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本編
艶めく竜が愛すは猫人伴侶・4
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ルベライトが国を横断するキャラバンロードの探索に満足し、クロシュがシルフィによる快楽漬けの日々から解放されずともやっとこさ日中動ける位にはなった頃。
事の起こりは、ルベライトの一言だった。
「ねぇねぇクロシュ、私、この国の露店でクロシュを町娘に仕立てあげてみたい!……ですわ!」
「……はい?」
「クロシュはそのままでも十分魅力的とは思いますけれども、クロシュに似合いそうな服を着せ替え……コホン、クロシュに似合いそうな服を沢山見繕いましたの」
「はぁ」
「明日はこの宿も出立予定ですし、チャンスは今日しかありませんのっ!」
「チャンス……」
「シルフィ、クロシュをお借りしてもよろしいでしょうか?」
竜人であるルベライトは、竜人であるシルフィの許可を取る事は忘れない。
本人の許可を取る事は忘れている様だが。
優雅に高級な紅茶を飲みながら本を読んでいたシルフィは、顔をあげてニコリと微笑んだ。
珍しく片眼鏡をかけており、顔をあげた時にその鎖がシャラリと鳴る。
「そうですね……あまり許可を出したくないタイミングではありますが、私にはクロシュの居場所がわかる事ですし……美しい衣装に身を包んだクロシュにも大変興味があるので、一時間なら良いですよ」
「やったぁ♪クロシュ、今日は帯刀しないで外に行きましょう。どう考えても、剣持ってたらおかしい格好になりますもの」
クロシュはルベライトの申し出に少し躊躇しながら、頷いた。
基本的に、竜人は一つの宿に長居はしない。
竜人がその宿に宿泊している噂が広まり、安全面が確保出来なくなるからだ。
それが、今回初めてシルフィ一行は一ヶ所の宿に5連泊程していた。
そんな中、剣を置いていくのは非常に躊躇われる━━が。
背中の鱗紋によって、クロシュの居場所は番であるシルフィにはわかる様だし、シルフィに毎日責められた身としては仮に剣を佩いてもいつも通りに動ける自信はない。
ルベライトには、護衛や「影」もいる事だし、王妃様から預かった短剣を太腿に巻いておけばいざとなったら対処出来るだろう。
ルベライト自身も普通の姫とは異なり桁違いに能力の高い竜人だし、炎ですら扱える。
何より、恐らく今まであまり人に甘えてこなかったであろうルベライトの些細な可愛らしい願いなら何でも叶えてあげたかった。
「わかった。剣を置いてくるから、少し待っていてくれ」
クロシュは部屋に戻り……シルフィの言い付け━━貞操帯をつける事━━をしっかり守って、短剣を身に付け、ルベライトの元へ急いだ。
「このね、銀色の巻きスカートがクロシュに絶対似合うと思って!……似合うと思いますの。銀はシルフィのカラーですし、スパンコールやルビー色の硝子が派手すぎずに散りばめられているのも良いですし、刺繍も素敵でしょ!?……素敵ですわよね」
「ああ、そうだな」
銀色か。多少シルフィの白銀とは色味が違うとは言え、自分がこの色を纏うならばシルフィは喜ぶかもしれない。
「そのスカートの上には、このトップスがセットなのだけど」
「……臍が見えそうだな。いや、見えるな絶対」
クロシュが黒猫耳をペタンとさせながら言う。
ルベライトの望むとおりに着てやりたいが、これを着たならば確実にシルフィが笑顔でお仕置きをしてくるパターンだ。
「そうですわね……では、こちらの幾何学模様が映えたトップスなどは」
「これなら……いや、肩が出るな。臍よりはましかな……」
クロシュが尻尾を丸めて言う。
やはり脳裏に笑顔で責め立てるシルフィが思い浮かぶ。
「……では、些か色気に欠けてしまいますが、こちらのトップスが色味的にも合いますわね」
「あ、ああ、そうだな。これが良いな」
10歳の少女が「色気に欠ける」という台詞を使った事にクロシュは驚愕しながら、辛うじてルベライトの及第点を頂いたトップスと、ルベライト一押しの巻きスカートをゲットする。
ルベライトは嬉しそうに、店員に「今ここで着替えて行きますわ」とお願いしてクロシュを試着室に押し込んだ。
「わぁ!やはりお似合いですわ!!クロシュ、とても綺麗です。スタイルも良いですから、この格好で外を歩けば直ぐに殿方からお声が掛かるかもしれませんわね!」
ルベライトがきゃあきゃあ言って、着替えを済ませたクロシュを持て囃す。
クロシュは苦笑しながら、「ありがとう、ルベラ」と言い、時計を見た。
ルベライトが服の目星をつけていたお陰で約束の一時間にはまだなってはいないが、そろそろ戻らないとまずい。
「ルベラ、そろそろ戻ろうか」
クロシュが促せば、ルベラも頷いた。
宿に戻ると、シルフィが笑みを浮かべて迎えてくれた。
ちらりと時計を見れば、一時間の五分前で胸を撫で下ろす。
「クロシュ、美しい装いもまた素敵ですね。特にその色、良くお似合いです」
シルフィは町娘に扮したクロシュを見るなり、瞳を細めて誉めちぎる。
そして、ルベラに言う。
「そう言えばルベラ。貴女の不在中に、来訪者がいらっしゃいましたよ」
ルベラはキョトンとした。全く心当たりがないらしい。
「どなたかしら?」
「貴女の親族である、タンザナという方の遣いらしいのですが。ご存知ですか?」
ルベライトは口に手を当てて驚いた。
衛兵達も少しざわりとしている。
「━━タンザナ!私の従兄弟ですわ!!私は、城に残されていた彼の日記を読んで国外へ行こうと決めたのです!けれどもタンザナは30年前に砂漠国から旅に出たまま、音信不通らしくて……私は一度もお会いした事がないのですが……」
クロシュとシルフィは顔を見合わせた。
タンザナというのがルベラの従兄弟というのは間違いないらしい。
