夢を叶えるオネェさん~私の為に、泣いて喚いて嫌ってくれない?~

イセヤ レキ

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忍び寄る日常の崩壊と、訪れた非日常

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月曜日、結局梶谷さんは来店されなかった。マスターも、「よっぽど体調不良の時は来れない時もあったけど、珍しいな~」と言って首を捻っていた。


翌日、火曜日。

「いらっしゃいませー。あ!梶谷さん!!」
一番に入店された梶谷さんを見て、胸に安堵と喜びが広がる。
「おはよう、また暑さが戻ってきたねー」
額に流れる汗をふきふき、梶谷さんがニコニコしながら定位置に着席した。
お水を出しながら、聞いてみる。
「昨日はいらっしゃらなかったですね。どうかしたんですか?」
「ああ、うん、ごめんね。実はね、恥ずかしい話なんだけど……日曜日の夜にジムに行ったら、月曜日に筋肉痛が凄くて、動けなくなっちゃったんだ」
「ジムですか?」
「うん。友達がオーナーやっているところがあってね、そこの体験に行ってみたんだけど……少し、って言ってたのに、ガンガンしごかれてさぁ。一年分運動した気分。まぁ、久しぶりに体を動かしたから楽しかったけどね」
「そうだったんですね。えーと、何でまた急にジムを?」
「……声、掛けて貰えたんだ」
「声?あ!同窓会ですか?」
「うん、そう。こんな容姿になっても、気付いてくれて、変わらずに声掛けてくれた……けど、逆に彼女が凄く綺麗になっててさ。少しは前みたいに戻らないと駄目かなって」
彼女・・。梶谷さんが会いたかった人は、やっぱり女性だったみたいだ。胸がツキンと痛んだ。
「話せて良かったですね」
「うん。連絡先も交換出来たし、凄くラッキーだったよ」
目元は見えないけど、口元がフワリと優しく笑う。
「それは……脈ありかもですね!」
これ以上聞きたくないのに、口は勝手に会話を続けた。
「だと良いけど……食事に誘いたいんだけど、なかなか日程があわなくてね。美味しい店もよく知らないし……」
「あ、美味しい店なら、叶さんが良くご存知かも」
「あら、私がなぁに?」
「ひゃ!」
「おはようございます、叶さん」
「梶谷クン、おはよ!夢ちゃんもおはよ!」
「ああ、びっくりしました……おはようございます、いらっしゃいませ」
「ベルの音が聞こえない位、梶谷クンに夢中になってたのかしらぁ?」
叶さん、そこは「会話に夢中」と言って欲しいです!
「まさか。俺なんて相手にしてくれる人はいませんよ」
「あら、何言ってんの。梶谷クン、イケメンじゃない」
「「え?」」
私と梶谷さんの声がハモった。
「え?イケメンじゃない。すこーし……いや、だいぶ太いのが気の毒な位、骨格見る限り凄く造作整ってるわよね?」
「……」
「あの、叶さんってそう言うのわかるんですか……?」
呆気にとられて無言の梶谷さんに代わり、聞いてみる。
「勿論!職業病みたいなものよねぇ~。形成てなおししてれば直ぐにわかるし、化粧で誤魔化しててもわかるわよ。ここの喫茶店は、美男美女が多くてお気に入りなの♪夢ちゃんに、梶谷クン、海藤さんも若い頃はかなりモテたと思うわー、マスターもいい線いってるし。あ、けど一番は工藤さんね」
「「工藤さん??」」
工藤さんと言えば、週に二回来店されるビジネスウーマンの常連さんだが、その姿は少し癖のある真っ黒な髪を後ろで一つにひっつめて結び、前髪は眉毛下でパッツンと切り揃え、極めつけに黒縁メガネをしているのである。確か、スッピンに近いナチュラルメイクをしていた様な気もするが……叶さんに言われて初めて、工藤さんの顔の造作をしっかり認識していない事に気付いた。
つい、次回こっそり見てみよう、と思ってしまう自分の野次馬根性が情けない。

「叶さん、話を戻しますが……何処か美味しいレストランってご存知ないですか?」
梶谷さんが、叶さんに聞いた。
「あら、どんなシーンで行くのかしら?」
「女性を誘いたいんです……美味しいお店、知らなくて。最近、検索してばかりなんですけど、イマイチわからなくて……」
「そうねぇ、相手の好き嫌いとかはあるのかしら?」
照れながら話す梶谷さんとその相談にのる叶さんは、梶谷さんの定位置である二人用の席で話し始めたので、私は仕事に戻った。




