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第一章 出会い(囲い込み)編
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「ん?」
「何?」
「私から誘っておいてなんだけど、この後急遽バイトが入って一緒にご飯行けなくなっちゃった」
「ええっ!?」
「そうなの?時間は間に合う?」
「うん。ヘルプだから、今から行けば大丈夫……ってな訳で、申し訳ないけど二人でご飯行って来てくれる?」
繭ちゃんが眉毛を下げながら両手をパンと叩いて、私達に言った。
「うん。俺は戸枝さんさえ構わなければ、お腹も空いたし行きたいな」
「わ、私も……行きたい」
うわー!うわー!うわー!繭ちゃんが行けなくなってしまったのはとても残念だけど、図らずとも山田さんと二人きりの夕飯となり、ご飯がきちんと喉を通るかどうかが心配だ。
……傍から見ると、デートに見えないこともないのだろうか。
「本当?良かった、ごめんねこの埋め合わせはまた!じゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「また明日―」
バタバタと繭ちゃんが去ると、残された私達は「じゃあ行こっか」と、新しいレストランへ向かった。
そのイタリアンは、大学の近くに出来ただけあって大学生を客層に見込んでいるのか、お値段がとてもリーズナブルだった。木目調でまとめられていてとても親しみやすく、小洒落た感じよりも素朴な雰囲気だから男性も入りやすそうな店内をしている。メニューを覗いてみれば、サイズ展開がSからLLLまであって、部活やクラブで動いて沢山食べたい学生に人気が出そうだ。テーブルも、普通の喫茶店より大きめでゆったりしていて隣の席との距離を感じるから、リラックスできる。味さえよければ、学生の行きつけの店になりそうだ。
「戸枝さんは何が食べたい?」
しばらくメニューを眺めていた山田さんが聞いてきた。
「えーと……パスタかピザかまだ悩んでいて……」
山田さんはもう注文するものが決まったみたいなのに、私はまだ決められないでいる。優柔不断な性格が恨めしい。
「俺はこのピザにする予定なんだけど、戸枝さん食べられる?」
山田さんが指で示したのは生ハムとルッコラとモッツァレラチーズがトッピングされたピザのパルマだった。私の好物で、嬉しくなる。
「うん。それ、私も大好きなんだ」
私が笑顔で言うと、
「じゃあ、戸枝さんが好きなパスタ頼んでシェアしようか?俺は好き嫌いないから、どんなパスタでも平気だし」
と山田さんは提案してくれた。
「……いいの?」
「勿論。むしろ、俺も二種類食べられてラッキーって思ってるよ」
「本当?嬉しい、ありがとう」
山田さんは、いつも私が悪いなって思わないように気を遣って言葉を選んでくれる。そういうところも好き……!
私達が注文を終え、今日急遽来られなくなった繭ちゃんの話をしていると、「あら?」と女性の声が間近でした。ふと顔を上げると、ゼミで一緒の女性達だった。確か、茂木さん、と山田さんに呼ばれていた人。
「戸枝さんに……まさかの山田君!?なぁに二人で……まさかデート?」
茂木さんがそう言えば、茂木さんの横にいた女性がクスクス笑って言った。
「やだ、こんな安いところでデートも何もないでしょ」
傍から見たらデートに見えるかも、なんて浮かれていた自分が恥ずかしくて、思わず俯く。
「茂木さん達からはデートに見えた?だったらラッキーだな」
けれども山田さんの言葉に、ぽわっと胸が温かくなった。それを聞いて、彼女達は笑い出す。
「ラッキーって!あはは、確かに山田君にとってはデート代わりのいい思い出になるわよね。……まぁ、あの戸枝さんが男と二人なんて珍しいから、つい声掛けちゃっただけ。邪魔したわね、じゃあまた」
「また次のゼミで」
茂木さん達は他の離れた席に移動し、私達のことなんて忘れたかのように談話し始めた。私は胸を撫で下ろす。一緒にご飯しましょ、なんて言われたらどうしよう、とか考えてしまったけれども心配する必要は全くなかったらしい。
「やっぱり皆この店一度は来そうだね」
「うん。……あの、ラッキーって……」
私は思わず、山田さんに問いただしてしまった。二人だけで食事をしてくれるのだから、嫌われてはいない筈だけど……それ以上を期待してもいいのだろうか?
