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「私の見た夢では、将来私は王子殿下が想いを寄せる女性を恋敵とみなして苛め、母の……母を利用してその女性を極限まで追い詰めるのです!」
ぐい、と私がジエムの方へと身を乗り出して話しだせば、彼はウンウンと相槌を打ちながら聞いてくれた。
今までの私は、その優しさを当たり前に享受していたけれども、この年頃の子供が自分の言葉を挟まずにずっと耳を傾けてくれるなんて、なかなか出来ることではない、と今ならわかる。
「そして私は王子殿下の怒りを買い、私だけではなく……家族全員が断罪されるのです!」
「それは確かに、随分と……怖い夢だったね」
本当は、まず初めに私が断罪されて、その女性に呪詛を掛けた罪で母も処刑され、その後、国王からわざと遠い地に遠征に行かされていた、母を溺愛する父が怒り狂ってラスボスの如く国を半壊させ、国王を討ち取ると共に力尽きるのであるが、そこは割愛する。
最終的に、私と母を処刑した現国王は父が倒すものの、我が家は兄も含めて全員が死に追いやられ、半壊させられたこの国を王子殿下カップルが手を取り合い、明るい未来を信じて復興を目指す……というのが小説のラストである。
病室でその小説を読んでいた当時は、それこそヒロインに肩入れしてラストに涙した。
邪魔者の撤退に喜び、頑張ってとヒロインにエールを送ったものだ。
それが、立場が変わればこの小説に対する思いも百八十度変わる。
自分の愚かな行いのせいで、愛する家族が破滅するのだ。
とんでもないことだ。
「このまま悪役令嬢になるなんて、ごめんです。なので、断罪は回避したいと思いまして。他のルートを目指すのです!」
「他のルート?」
ジエムは、不思議そうに首を傾げた。
「実は、私が見た夢はこれだけではないのです」
……そう、私は知っている。
私が病室でその小説を読んだ時は、世間は悪役令嬢ブームで……つまり悪役令嬢は大人気だったのだ。
だから、様々な感想が寄せられる中、中には「悪役令嬢が主人公の、ハッピーエンドが読みたかった」という感想もいくつか寄せられた。
そして作者様は、あまりの悪役令嬢人気に圧倒されたのか、SNSでこう呟いた。
「今度は悪役令嬢を主人公にした、IFルートの話も書いてみたいと思います」
と。
とはいえ、元々のヒロインを蔑ろにする訳にもいかない。だから、その小説では新しいヒーローを出現させる、と元々のストーリーが好きな読者にも配慮した内容になると宣言していた。
それは既にIFルートではないのではないか、むしろスピンオフなのではないかという疑問も残るが、ともあれ悪役令嬢が断罪を逃れた話という意味では作者様的にはIFルートなのだろう。
因みに、私は完全にヒロイン派で、悪役令嬢であったリリールーが好きにはなれなかったので、そちらの話は読んでいない。
そして今更それを後悔しても、もう遅い。
「他にも夢を見たの?」
「はい。そこでは断罪を免れた悪役令……私が、国王陛下の……その、どこかの貴族に預けられた隠し子と、最後は結ばれる、という話はな……いえ、夢でしたわ」
「……え?隠し子って、それ……」
ジエムは固まっていた。
私は慌てて両の掌を相手に向け、胸の前で振る。
「あ、あくまで夢ですわよ!夢!!」
別に、本気で国王陛下に隠し子がいると思っている訳ではないと、強く主張する。
こんなところで侮辱罪で裁かれたくはない。
「う、うん」
私の勢いに、ジエムもこくこくと頷く。
そう、もし作者様がIFルートも同じ世界線で語るのであれば、今この世界にその隠し子がいたとしても可笑しくはないのだ。
ただ、本当にいるのかどうかは私にはわからないし、仮に存在したとして、その隠し子に関しての情報は皆無である。
惜しむらくは、私が知っているのは作者様がSNSで呟いたことまで。つまり、今は貴族であることまでだ。