☆☆☆




その日から、徐々に……少しずつ、少しずつ、梶谷さんは痩せていった。私が「ジムに通い始めたんですか?」と聞けば、「いや、まだなんだ。今は食事だけで減らしてる。それが効かなくなったら、本格的に始めようかと思っているんだけどね」と答えてくれた。
どうやら、まだ彼女には会えていないらしい。仕事が忙しく、土日に休みが取れない事が会えない理由らしいが、梶谷さんの為にもそれが本当であって欲しいと思う。

梶谷さんに告白する前に失恋してしまった様なものだが、それならいっそ、私は顔をいじる事に躊躇ちゅうちょしないですむと前向きに考える事にした。
梶谷さんは良い人だから、その恋を応援したいと思うし、幸せになって貰いたいと思う。


この3ヶ月後に無事、梶谷さんは彼女と付き合い始める事となる。それをきっかけに、梶谷さんはジム通いを始め、更に3ヶ月たつ頃には常連客の皆が驚く程のスタイルになるのだが、マスターだけは「そうそう、6年前は梶谷さん、そんな感じだったよねー。当時はもっと細かったかな?今は筋肉付いたし、今のが良いねー」と言っていた。

同時に梶谷さんは長かった前髪をバッサリと切った。初めて梶谷さんの切れ長の目を見た時は、格好良すぎて腰が抜けるかと思った。背も高いので、どこぞのモデルさんが雑誌から抜け出たのかと思う程に。

梶谷さんは、彼女とのデートの待ち合わせにうちの喫茶店を使って下さったので、皆興味津々でチラチラ見ていた。
正直、びっくりする程の美人ではないけれども、コロコロ表情がよく変わって、可愛らしい方だった。後、身振り手振りのジェスチャーが面白い方だった。「話せば楽しい。けど見てるだけで飽きない」と梶谷さんが称していたのが、良くわかる。私も彼女さんとたまたま話して、自分よりも年上だと思っていた梶谷さんが実は同級生だとわかって驚いたり、梶谷さんと彼女が直ぐにゴールインする、というのはまた別の話で━━━━




☆☆☆




「叶さん。私、びっくりしました」
「ん?何が??」
「工藤さんですよ!!何で気付かなかったんだろう!?ってな位の美人でした!!」
「うふふ、でしょう?彼女もねぇ、自分の容姿をわざと隠しているフシがあるからね」
「睫毛が半端なく長いんですよ……マスカラ付けてない状態で」
「そうね、羨ましいわね~」
「鼻とか、スッて通っていて、また形が良くて……」
「あ、それなら夢ちゃんも負けてないわよ?」
「後、全体的に小顔なんですね。芸能人みたいにっ!」
「夢ちゃん……そろそろ、工藤さんの話から離れて、自分の話に戻らない?」


金曜日の夜。私は叶さんとまた、一対一サシで食事をし、アルコールを買い込んで、今度は叶さんの自宅に上がり込んでいた。

叶さんは「女にたない」らしいし、「先週みたいに飲み潰れてまた家に運ぶのは勘弁」と言われたし、かといって素面しらふだとメンタル弱くて話せないし……という諸々の理由が重なった結果だ。

地元には帰れないし、職場の人ともまず飲まないので、アルコールに弱いけど適度に好きな私は、叶さんとの宅飲みを楽しんでいた。そう、この時までは。


叶さんの自宅は、独り暮らしだというのにバカでかった。1LDKだと言うけど、LDKの部分だけで30㎡はあると思う。
リビングには、埋め込み式のこれまた多きなテレビがででーん!と鎮座していて、ミニシアターになるんじゃないかという装いだ。テレビの前にはコの字型にソファーが配置してあって、女性なら大人が三人、寝れそうだった。

