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6 気付かなかった癖

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「落ち着きましたか?」
「……はい」

全身の埃を落し、髭を剃り、髪を結わせて父の服を着せ、身綺麗になったルクソスを椅子に座らせた。

そして、簡単な昼食をテーブルの上に置く。

「どうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」

ローブの洗濯は私の店の向かいにある専門店にお願いして、身に着けていた服はさっと洗って乾燥までする魔道具の中に放り込んである。


「ルクソス、貴方はこれから筆頭魔道士の後継者選定に出席するのではないですか?なぜこんなところに?」

私が疑問を口にすると、ルクソスはガツガツと好物の昼食を貪るようにして食べながらなんでもないことのようにサラリと爆弾発言を口にした。


「ああ、あれ。俺、三日前に魔道士協会抜けてきたので今は無職です」
「……は、はい?」

驚愕に目を見開く。


私のように魔力を失ったわけではないのに、魔道士を辞めたと?

変な話、私が抜けただけでも協会としては痛手であるのにルクソスが抜ければ大打撃だろう。

「よく、ハルラン様が承認なさいましたね」

ハルラン様は、私を育ててくれた現筆頭魔道士である。
人格者で崇高な人物で人望もあるが、もうご高齢であるため、後継者の選定を余儀なくされていた。

そんなハルラン様が、魔力を失った私ならまだしも、ルクソスが抜けるのをあっさりと認めるとは思えない。


「師匠とハルラン様は魔道士協会が実力主義だと思っているかもしれませんが、俺なんかを支持する奴らがいるわけないじゃないですか」
「いや、そんな――」
「ハルラン様のご機嫌取りのために俺を支持する振りをしているだけですよ。現に、俺が抜けると言えばハルラン様にご報告もせず、喜々としてハンコを押しましたよ、奴等は」
「……」

そんなわけがない、と言いたかったが、私がルクソスに手紙しか残せずに魔道士協会を後にすることになったのは、ほかの魔道士達から部屋を追い出されたことが原因である。

そしてハルラン様がトップにいたから、私やルクソスがここまで昇り詰めることが出来たことも事実だろう。


「そんなことより、師匠。……なぜ貴方が、魔力を失っているのですか?」

じっと見つめられて、視線を逸らす。

持って生まれた魔力量は普通、増えることがない。そして、減ることも。


こうして問い詰められることが嫌で、不義理だと思いつつもルクソスには会わずに手紙を残し、地元へ戻ってきたというのに。

すり、と右耳の耳たぶを触る。

「師匠、今、俺を誤魔化そうとしましたよね?都合が悪くなった時の師匠の癖が出てますよ」
「……えっ!」

二ヶ月の間に考えておいた、こうなった時の言い訳を口にしようとしたら秒で見抜かれた。
仕方なく、私は真実を話すことにした。
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