しかし、音信不通の人物がいきなりルベラに遣いを寄越すなど、怪し過ぎる。
ルベライトの様子を見る限り、会いたいと思っている様だ。
しかしシルフィは許さないかもしれない━━そう思ったクロシュの勘は、珍しく外れた。
「竜人国の代表として、音信不通の竜人がいる事は看過できませんね……直ぐにでも先程の使者と連絡を取るように」
「はっ」
シルフィはタンザナの身を案じている様で、クロシュは少し不思議に思う。
タンザナは竜人……であれば、普通の人間や獣人等足元にも及ばない程、強い筈であった。
☆☆☆
「クロシュはどんな格好をしていても、本来の輝きが失せる事はありませんが……本日は一層、可愛らしいですね」
シルフィはベッドに腰をかけたまま、クロシュを手招きした。
これからシルフィに腰が砕けるまで可愛がられる……それがわかっていながらさっさと近寄れる性格のクロシュではない。
尻尾をゆらゆらと不安げに揺らし、明日の出国に備えてどうすればシルフィの責めは緩むのだろう?と考えながらゆっくり近寄る。
クロシュが近くまで来るのをゆっくり見届けたシルフィは、クロシュの腰に両手を巻き付け、見上げながら少し寂しそうに言う。
「━━明日から、帯刀せずにルベラに選んで貰った服を着ていて下さい。そして、ルベラには悟られない程度にさりげなく私とは距離を置いて……そうですね、ルベラのお付きの様にしていただけますか?」
クロシュは、シルフィの瞳を見たまま頷いた。
「わかった」
普段はシルフィの独占欲に逃げ出したくなるクロシュだが、シルフィから「距離を置く様に」と言われると胸が痛んだ。
「……クロシュ、貴女にそんな顔をされると……私も辛いのでやめたくなります。……我慢出来なくなりますよ?」
シルフィの片手が不埒な動きをし、クロシュの巻きスカートの中に手を滑り込ませた。
そして、あっけなくクロシュの素肌にたどり着き、下履き代わりの貞操帯を指先に感じて満足そうに微笑んだ。
「クロシュ。……本当に、貴女は……私を安心させる天才ですね。これは勿論ですが、猫の気儘さや奔放さという本能で嫌だと思う事を沢山押し付けているであろう私に、こんなに寄り添う態度を示して下さる事が……私はなんて幸せ者なのでしょう……」
クロシュは驚いた。
嫌な事でもシルフィがそうしたいならと、最終的にクロシュが折れている事に気付いてくれていた。
クロシュが我慢するのも……シルフィの傍に、いたいと思うから。
シルフィは馴れた手つきでするりとクロシュの貞操帯の紐を外す。
そうして「抜きますよ」ゆっくりゆっくりと前後の穴から、貞操帯と一体になっていたディルドをぬぽぉ、と引き抜いた。
「んふぅ……」一時間馴染んだ棒を抜かれ、クロシュの口から艶めいた息が漏れる。
巻きスカートの下から貞操帯を手元に寄せたシルフィは、それをしゃぶりながらスカートを捲り上げる。
「クロシュ、スカートを持っていて下さい」
「ん……っっ」
クロシュにスカートを両手で持たせたシルフィは、目の前にある潤いに満ちた秘部へと長い舌を伸ばす。
「は、ぁ……、っっ」
ヌロリヌロリと内股を上下になぞったシルフィの舌は、ちゅぶりと難なく泉を啜りに奥深く潜り込む。
クロシュはせりあがってくる痺れに、立っているのが精一杯だ。
くち、くち、こりこりっ
ぢゅぶぢゅぶぢゅぶぢゅぶ
「ぁ、ああっっ……っっ!!」
膣内を舌で掻き回され、花芯を指で可愛がられれば、直ぐにクロシュの腰がガクガクとひくついた。
「クロシュ、腰がひけては舐められませんよ?」
そろそろ立っているのが限界なのに気付いていながら、シルフィは責めを増やす。
溢れたジュースを細い指に絡みつけ、ひくひく動くアナルにするりと滑り込ませた。
ぐっぷ、ぐっぷ、ぐっぷ、ぐぷっっ!!
くに、くに、くに、ぐにっ!!
じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、じゅううう!!
「ひあぁん………、あ、あ、ああ━━っっ!!」
後ろの蕾と、ぷっくり勃ち上がったクリトリスと、だらだらと卑猥な涎を垂らし続ける肉壺を苛められ、クロシュの身体は痙攣して仰け反る。
「ふふ……クロシュ、可愛い。さぁ……そのまま腰をおろしましょうか」
難なく受け止めたシルフィは、クロシュの両膝をスカートごと左右に開き、二本の脈うつ陰茎にそれぞれの鞘をあてがった。
「ひぁっ……、まっ………」
軽くイっていたクロシュの息が整う前に、クロシュの体重によりずぷずぷとそれぞれが埋められていく。
両足を抱え上げられたクロシュは成す術もなく、強烈な異物感に侵食されていった。
「クロシュのおまんこもお尻も、可愛らしく上手に頬張ってますね……ご褒美をあげないといけません」
シルフィは、まだ埋まりきっていないクロシュの身体を前後に揺らして、秘豆かぐりぐりと押し潰される様に動かした。
「ひぃん!!」
その刺激に堪らずクロシュは胸を突き出す格好となり、その拍子でずぶり、と根元まで一気に串刺しにされる。
「ひぁ……ぁぁ……」
あまりの衝撃にクロシュの瞳は濁り、身体は弛緩して少量の尿がぽたぽたと股を汚した。
「クロシュ、私の先端が貴女の子宮口とキスしているのがわかりますか?……もう少ししたら、もっと激しいキスをさせてあげましょうね」
シルフィがそう言っている最中にも、ペニスから滲み出た微量ながら強力な媚薬がクロシュの胎内へと摂取されていく。
「ふ、にゃあん……シルフィ……早く、動いてにゃ……」
クロシュの顔が、発情期のソレへと表情を変え、尻尾が動いて自らの後穴に捩じ込まれた肉竿にそっと絡み付く。
「はい、勿論」
どちゅ!どちゅ!どちゅ!どちゅ!
じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!
ぬぷ!ぬぷ!ぬぷ!ぬぷ!