叶さんは、自宅という事で「ごめんねぇ、汗かいたからちょっと流してくるわぁ~」とさっさとシャワーを浴びに消えて、何時ものスーツ姿からラフなボーダーTシャツに白のスキニーパンツに着替えた。普段と違う装いに少しドキドキしたが、それよりもオールバックしか見ていなかった髪型が、濡れて前におろすと若く可愛い印象になる事にビックリした。少し癖があるのか、茶色い髪にウェーブがかかっている。ドライヤーで乾かせば、それはフワフワとしてとても柔らかそうだった。
自分の動揺と動悸に気付かれたくなくて、「イケメンって、どんな格好してても格好良いですねー、お得ですねー!」なんてわざと茶化しながら言えば、「そうでしょそうでしょ、もっと言って頂戴♪」なんて普段通りの返事がかえって来て、ホッとする。

叶さんが、「今日の為に沢山おつまみ買っておいたのよー、どんなのが好きかしら?」と、ワインに合うチーズや生ハム、魚介のマリネに始まり、ビールや日本酒にあう枝豆やホタテ貝柱の干物、いか塩辛を出して来て、宅飲みが本格的にスタートした。

「あのね、顔をいじるって、そんなに気楽に考えない方が良いのよ?黒子ホクロ取ったり、位ならまだ問題ないんだけど。自分の容姿のせいで自信が持てなかったり、性格が暗くなったり、前向きになれないっていうコなら喜んで助けたいとは思うけど、夢ちゃんはそうじゃないでしょう?整形って、手術なのよ。必ずしも成功するとは限らないし、一度メスをいれたらもう元には戻らない。下手したら手術痕が残ったりもするし、どうしてもメンテが必要になったりするの。時間を置けば、手術したところはどうしても崩れていくしね?」
叶さんは、見た目ワインが似合いそうなのに好きなのは焼酎だそうで、かなりの量を飲んでいるにも関わらず、何時も通りの顔に真剣な表情をのせて、私に訴えた。
「……気楽に考えた訳じゃ、ないです。私には、この顔こそが、コンプレックスなんです……過去に、馬鹿な事をした事があって。それからは、この顔のせいで、職場も転々としなきゃいけなかったりして……」
「……そうだったのね」
「けど、叶さんがおっしゃる事もわかります。私も、メリットだけじゃなくて、当然デメリットを……リスクを伴うってわかってますから」
一方私は、叶さんが用意して下さっていた貴腐ワインというハチミツの様な甘さのあるワインを飲んでドまりし、ずーっとそれをちびちび飲んでいた。
本当に美味しい、このワイン。
真面目な話、且つ個人的には触れたくない話をしているのに、このワインのお陰で心が軽くなっている様だった。

「夢ちゃん、黒子占いって知ってる?」
「いえ……知りません」
「夢ちゃんの黒子は、『ついてない女』『純情な女』の位置にあるのよね。『ついてない女』の方の黒子さえ消せば、意外と何とかなるかもよ~?」
叶さんが、つつつ、と私の頬を撫でる。女友達ってこういう感じなのかなー?と思った。
「えええ!そんな位置なんですか!?……一刻も早く、取りたいですぅ……!!」
「うふふ、けど本当に、それが夢ちゃんの叶えたい事なのかしら?」
「……?」
「夢ちゃんの整形したいって言うのは、手段であって目的じゃないでしょ?夢ちゃんは、本当はどうしたいの?」
「私……私は、今の職場が好きなんです……続けたい」
「続ければ良いじゃないの」
「続けたくても、私の過去がある限り、続けられないんです!」
「何で?今までの職場では、誰かに辞めろって言われたの?」
「それは……言われて、ませんが……」
「じゃあ続けなさいよ」
「私、不安なんです……今の職場の人達も、もし私の過去を知ったら軽蔑するんじゃないか、とか思ってしまって……」
だから。そうされる前に、逃げ出していた。どの職場でも。
「顔を変えても、過去は変わらないわよ?そうねぇ……もし、顔を変えたとして、夢ちゃんに恋人が出来たとするじゃない?」
「……」
「夢ちゃんは、今度はその恋人に、いつ自分の過去がバレるんだろうってビクビクしながら生きていく事になるのよ?」

……そこまで、考えていなかった。知らず、私の視界が滲みはじめて、ツーッと涙が頬を伝ってゆく。

「夢ちゃんの願いは、本当に顔を変える事なの??」
「……違う、みたいです……。私の願いは、逃げ回らずに生活する事。職場にも、恋人にも、過去を知られたとしても、今まで通りに接して貰う事。今の私を、受け入れて、貰いたい……」
「うん。夢ちゃん、大丈夫よ、大丈夫」
号泣し出した私を、叶さんは優しく抱き締めて、背中を擦り続けた。

