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煮え切らない男
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煮え切らない男だなあ…。
あたしは康彦さんを見てそう思った。
佐藤さんが2階に声をかけたところ、康彦さんは降りてきた。
明らかな中年太りに、頭はボサボサ…そして顔は髭面。
服装もTシャツにジャージ。
はっきり言ってしまえば小汚い。
中年太りなのは仕方ないことだが、もっと清潔にしておけば印象も変わるはずなのにそんなこともできていない。
この人が今、仕事をしていないのがよく分かる。
『こんにちは、橋本商会の海山です。よろしくお願いします。』
『はあ…。』
挨拶すらきちんとできない。
それに今日はエアマットの件で訪問すると重ねて連絡してあるはずだ。
『あの…初子さんの褥瘡の件ですが…福祉用具を導入しつつ、訪問看護で処置しながら様子を見ていこうと思うのですが…。』
佐藤さんが話し始めた。
康彦さんはどうにもピンと来ていない様子だった。
この人…褥瘡って何のことか分かってるのかな?
それ以前に褥瘡があると言った報告もちゃんと聞いていたのかな?
『褥瘡って何ですか?』
やっぱり聞いてなかったか…。
『床ずれのことです。』
『ああ…床ずれね。まあ…仕方ないんじゃないでしょうかね。母も高齢ですから。』
『いや…あのですね。高齢だからどうこうということではなく、褥瘡は栄養状態と、寝たきりで体勢がいつも同じ状態だとなってしまうんですよ。基本的にそのままにしておきますと傷は深くなる一方ですし、そうなるとそこから菌が入って、最悪命の危険もありますから…。』
『え?死ぬの?』
今すぐ死ぬとかではないですけど…とあたしが言おうとしたのを佐藤さんが目で制してきた。
余計なことは言うのはよそう。
この人の場合は違うアプローチが必要なのかもしれない。
『死にますよ!』
すごんで佐藤さんは言った。
確かにこのぐらい言わないと康彦さんは動いてくれそうにもない。
『はあ…そんなふうには見えませんけどねえ。』
『ではそのままにしておきますか?』
『うーん。どうすればいいと思う?』
どうすればいいと思う?ではない。
どうにかしなきゃならないと思ってあたしたちはここにいる。
『あの…先程、佐藤さんがおっしゃったように褥瘡予防のマットレスに変えて、訪問看護を導入した方が良いと思いますよ。』
自分の母親のことなのにいつまでたっても康彦は煮え切らない態度だ。
見るからに頭にきていることが見え見えな佐藤さんの方をちらりと見ながらあたしは言った。
あまり間を置くと、康彦さんはまた煮え切らない態度をとり、話が前に進みそうもない。
あたしはそのまま話を進めることにした。
『初子さんは食事の際は車いすに乗り換えて台所で食事をされたり通所介護に行かれたりしているとのことなので、このマットなんてどうでしょうか?』
あたしは『オアカジヤ医療』の『メディマット』という商品を薦めることにした。
実はこのマット…かなりの優れもので、尿失禁があっても軽く水拭きするだけで匂いも汚れもとれてしまうというマットなのだ。
あたしがそのことを説明すると息子の康彦さんよりも佐藤さんの方が目を輝かせた。
『ホントに?』
『はい。汚れには強いですよ。』
どうでもいい話だが…
佐藤さんはきっと仕事が恋人なのかもしれない…。
アクセサリーや化粧品などのカタログを目を輝かせながら見る女の子のように彼女は福祉用具のカタログを見ている。
こんな顔を男の前でできればいいのだろうけどなあ…。
とあたしは余計なことを考えてしまった。
『いいじゃないですか。これ。ねえ。』
佐藤さんは康彦さんに言った。
『はあ…』
また煮え切らない。
いずれにせよマットレスを好感して訪問看護を導入しないことには褥瘡は良くならない。
訪問診療の先生がそう言っているのだから、間違いないのだ。
この息子は何を疑っているのだろうか。
『とりあえずあたしの方からの説明は以上なんですけど…なにかありますか?』
あたしはメディマットを含め、提供できる褥瘡予防のマットレスについてはすべて説明した。
『はあ…えーと…。これって今必要なんですか?』
えーーーーっ!
今、その質問かい!!
『主治医の先生がこのままにしておくとよくないから必要だとおっしゃっていますし、今のお母さんの身体の状態を考慮に入れると絶対に必要なものです。』
あたしは確信をこめていった。
ふと隣を見ると…佐藤さんの頬がピクピクしているのが見える。
怒りに打ち震えているのだろう。
かと言って家族の前で怒るわけにもいかない。
我慢が必要だ。
ケアマネジャーとは本当にストレスのたまる仕事である。
『はあ…。』
ここまではっきり言っても康彦さんの態度はまだ煮え切らない様子だった。
お金がないというのはなんとなくわかる。
しかし、お金がないのは康彦さん自身のせいでもある。
この人が仕事もせずに家にいるから、亡くなったご主人の財産を食いつぶし、お金が無くなっていくのだ。
もしお金がなくてマットレスと訪問看護を入れられないというのなら、働きに出ればいい。
そのぐらいできるだろう。
『どうします?いずれにしても先生の指示ですからエアマットは導入した方がいいと思いますけど?』
『はあ…じゃあ…。』
最後まで康彦さんは煮え切らない態度だった。
困ったものである。
この態度が続くようなら辺見さんは自宅で診るのは難しいだろう。
どうなってしまうんだろうか…。
あたしは康彦さんを見てそう思った。
佐藤さんが2階に声をかけたところ、康彦さんは降りてきた。
明らかな中年太りに、頭はボサボサ…そして顔は髭面。
服装もTシャツにジャージ。
はっきり言ってしまえば小汚い。
中年太りなのは仕方ないことだが、もっと清潔にしておけば印象も変わるはずなのにそんなこともできていない。
この人が今、仕事をしていないのがよく分かる。
『こんにちは、橋本商会の海山です。よろしくお願いします。』
『はあ…。』
挨拶すらきちんとできない。
それに今日はエアマットの件で訪問すると重ねて連絡してあるはずだ。
『あの…初子さんの褥瘡の件ですが…福祉用具を導入しつつ、訪問看護で処置しながら様子を見ていこうと思うのですが…。』
佐藤さんが話し始めた。
康彦さんはどうにもピンと来ていない様子だった。
この人…褥瘡って何のことか分かってるのかな?