「にぁん!にゃあっっ!!」
シルフィはクロシュを思うままに揺さぶり、突き上げ、貪る。
クロシュもシルフィの動きに合わせ、その上で淫らに踊り、啼いた。
「にゃ、も、イく、イっちゃうにゃ、にゃ━━っっ!!」
「クロシュ、一緒に━━っっ」
クロシュが盛大に潮を吹いてシルフィの槍を扱き上げると同時に、その子宮には大量の子種が注ぎ込まれる。
そのままくったりとシルフィに身体を預けたままのクロシュの猫耳に、シルフィが「クロシュ、まだまだこれからですよ」━━と囁いた。
☆☆☆
衣料の国を出て北山脈の麓にある国へ入国し、山脈を越えるための道を少し西へずれたところにある、大きくも小さくもない平凡な街へ案内される。
訳あってタンザナはルベラの元を訪れられない事を使者に詫びられた上で、シルフィ一行がタンザナの元を訪れる流れとなった。
シルフィがクロシュに町娘の格好を指示した事といい、シルフィはこの流れを予期していた事になる。
使者は寡黙で、その街までどこにも寄り道しないで真っ直ぐ向かいおよそ一週間かかったが、砂漠国の従者と違い、シルフィ一行と馴れ合う事はなかった。
そしてクロシュは時折その使者から観察されているかの様な鋭い視線を感じた為、普段よりも鈍臭そうに動く事を心掛けた。
使者が目的の街へ入ると、人々がひれ伏したのには驚く。
竜人であるシルフィやルベライトを見てではなく、使者に対してである。
しかし、使者に対する恐怖の感情は見られず、むしろ尊敬の意味合いが大きい様だ。
そしてシルフィやルベライトを見れば、街の人々はとても喜んでいた。
もしかすると、この街はタンザナが豊かにしているのかもしれない。
街には子供の数も多く、皆幸せそうで、ゆったりとした表情だった。
貧富の差が殆ど見られず、誰もせかせか働いてはいない。
その、一見すれば幸せそうな光景に、クロシュは油断したのだ。
「こちらで少々お待ち下さい」
使者にそう言われ、とても街の単なる領主の物とは思えない大層豪勢な屋敷の一室にシルフィ一行は通された。
成金趣味なのか、至るところに金ぴかの置物が飾られていて、何だか視界が眩しい。
女中が入れたお茶で喉を潤し、お菓子を頂いている最中に領主とやらが挨拶にきた。
「これはこれは、畏れ多くも竜人の方々にこんな片田舎まで足をお運びして頂き、大変申し訳ありません。私(わたくし)はこの街の代表のボビー・ヴィランと申します。……実は今、タンザナ様は床に臥せっておりまして……ただ一目でもお二方にお会いしたいとの事で、隣国に立ち寄られた噂を聞き付け、使者を出した次第でございます」
「まぁ!お加減が悪いだなんて……存じ上げませんでした、心配です」
ルベライトは眉を潜めて消沈する。
シルフィとクロシュは無言でボビーをじっと観察していた。
ボビーは子豚の様にでっぷりと肥え太り、両手や首にじゃらじゃらと重そうな宝石を沢山身に付けている。
しかし、いくら慇懃な態度でゴージャスに飾ろうとも、品の良さが全く感じられない。
人は見た目で判断してはいけないと思うものの、クロシュがあまり好感を持てないタイプである事は一目瞭然だった。
ボビーがルベラとシルフィを早速タンザナの部屋まで案内してくれると言うので、全員で最初に通された部屋を後にする。
━━タンザナの部屋に入る事が許されたのは、ルベラとシルフィだけで、ボビーを含め、クロシュや護衛は廊下で待機させられた。
タンザナの部屋の厳重な両扉が開閉されると、清潔感溢れる部屋の真ん中には大きめのベッドが一台設置され、その上に一人の人が横たわっているのが見える。
ベッドの横には点滴の様なものが何個もぶら下がり、チューブは全てベッドの人物へと繋がっている様だった。
「……タンザナ、さん?私、砂漠国エ・クレール国王の娘、ルベライトと申します」
ルベライトがタンザナの傍に駆け寄る。
しかし、タンザナは酷く憔悴しきった青白い顔をしたまま、言葉を発するどころかその瞳さえ開ける事はなかった。
タンザナの額にある紫色の鱗は、カサカサに渇いて今にも剥がれ落ちそうだ。
「━━っ!!」
言葉を失ったルベライトは、タンザナの手を握る為に、毛布の上からその手を探る。
……?
ルベライトの手は、タンザナの手首に硬い質感を感じて不思議に思い、少しだけ毛布を捲ってそこを見た。
「━━え?」
タンザナの手首は、手枷でベッドに拘束されていた。
それをルベライトが目にした時、廊下に待機していたクロシュの周りで異変が起きた。
「ぐっ……」「ぐはっ」「う、ぁ……」
護衛達が、口から泡を吹きながらバタバタと倒れていく。
「な………っ」
クロシュも目眩を感じて片膝を付いた。
嘔吐感がせりあがり、その場で吐く。
「クロシュ、ど、の……大、丈夫、か……?」
横を見れば、首を抑えたまま顔を真っ青にしたガッシュがこちらに手を伸ばしていた。
「……、……ガッ………」
ガッシュ、と言いたいのに言葉に出来ない。
酷い目眩と吐き気以外に、次は頭痛と立っていられない程の脱力感に襲われる。
━━シルフィ、シルフィは無事なのか!?
