先読み神子の嫁入り

イセヤ レキ

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1、双子の巫女

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とある長閑な漁師町。



朝まで働く漁師達は眠りにつき、昼はひっそりと落ち着き払った装いのこの町は、何故か今日に限って昼間であっても大層な賑わいを見せていた。



旅路の途中で何度かこの漁師町の宿を利用した旅人が、宿屋の主人に尋ねる。



「今日は随分と町全体が賑わっているようだね、祭りでもあるんかい?」

「いや、祭りという訳ではないんだが……この町の巫女様が、華族様に見初められて嫁ぐってんで、町をあげてのお祝いモードなんさ」

「ほほう、そりゃ目出度いね」

こんな田舎にある漁師町から華族へ嫁ぐなんて、玉の輿もいいところだ。

  

宿屋の主人は深く頷いた。

「我々の誇りさ、キッカ様は」

「しかし、そのキッカ様とやらは何でその華族様へ嫁入りすることになったんだい?」

男の旅はまだまだ続く。

これから先の町で知り合った人達への土産話として、興味深々で尋ねた。



「花魁も顔負けの器量良しとかかい?」

「はっはっは!確かにキッカ様はそんじょそこらの町娘じゃ太刀打ち出来ねぇほどの美人だが、それよりも価値のあるモノをお持ちなんだ」



旅人は首を傾げる。

「なんでぃ、金持ち同士の結婚けぇ?」

そうであれば、単なる政略結婚だ。

土産話にもならんなと旅人が一気に興味を失いそうになった時、宿屋の主人はニヤリと笑った。



「違ぇよ。キッカ様は吉を占える巫女……『先読みの巫女』の片割れなんさ」

「……吉を占える巫女?」

旅人は再び、身を乗り出した。



***



宿屋の主人の話を要約するとこうだ。


漁業を主な生業とする者で成り立っているこの町を支えるのは、とある神社の占いである。

その神社では、占術で栄えた家系である藤島家が代々神職を担っていた。


今その神社を支えているのは、双子の姉妹である。


吉相を占い、明るい未来を予知する姉のキッカ。

凶相を占い、不幸な未来を予知する妹のキョウカ。



「わしは台帳の都合で読み書き出来るが、二人の名前は吉花と凶花なんだと聞いたことがある」

「成る程」



双子の性格も極端に陰陽で分かれており、村人達は社交的で明るい姉をとても敬い慕っていた。


「いやぁ、妹の方は長い前髪でこう……目を隠しててさ、人と話す時も下を向いて。とにかく陰気なんだわ」

「はぁ」



藤島家が敬わられるといっても、今まではゲン担ぎのようなものだった。気休めともいう。

しかし、海の男は事故に合いやすい為、漁師達も家族も藤島家を代々大事にしてきた。


ところが、この双子が占うようになってから、よりその傾向が強くなった。

というのも……。



「百発百中なわけよ。わかる?絶対に当たる占いな訳」

「そんな馬鹿な」

旅人は笑ったが、宿屋の主人は至って真面目な様相を崩さない。

「……本当かい?」

「おうともよ。ありゃ占いを通り越して予言だと皆言っとる」



占いの能力を開花したのは、キョウカが先だったという。

初めて占ったのが、九年前に起きた双子の両親の事故。

神社の横繋がりで、ある日両親は数日かけて街へ出向かなくてはならなかった。

九歳の双子を連れて行こうかどうか悩んだが、子供達が行っても暇をするだけだと考えた両親は二人を禰宜や権禰宜達に任せて二人だけで出発したという。



「キッカ様はずっと、占術の能力や巫女に憧れておったらしい。世話人達が忙しくしている間に、占いの間という、当時入室禁止にされとった部屋に妹と一緒に入ったらしいんだな」


こっそりその部屋に入ったキョウカは初め普通にしていたらしいが、急にバタンと倒れた。

キッカが慌てて世話人達を呼びに行き、直ぐに戻って来たのだが、その時キョウカの予知……占いの言の葉が紡がれたらしい。


曰く、『両親は帰りの道中で事故によって命を落とす』と。

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