顔をしているが、目だけは頑なに合わせてこない。吸血鬼の目など見るだけで術にかかってしまうのだから、警戒して当然のことだ。
「食事は毎日必要でしょう」
 どこかぎこちなく、沢代さわしろは背負ってきたリュックを下ろして、居座ろうとする。
 まさか他人の食事のために毎日通うつもりなのか? コイツはどういう行動原理で動いているのだろうか。
「立ち入りは制限されなかったのか?」
 「入口の近くで白い服の人、見かけたけど」とリュックを漁り、思い返しているようだ。
「そういう感じ、じゃなかったし?」
 奴らは警察組織にも、特別捜査官として入りこんでいる。吸血鬼に対抗すべく肉体を改造しており、並の人間が敵う相手ではない。
 奴らが強制的に追い返さなかったということは、奴らの中で、沢代さわしろグレンがただの血液運搬役から、吸血鬼の花嫁へと認識が変わりつつあるのだろう。
「あ、の……僕は沢代さわしろグレンです。あなたの名前、聞いても?」
「上司から聞いていないのか?」
 記憶を見たから貴様の名前は知っているとは言わない。向こうが名乗ったのだから、もう既成事実だ。
「え、まあ、聞いてないとも」
 沢代さわしろは急におどおどし始める。いったいなんだと言うのだ。
楠城くすのき七星しちせい。二度は名乗らん」
 名乗れば彼の表情が華やいだ。
「どう書くんですか?」
 彼が小躍りするように取り出したのは警察手帳だ。よりによって。取り調べみたいで気分が悪い。メモを取ろうとする手を押し返し、机上のメモ帳にペンを走らせた。
「こうだ」
 ちぎったメモ用紙を沢代さわしろに渡す。手元に渡った、楠城くすのき七星しちせいと書かれた紙を掲げたり、揺らして見たり、おかしな奴だ。
「用が済んだのなら」
「く、楠城くすのきは」
 沢代さわしろの声が変に裏返った。
「僕のこと、もしかして、好きだったりする?」
 自分で言っておいてうつむき、顔を赤くしている。
「体だけの関係は嫌というか、その、食事だけならいいんだけど」
「俺の花嫁になってほしいと思っている」
 また目を直視されると面倒なので目を逸らしつつ、動向を見守れば、沢代さわしろがガバリと顔を上げるのが視界に映った。
「そういうの、ちゃんとプロポーズして、言って欲しいなあ」
「人間の儀式は分からん。どうすればいい?」
 スッと左手が差し出される。
「左手の薬指に」
 その手を凝視する。
「ち、誓いのキスを、す、る!」
 小刻みに震える左手をすぐさま掴み上げ、薬指に唇を寄せる。唇を押し当て、リップ音を鳴らした。
「俺の花嫁になって欲しい」
 唇を離してそう告げれば、沢代さわしろがほおを緩めて「いいよ」とはにかむ。
 とんだ茶番だな。沢代さわしろの答えなど待たずとも、彼が俺の花嫁になることは決まっているのだから。
「でも、一つ条件があります」
「なんだ?」
「僕がお願いって言ったことは守って欲しいです」
 願いを聞け、か。人間は欲深い生き物だな。そう感じた。
「僕、吸血鬼のこと、よく分からないから、怖いとか嫌だなって思ったら、止めてって言うから、そういうお願い」
 強気に出てみたり、弱気になってみたり。何だか調子の狂わされる男だ。
 急に手を掴まれる。不意打ちだった。俺の左手の薬指に、唇がそっと触れて、離れる。
「返事、ちゃんとしてな」
 無理やり引き寄せ、逃げられないよう、腰を抱く。
「吸血鬼に無闇に近づくな。食うぞ」
「しょ、食事だけに、してくださいっ」
 「そうか。ならお望み通り、いただくとしよう」と逃げ腰の体を離さない。
 片手でシャツのボタンを外し、シャツをはだけさせる。グレンは身を固くして、肩を小さく震わせていた。
 強ばった体をほぐすように、肌に唇を滑らせる。ゆっくり時間をかけて肌を湿らせ、ささやいた。
「力を抜いていろ」
 脈打つ首筋を舌で丹念に舐める。沢代さわしろは柔くうなり、手で口を覆った。
 肌を舌で舐める流れで、牙を刺した。じゅるりと吸えば、牙で刺されたことにようやく沢代さわしろの体が反応した。
 喉を鳴らす度に、沢代さわしろがくぐもった艶めかしい声を上げた。強ばっていた体の力が徐々に抜けていき、支える腕に体重が乗っていく。
 数回ほど吸血して、牙を抜く。沢代さわしろの腕はだらんと下がっており、「……んぁっ」と喘ぐ声がやけに響いた。
 かぶりつきたくなる喉元、上気した肌、荒い呼吸、布越しに分かる勃ち上がりはじめた性器、そして、花嫁が発する蜜の香り。
「もっとお前を味わいたい」
 沢代さわしろの体を台の上に、その上にまたがる。
沢代さわしろ。お前とセックスがしたい。いいか?」
 すでに熱に浮かされた目で虚ろを見上げ、うわごとのように彼は返事を寄越した。
「優しく、して。ゆっくりがいい」
