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知らない世界で
隊長さんとごはん
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「そう言えば、随分と長い間美術工芸展示室にいたらしいな」
隊長さんはそう言った後、大きくカットした鳥の肉を一口で豪快に頬張った。おぉ、漢らしい。
「はい。あの部屋には素晴らしい作品がいくつもあって、何時間でもいられます」
私も同じ肉を、隊長さんの4分の1位に切って口に入れる。
もぐもぐもぐもぐ。
脂がじゅわ~っとなって、サワークリームみたいな味付けが凄く美味しい。もう一口!
「……美味しいか?」
「はい、とっても!!このお屋敷の料理人さん達は凄い腕前ですよね~」
「そうか、美味しいか。私達蛮族の国では、料理に感謝はするがあまり味付けを気にしないんだ。サアヤの顔を見れば……皆、喜ぶだろうな」
隊長さんは、強面の顔を崩してふわりと笑う。……おぉ、イケメン達とは違った魅力をお持ちだ、この方。
不思議と、隊長さんはそこに居るだけで空気をピリリとさせるのに、誉められたり笑ってくれたりすると凄く嬉しく感じてしまう。絶対人たらしだ、このお方!
──はい、何故か隊長さんと夕食をご一緒させて頂いております。
一人で食べるごはんは味気ないし、つまらないから一緒に誰かいてくれた方が嬉しいけど、旦那様を差し置いて近衛隊の隊長と夕食を一緒するのってどうなんだろう?と頭を捻らずにはいられない。……まぁ、それを言ったら奴隷達と食べているのは良いのか、という墓穴を掘りそうなんで言えないけど。
私の部屋に訪れた隊長さんは、何故か部屋から出て行かずに「そろそろ夕食時だな。一緒にどうだ?」と私に聞いてきた。
え?一緒に??いやいや、そんな仲だっけ??
唖然としていると、隊長さんは「奴隷達とは食べている、と聞いている。……嫌なら、諦める」と憮然としながらおっしゃった。
あ、因みに憮然は本来の意味で使わせて頂いております。つまり、失望や落胆しながら言ったという訳でして。
ええ!?体格の良い、強面の精悍な漢が、肩を落としてガッカリしてらっしゃる!?
……どうしよう、この方のギャップ萌え~、がいちいちツボだ。
「勿論、嫌じゃないですよっ!是非!是非ご一緒させて下さい!」
色々隊長さんに突っ込まれたらHP0でもう身動きとれないのに、肩を落とした隊長さんに計らずも胸キュンさせられ、私の口は勝手にそう回答していた。私はバカだ。
しかし、恐れていた様な「貴様は誰だ!」的イベントはなく、ほんわかほんわかと時間は過ぎる。隊長さんは自分のワゴンを私の部屋に運ばせる様に誰かに伝え、二つのワゴンが揃ったところで私達は自分のワゴンからテーブルセッティングをした。
……のだが、隊長さんは物凄く慣れてなさそうだった。スープを受け皿に溢し、フルーツを転がし、皿を傾けてタレが危うく床に滴るところだった。見ているだけで吹き出してしまいそうで、でも普段やらない事をやってでも私と一緒に食べたい、と思ってくれた事を有り難く思う。
「大丈夫ですか?私、やりますよ?」
「……問題ない。サアヤは慣れてるな」
「そりゃ、毎日やってましたもん」
言ってから、しまった、と思ったけど。
隊長さんは、明らかに私がエイヴァさんではないと思っていそうなのに、私を追い出す様な素振りが今のところ見られない。もう少し、人となりを見て、問題なさそうなら少しずつ本当の事を話しても良いんじゃないか、と思った。
……うん、本当に人たらしだ、この人。
だってね、私を見る目が優しいんだよ。何て言うか、マティオスさんに報告するにせよ、酷い目には合わされないだろうな、っていう空気を感じるというか。ただ、話す勇気がまだ出ないだけで、タイミングさえあれば隊長さんになら……
私が躊躇していると、隊長さんがポツリと