クロシュの異変を察知していない訳がないのにも関わらず、シルフィが飛んで来ない事に焦燥感が増す。
「……ほぅ?何故、タンザナの毒でこやつらは死なないんだ?」
ボビーがガッシュを蹴り転がし、クロシュの腕も引っ張って仰向けに転がす。
そして、使者だった者に命じた。
「何か利用価値があるかもしれんな。こやつらもあれで拘束しておけ」
クロシュは、ボビーに転がされたお陰でシルフィに視線を向ける事が出来た。
シルフィも「タンザナの毒」とやらで一時前後不覚に陥り、その瞬間を狙って後ろ手に拘束された。
ルベライトも同様だ。
しかし、既に正気を取り戻したらしく、毒によって苦しむクロシュを見て怒りをその瞳に宿す。
「━━すみません、クロシュ」
シルフィが声に出さずに、口でそう言ったのがクロシュにはわかった。
「……大丈夫、だから……シルフィ」
声には出さずに、懸命にシルフィに伝える。
隣で、辛うじて生きているガッシュと、それ以外の仲間が既に事切れているという事実はクロシュの瞳に涙を浮かべさせてしまったが。
タンザナの毒の効果が薄らいだシルフィはその場に立ち上がり、ボビーに問いかける。
「……この手枷は何で出来ていますか?」
ボビーは良くぞ聞いてくれたとばかりに拍手した。
「はっはっは!いくら竜人でもそれは壊せないだろう?……なんといっても、竜人の骨で出来ているのだからな」
ボビーはニヤリと笑う。
ルベラはタンザナに繋がっている液体を見る。
それは、点滴などではなくむしろ瀉血であった。
タンザナから大量の血が、沢山のチューブを伝って抜き取られていた。
「竜人は強いが、竜人の骨だけは壊せない。そんな事をたまたま知った私は、タンザナを捕らえてこの街を豊かにする事を成功させたのだよ。いやぁ、タンザナの奴が死ぬ前に二匹も竜人を捕らえる事が出来るなんて……本当に私はついている。竜人さえ手に入れれば金持ちだ。その血も精液も高値で売れるからな!タンザナはたまたま毒の能力があったから、尚更良かったが……どれ、娘はどんなだ?火か……売り物にはならないな。男は……銀?どんな能力だ?」
ボビーの従者達は皆首を振る。誰もわからない様だ。
「成る程……竜人の骨ですか。確かに、私には壊せない様だ。しかし、ボビー。貴方はとんでもない間違いを犯しましたね」
シルフィはボビーににこりと笑い掛ける。
身震いがする程の……とても綺麗で、一切の揺るぎがない冷笑。
「は?竜人は強いからって、傲慢なんだよ。だからお前らだって騙された。やられる訳ないって、特別な種族だって思ってんだろう?何が稀有だ。阿保どもが」
ボビーが鼻で嗤う。
「ひとつ目は、タンザナと違い、我々が集団で行動していた事に警戒しなかった事」
「殆どが毒で死んだだろうが。生き残ってるのは黒猫人と熊人だけだ」
「ふたつ目は、竜人の血があまりにも流通しすぎた事」
「何が流通しすぎた、だ。勿体ぶりやがって」
「みっつ目は、亡くなった竜人を愚弄した事」
「……は?愚弄?あぁ、骨を使って手枷にした事か?有効利用しただけだろうが」
「よっつ目は、私にとっては一番の大罪です。私の番に、その汚い手で触れた事と、毒で苦しめた事」
「番?」
「クロシュ、私にあれを投げて下さいませんか?」
シルフィに乞われ、一瞬躊躇する。
これを渡せば、確実に我々は助かるだろうが……この街は間違いなく火の海になる。
であれば、ルベライトの「影」が来るのを待つというのは……「クロシュ」
シルフィに再度声を掛けられた事で、ボビーとその従者が慌ててクロシュを取り押さえ様とした。
クロシュの脳裏に蛇人達の最期が蘇る。
いくら悪党であっても、虫けらの様に暴力で一方的に蹂躙されるのは出来れば見たくなかった。
正確には、そんな事をシルフィにさせたくなかった。
「……すまない……」
クロシュの謝罪は、誰へのものだったのか。
クロシュの投げた短剣を難なく口で受け止めたシルフィは、高く跳躍してあっさりとクロシュの手枷を砕き、自由になったクロシュが今度はシルフィの手枷を砕く。
砂漠国の国宝━━竜の骨で出来た短剣は、竜人の骨をいとも簡単に破壊したのである。
逃げ出すボビーを指先で汚いモノを触るかの様に捕まえ、シルフィは言った。
「そう言えば、貴方の質問にお答えしていませんでしたね。白銀の鱗の能力は━━です。よければ貴方にも、特等席でお見せいたしましょう」
☆☆☆
街だった場所を、小高い丘の上から見下ろしていた。
ルベライトは、「影」に付き添われて護衛の者の遺体に涙を流していた。
タンザナは辛うじて息があり、短剣で拘束をといていた。体力が回復次第、「影」によって砂漠国へと帰国させる予定だ。
クロシュはまだ毒の作用で苦しそうなガッシュを触らない様に気を付けながら、「影」を通して看病していた。
クロシュが毒で死ななかったのは、恐らくシルフィの番となり、身体が作り替えられたからだと思う。
しかしガッシュが生き延びた理由がわからない。
疑問に思っていると、ようやく大きな翼を羽ばたかせて帰還したシルフィが教えてくれた。
「ああ、クロシュは知らなかったのですね。ガッシュも非常に薄くはありますが、竜人の血をひいているんですよ」
街ひとつ滅ぼした後とは思えない程清々しい笑顔で、「クロシュ、ただいま」とシルフィはクロシュを抱き締める。
クロシュは、シルフィをぎゅ、と力強く抱き締め返した。
「今回は、私の不手際で亡くなった方々には大変申し訳ない事をしました。ルベラ、クロシュにも悲しい思いをさせて申し訳ありません」
ルベライトは力なく首を振る。
「タンザナの毒は、遅効性で竜人でも飲んでわからない程のものだったもの……多分、あの場にいた全員が普通の毒であれば直ぐに気付いたのに……私だけは、タンザナの能力が毒である事を知っていたのに、そんな事気付かなかったわ……シルフィのせいじゃない、むしろ私のせいだわ……」
パタパタと、幼い少女は流れる涙を止められない。
「ルベラ、クロシュ……こんな残酷な形で、こんなに早く竜人を巡る闇に触れさせてしまうとは思いませんでしたが……竜人は確かに強い種族ではありますが、今回の様に行方不明になる者がいる事もまた事実なのです。竜人国の代表である私には、何かしらの理由で捕らえられた竜人達を救う事も、大事な仕事なのです」
