フツメンを選んだ筈ですが。

イセヤ レキ

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第一章 出会い(囲い込み)編

山田さんのお陰で、何だかとても楽をしてしまった気がする。山田さんが頑張って集めた資料から選ぶだけなんて、ちょっと申し訳なくて私は言った。
「……あの、今度何か奢ります」
私がそう言うと、山田さんはきょとんとした顔をした。
「え?何で?」
「だって私、なんの労力も掛けずに……」
「別にいいよ」
「そういう訳にはいきませんー」
私が引かない姿勢で言うと、山田さんは苦笑した。
「あ、じゃあ、缶コーヒー一本奢ってくれる?」
「……そんなんで良いんですか?」
これらの資料を集めるのに、どれだけの時間がかかったのだろう。
しかも、テーマまで纏めてあるなんて。
「うん。今喉渇いているから、そうしてくれたら嬉しいな」
「……わかりました。じゃあちょっと、買いに行ってきますね」
「荷物は見てるから、置いて行ってもいいよ」
「ありがとうございます」
私は財布だけ持って、フリースペースに設置されている自動販売機の前に立つ。山田さんは、ブラックのコーヒー……ではなく、私と同じ微糖のミルク入りだった。そんなところの趣味が一緒で、小さなことだけれども親近感が湧く。
私がお金を入れていると、
「お、ミスキャンパスじゃん」
「マジだ。うわー、背は高いのに、顔ちっちゃい。リアル八頭身すげー!」
知らない人達に声を掛けられてしまい、身体を縮こませた。
ミスキャンパスというのは、私の通う大学の学園祭で選ばれるミスコンの事だ。
今までは普通に舞台が用意されていたのに、私が二年生の時から感染症の関係で事前に写真提出、投票制に変更された。
ところが、私の預かり知らぬところで勝手に私の写真が掲載され、一応ミスキャンパスを企画したサークルに写真を取り下げるようにお願いしたのだけど、「今年は応募が減ってこのままだと盛り上がらなくなってしまうので、どうかこのまま開催させて貰えませんか?」と言われたから渋々頷いたのだ。結局私の写真を勝手に応募した人は誰かはっきりわかっていないけれども、風の噂で実は企画したサークルの誰かがやったと後で聞いた。
結果的に三十人程の写真が集まった中で私がグランプリを取ってしまったから、大人しく過ごしたかったのに注目を浴びるようになってしまい、先日の懇親会や今みたいに、未だ何かと話題にして声を掛けられたりするのだ。
「何も予定なければ一緒にこの後遊びません?」
遊びません!
「あの、友人と一緒なので」
私が山田さんの方を振り返ると、物凄く近い位置に彼がいて驚く。
「戸枝さん、そろそろ行こうか」
「うん」
どうやら、私が知らない人に声を掛けられて困惑しているのに気付き、わざわざこちらまで来てくれたようだ。山田さんの登場で「残念、またねー」と言いながらその人達はしつこくはせずに去ってくれてホッとした。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。……はいこれ、コーヒー」
「ありがとう。じゃあこれ、鞄」
「うん」
缶コーヒーと私の鞄を物々交換して、私達はその場を後にした。


それから一ヶ月後。私は多忙な繭ちゃんの空いている時間を掴まえ、キャンパス内ではない近くの喫茶店に誘っていた。
「……繭ちゃん、ちょっと相談が」
「珍しいね、代返のお願い?いいよ、何日?」
違う違う、と私は手を小さく振る。
「あの、気になる人が……好きな人が出来たかも、なんだけど」
チラ、と繭ちゃんを上目遣いで見ると、彼女は口を大きく開け驚愕に固まっていた。怖い怖い。ホラー映画に出てくる悲鳴を上げる直前の女優さんさながらだ。
でも、次の瞬間にはそれが一転し。
「聞いてないよー!!何々!?誰だれ!?!?」
興味津々で身を乗り出してくる繭ちゃん。
「てか、キララからこの手の相談って初めてじゃない!?二年間、恋愛の『れ』の字も彼氏の『か』の字も聞かないまま友達やっていて心配したけど、やっと春が訪れたのねー!!」
心配させちゃってたのね、ごめん。
「で?誰よ?……やっぱり猛アピールの、町田君?」
繭ちゃんが、名探偵の真似なのな何なのか、妙な仕草付きで私に聞いてくる。
「……猛アピール?」
意味がわからずオウム返しにすれば、繭ちゃんはぺちん!と額を叩いて「我がゼミ一番人気の町田君脱落かー!」と笑って言う。繭ちゃんの仕草というかジェスチャーは、見ていてコミカルでいちいち楽しい。
「で?結局誰なの?」
キャンパス内ではないとはいえ、同じ大学の人達が沢山利用している為、繭ちゃんとは私にぐいっと顔を近づけてひそひそと話す。
「えっと、あの……、そ、その前に繭ちゃんは気になっている人いたりするの?」
繭ちゃんが恋敵にならない事を祈りつつ、でもやっぱり彼女がもし山田さんを好きだったとしたら自分からは告白出来ないな、と思って先に様子を伺う。
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