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7 奇跡と失ったもの

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あの日、確かにルクソスは死ぬ寸前だった。

けれども光に包まれた私は、遺跡調査に行く前日へと時間を遡ったのだ。


ベッドの上で目覚めた私の手の中には、遺跡調査で発見した懐中時計の形をした魔道具が握られており、それに刻まれていた魔法陣は跡形もなく消えていた。



慌ててハルラン様の元を訪ね、ルクソスの無事を確認すると、自身の経験を話した。

ハルラン様は俄に信じ難いとはおっしゃるものの、膨大だった魔力を私が失っていることには当然気付いていたため、最終的には信用して下さった。


翌日からの遺跡調査には、ルクソスをリーダーとするチームを編成してもらい、一週間ではなく二ヶ月以上の調査期間を設けるなど、色々と変更させて貰った。


一般人並みの魔力となった私に、魔道士協会の中で居場所はない。

私は退職を願い出ると荷物を纏め、置き土産として遺跡の地図や出現する魔物や注意点を書いたメモとルクソスへの手紙を置いて、日が昇る前に地元へと帰還したのだ。


「そんな……俺のせいで、師匠が……」

ハルラン様ですら直ぐには信じてくれなかった話を、ルクソスは疑う様子を一切見せずにぐっと唇を噛み締めた。

俯くルクソスの頭をぎゅっと抱き締める。

「違います、私のせいです。それに、魔力を失っただけで愛弟子が戻ってくるなら、こんなに幸運なことはありません」


古代遺跡のシステムで全ての魔道具が壊れたのに、あの古代の魔道具だけは壊れなかった。そして、私の魔力を核として、時間を遡ることができたのだ。

あの魔道具を拾っていなければ。
私の魔力量が魔道具を起動させるほど膨大でなければ。
魔道具の発動を自然と感知し、咄嗟に回路を組まなければ。

どれかひとつ違えば、こんな奇跡は起こることなく、私は一生後悔し、自責の念に駆られる毎日を過ごしていただろう。


「……だからか。俺、古代遺跡を調査中、初めて来た場所なのに、なぜか知っているような気がしたんですよ。遺跡の仕掛けも、どこに何があるかも」
「そうでしたか。今日の新聞で見ましたよ、最高難易度の古代遺跡の攻略に成功したと。二ヶ月お疲れ様でしたね」

落ち着いたらしいルクソスの頭を撫で、私は温かい飲み物を出すために一度台所へ立った。

昔のように、ルクソスは私の真後ろに立ち、ぎゅうと抱き締める。
昔腰に回っていた腕は今や肩に回され、身体的な成長も感じた。


遺跡調査を終えたその足で、私の元へ休むことなくまっすぐ飛行し続けたのだろう。

いくらルクソスには私の魔力量に気付かれたくなく、また追い出されたとはいえ、愛弟子の顔も見ずに去ったことはやはり薄情な行為だったと反省せざるを得ない。
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