ルベラとクロシュは頷いた。
「それでも、お二人は……まだ、私に着いてきて下さいますか……?」
ルベラは頷き、クロシュは弾かれた様にシルフィを見る。
夕日によって逆光になった為、シルフィの表情は良くわからない。
笑っている様にも見えるが、哭いている様にも見える。
しかし、シルフィが欲しい言葉位、クロシュはわかっていた。
そして、自分の気持ちも。
「勿論だ、シルフィ」
その日の夜は野宿になった。
クロシュは、まだ白煙が立ち上る方角を見ながら、シルフィに後ろから抱き締められていた。
前にまわされたシルフィの腕をそっと両手で撫でながら、呟く。
「シルフィ。私は、ずっと傍にいると約束する。けして自分から離れていったりはしない」
シルフィの腕に力がこもり、クロシュの猫耳が掠れる声を拾い上げた。
「……愛しています、私の可愛い番」
自由でいたい筈の黒猫はその日、自ら竜人の伴侶となる覚悟を決めた。
事の起こりは、ルベライトの一言だった。
「ねぇねぇクロシュ、私、この国の露店でクロシュを町娘に仕立てあげてみたい!……ですわ!」
「……はい?」
「クロシュはそのままでも十分魅力的とは思いますけれども、クロシュに似合いそうな服を着せ替え……コホン、クロシュに似合いそうな服を沢山見繕いましたの」
「はぁ」
「明日はこの宿も出立予定ですし、チャンスは今日しかありませんのっ!」
「チャンス……」
「シルフィ、クロシュをお借りしてもよろしいでしょうか?」
竜人であるルベライトは、竜人であるシルフィの許可を取る事は忘れない。
本人の許可を取る事は忘れている様だが。
優雅に高級な紅茶を飲みながら本を読んでいたシルフィは、顔をあげてニコリと微笑んだ。
珍しく片眼鏡をかけており、顔をあげた時にその鎖がシャラリと鳴る。
「そうですね……あまり許可を出したくないタイミングではありますが、私にはクロシュの居場所がわかる事ですし……美しい衣装に身を包んだクロシュにも大変興味があるので、一時間なら良いですよ」
「やったぁ♪クロシュ、今日は帯刀しないで外に行きましょう。どう考えても、剣持ってたらおかしい格好になりますもの」
クロシュはルベライトの申し出に少し躊躇しながら、頷いた。
基本的に、竜人は一つの宿に長居はしない。
竜人がその宿に宿泊している噂が広まり、安全面が確保出来なくなるからだ。
それが、今回初めてシルフィ一行は一ヶ所の宿に5連泊程していた。
そんな中、剣を置いていくのは非常に躊躇われる━━が。
背中の鱗紋によって、クロシュの居場所は番であるシルフィにはわかる様だし、シルフィに毎日責められた身としては仮に剣を佩いてもいつも通りに動ける自信はない。
ルベライトには、護衛や「影」もいる事だし、王妃様から預かった短剣を太腿に巻いておけばいざとなったら対処出来るだろう。
ルベライト自身も普通の姫とは異なり桁違いに能力の高い竜人だし、炎ですら扱える。
何より、恐らく今まであまり人に甘えてこなかったであろうルベライトの些細な可愛らしい願いなら何でも叶えてあげたかった。
「わかった。剣を置いてくるから、少し待っていてくれ」
クロシュは部屋に戻り……シルフィの言い付け━━貞操帯をつける事━━をしっかり守って、短剣を身に付け、ルベライトの元へ急いだ。
「このね、銀色の巻きスカートがクロシュに絶対似合うと思って!……似合うと思いますの。銀はシルフィのカラーですし、スパンコールやルビー色の硝子が派手すぎずに散りばめられているのも良いですし、刺繍も素敵でしょ!?……素敵ですわよね」
「ああ、そうだな」
銀色か。多少シルフィの白銀とは色味が違うとは言え、自分がこの色を纏うならばシルフィは喜ぶかもしれない。
「そのスカートの上には、このトップスがセットなのだけど」
「……臍が見えそうだな。いや、見えるな絶対」
クロシュが黒猫耳をペタンとさせながら言う。
ルベライトの望むとおりに着てやりたいが、これを着たならば確実にシルフィが笑顔でお仕置きをしてくるパターンだ。
「そうですわね……では、こちらの幾何学模様が映えたトップスなどは」
「これなら……いや、肩が出るな。臍よりはましかな……」
クロシュが尻尾を丸めて言う。
やはり脳裏に笑顔で責め立てるシルフィが思い浮かぶ。
「……では、些か色気に欠けてしまいますが、こちらのトップスが色味的にも合いますわね」
「あ、ああ、そうだな。これが良いな」
10歳の少女が「色気に欠ける」という台詞を使った事にクロシュは驚愕しながら、辛うじてルベライトの及第点を頂いたトップスと、ルベライト一押しの巻きスカートをゲットする。
ルベライトは嬉しそうに、店員に「今ここで着替えて行きますわ」とお願いしてクロシュを試着室に押し込んだ。
「わぁ!やはりお似合いですわ!!クロシュ、とても綺麗です。スタイルも良いですから、この格好で外を歩けば直ぐに殿方からお声が掛かるかもしれませんわね!」
ルベライトがきゃあきゃあ言って、着替えを済ませたクロシュを持て囃す。
クロシュは苦笑しながら、「ありがとう、ルベラ」と言い、時計を見た。
ルベライトが服の目星をつけていたお陰で約束の一時間にはまだなってはいないが、そろそろ戻らないとまずい。
「ルベラ、そろそろ戻ろうか」
クロシュが促せば、ルベラも頷いた。
宿に戻ると、シルフィが笑みを浮かべて迎えてくれた。
ちらりと時計を見れば、一時間の五分前で胸を撫で下ろす。
「クロシュ、美しい装いもまた素敵ですね。特にその色、良くお似合いです」
シルフィは町娘に扮したクロシュを見るなり、瞳を細めて誉めちぎる。
そして、ルベラに言う。
「そう言えばルベラ。貴女の不在中に、来訪者がいらっしゃいましたよ」
ルベラはキョトンとした。全く心当たりがないらしい。
「どなたかしら?」
「貴女の親族である、タンザナという方の遣いらしいのですが。ご存知ですか?」
ルベライトは口に手を当てて驚いた。
衛兵達も少しざわりとしている。