「……無理に話さないでも良い」
と、言ってくれた。そして
「私もサアヤに隠している事はあるからな。……お互い様だ」
と、からかう様に続ける。
そりゃ、隊長さんが私に話しちゃいけない事なんて、山の様にあるだろう。マティオスさんの安全上の事とか屋敷の警備の事とかさ。
けど、こんな風に言ってくれるのは有り難かった。
3人以外にも、この屋敷で味方を増やせるなら増やしていきたい。
「……ありがとう、ございます」
気付いているのに、見逃して下さって。
そして、冒頭の会話に戻るのだけど。
「レネ君がね、素質あると思うんですよ。これ、私がレネ君に頼んで、彼の作品を私の部屋に置かせて貰っているんですけど」
そう言いながら私は席を立ち、テーブルの上から移動させた掌サイズの例の置物と陶器製のコップを再び隊長さんにも見せるべく、持ってきた。
「これは……見事だな。レネが作ったのか?」
「はい、そうらしいです。私も昨日、レネ君がライリーのタンスを直すところを見ていましたが、あの手際の良さを考えると本当に本人が作った物だと思います」
成る程。作品を見た隊長さんが、思わずレネ君が作ったのか確認してしまう程の作品な訳だ。夏休みの自由課題の出来が良すぎたり、上手すぎたりして大人の手を借りたのではないかと先生が勘ぐってしまう状況に似ている。つまり、とても出来が良い。まるで井波彫刻を見ているかの様です。
「こちらの置物は、今にも動きそうな躍動感がありますよね。美術工芸展示室に飾られていたものは、全て伏せているか仁王立ちでしたが、こうした動きを表現する置物は、この世……この国の工芸品としては珍しいんじゃないかと思いまして」
「ああ、彫りの技術も素晴らしいが、発想や着眼点が良いな」
隊長さんの素直な感嘆の言葉に、まるで自分が誉められた時の様に顔が緩む。ニマニマしながら、もう1つのコップをすす、と隊長さんの方に近付けた。
「これも、凄くないですか?」
「……珍しいな。他素材をこれ程見事に組み込むとは」
「これ、取っ手の大きさが左右で微妙に違うのわかります?」
「ああ、確かに。言われてみればそうだな」
陶器のコップは、それだけだと冬用の湯飲みの様な形をしているが、きめ細かい細工が施された木製のホルダーで覆われていた。木製の持ち手は、恐らく男性と女性の手の大きさを想定されて左右非対称となっていて、それがまた美しいシルエットを造り出していた。
「レネ君も工芸品に興味あるみたいだし、沢山の工房を見て回って、知識と技術を身に付けたら独立して、レネ工房設立とか楽しそうだなーと」
で、私は事務員採用で。
「ふむ」
「まぁ、私には外出許可降りないのでまだ先の事になりそうですが」
それと私が帰還したらレネ工房は無理かもしれない。ただ、この世界にいる間だけでもレネ君が解放された後の夢だとか生き甲斐とか見つけて貰いたい、とは思う。
「そうか。……まぁ、サアヤと奴隷達だけでは認められないかもな。サアヤには不満かと思うが、エイヴァと同じ外見をしている以上、安全が保証されない」
「……あれ?エイヴァさんの外出許可がおりないのって、逃亡阻止の為だと聞きましたが」
「今のサアヤがエイヴァだとバレる恐れはほぼないだろうが、サアヤと奴隷達を守る為でもある。エイヴァだった時であれば、外出先で闇雲に呪詛を掛けられても困るから外出許可は出さなかっただろうが……どっちみちあの女はずっと部屋に引きこもってたからな」
隊長さんが自嘲気味に薄く笑う。やっぱり、近衛隊の隊長さんからしても、主人の妻が性奴隷を抱えて部屋に籠りきり、というのはやるせないものがあったのかもしれない。
ライリーがもし剣術を学ぶ事が出来たら、安全も確保出来て、外出許可がおりたりするかな?
わぉ!一石二鳥!
それにしても隊長さん、私をエイヴァさんじゃなくサアヤだとすっかり認識しているけれども、何でこれ程別人扱い出来るのだろう??
