度を越えたシスコン共は花嫁をチェンジする

イセヤ レキ

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「よく来たね。待ってたよ」

まさかの部隊長自ら歓迎され、サラは面食らった。
カッシードは、シュリーを応接ソファーへ座らせ、いそいそと救急箱らしきものを手元に引き寄せている。

「ああ、やはり血豆が出来てしまったね……シュリー、よく頑張ったな」

部隊長は微笑みながらシュリーの手をそのまま滅菌ガーゼで優しく包む。

(……どうやら、シュリーの手当ては部隊長がやってくれるらしい…?)

シュリーの処置をカッシードがやるのであれば、サラがこの場にいる必要はない。所在なげに視線を彷徨かせれば、そこには「慶弔届け出」があり、「身内の不幸…妻死亡」と記載されていた。

まさかそんな大事な書類が無造作に置かれているとは思わず、サラは目を見張る。

直ぐに視線を下げたが、身を固くした気配を察したのか、カッシードはシュリーから目線を外さずに言った。

「ああ、そんな書類を出しっぱなしにしてしまってすまない。気を遣わせたな」
「いいえ……勝手に見てしまい、とんだご無礼を……あの、御愁傷様です……」
カッシードは愛妻家だと聞いている。こんなところにいて良いのだろうか?

サラの視線を受けて、カッシードが苦笑した。
「私が妻に出来る事は、もうないからね……」
そう言って、手当てを終えたシュリーに「これでよし」と微笑みかけた。
「ありがとうございます」
シュリーはそうカッシードに言って……初めて、はにかむ様な笑顔を見せた。


(か、かっわいい………っっっ!笑っているところ、初めて見たぞ!!成る程、カッシード部隊長には少し心を開いているのか。カッシード部隊長もシュリーには特別優しく感じるし、もしかしたら……養女にでもするつもりかもしれないな)

カッシードは、見た目20代半ばだが、確か後半だった筈だ。
シュリー位の子供がいても、早婚であればおかしくはない年齢だ。


成る程成る程と一人納得して、サラは自分の考えに満足した。
「ではシュリー、部屋に戻ろうか?カッシード部隊長、ありがとうございました」
サラもお礼を告げてその場を去ろうとすると、カッシードに引き留められる。

「サラは少し話がある。残ってくれ。シュリー、申し訳ないが、副隊長と一緒にお部屋に戻ってくれないか?」
シュリーは「はい」と頷き、副隊長と共にさっさと部屋を後にした。

シュリーの姿が見えなくなるまで見送りし、むしろ追い掛けて行きたそうなカッシードをサラは待った。
(過保護な親になりそうだなぁ)
なんて、呑気に考えながら。




☆☆☆




「サラに、一応話しておく事がある」
「はい」
「君が着けている、騎士団から配布されたブレスレットについてだが」
「……はい?」
「それの使用目的を知っているか?」
「はい。緊急収集時に、警報アラートが鳴ります」
「そうだな。……実は、女性用の物には他の機能がついている」
「そうなのですか?」
「私は詳しい仕組みは説明出来ないんだが……端的に言うと、女性用の物には、身の危険が迫った時に、自動的にその女性の会話を、こちらのスピーカーで聞く事が出来るんだ」
カッシードは、イヤリングの様な小さな装置を手の平で転がした。
「……と、言いますと?」
「つまり、女性騎士がレイプされそうになれば、誰か……サラの場合は私だったが、第三者がそれを知る事が出来る」
「そうだったんですか……」

サラが危険な目にあった時に、よく緊急収集が起きた理由がようやく理解出来た。カッシード本人がサラを見つけてくれた事もある。
相手は必ず懲罰を与えられたり、強制脱退させられていた。
思えば、それ以外の緊急収集が起きてサラが駆け付けた時も、収集後に誰がいないとか、誰を探せとか言われていた。あれは、他の女性騎士の危機だったのかもしれない。

「今回、その事実をサラに伝えたのは、今後このイヤリングスピーカーを、カダルに…カダル殿に、返す事にしたからだ」
返す・・?」
「これを開発したのは、カダル殿だ。騎士団に入団されたサラの身の安全を考えて、作ったものだ。私は、カダル殿に頼まれてこのブレスレットを使ってみただけだ。だからこそ、我が第15部隊では暴行事件を未然に防ぐ事が出来た。弟君には、感謝している」
「……有難い、お言葉です……」

サラにはそれしか言えなかった。
「今まで……気にかけて下さり、ありがとうございました」
「いや。サラは可愛い私の部下だからな。……しかし、結婚したとなっては、その役目はもう私ではないだろう」
カッシードは柔らかい笑顔をサラに向ける。
上司として、本当にこの人が好きだと思った。

「それで、サラの話はおしまいだ。シュリーにも、同じ様な……更に改良して、居場所まで特定出来るものを渡してあるんだが……その、スピーカーは私が持っていて問題ないだろうか?」
「勿論です。……カッシード部隊長にはお手数をお掛け致しますが、私の権限では緊急収集もかけられなければ、正直駆け付けた先で、情けない事ですが不埒者に負ける可能性すらあります」
サラが苦笑すれば、カッシードはサラの頭を慰める様に撫でた。

「サラが頑張っているのは、私がよく知っている。これからも、シュリーに良くしてくれると嬉しい」
「それは、言われなくても勿論です」
お互い微笑みあい、話す事もなくなったので、部隊長の部屋を後にする。


一人残ったカッシードは呟いた。
「あ、しまった……サラの頭に触れてしまったな。カダルにバレるかな?バレるだろうなぁ……仕方ない、怒られておくか」
苦笑いしながらも、その表情は愉しげだった。
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