「━━タンザナ!私の従兄弟ですわ!!私は、城に残されていた彼の日記を読んで国外へ行こうと決めたのです!けれどもタンザナは30年前に砂漠国から旅に出たまま、音信不通らしくて……私は一度もお会いした事がないのですが……」
クロシュとシルフィは顔を見合わせた。
タンザナというのがルベラの従兄弟というのは間違いないらしい。
しかし、音信不通の人物がいきなりルベラに遣いを寄越すなど、怪し過ぎる。
ルベライトの様子を見る限り、会いたいと思っている様だ。
しかしシルフィは許さないかもしれない━━そう思ったクロシュの勘は、珍しく外れた。
「竜人国の代表として、音信不通の竜人がいる事は看過できませんね……直ぐにでも先程の使者と連絡を取るように」
「はっ」
シルフィはタンザナの身を案じている様で、クロシュは少し不思議に思う。
タンザナは竜人……であれば、普通の人間や獣人等足元にも及ばない程、強い筈であった。
☆☆☆
「クロシュはどんな格好をしていても、本来の輝きが失せる事はありませんが……本日は一層、可愛らしいですね」
シルフィはベッドに腰をかけたまま、クロシュを手招きした。
これからシルフィに腰が砕けるまで可愛がられる……それがわかっていながらさっさと近寄れる性格のクロシュではない。
尻尾をゆらゆらと不安げに揺らし、明日の出国に備えてどうすればシルフィの責めは緩むのだろう?と考えながらゆっくり近寄る。
クロシュが近くまで来るのをゆっくり見届けたシルフィは、クロシュの腰に両手を巻き付け、見上げながら少し寂しそうに言う。
「━━明日から、帯刀せずにルベラに選んで貰った服を着ていて下さい。そして、ルベラには悟られない程度にさりげなく私とは距離を置いて……そうですね、ルベラのお付きの様にしていただけますか?」
クロシュは、シルフィの瞳を見たまま頷いた。
「わかった」
普段はシルフィの独占欲に逃げ出したくなるクロシュだが、シルフィから「距離を置く様に」と言われると胸が痛んだ。
「……クロシュ、貴女にそんな顔をされると……私も辛いのでやめたくなります。……我慢出来なくなりますよ?」
シルフィの片手が不埒な動きをし、クロシュの巻きスカートの中に手を滑り込ませた。
そして、あっけなくクロシュの素肌にたどり着き、下履き代わりの貞操帯を指先に感じて満足そうに微笑んだ。
「クロシュ。……本当に、貴女は……私を安心させる天才ですね。これは勿論ですが、猫の気儘さや奔放さという本能で嫌だと思う事を沢山押し付けているであろう私に、こんなに寄り添う態度を示して下さる事が……私はなんて幸せ者なのでしょう……」
クロシュは驚いた。
嫌な事でもシルフィがそうしたいならと、最終的にクロシュが折れている事に気付いてくれていた。
クロシュが我慢するのも……シルフィの傍に、いたいと思うから。
シルフィは馴れた手つきでするりとクロシュの貞操帯の紐を外す。
そうして「抜きますよ」ゆっくりゆっくりと前後の穴から、貞操帯と一体になっていたディルドをぬぽぉ、と引き抜いた。
「んふぅ……」一時間馴染んだ棒を抜かれ、クロシュの口から艶めいた息が漏れる。
巻きスカートの下から貞操帯を手元に寄せたシルフィは、それをしゃぶりながらスカートを捲り上げる。
「クロシュ、スカートを持っていて下さい」
「ん……っっ」
クロシュにスカートを両手で持たせたシルフィは、目の前にある潤いに満ちた秘部へと長い舌を伸ばす。
「は、ぁ……、っっ」
ヌロリヌロリと内股を上下になぞったシルフィの舌は、ちゅぶりと難なく泉を啜りに奥深く潜り込む。
クロシュはせりあがってくる痺れに、立っているのが精一杯だ。
くち、くち、こりこりっ
ぢゅぶぢゅぶぢゅぶぢゅぶ
「ぁ、ああっっ……っっ!!」
膣内を舌で掻き回され、花芯を指で可愛がられれば、直ぐにクロシュの腰がガクガクとひくついた。
「クロシュ、腰がひけては舐められませんよ?」
そろそろ立っているのが限界なのに気付いていながら、シルフィは責めを増やす。
溢れたジュースを細い指に絡みつけ、ひくひく動くアナルにするりと滑り込ませた。
ぐっぷ、ぐっぷ、ぐっぷ、ぐぷっっ!!
くに、くに、くに、ぐにっ!!
じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、じゅううう!!
「ひあぁん………、あ、あ、ああ━━っっ!!」
後ろの蕾と、ぷっくり勃ち上がったクリトリスと、だらだらと卑猥な涎を垂らし続ける肉壺を苛められ、クロシュの身体は痙攣して仰け反る。
「ふふ……クロシュ、可愛い。さぁ……そのまま腰をおろしましょうか」
難なく受け止めたシルフィは、クロシュの両膝をスカートごと左右に開き、二本の脈うつ陰茎にそれぞれの鞘をあてがった。
「ひぁっ……、まっ………」
軽くイっていたクロシュの息が整う前に、クロシュの体重によりずぷずぷとそれぞれが埋められていく。
両足を抱え上げられたクロシュは成す術もなく、強烈な異物感に侵食されていった。
「クロシュのおまんこもお尻も、可愛らしく上手に頬張ってますね……ご褒美をあげないといけません」
シルフィは、まだ埋まりきっていないクロシュの身体を前後に揺らして、秘豆かぐりぐりと押し潰される様に動かした。
「ひぃん!!」
その刺激に堪らずクロシュは胸を突き出す格好となり、その拍子でずぶり、と根元まで一気に串刺しにされる。
「ひぁ……ぁぁ……」
あまりの衝撃にクロシュの瞳は濁り、身体は弛緩して少量の尿がぽたぽたと股を汚した。
「クロシュ、私の先端が貴女の子宮口とキスしているのがわかりますか?……もう少ししたら、もっと激しいキスをさせてあげましょうね」
シルフィがそう言っている最中にも、ペニスから滲み出た微量ながら強力な媚薬がクロシュの胎内へと摂取されていく。
「ふ、にゃあん……シルフィ……早く、動いてにゃ……」
クロシュの顔が、発情期のソレへと表情を変え、尻尾が動いて自らの後穴に捩じ込まれた肉竿にそっと絡み付く。
「はい、勿論」
どちゅ!どちゅ!どちゅ!どちゅ!
じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!
ぬぷ!ぬぷ!ぬぷ!ぬぷ!