 優しく、ゆっくり。沢代さわしろの望む加減が分からないが、努めて丁重に扱えということだろう。
 人間の言う加減は、吸血鬼で感覚の狂った俺には分からない。だが本能が花嫁を求めて騒ぐ。感情は冷めたままだ。チグハグな温度差を感じながらも、吸血行為と同じように、肌に唇と舌を滑らせていく。
 逃げるようにもがく腕をときおり縫いとめると、沢代さわしろの体の力がふっと抜ける。指を握り締めれば、甘えるように握り返してくる。
 荒い息づかいと潜められる甘い声。明かりは離れた机にあるランプしかないのに、冴えすぎた俺の目には、沢代さわしろの裸体はよく映る。
「なにか、しゃべって、楠城くすのき
 「僕からは楠城くすのきが見えなくて不安なんだよ」と空いた左手を伸ばして宙をさまよわせる。ここだと返事の代わりに手首をつかんで、手の甲に唇を押しつけた。
「気持ちいいか?」
「え、あ、うん……」
 沢代さわしろはより一層、顔を赤らめた。
楠城くすのきも、気持ちいい?」
「あぁ」
「ほ、本当?」
「花嫁との性行為は格別だからな」
 沢代さわしろの脚が動く。行為を妨げないよう、俺がその脚を掴み、移動させようとして、彼の膨らみに触れてしまった。
「あっん……ッ」
 今までの愛撫とは比べものならないほど、甘さを含んだ声でき、放つ色香も増す。今すぐかぶりつきたい衝動を抑えて、唇を何度も舐めてから、確認を取る。
「触っていいか?」
「いい、ケド……汚いから、あんまり」
「きれいにすればいいのか?」
 ジッパーを下げ、下着をズラし、飛び出した性器に舌を這わせる。
「あ、ぁ、え……あぁ…………んン!」
 性器のぬめりを舐めとるが、先端からこぷりと溢れてきて、キリがない。沢代さわしろの声に甘さが増し、よがって腰を揺らしているが、構ってなどいられない。
 竿を舐め上げ、先端から飲み込んでいく。口内に含んで、先端を吸うと、甲高い悲鳴が上がり、口の中に蜜のような液体と精のニオイが広がる。
 荒く呼吸を繰り返し、沢代さわしろは目から涙をこぼしていた。小刻みに身体を震わせ、押し寄せる快楽に抗っているようだった。
 力を失った彼の性器の先端から、またじわりと液が滲み出て、勃ち上がってくる。
「んぁ…………っ」
 悦に浸る花嫁の中に、性器を入れたい。種を植えつけて、自分の物にしたい。普段は乱れることのない息が、欲望の高まりで上がっていることに気づく。
沢代さわしろ。お前に俺の性器を挿れたいのだが」
 「ちゃんと、ほぐして」と消え入りそうな声が返ってくる。衣類を全て脱がし、己の衣服も脱いでいると、「潤滑油……」と沢代さわしろの手が空をさまよい、何かを探しているようだ。
「唾液を使うがいいか?」
「えっ。それだと滑りが」
「自分の体液の粘度ぐらい、変えられる」
 粘り気のある唾液を手のひらにこぼし、沢代さわしろに触らせる。「すごい……ねっとりしてる」と驚き、感心しているようだ。
 試しに入り口に垂らし、塗り広げてやる。ひだに塗りこみ、抵抗がないのを確認した。
「指、入れるぞ」
 粘度のある唾液をさらに足して、穴に指を挿入した。浅いところでゆっくりと抜き差しを繰り返す。痛がる素振りを見せなければ、指を一本、付け根まで進めていく。
 中で指を曲げると、沢代さわしろの声が明らかに色めいた。曲げ伸ばしをしながら、中で指を回していく。ちゅぷり、くちゃりと水音が鳴った。
 「いいか?」と問えば、真っ赤にして震えながら、「うん……」と答えが返ってくる。たっぷりと唾液を足しながら、二本目を挿れる。しこりをかすめると、腰が浮いた。中をかき回しながら、そこを撫でれば、中の締めつけが強くなり、性器の先端からこぷりと液が溢れた。
 三本目から中を押し広げるように指を動かす。沢代さわしろは腰を揺らして、喘いでいる。彼の性器は腹につくほど反り返り、ぬらぬらとテカっていた。
 指を抜く。ぐぽりと音が鳴った。入り口がヒクヒクと動いている。
「いれたい…………」
 意味を理解した、沢代さわしろののどがゴクリと鳴る。もう一度、コクリとうなずくように喉元が動いた。
「いれるぞ」
 ちゅぷりと卑猥な水音とともに、性器がぬるりと入っていく。ほぐしはしたがやけに収まりがよく、唾液に洗浄の効果を乗せてはいるが、まさか洗ってきたのではないかと思わせるほどだった。
「あぁ、んん!」
 沢代さわしろは艶めかしく喘ぐ。二回目とは思えないほど、よがっている。記憶を見たかぎりは、妻としか性行為の経験はないようだが。
 花嫁が気持ちいいと身を震わせるのに、俺の気持ちは終始冷めたままで、愛の薄いチグハグな行為をしていた。
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