「ん?皆の憧れの的だからね、戸枝さんは。そんな女性とデートしてるって間違えられるなんて、光栄だよ」
ニコニコ笑いながら言う山田さん。
「そんな、憧れの的だなんて事……」
ない。私は至って凡人だ。今みたいに絡まれても、何も出来ない普通の……普通以下の人。見た目しか取り柄がない、その見た目すらも上手く活用できない不器用な人間だ。
「あるよ。戸枝さんは、凄く努力家だし、真っ直ぐだし、飾らないし、優しいし、真面目だし。性格が良い上に綺麗だから、やっぱり特別だと思うな」
「……っっ、ありがとう。山田さんにそう言って貰えると、嬉しい」
特別。特別って、どういう意味?と、心の中で何度も問い掛けて。でも「山田さんにとっての特別」な訳じゃないって否定されたらと思うと勇気が出なくて。容姿より先に中身を褒めてもらえたのは初めてで、本当に嬉しくて。
山田さんの言葉に一喜一憂しながら、私達はそのレストランを後にした。
山田さんは最後まで奢るよって言ってくれたけど、大事な友達だからこその線引きはきちんとしなくてはならないので、勿論割り勘にしてもらった。
「何?」
「私から誘っておいてなんだけど、この後急遽バイトが入って一緒にご飯行けなくなっちゃった」
「ええっ!?」
「そうなの?時間は間に合う?」
「うん。ヘルプだから、今から行けば大丈夫……ってな訳で、申し訳ないけど二人でご飯行って来てくれる?」
繭ちゃんが眉毛を下げながら両手をパンと叩いて、私達に言った。
「うん。俺は戸枝さんさえ構わなければ、お腹も空いたし行きたいな」
「わ、私も……行きたい」
うわー!うわー!うわー!繭ちゃんが行けなくなってしまったのはとても残念だけど、図らずとも山田さんと二人きりの夕飯となり、ご飯がきちんと喉を通るかどうかが心配だ。
……傍から見ると、デートに見えないこともないのだろうか。
「本当?良かった、ごめんねこの埋め合わせはまた!じゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「また明日―」
バタバタと繭ちゃんが去ると、残された私達は「じゃあ行こっか」と、新しいレストランへ向かった。
そのイタリアンは、大学の近くに出来ただけあって大学生を客層に見込んでいるのか、お値段がとてもリーズナブルだった。木目調でまとめられていてとても親しみやすく、小洒落た感じよりも素朴な雰囲気だから男性も入りやすそうな店内をしている。メニューを覗いてみれば、サイズ展開がSからLLLまであって、部活やクラブで動いて沢山食べたい学生に人気が出そうだ。テーブルも、普通の喫茶店より大きめでゆったりしていて隣の席との距離を感じるから、リラックスできる。味さえよければ、学生の行きつけの店になりそうだ。
「戸枝さんは何が食べたい?」
しばらくメニューを眺めていた山田さんが聞いてきた。
「えーと……パスタかピザかまだ悩んでいて……」
山田さんはもう注文するものが決まったみたいなのに、私はまだ決められないでいる。優柔不断な性格が恨めしい。
「俺はこのピザにする予定なんだけど、戸枝さん食べられる?」
山田さんが指で示したのは生ハムとルッコラとモッツァレラチーズがトッピングされたピザのパルマだった。私の好物で、嬉しくなる。
「うん。それ、私も大好きなんだ」
私が笑顔で言うと、
「じゃあ、戸枝さんが好きなパスタ頼んでシェアしようか?俺は好き嫌いないから、どんなパスタでも平気だし」
と山田さんは提案してくれた。
「……いいの?」
「勿論。むしろ、俺も二種類食べられてラッキーって思ってるよ」
「本当?嬉しい、ありがとう」
山田さんは、いつも私が悪いなって思わないように気を遣って言葉を選んでくれる。そういうところも好き……!
私達が注文を終え、今日急遽来られなくなった繭ちゃんの話をしていると、「あら?」と女性の声が間近でした。ふと顔を上げると、ゼミで一緒の女性達だった。確か、茂木さん、と山田さんに呼ばれていた人。
「戸枝さんに……まさかの山田君!?なぁに二人で……まさかデート?」
茂木さんがそう言えば、茂木さんの横にいた女性がクスクス笑って言った。
「やだ、こんな安いところでデートも何もないでしょ」
傍から見たらデートに見えるかも、なんて浮かれていた自分が恥ずかしくて、思わず俯く。
「茂木さん達からはデートに見えた?だったらラッキーだな」
けれども山田さんの言葉に、ぽわっと胸が温かくなった。それを聞いて、彼女達は笑い出す。
「ラッキーって!あはは、確かに山田君にとってはデート代わりのいい思い出になるわよね。……まぁ、あの戸枝さんが男と二人なんて珍しいから、つい声掛けちゃっただけ。邪魔したわね、じゃあまた」
「また次のゼミで」
茂木さん達は他の離れた席に移動し、私達のことなんて忘れたかのように談話し始めた。私は胸を撫で下ろす。一緒にご飯しましょ、なんて言われたらどうしよう、とか考えてしまったけれども心配する必要は全くなかったらしい。
「やっぱり皆この店一度は来そうだね」
「うん。……あの、ラッキーって……」
私は思わず、山田さんに問いただしてしまった。二人だけで食事をしてくれるのだから、嫌われてはいない筈だけど……それ以上を期待してもいいのだろうか?
「ん?皆の憧れの的だからね、戸枝さんは。そんな女性とデートしてるって間違えられるなんて、光栄だよ」
ニコニコ笑いながら言う山田さん。
「そんな、憧れの的だなんて事……」
ない。私は至って凡人だ。今みたいに絡まれても、何も出来ない普通の……普通以下の人。見た目しか取り柄がない、その見た目すらも上手く活用できない不器用な人間だ。
「あるよ。戸枝さんは、凄く努力家だし、真っ直ぐだし、飾らないし、優しいし、真面目だし。性格が良い上に綺麗だから、やっぱり特別だと思うな」
「……っっ、ありがとう。山田さんにそう言って貰えると、嬉しい」
特別。特別って、どういう意味?と、心の中で何度も問い掛けて。でも「山田さんにとっての特別」な訳じゃないって否定されたらと思うと勇気が出なくて。容姿より先に中身を褒めてもらえたのは初めてで、本当に嬉しくて。
山田さんの言葉に一喜一憂しながら、私達はそのレストランを後にした。
山田さんは最後まで奢るよって言ってくれたけど、大事な友達だからこその線引きはきちんとしなくてはならないので、勿論割り勘にしてもらった。
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