「にぁん!にゃあっっ!!」
シルフィはクロシュを思うままに揺さぶり、突き上げ、貪る。
クロシュもシルフィの動きに合わせ、その上で淫らに踊り、啼いた。
「にゃ、も、イく、イっちゃうにゃ、にゃ━━っっ!!」
「クロシュ、一緒に━━っっ」
クロシュが盛大に潮を吹いてシルフィの槍を扱き上げると同時に、その子宮には大量の子種が注ぎ込まれる。
そのままくったりとシルフィに身体を預けたままのクロシュの猫耳に、シルフィが「クロシュ、まだまだこれからですよ」━━と囁いた。
☆☆☆
衣料の国を出て北山脈の麓にある国へ入国し、山脈を越えるための道を少し西へずれたところにある、大きくも小さくもない平凡な街へ案内される。
訳あってタンザナはルベラの元を訪れられない事を使者に詫びられた上で、シルフィ一行がタンザナの元を訪れる流れとなった。
シルフィがクロシュに町娘の格好を指示した事といい、シルフィはこの流れを予期していた事になる。
使者は寡黙で、その街までどこにも寄り道しないで真っ直ぐ向かいおよそ一週間かかったが、砂漠国の従者と違い、シルフィ一行と馴れ合う事はなかった。
そしてクロシュは時折その使者から観察されているかの様な鋭い視線を感じた為、普段よりも鈍臭そうに動く事を心掛けた。
使者が目的の街へ入ると、人々がひれ伏したのには驚く。
竜人であるシルフィやルベライトを見てではなく、使者に対してである。
しかし、使者に対する恐怖の感情は見られず、むしろ尊敬の意味合いが大きい様だ。
そしてシルフィやルベライトを見れば、街の人々はとても喜んでいた。
もしかすると、この街はタンザナが豊かにしているのかもしれない。
街には子供の数も多く、皆幸せそうで、ゆったりとした表情だった。
貧富の差が殆ど見られず、誰もせかせか働いてはいない。
その、一見すれば幸せそうな光景に、クロシュは油断したのだ。
「こちらで少々お待ち下さい」
使者にそう言われ、とても街の単なる領主の物とは思えない大層豪勢な屋敷の一室にシルフィ一行は通された。
成金趣味なのか、至るところに金ぴかの置物が飾られていて、何だか視界が眩しい。
女中が入れたお茶で喉を潤し、お菓子を頂いている最中に領主とやらが挨拶にきた。
「これはこれは、畏れ多くも竜人の方々にこんな片田舎まで足をお運びして頂き、大変申し訳ありません。私(わたくし)はこの街の代表のボビー・ヴィランと申します。……実は今、タンザナ様は床に臥せっておりまして……ただ一目でもお二方にお会いしたいとの事で、隣国に立ち寄られた噂を聞き付け、使者を出した次第でございます」
「まぁ!お加減が悪いだなんて……存じ上げませんでした、心配です」
ルベライトは眉を潜めて消沈する。
シルフィとクロシュは無言でボビーをじっと観察していた。
ボビーは子豚の様にでっぷりと肥え太り、両手や首にじゃらじゃらと重そうな宝石を沢山身に付けている。
しかし、いくら慇懃な態度でゴージャスに飾ろうとも、品の良さが全く感じられない。
人は見た目で判断してはいけないと思うものの、クロシュがあまり好感を持てないタイプである事は一目瞭然だった。
ボビーがルベラとシルフィを早速タンザナの部屋まで案内してくれると言うので、全員で最初に通された部屋を後にする。
━━タンザナの部屋に入る事が許されたのは、ルベラとシルフィだけで、ボビーを含め、クロシュや護衛は廊下で待機させられた。
タンザナの部屋の厳重な両扉が開閉されると、清潔感溢れる部屋の真ん中には大きめのベッドが一台設置され、その上に一人の人が横たわっているのが見える。
ベッドの横には点滴の様なものが何個もぶら下がり、チューブは全てベッドの人物へと繋がっている様だった。
「……タンザナ、さん?私、砂漠国エ・クレール国王の娘、ルベライトと申します」
ルベライトがタンザナの傍に駆け寄る。
しかし、タンザナは酷く憔悴しきった青白い顔をしたまま、言葉を発するどころかその瞳さえ開ける事はなかった。
タンザナの額にある紫色の鱗は、カサカサに渇いて今にも剥がれ落ちそうだ。
「━━っ!!」
言葉を失ったルベライトは、タンザナの手を握る為に、毛布の上からその手を探る。
……?
ルベライトの手は、タンザナの手首に硬い質感を感じて不思議に思い、少しだけ毛布を捲ってそこを見た。
「━━え?」
タンザナの手首は、手枷でベッドに拘束されていた。
それをルベライトが目にした時、廊下に待機していたクロシュの周りで異変が起きた。
「ぐっ……」「ぐはっ」「う、ぁ……」
護衛達が、口から泡を吹きながらバタバタと倒れていく。
「な………っ」
クロシュも目眩を感じて片膝を付いた。
嘔吐感がせりあがり、その場で吐く。
「クロシュ、ど、の……大、丈夫、か……?」
横を見れば、首を抑えたまま顔を真っ青にしたガッシュがこちらに手を伸ばしていた。
「……、……ガッ………」
ガッシュ、と言いたいのに言葉に出来ない。
酷い目眩と吐き気以外に、次は頭痛と立っていられない程の脱力感に襲われる。
━━シルフィ、シルフィは無事なのか!?