それ以前に褥瘡があると言った報告もちゃんと聞いていたのかな?
『褥瘡って何ですか?』
やっぱり聞いてなかったか…。
『床ずれのことです。』
『ああ…床ずれね。まあ…仕方ないんじゃないでしょうかね。母も高齢ですから。』
『いや…あのですね。高齢だからどうこうということではなく、褥瘡は栄養状態と、寝たきりで体勢がいつも同じ状態だとなってしまうんですよ。基本的にそのままにしておきますと傷は深くなる一方ですし、そうなるとそこから菌が入って、最悪命の危険もありますから…。』
『え?死ぬの?』
今すぐ死ぬとかではないですけど…とあたしが言おうとしたのを佐藤さんが目で制してきた。
余計なことは言うのはよそう。
この人の場合は違うアプローチが必要なのかもしれない。
『死にますよ!』
すごんで佐藤さんは言った。
確かにこのぐらい言わないと康彦さんは動いてくれそうにもない。
『はあ…そんなふうには見えませんけどねえ。』
『ではそのままにしておきますか?』
『うーん。どうすればいいと思う?』
どうすればいいと思う?ではない。
どうにかしなきゃならないと思ってあたしたちはここにいる。
『あの…先程、佐藤さんがおっしゃったように褥瘡予防のマットレスに変えて、訪問看護を導入した方が良いと思いますよ。』
自分の母親のことなのにいつまでたっても康彦は煮え切らない態度だ。
見るからに頭にきていることが見え見えな佐藤さんの方をちらりと見ながらあたしは言った。
あまり間を置くと、康彦さんはまた煮え切らない態度をとり、話が前に進みそうもない。
あたしはそのまま話を進めることにした。
『初子さんは食事の際は車いすに乗り換えて台所で食事をされたり通所介護に行かれたりしているとのことなので、このマットなんてどうでしょうか?』
あたしは『オアカジヤ医療』の『メディマット』という商品を薦めることにした。
実はこのマット…かなりの優れもので、尿失禁があっても軽く水拭きするだけで匂いも汚れもとれてしまうというマットなのだ。
あたしがそのことを説明すると息子の康彦さんよりも佐藤さんの方が目を輝かせた。
『ホントに?』
『はい。汚れには強いですよ。』
どうでもいい話だが…
佐藤さんはきっと仕事が恋人なのかもしれない…。
アクセサリーや化粧品などのカタログを目を輝かせながら見る女の子のように彼女は福祉用具のカタログを見ている。
こんな顔を男の前でできればいいのだろうけどなあ…。
とあたしは余計なことを考えてしまった。
『いいじゃないですか。これ。ねえ。』
佐藤さんは康彦さんに言った。
『はあ…』
また煮え切らない。
いずれにせよマットレスを好感して訪問看護を導入しないことには褥瘡は良くならない。
訪問診療の先生がそう言っているのだから、間違いないのだ。
この息子は何を疑っているのだろうか。
『とりあえずあたしの方からの説明は以上なんですけど…なにかありますか?』
あたしはメディマットを含め、提供できる褥瘡予防のマットレスについてはすべて説明した。
『はあ…えーと…。これって今必要なんですか?』
えーーーーっ!
今、その質問かい!!
『主治医の先生がこのままにしておくとよくないから必要だとおっしゃっていますし、今のお母さんの身体の状態を考慮に入れると絶対に必要なものです。』
あたしは確信をこめていった。
ふと隣を見ると…佐藤さんの頬がピクピクしているのが見える。
怒りに打ち震えているのだろう。
かと言って家族の前で怒るわけにもいかない。
我慢が必要だ。
ケアマネジャーとは本当にストレスのたまる仕事である。
『はあ…。』
ここまではっきり言っても康彦さんの態度はまだ煮え切らない様子だった。
お金がないというのはなんとなくわかる。
しかし、お金がないのは康彦さん自身のせいでもある。
この人が仕事もせずに家にいるから、亡くなったご主人の財産を食いつぶし、お金が無くなっていくのだ。
もしお金がなくてマットレスと訪問看護を入れられないというのなら、働きに出ればいい。
そのぐらいできるだろう。
『どうします?いずれにしても先生の指示ですからエアマットは導入した方がいいと思いますけど?』
『はあ…じゃあ…。』
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この態度が続くようなら辺見さんは自宅で診るのは難しいだろう。
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