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2 師弟関係

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この世界の人間はある程度の魔力を持って生まれ、どんなに努力をしても、持って生まれた魔力量は変化することがない。


魔力は魔道具を介して初めて効果が出るが、どんな効果であるか決めるのが魔法陣である。

そして魔法陣の難易度によって流れる魔力を適合させたり調節するのだが、その能力を我々は回路と呼んでいる。


我が国では所持する魔力量が多ければ多いほど優遇される傾向にあり、王族貴族は大抵魔力を多く持つが、平民であれば魔道士になれる程の魔力を持つ者はごく僅かである。


そのごく僅かに該当する者たちの筆頭が、私とルクソスだ。
私は魔道具店を営む普通の家の娘であり、ルクソスは街で行き倒れていたところを私が拾って名前を付けた孤児である。


因みに百年前の偉大なる魔道士……ではなく、その魔道士と犬猿の仲だったらしい、少し癖のある性格の魔道士から名前を拝借した。
私にとって、その癖のある魔道士こそ、憧れの魔道士でもある。


ルクソスを拾った時、私は魔導士三年目の十九歳だった。警戒心を剝き出しにしていたルクソスだったが、力業でひれ伏させて無理矢理私の弟子にした。

私が魔道士にならなくては勿体ないと感じるくらい、栄養不足でガリガリだったルクソスから感じ取れる魔力量は膨大だったのである。



この魔力量を持ちながら道端で行き倒れていたのは、孤児であっても引き取り育てようという良心的な魔道士が彼の周りには皆無だったということだ。

私は平民であるのに史上最年少で一級魔導士となったため、それなりに国民から人気があった。そしてルクソスはそんな私の初弟子で元孤児ということもあり、更に有名になった。


「俺を弟子にしたことで、孤児をひとり助けたと自己満足しているのか」
ルクソスは私にそう言いはじめは私に師事することを嫌がった。

文字も読めない状態だったのだから、当然の拒否反応と言えよう。


「ひとり助けたところで満足なんて出来るものでしょうか?孤児だから助けたのではなく、貴方が膨大な魔力を所持していたから助けただけですよ。私は魔道士をひとり育てたいだけです。孤児を助けたいなら、ご自分でどうぞ。恐らく貴方が魔道士になるだけで、直接助けなくても勇気付けられる子供たちはたくさんいると思いますよ」

私はそんなに高尚な人間ではないので、と魔法陣の研究をしながら正直にそう言えば、ルクソスは眉間に皺を寄せたまま押し黙った。

以来、ぶつくさ文句を言いながら、なんだかんだで私の周りをウロチョロし、懐くようになった。


私の給金はその殆どが魔道具や魔法陣の収集に費やされる。
ルクソスは給金の殆どを孤児院や貧しい人々に分け与えていた。


偉大で慈悲深く、多くの人間を救う未来の一流魔道士を私が育てているのだと、目に見えて日々感じるその成長が嬉しかった。
ルクソスは間違いなく、私の愛弟子だったのである。
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