私からは全く説明していないのに、全て理解しているかの様だ。
……私は不思議に思って首を傾げた。
隊長さんはそう言った後、大きくカットした鳥の肉を一口で豪快に頬張った。おぉ、漢らしい。
「はい。あの部屋には素晴らしい作品がいくつもあって、何時間でもいられます」
私も同じ肉を、隊長さんの4分の1位に切って口に入れる。
もぐもぐもぐもぐ。
脂がじゅわ~っとなって、サワークリームみたいな味付けが凄く美味しい。もう一口!
「……美味しいか?」
「はい、とっても!!このお屋敷の料理人さん達は凄い腕前ですよね~」
「そうか、美味しいか。私達蛮族の国では、料理に感謝はするがあまり味付けを気にしないんだ。サアヤの顔を見れば……皆、喜ぶだろうな」
隊長さんは、強面の顔を崩してふわりと笑う。……おぉ、イケメン達とは違った魅力をお持ちだ、この方。
不思議と、隊長さんはそこに居るだけで空気をピリリとさせるのに、誉められたり笑ってくれたりすると凄く嬉しく感じてしまう。絶対人たらしだ、このお方!
──はい、何故か隊長さんと夕食をご一緒させて頂いております。
一人で食べるごはんは味気ないし、つまらないから一緒に誰かいてくれた方が嬉しいけど、旦那様を差し置いて近衛隊の隊長と夕食を一緒するのってどうなんだろう?と頭を捻らずにはいられない。……まぁ、それを言ったら奴隷達と食べているのは良いのか、という墓穴を掘りそうなんで言えないけど。
私の部屋に訪れた隊長さんは、何故か部屋から出て行かずに「そろそろ夕食時だな。一緒にどうだ?」と私に聞いてきた。
え?一緒に??いやいや、そんな仲だっけ??
唖然としていると、隊長さんは「奴隷達とは食べている、と聞いている。……嫌なら、諦める」と憮然としながらおっしゃった。
あ、因みに憮然は本来の意味で使わせて頂いております。つまり、失望や落胆しながら言ったという訳でして。
ええ!?体格の良い、強面の精悍な漢が、肩を落としてガッカリしてらっしゃる!?
……どうしよう、この方のギャップ萌え~、がいちいちツボだ。
「勿論、嫌じゃないですよっ!是非!是非ご一緒させて下さい!」
色々隊長さんに突っ込まれたらHP0でもう身動きとれないのに、肩を落とした隊長さんに計らずも胸キュンさせられ、私の口は勝手にそう回答していた。私はバカだ。
しかし、恐れていた様な「貴様は誰だ!」的イベントはなく、ほんわかほんわかと時間は過ぎる。隊長さんは自分のワゴンを私の部屋に運ばせる様に誰かに伝え、二つのワゴンが揃ったところで私達は自分のワゴンからテーブルセッティングをした。
……のだが、隊長さんは物凄く慣れてなさそうだった。スープを受け皿に溢し、フルーツを転がし、皿を傾けてタレが危うく床に滴るところだった。見ているだけで吹き出してしまいそうで、でも普段やらない事をやってでも私と一緒に食べたい、と思ってくれた事を有り難く思う。
「大丈夫ですか?私、やりますよ?」
「……問題ない。サアヤは慣れてるな」
「そりゃ、毎日やってましたもん」
言ってから、しまった、と思ったけど。
隊長さんは、明らかに私がエイヴァさんではないと思っていそうなのに、私を追い出す様な素振りが今のところ見られない。もう少し、人となりを見て、問題なさそうなら少しずつ本当の事を話しても良いんじゃないか、と思った。
……うん、本当に人たらしだ、この人。
だってね、私を見る目が優しいんだよ。何て言うか、マティオスさんに報告するにせよ、酷い目には合わされないだろうな、っていう空気を感じるというか。ただ、話す勇気がまだ出ないだけで、タイミングさえあれば隊長さんになら……
私が躊躇していると、隊長さんがポツリと
「……無理に話さないでも良い」
と、言ってくれた。そして
「私もサアヤに隠している事はあるからな。……お互い様だ」
と、からかう様に続ける。