クロシュの異変を察知していない訳がないのにも関わらず、シルフィが飛んで来ない事に焦燥感が増す。
「……ほぅ?何故、タンザナの毒でこやつらは死なないんだ?」
ボビーがガッシュを蹴り転がし、クロシュの腕も引っ張って仰向けに転がす。
そして、使者だった者に命じた。
「何か利用価値があるかもしれんな。こやつらもあれで拘束しておけ」
クロシュは、ボビーに転がされたお陰でシルフィに視線を向ける事が出来た。
シルフィも「タンザナの毒」とやらで一時前後不覚に陥り、その瞬間を狙って後ろ手に拘束された。
ルベライトも同様だ。
しかし、既に正気を取り戻したらしく、毒によって苦しむクロシュを見て怒りをその瞳に宿す。
「━━すみません、クロシュ」
シルフィが声に出さずに、口でそう言ったのがクロシュにはわかった。
「……大丈夫、だから……シルフィ」
声には出さずに、懸命にシルフィに伝える。
隣で、辛うじて生きているガッシュと、それ以外の仲間が既に事切れているという事実はクロシュの瞳に涙を浮かべさせてしまったが。
タンザナの毒の効果が薄らいだシルフィはその場に立ち上がり、ボビーに問いかける。
「……この手枷は何で出来ていますか?」
ボビーは良くぞ聞いてくれたとばかりに拍手した。
「はっはっは!いくら竜人でもそれは壊せないだろう?……なんといっても、竜人の骨で出来ているのだからな」
ボビーはニヤリと笑う。
ルベラはタンザナに繋がっている液体を見る。
それは、点滴などではなくむしろ瀉血であった。
タンザナから大量の血が、沢山のチューブを伝って抜き取られていた。
「竜人は強いが、竜人の骨だけは壊せない。そんな事をたまたま知った私は、タンザナを捕らえてこの街を豊かにする事を成功させたのだよ。いやぁ、タンザナの奴が死ぬ前に二匹も竜人を捕らえる事が出来るなんて……本当に私はついている。竜人さえ手に入れれば金持ちだ。その血も精液も高値で売れるからな!タンザナはたまたま毒の能力があったから、尚更良かったが……どれ、娘はどんなだ?火か……売り物にはならないな。男は……銀?どんな能力だ?」
ボビーの従者達は皆首を振る。誰もわからない様だ。
「成る程……竜人の骨ですか。確かに、私には壊せない様だ。しかし、ボビー。貴方はとんでもない間違いを犯しましたね」
シルフィはボビーににこりと笑い掛ける。
身震いがする程の……とても綺麗で、一切の揺るぎがない冷笑。
「は?竜人は強いからって、傲慢なんだよ。だからお前らだって騙された。やられる訳ないって、特別な種族だって思ってんだろう?何が稀有だ。阿保どもが」
ボビーが鼻で嗤う。
「ひとつ目は、タンザナと違い、我々が集団で行動していた事に警戒しなかった事」
「殆どが毒で死んだだろうが。生き残ってるのは黒猫人と熊人だけだ」
「ふたつ目は、竜人の血があまりにも流通しすぎた事」
「何が流通しすぎた、だ。勿体ぶりやがって」
「みっつ目は、亡くなった竜人を愚弄した事」
「……は?愚弄?あぁ、骨を使って手枷にした事か?有効利用しただけだろうが」
「よっつ目は、私にとっては一番の大罪です。私の番に、その汚い手で触れた事と、毒で苦しめた事」
「番?」
「クロシュ、私にあれを投げて下さいませんか?」
シルフィに乞われ、一瞬躊躇する。
これを渡せば、確実に我々は助かるだろうが……この街は間違いなく火の海になる。
であれば、ルベライトの「影」が来るのを待つというのは……「クロシュ」
シルフィに再度声を掛けられた事で、ボビーとその従者が慌ててクロシュを取り押さえ様とした。
クロシュの脳裏に蛇人達の最期が蘇る。
いくら悪党であっても、虫けらの様に暴力で一方的に蹂躙されるのは出来れば見たくなかった。
正確には、そんな事をシルフィにさせたくなかった。
「……すまない……」
クロシュの謝罪は、誰へのものだったのか。
クロシュの投げた短剣を難なく口で受け止めたシルフィは、高く跳躍してあっさりとクロシュの手枷を砕き、自由になったクロシュが今度はシルフィの手枷を砕く。
砂漠国の国宝━━竜の骨で出来た短剣は、竜人の骨をいとも簡単に破壊したのである。
逃げ出すボビーを指先で汚いモノを触るかの様に捕まえ、シルフィは言った。
「そう言えば、貴方の質問にお答えしていませんでしたね。白銀の鱗の能力は━━です。よければ貴方にも、特等席でお見せいたしましょう」
☆☆☆
街だった場所を、小高い丘の上から見下ろしていた。
ルベライトは、「影」に付き添われて護衛の者の遺体に涙を流していた。
タンザナは辛うじて息があり、短剣で拘束をといていた。体力が回復次第、「影」によって砂漠国へと帰国させる予定だ。
クロシュはまだ毒の作用で苦しそうなガッシュを触らない様に気を付けながら、「影」を通して看病していた。
クロシュが毒で死ななかったのは、恐らくシルフィの番となり、身体が作り替えられたからだと思う。
しかしガッシュが生き延びた理由がわからない。
疑問に思っていると、ようやく大きな翼を羽ばたかせて帰還したシルフィが教えてくれた。
「ああ、クロシュは知らなかったのですね。ガッシュも非常に薄くはありますが、竜人の血をひいているんですよ」
街ひとつ滅ぼした後とは思えない程清々しい笑顔で、「クロシュ、ただいま」とシルフィはクロシュを抱き締める。
クロシュは、シルフィをぎゅ、と力強く抱き締め返した。
「今回は、私の不手際で亡くなった方々には大変申し訳ない事をしました。ルベラ、クロシュにも悲しい思いをさせて申し訳ありません」
ルベライトは力なく首を振る。
「タンザナの毒は、遅効性で竜人でも飲んでわからない程のものだったもの……多分、あの場にいた全員が普通の毒であれば直ぐに気付いたのに……私だけは、タンザナの能力が毒である事を知っていたのに、そんな事気付かなかったわ……シルフィのせいじゃない、むしろ私のせいだわ……」
パタパタと、幼い少女は流れる涙を止められない。
「ルベラ、クロシュ……こんな残酷な形で、こんなに早く竜人を巡る闇に触れさせてしまうとは思いませんでしたが……竜人は確かに強い種族ではありますが、今回の様に行方不明になる者がいる事もまた事実なのです。竜人国の代表である私には、何かしらの理由で捕らえられた竜人達を救う事も、大事な仕事なのです」
ルベラとクロシュは頷いた。
「それでも、お二人は……まだ、私に着いてきて下さいますか……?」
ルベラは頷き、クロシュは弾かれた様にシルフィを見る。
夕日によって逆光になった為、シルフィの表情は良くわからない。
笑っている様にも見えるが、哭いている様にも見える。
しかし、シルフィが欲しい言葉位、クロシュはわかっていた。
そして、自分の気持ちも。
「勿論だ、シルフィ」
その日の夜は野宿になった。
クロシュは、まだ白煙が立ち上る方角を見ながら、シルフィに後ろから抱き締められていた。
前にまわされたシルフィの腕をそっと両手で撫でながら、呟く。
「シルフィ。私は、ずっと傍にいると約束する。けして自分から離れていったりはしない」
シルフィの腕に力がこもり、クロシュの猫耳が掠れる声を拾い上げた。
「……愛しています、私の可愛い番」
自由でいたい筈の黒猫はその日、自ら竜人の伴侶となる覚悟を決めた。
応援ありがとうございます!
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