結婚相手を交換したいと言いますが、あの男はやめた方がいいですよ?

イセヤ レキ

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結婚相手を交換したいと言いますが、あの男はやめた方がいいですよ?

8 私の結婚相手?

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「それなら問題ない。ではこれからよろしく、リュシー」

イケメンが手を出し、思わず私は差し出されたそれを握る。

そうか、クルトと一緒になれば、側近らしいこのイケメン部下とも長い付き合いになるのか。



「はい、よろしくお願い致します。……ええと……失礼ながら、お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」

「ああ、私はクルト・ヴァシリだ」

「まぁ、クルト様と同じお名前なんですね」

「いや、私がクルトだ」

「……え?」





私は本日三回目、目を丸くする。

そこにクルトだと思っていた狸さんが汗を拭き拭き戻って来た。



「おや、商談成立ですか?」

「デミアン、たった今から私の婚約者になったリュシー・ヒラクスナだ。直ぐにリュシー・ヴァシリになる。これからよく面倒を見てやってくれ」



狸さん……いや、デミアンは汗を拭いていた手を止めてキョトン、とした顔をする。

「クルト様、リュシー嬢はマルンナータの駄目男に先を越されたのでは?」

「お前のお陰で幸いにもリュシー嬢がフリーになったらしい」

「私のお陰ですか?では手当てを期待しております」

デミアンはニコニコと笑いながら戯おどけた。

商売人らしい冗談なのかと思っていたが、クルトは「そうだな、そうしよう」とそれに笑って返した。




「オークションの度に現れる君が気になって仕方がなかったんだ」

後に、改めてクルトの豪邸に呼ばれた私に、彼はそう言いながら出来上がった結婚指輪を見せてくれた。



私が選んだ小さな石が綺麗に配置されていて、とても可愛い。

クルトが博物館に飾られているような石を使った結婚指輪にしようとしたのを必死で止めて良かった、と心から思う。



「オークションの開催者に君のことを聞いて、我が商団に招こうとしていた。詳しい情報を集めたところ、君がマルンナータの婚約者だと知って……ショックを受けて初めて、私が君に持つ感情が好意だったことに気付いた」



クルトは私の手をそっと持ち上げ、結婚指輪を指に嵌めてくれた。
そしてそのまま手の甲に口付けられ、私の胸が高鳴る。



「ミランダ嬢との打診の手紙を君から受け取った時、絶望感を味わいながらも君との繋がりや君の情報が欲しくて、見合いを受けたんだ」



ただ、クルトは毎日商談で忙しい。

見合いの日も遅刻しそうだったため、デミアンに時間通りに行って貰い、謝罪と時間潰しをして貰う予定だったという。

しかし結局、妹は約束を守らず姿を現さなかった。



「ミランダ嬢がマルンナータ伯爵令息を選んでくれて、助かった」

クルトが手を軽く引っ張って私を引き寄せると、顔を寄せる。

私よりも妹の方がお似合いで絵になる、整った顔。

私が瞼を伏せると、クルトは唇を合わせたのだった。
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