「夢ちゃんが、衝動的に行動するコじゃなくて本当に良かった。他の病院に行くのではなく、最初に私に相談してくれて良かったわ」
叶さんは、私の背中に回していた腕を解いて、俯き泣いている私の顎を持って、クイと上げさせた。
「私の大好きな夢ちゃんのお顔が、無事で良かったわ」
叶さんはニコリ、と微笑むと。そのまま触れるだけのキスを、私の唇に落とした。


叶さんの過剰なスキンシップに私が驚いていると、叶さんは何事もなかったかの様に私から離れ、テレビのリモコンを持った。
「じゃあ、次は私のヒミツを話す番ね♪」
そして、それを操作してスイッチを押せば……



『いやぁっっっ!!やだ!!やだ!!やめて、助けてえっ………!!!』
『ほら、綺麗に撮ってやるから、その足開けよ!』
『お前も抑えろ!』
『やだやだやだぁ━━━━━━━━っっっ!!!』



私が『消し去りたい過去』、まさにそれが映し出されていた━━━




☆☆☆




昔の私……高校生の私は、無知で自分の周りの人間とは人畜無害だと信じ込んでいた。
たまたま同じクラスメートになった友達に話し掛けられて。悪い噂が絶えない女の子だったけど、普通に付き合った。映画研究会に誘われて、特に入りたい部活もない上に、映画が好きだった私は一緒にその部活に入った。
ある日、纏まったお金が必要になった私は、「割の良い仕事ってないかなぁ?」と、彼女に話題として話していた。彼女は、「それなら私の知り合いに頼んで、ちょっとした映画に出るだけで簡単にお金が入る仕事やらせてあげるよ」と言われた。
私は喜び、彼女に「打ち合わせするから」と誘われるまま、夜、部室に向かった。部室には、一つのソファーが持ち込まれていて、ニヤニヤした大人の男が四人いた。
変だと直ぐに思って踵を返したが、私は部室に引き摺り込まれてそのまま「AV女優」をやらされた。男三人がかりでレイプされて、それが「レイプ物」として売られたのだ。
私にとって最大の不幸が、このDVDが売れてしまった事だ。たった一回のこの過ちが、私のその後の人生を大きく変えた。
学校にも、両親にも、バレて。同級生からは、性的なちょっかいを出される事になった。それは、引っ越しをした後も変わらなかった。
何とか卒業までは高校に通ったものの、ネットで自分の名前(DVDでは、片山メユという安直な名前にされていた。友人だと思っていたコが決めたらしい。)を検索すれば、実名は勿論、引っ越し前までの高校、引っ越しした後の高校、更には現在住所まで引っ掛かった。

以来、自分でも呆れる位、人の視線が苦手になった。男が二人で道端で話しながらこちらを見ているだけで、自分の事を言われているのではないかという被害妄想に襲われた。

私はその後、進学する事なく就職したが、就職先の上司にバレてセクハラされたり、立ち寄るコンビニの店員がストーカーになったりと、たった一本のDVDのせいで散々な目にあった。
職場と家を転々とし、自分の名前が次々に現れる情報に埋もれて消えゆく事を願う毎日。
誰かの目に留(と)まらない様に、服も髪型も化粧も意識した。DVDにはしっかりと私の顔の黒子が二つ映ったので、そこだけは念入りにコンシーラーで隠す努力もした。