そりゃ、隊長さんが私に話しちゃいけない事なんて、山の様にあるだろう。マティオスさんの安全上の事とか屋敷の警備の事とかさ。
けど、こんな風に言ってくれるのは有り難かった。
3人以外にも、この屋敷で味方を増やせるなら増やしていきたい。
「……ありがとう、ございます」
気付いているのに、見逃して下さって。
そして、冒頭の会話に戻るのだけど。
「レネ君がね、素質あると思うんですよ。これ、私がレネ君に頼んで、彼の作品を私の部屋に置かせて貰っているんですけど」
そう言いながら私は席を立ち、テーブルの上から移動させた掌サイズの例の置物と陶器製のコップを再び隊長さんにも見せるべく、持ってきた。
「これは……見事だな。レネが作ったのか?」
「はい、そうらしいです。私も昨日、レネ君がライリーのタンスを直すところを見ていましたが、あの手際の良さを考えると本当に本人が作った物だと思います」
成る程。作品を見た隊長さんが、思わずレネ君が作ったのか確認してしまう程の作品な訳だ。夏休みの自由課題の出来が良すぎたり、上手すぎたりして大人の手を借りたのではないかと先生が勘ぐってしまう状況に似ている。つまり、とても出来が良い。まるで井波彫刻を見ているかの様です。
「こちらの置物は、今にも動きそうな躍動感がありますよね。美術工芸展示室に飾られていたものは、全て伏せているか仁王立ちでしたが、こうした動きを表現する置物は、この世……この国の工芸品としては珍しいんじゃないかと思いまして」
「ああ、彫りの技術も素晴らしいが、発想や着眼点が良いな」
隊長さんの素直な感嘆の言葉に、まるで自分が誉められた時の様に顔が緩む。ニマニマしながら、もう1つのコップをすす、と隊長さんの方に近付けた。
「これも、凄くないですか?」
「……珍しいな。他素材をこれ程見事に組み込むとは」
「これ、取っ手の大きさが左右で微妙に違うのわかります?」
「ああ、確かに。言われてみればそうだな」
陶器のコップは、それだけだと冬用の湯飲みの様な形をしているが、きめ細かい細工が施された木製のホルダーで覆われていた。木製の持ち手は、恐らく男性と女性の手の大きさを想定されて左右非対称となっていて、それがまた美しいシルエットを造り出していた。
「レネ君も工芸品に興味あるみたいだし、沢山の工房を見て回って、知識と技術を身に付けたら独立して、レネ工房設立とか楽しそうだなーと」
で、私は事務員採用で。
「ふむ」
「まぁ、私には外出許可降りないのでまだ先の事になりそうですが」
それと私が帰還したらレネ工房は無理かもしれない。ただ、この世界にいる間だけでもレネ君が解放された後の夢だとか生き甲斐とか見つけて貰いたい、とは思う。
「そうか。……まぁ、サアヤと奴隷達だけでは認められないかもな。サアヤには不満かと思うが、エイヴァと同じ外見をしている以上、安全が保証されない」
「……あれ?エイヴァさんの外出許可がおりないのって、逃亡阻止の為だと聞きましたが」
「今のサアヤがエイヴァだとバレる恐れはほぼないだろうが、サアヤと奴隷達を守る為でもある。エイヴァだった時であれば、外出先で闇雲に呪詛を掛けられても困るから外出許可は出さなかっただろうが……どっちみちあの女はずっと部屋に引きこもってたからな」
隊長さんが自嘲気味に薄く笑う。やっぱり、近衛隊の隊長さんからしても、主人の妻が性奴隷を抱えて部屋に籠りきり、というのはやるせないものがあったのかもしれない。
ライリーがもし剣術を学ぶ事が出来たら、安全も確保出来て、外出許可がおりたりするかな?
わぉ!一石二鳥!
それにしても隊長さん、私をエイヴァさんじゃなくサアヤだとすっかり認識しているけれども、何でこれ程別人扱い出来るのだろう??
私からは全く説明していないのに、全て理解しているかの様だ。
……私は不思議に思って首を傾げた。
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