隠し子の細かい設定……容姿や家柄までは記載されておらず、その小説を読まなかった私は知る由もない。
ぐい、と私がジエムの方へと身を乗り出して話しだせば、彼はウンウンと相槌を打ちながら聞いてくれた。
今までの私は、その優しさを当たり前に享受していたけれども、この年頃の子供が自分の言葉を挟まずにずっと耳を傾けてくれるなんて、なかなか出来ることではない、と今ならわかる。
「そして私は王子殿下の怒りを買い、私だけではなく……家族全員が断罪されるのです!」
「それは確かに、随分と……怖い夢だったね」
本当は、まず初めに私が断罪されて、その女性に呪詛を掛けた罪で母も処刑され、その後、国王からわざと遠い地に遠征に行かされていた、母を溺愛する父が怒り狂ってラスボスの如く国を半壊させ、国王を討ち取ると共に力尽きるのであるが、そこは割愛する。
最終的に、私と母を処刑した現国王は父が倒すものの、我が家は兄も含めて全員が死に追いやられ、半壊させられたこの国を王子殿下カップルが手を取り合い、明るい未来を信じて復興を目指す……というのが小説のラストである。
病室でその小説を読んでいた当時は、それこそヒロインに肩入れしてラストに涙した。
邪魔者の撤退に喜び、頑張ってとヒロインにエールを送ったものだ。
それが、立場が変わればこの小説に対する思いも百八十度変わる。
自分の愚かな行いのせいで、愛する家族が破滅するのだ。
とんでもないことだ。
「このまま悪役令嬢になるなんて、ごめんです。なので、断罪は回避したいと思いまして。他のルートを目指すのです!」
「他のルート?」
ジエムは、不思議そうに首を傾げた。
「実は、私が見た夢はこれだけではないのです」
……そう、私は知っている。
私が病室でその小説を読んだ時は、世間は悪役令嬢ブームで……つまり悪役令嬢は大人気だったのだ。
だから、様々な感想が寄せられる中、中には「悪役令嬢が主人公の、ハッピーエンドが読みたかった」という感想もいくつか寄せられた。
そして作者様は、あまりの悪役令嬢人気に圧倒されたのか、SNSでこう呟いた。
「今度は悪役令嬢を主人公にした、IFルートの話も書いてみたいと思います」
と。
とはいえ、元々のヒロインを蔑ろにする訳にもいかない。だから、その小説では新しいヒーローを出現させる、と元々のストーリーが好きな読者にも配慮した内容になると宣言していた。
それは既にIFルートではないのではないか、むしろスピンオフなのではないかという疑問も残るが、ともあれ悪役令嬢が断罪を逃れた話という意味では作者様的にはIFルートなのだろう。
因みに、私は完全にヒロイン派で、悪役令嬢であったリリールーが好きにはなれなかったので、そちらの話は読んでいない。
そして今更それを後悔しても、もう遅い。
「他にも夢を見たの?」
「はい。そこでは断罪を免れた悪役令……私が、国王陛下の……その、どこかの貴族に預けられた隠し子と、最後は結ばれる、という話はな……いえ、夢でしたわ」
「……え?隠し子って、それ……」
ジエムは固まっていた。
私は慌てて両の掌を相手に向け、胸の前で振る。
「あ、あくまで夢ですわよ!夢!!」
別に、本気で国王陛下に隠し子がいると思っている訳ではないと、強く主張する。
こんなところで侮辱罪で裁かれたくはない。
「う、うん」
私の勢いに、ジエムもこくこくと頷く。
そう、もし作者様がIFルートも同じ世界線で語るのであれば、今この世界にその隠し子がいたとしても可笑しくはないのだ。
ただ、本当にいるのかどうかは私にはわからないし、仮に存在したとして、その隠し子に関しての情報は皆無である。
惜しむらくは、私が知っているのは作者様がSNSで呟いたことまで。つまり、今は貴族であることまでだ。
隠し子の細かい設定……容姿や家柄までは記載されておらず、その小説を読まなかった私は知る由もない。
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