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3 押しかけ弟子
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「こいつ、その時調子に乗って飛竜にも乗ろうとして……」
「おい、それを言うならアダンだって、オークの群れを奇襲する時、オナラで起こしたっていう迷惑千万な伝説があるだろ!」
「ジウズてめぇ、よくもカリスト様の前でその話をしたな!」
三人で食卓を囲み、カリストは二人の賑やかなやり取りをニコニコとして見守っていた。
こんなに楽しい晩餐はいつぶりだろう、と嬉しく思う。
聖職者であるカリストはお酒を飲んではいけないが、村人たちが善意で寄贈してくれたワインが貯蔵庫には眠っていたので、今日は特別にそれを出した。
主神に感謝を捧げながらひとり粛々といただく食事とは違いすぎる。
カリストは、絵本の読み聞かせをしてもらっている子どものようにハラハラドキドキしながら、二人の冒険譚に聞き入った。
それはとても楽しいひとときだったが、やがて夜も更け、カリストはそろそろ就寝時間だと酔っ払い二人に声を掛ける。
「君たちは、これからどうするのですか?」
「俺たちは今日から、カリスト様の弟子ですよ」
「これからは、この教会を一緒に守っていく聖職者です」
「……え?」
寝耳に水の話に、カリストは目をしばたく。
「だから今日からここが、俺たちの居場所です」
「カリスト様、こちらが任命書です。僕らはこれからずっと、カリスト様と一緒ですから」
「ええと、ひとまず任命書を私に見せていただけますか?」
渡された任命書に目を通したカリストは、愕然とする。
そこには、カリストが信仰する宗教を束ねる教皇の名前が記載されていたからだ。
「……これは、本物でしょうか?」
はっきり言って、こんな辺境の地に未来ある若者二人を弟子として寄越すとは思えなかった。
もし二人が何かしらの誤解でこのような境遇に見舞われてしまったのなら、直談判してでもこの任命を解いてあげよう、と固く決意する。
「本物ですよ、カリスト様」
「俺たち、傭兵の時にお偉いさんを助けたんです。で、何か願いを叶えようって言われたので」
「僕らがカリスト様の傍にずっといたいと、お願いしたんですよ」
「え?」
二人が教皇にお願いした、と聞いてカリストは首を傾げた。
誤解でも罰でもないという二人の話は理解できたが、行くならばもっと良い地はいくらでもあったのではないかと不思議に思う。
「そうですよ。だからこれから、よろしくお願いいたします」
ジウズは頭を深々と下げる。
「俺たち、傭兵時代に狩りもしてたんで。これからは食事が豪華になりますよ、カリスト様!」
アダンはニカッと邪気のない笑顔を向ける。
「お話はわかりました。……ではまず二人とも。今日から禁酒ですよ、この教会の聖職者になるならそのくらいの教えは守ってくださいね」
カリストは笑顔で、酔っ払い二人を涙目にした。
***
翌日。
日の出とともに起きたカリストは、二人にあてがった来客用の部屋を訪ねた。
聖職者たるもの朝も夜も早いので、生活習慣を叩き込む必要があるのだ。
しかしカリストが部屋を訪れた時には二人は既におらず、外で剣の素振りをしていたことに驚く。
聞けば、傭兵時代も朝は早かったらしい。
次に、二人に朝食を作るところから指導しようとした。
しかし、どうやら傭兵時代も自炊は当たり前で、むしろ二人のほうがカリストよりナイフの扱いに長けており、カリストの出番はなかった。
また、質素な食事内容にも二人が耐えられるかを心配していたのだが、傭兵時代はカリストが食しているものよりさらに質素な、乾物だけの生活もしょっちゅうだったそうだ。
二人が作ってくれた朝食を食べ終え、それらを三人で片付けたあと、カリストは宗教の教えについて二人がどの程度まで理解しているかを把握するための質疑応答をした。
結果、二人とも信仰に対する理解は、熱心な信者以下だった。
これでよく弟子になりたいなどと教皇様に言えたものだなと思うレベルで、酷い。
「二人とも、聖職者になるならせめて必要最低限の教えくらいは学んでくださいね」
二人が今日やることは、教典の読み込み以外にない。