そんな、私にとっては最悪の始まりである、DVD。
何故、叶さんが、持っているのか━━━




☆☆☆




叶さんが、顔面蒼白の私に言った。
「ねぇ……キミはさ、このDVDで人生変わったのかもしれないけどさ、俺もそうだったんだよ……」
暗く笑む。叶さんのそんな表情は見た事なくて、自分の体を抱き締める様に回した両腕がカタカタ揺れた。
「まさかさぁ……弟がたまたま家に忘れてったこのDVDで、人生真っ暗になるとは思わなかった」
叶さんの瞳はギラギラしていて、もし目に力があるなら、私は八つ裂きにされているのかもしれない。
「俺は当時、普通に付き合ってる女がいた。好きだった。好きだと思ってた。それが、このDVDを見たら最後、もうその女につ事がなくなったんだ。……最後は、罵られて終わったよ。インポは御免だってさ」
いつの間にか、叶さんの口調が男のソレ・・になっていて……そうか、これは叶さんじゃない人なのかな、何て思ったりした。
「焦って他の女達とヤろうとしたけど、どれも全滅。それがさ、キミのDVDなら……何発でもヌけるんだよ。可笑しいだろ?」
可笑しいだろ、なんて言いながら、目は全く笑っていない。叶さんは、テレビと私の間に立った。ス、と腕があがって、私の首に手がかかるのを、他人事の様に見ていた。
「それがわかってからは、死のうかと思った。セックスなしの付き合いをした女もいたけど、最終的には勝手に俺に不満を持ったり、愛されてないと不安に感じたりして去っていった。……パートナーと幸せを築く事なんて出来ない、むしろパートナーさえ見つからない、とわかったから」
ぐ……と、手に力が入る。先程までの怒りに満ちた叶さんの瞳は、今や泣き出しそうだった。
「けど、死ななくても良い方法を思い付いたんだ。それはね、キミを探し出して……キミを俺のモノにする事」
私は、目を閉じた。
「俺は、五年間キミの情報をかき集めて……興信所も使って、やっとキミの居場所を突き止めた」
息が、出来ない。苦しい。
「この一年間、キミだけを見ていた。キミが他人に恋心を抱くのも見てきた」
自然と口がいて、酸素を求める。
「キミの、夢を叶えてあげる。キミがこれからも喫茶店(あそこ)で働ける様にフォローしていくし、キミが怯える過去に気付く者は排除する。キミが怖がる情報も操作してキミにたどり着く事ないようにしてあげる」

ふ、と首の圧迫がなくなり、私は咳き込みながら空気を吸って吐いた。

「だから。だから、キミも俺の夢を叶えて?泣いてわめいて嫌がって。俺の傍で、ずっと」

呼吸がままならないうちに、むしゃぶりつく様なキスをされた━━━





☆☆☆





ドン、と強く胸を両腕で押し。
「ち、近付かないで……!!」
座っていたソファーから転げ落ちる様にしながら、叶さんから距離をとる。



『いやぁ、いや━━━━━━っっっ!!!』
『ははは、んな事言っても濡れてきてんぞ?』
『おい、早く代われよ。』



テレビの画面は消えない過去を無情に突き付け、それを背にして立つ叶さんは、悪魔の様に綺麗にニヤリと笑った。

「そうだよ、それだ。俺の夢だ、泣いて喚いて嫌がるキミを、この手に抱く事が」
「良い人だと、思って、たのに……っっ!!」
「最高だ。キミの、怯える目は。ホラ、見てよ?こんなにった」
「━━━っっ!!」

叶さんは、白のスキニーパンツの中心を指差した。そこは、外から少し見ただけでもわかる位に盛り上がっていて、私は目を瞑って顔を背ける。
そのまま、壁に寄り掛かりながら立ち上がろうとするが、足下がふらついて座り込んでしまう。アルコールと恐怖で、足が震えるのを止められない。

「……だから、先週言っただろ?二度と酒を飲むな、襲われても仕方ないって」

叶さんが一歩、また一歩と近づき、手を差し伸べてくる。私はその手を力一杯叩いた。バシッ!!と鈍い音がする。

「やめて……来ないで……っっ」

叶さんは、叩かれた腕を軽く振って、首を傾げながら私に言った。

「それがキミの、力一杯の抵抗なのか?違うだろ?もっと嫌がって。もっと……ああ、そうか」

見下ろされる視線……その冷たさに、全身、震えが走る。

「━━━もしかして、まだ『良い人』の俺を、信じてる?」

その言葉が私の耳から鼓膜を震わせ、脳で理解した瞬間。

「なら、俺の本気、見せてアゲル」

叶さんは一瞬で私を抱えあげ、大股で歩いたかと思えば、ポイと今度は私を投げた。「きゃ……!」床への衝撃を想像して体を丸めれば、ボヨン、と跳ねた。ベッドのスプリングだ、と思った時には、叶さんが私の上にのし掛かっていて、首筋をベロリと舐め上げた。
背中にゾクゾクとした感覚が走る。


「や、やだ、離してっっ!!叶さん、お願い……!!」
「ああ、本物は想像以上に良い。ダイレクトに股間に響くよ」


私の懇願に恍惚とした表情を見せて、叶さんは私の服のボタンを弾けさせた━━━
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