貴方が与えるものならば

イセヤ レキ

文字の大きさ
4 / 7

4

しおりを挟む
「……真典様、僕の仕事が代わったと聞きましたが……」
「うん」

腹を刺されたけど、たまたま帯をしっかり巻いていたところだったようで、僕は軽い怪我で済んでいた。


間山家の跡取りである真典様の命を救った功績がどうとかで、単なる毒味係だった僕は、真典様の身の回りの雑用を務める小姓となった。

仕事仲間が言うには、かなりの昇格となるらしい。

僕は知らなかったけれども、今まで真典様は、小姓を傍に置くことをしなかったらしく、僕が廊下を通れば顔見知りでない者からもひそひそなにやら話されることが多くなった。


けれども、
「桔梗と一緒の時間が長くなって嬉しいな」
と真典様に笑顔で言われれば、そんな他人のことなんて僕は全く気にしない訳で。

「ありがとうございます」
僕も笑顔で、頭を下げた。



真典様は、小姓を置かなかった。それはつまり、小姓を置かずとも、身の回りのことは全て自分一人で出来るということだ。


小姓の仕事に慣れない僕に、ひとつずつ丁寧に教えてくれるのは当然真典様だし、間違えても失敗しても、頭を下げる僕に決して怒鳴ることなく「ひとつずつ覚えていけば良いんだよ」と見守って下さった。


お茶を入れてみようかと言われ、僕が一人分の湯飲みを用意すれば、「桔梗の分も用意してくれないと」と微笑み、貴重な和菓子を分け与えて下さる。

洗濯された真典様のお衣装を箪笥にしまっていれば、「これは君の分だよ」と真新しい僕の服を渡して下さる。

僕が悩んでしまう位、真典様は、僕に優し過ぎると言っていいほど優しかった。


「……真典様、僕……お役に立てていますか?」

小姓になったその晩、思わず真典様にそう問いかけてしまい、僕は口を押さえた。

それは僕を安心させて貰いたくて、僕の存在価値を真典様に認めて頂きたくて、でた質問だったからだ。


──恥ずかしい。


真典様にお仕え出来るだけで幸せなことなのに、自分のことしか考えていない言葉を口にした僕が、情けなかった。

優しい真典様なら、僕が聞けば、絶対に肯定されるに違いないのに……。

そう思った僕の予想は、驚くことに裏切られた。


「はは、桔梗の仕事はこれからだよ。夜だけ僕の役に立って貰えば良いんだ」
「……え?」
「あれ、桔梗は知らなかったかい?小姓って言うのはね、僕の性処理をする仕事なんだよ」

僕は驚き、目を見開く。



「最近、どうにも自慰だけでは性欲が抑えられなくなってしまってね。僕は間山の跡取りだから、変な女を孕ませても困るし。だから、桔梗に僕の相手をして貰いたいんだ」
「ぼ、僕が、ですか……?」

僕の胸に、不安が広がっていく。

「うん。……嫌かな?」
「いいえっ!嫌な訳がございませんっ!!……ただ、経験がない為、しっかりとそのお役目を果たせるかと思いまして……」


こんなことなら、言い寄ってくる家臣の誰か適当な相手で練習しておくのだったと、僕は悔やんだ。

「桔梗に経験があったら逆に大変だよ。僕が君を育てたいんだ」
「……左様でございますか?」

閨のことなど全く知らない素人相手で満足頂けるのかわからないが、本当にそう考えていらっしゃるような真典様の様子に僕は胸を撫で下ろした。


「うん。早速今日から頼めるかな?」

温厚で純朴そうな真典様の笑顔に、僕は胸を高鳴らせながら頷いた。


他の者達がひそひそ話していた理由に、その時やっと、気付いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...