カリストはそう判断して二人に分厚い教典を数冊渡すと、自分は畑仕事へと向かった。
「おい、それを言うならアダンだって、オークの群れを奇襲する時、オナラで起こしたっていう迷惑千万な伝説があるだろ!」
「ジウズてめぇ、よくもカリスト様の前でその話をしたな!」
三人で食卓を囲み、カリストは二人の賑やかなやり取りをニコニコとして見守っていた。
こんなに楽しい晩餐はいつぶりだろう、と嬉しく思う。
聖職者であるカリストはお酒を飲んではいけないが、村人たちが善意で寄贈してくれたワインが貯蔵庫には眠っていたので、今日は特別にそれを出した。
主神に感謝を捧げながらひとり粛々といただく食事とは違いすぎる。
カリストは、絵本の読み聞かせをしてもらっている子どものようにハラハラドキドキしながら、二人の冒険譚に聞き入った。
それはとても楽しいひとときだったが、やがて夜も更け、カリストはそろそろ就寝時間だと酔っ払い二人に声を掛ける。
「君たちは、これからどうするのですか?」
「俺たちは今日から、カリスト様の弟子ですよ」
「これからは、この教会を一緒に守っていく聖職者です」
「……え?」
寝耳に水の話に、カリストは目をしばたく。
「だから今日からここが、俺たちの居場所です」
「カリスト様、こちらが任命書です。僕らはこれからずっと、カリスト様と一緒ですから」
「ええと、ひとまず任命書を私に見せていただけますか?」
渡された任命書に目を通したカリストは、愕然とする。
そこには、カリストが信仰する宗教を束ねる教皇の名前が記載されていたからだ。
「……これは、本物でしょうか?」
はっきり言って、こんな辺境の地に未来ある若者二人を弟子として寄越すとは思えなかった。
もし二人が何かしらの誤解でこのような境遇に見舞われてしまったのなら、直談判してでもこの任命を解いてあげよう、と固く決意する。
「本物ですよ、カリスト様」
「俺たち、傭兵の時にお偉いさんを助けたんです。で、何か願いを叶えようって言われたので」
「僕らがカリスト様の傍にずっといたいと、お願いしたんですよ」
「え?」
二人が教皇にお願いした、と聞いてカリストは首を傾げた。
誤解でも罰でもないという二人の話は理解できたが、行くならばもっと良い地はいくらでもあったのではないかと不思議に思う。
「そうですよ。だからこれから、よろしくお願いいたします」
ジウズは頭を深々と下げる。
「俺たち、傭兵時代に狩りもしてたんで。これからは食事が豪華になりますよ、カリスト様!」
アダンはニカッと邪気のない笑顔を向ける。
「お話はわかりました。……ではまず二人とも。今日から禁酒ですよ、この教会の聖職者になるならそのくらいの教えは守ってくださいね」
カリストは笑顔で、酔っ払い二人を涙目にした。
***
翌日。
日の出とともに起きたカリストは、二人にあてがった来客用の部屋を訪ねた。
聖職者たるもの朝も夜も早いので、生活習慣を叩き込む必要があるのだ。
しかしカリストが部屋を訪れた時には二人は既におらず、外で剣の素振りをしていたことに驚く。
聞けば、傭兵時代も朝は早かったらしい。
次に、二人に朝食を作るところから指導しようとした。
しかし、どうやら傭兵時代も自炊は当たり前で、むしろ二人のほうがカリストよりナイフの扱いに長けており、カリストの出番はなかった。
また、質素な食事内容にも二人が耐えられるかを心配していたのだが、傭兵時代はカリストが食しているものよりさらに質素な、乾物だけの生活もしょっちゅうだったそうだ。
二人が作ってくれた朝食を食べ終え、それらを三人で片付けたあと、カリストは宗教の教えについて二人がどの程度まで理解しているかを把握するための質疑応答をした。
結果、二人とも信仰に対する理解は、熱心な信者以下だった。
これでよく弟子になりたいなどと教皇様に言えたものだなと思うレベルで、酷い。
「二人とも、聖職者になるならせめて必要最低限の教えくらいは学んでくださいね」
二人が今日やることは、教典の読み込み以外にない。
カリストはそう判断して二人に分厚い教典を数冊渡すと、自分は畑仕事へと向かった。
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