満月の夜には魚は釣れない

阪上克利

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満月の夜には魚は釣れない

夜景

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 とりとめのない話をしているうちに車は釣り場近くに着いた。
 いつもはいっぱいになっている駐車場も今日は平日の夜ということでガラガラに空いていた。

 堤防まではヘッドライトを下に向けて足元に注意しながら歩く。都会の海は街灯もあり明るいのだがそれでも釣り座の近くまでは光が届かない。

 海底が岩礁である場所を好むメバルやカサゴを釣りに行く時は大抵、足場の悪いところに釣りに行く。だから釣り座に近づけば近づくほど危険は多い。
 つまづいて転んでしまったら間違いなく怪我をするし、誤って海に転落してしまえば命の危険もあるのだ。

 今回はなるべく安全な場所を選んだ。
 何と言っても靖男は素人に毛が生えたような腕前で、しかも管理釣り場でのニジマス釣りの他は、ほとんど経験していない。歩き方や筋肉のつき方を見ても、学生時代に何かスポーツをしてきたようにも見えない。
 本来ならテトラポットの上からの釣りが一番面白いのだが、足腰がしっかりしていないとふらつく瞬間がないとも言えない。足場が悪いところの釣りは何と言っても転落の危険が付き物なのだ。
 釣りがスポーツだと言われる大きな理由の一つとして、重い荷物をもって足場の悪い場所を長い距離、移動したり、船釣りであれば揺れて足元が安定しない中、長時間踏ん張って釣りをしなければいけないところにあるのではないかと思われる。
 だからこそ、釣りをするときには安全に配慮して、ライフジャケットの着用は必須だし、滑らないフィッシングブーツのを履いていく必要がある。

 ライフジャケットは腰に巻く簡易なものを里奈が選んで靖男にプレゼントした。
『あ……ありがとうございます……』
『いえいえ。釣りは危険も多いからね』
 靖男は喜んでいるのかなんなのかよく分からない表情をしてお礼を言ってきた。
『あまり嬉しくない?』
『いや!そんなことはないですよ』
『でも顔……ひきつってんじゃん』
『いやいや。まさか!』

 彼は釣りにそこまで興味がないのかもしれないなあ……

 そんなことを里奈はそのときに思った。とは言うものの、じゃあ靖男がすごく喜んで取り組む趣味は今のところ里奈には分からない。だから本人が『嬉しい』と言っているのだからとりあえずそれを信用するしかない。

 足元に注意しながら釣り座まで移動する。
 足場の良い堤防を選んだので靖男もついてきやすい。
 工業地帯の中にある堤防なので対岸に光る工場の夜景が幻想的だ。
『キレイですね……』
 不意に靖男が言ったので里奈は少し動揺した。

 なんだ……夜景のことか……

『こういう夜景を見に行くことが女子の間では流行っているみたいよ』
『そうなんですか?でも橘さんは興味あるんですか?』
『それ、あたしに聞く?』
『はは……愚問でしたね』

 沖に伸びる堤防の一番端……つまり岸に一番近いところに着いた。
 釣り座はここから釣りながら沖に向かって歩いて行く。
 つまりランアンドガンと言う奴で、ポイントを探りながら釣っていくやり方だ。
 エサを使わないルアーでの釣りは一か所でじっとしていても釣れないことの方が多い。何と言っても魚がいるところにいかないと意味がないのだ。

 夜景の明るさで気づかなかったが、仕掛けを作り終えた里奈が何気なく夜空を見上げると、見事なまでの満月が光っていた。
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